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『Life in the Desert 砂漠に棲む』(美奈子アルケトビ) [読書(随筆)]

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ほとんど毎晩、安くておいしいサンドウィッチを買って砂漠に出かけていた。8月のある夜、食事をした後、砂丘の上で寝転んで話していると、その日はたまたま流星群の日だったらしく、流れ星が次々に流れ、ふたりで明け方までそれを数えた。その時にオットは「ここに家を建てよう」と思ったそうで、その場所に今私たちは住んでいる。
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 ガゼル、イヌ、ハト、ウマ、ウサギ、ラクダ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ニワトリ、オット、ネコなど200個体の家族と共に砂漠に棲んでいる著者による、砂漠と動物たちの美しい写真集。単行本(玄光社)出版は2017年4月です。


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 アラブ諸国にも、UAEにも、イスラム教にも、砂漠にも、まったく縁がなく、興味もなく、知識も偏見もなにもない、まっさらな状態でオットと知り合い、ほぼまっさらなままでここに来た。(中略)よく「結婚を決めるのに不安はなかったのか」と聞かれるけど、UAE人と結婚してアル・アインに住んでいる日本人は多分いないと聞いた時には、「初めての日本人!」と、わくわくした思いしかなかった。
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 結婚してアラブ首長国連邦UAEのアル・アインに移住した「初めての日本人」である著者。それだけでもすごいのに、さらに砂漠に家を建て、そこで200個体の家族と共に暮らしているというから驚きです。

 本書は、そんな著者による、美しい砂漠の光景や家族の写真を集めた写真集です。全体は四つの章から構成されています。


「砂漠」
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13年という長い付き合いをしてきた砂漠は、天候、空の色、時間帯と、その時々に違う顔を見せ、一度として飽きたことはなく、荒れ狂うような砂嵐も、時に見とれてしまう。
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 砂丘をとりまく風紋、砂の平原を包み込む霧、ラクダの隊列、撥ねるガゼルたち、砂漠の地平線から昇りゆく太陽。息をのむような砂漠の光景が広がります。「ラクダやロバが当たり前のようにわが家の裏を散歩してゆく」という砂漠の暮らし。


「家族」
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わが家の家族構成は、私とオット、ほかは、カゼル、イヌ、ハト、ウマ、ネコ、ウサギ、ラクダ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ニワトリと、全て動物。約200の命と顔を合わせる毎日である。ラクダやウシは売ることもあるし、ヤギやヒツジやニワトリは食べることもある。ざっと数えて60匹のネコたちは、ほとんどが外で自由気ままに過ごしていて、ふらっといなくなり、またふらっと帰ってくる者もいる。そんな彼らも、私たちは「家族」と呼んでいる。(中略)ただ「かわいいね」だけで済ませるわけにはいかない存在。それが私たちにとっての「家族」。
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 「オットのことを母と思って育った」ガゼルは家の中で堂々と昼寝し、「著者のことを自分の妻と思っている」ハトは“ライバル”であるオットを追い出そうとし、ラクダの子供たちは“幼稚園”に集まって遊び、ネコは砂漠をどこまでも歩いてゆく。家族である動物たちの活き活きとした写真が掲載されています。


「暮らし」
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家の土台になっている砂丘は、崩れないように4ヶ月かけて地固めし、砂漠の地下を流れる地下水をいただいて生活している。家は自分たちで設計し、タイル、窓、ドア、照明、洗面台、鏡などは、あちこち歩き回ってひとつひとつ探し、自分たちでデザインもし、時には「これは失敗だったね」ということもあるけれど、ふたりの好きなものがそこここに詰まっている。
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 玄関、門扉、別棟(ゲストハウス)、そして様々な家具や調度品の写真が掲載されています。当たり前のように居間で寝ているガゼル。


「そして人生は続いていく」
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砂漠に棲むことも、動物たちと本気で向き合う生活を送るなんてことも、想像すらしていなかった。今日の鮮やかな夕日に映えた風紋と同じものを見ることは二度とない。明日も同じように一緒に散歩するつもりだった家族に、突然、永遠に会えなくなることもある。(中略)特別なことはない、淡々とした、でも、いつまでもこんなふうに続いていくとは限らない、ぎゅっと握っていたくても、いつでも簡単に手からこぼれてしまいそうな日々が愛おしい。この本に収めた写真はどれも、私にとって日常を切り取ったものだけれど、ひとつひとつに、そんな想いが詰まっている。
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 あとがき。結婚に至るまでの話や、アル・アインの位置を示す地図(意外にドバイに近い)、オットと二人で写っている写真、ガゼルたちの名前リストなど。



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『マヨネーズ』(仲田有里) [読書(小説・詩)]

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マヨネーズ頭の上に搾られてマヨネーズと一緒に生きる
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菓子パンやプリンを食べるのが一番楽であとはしんどい
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このシャツもカーディガンもスニーカーもいつかどこかで私が選んだ
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マンガにも映画にもおっぱいは出る 湯船に浮かぶ 胸は大切
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君のこと考えながら考えすぎないようにわたし桃のように寝る
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 暮らしのなかにある小さな喜び、ささやかな感動、みたいもの絶対に詠まない。日々の疲弊感を、ある種の諦念を、そのまま無感動に、ぶっきらぼうに、差し出すような生活歌集。単行本(思潮社)出版は2017年3月です。


 普通、頭からマヨネーズとかそういう面倒事が降りかかってきたり、過労で倒れて病院に行ったり、台風や母親が来たりすれば、何らかのアクションを起こすか、少なくとも心が動くわけですが、そういうそぶりを見せず、無感動に事実をただ述べた、そんな印象を受ける作品が並びます。


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マヨネーズ頭の上に搾られてマヨネーズと一緒に生きる
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点滴で治しましょうと寝ころんで透明な液大量に
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生きている人がたくさんやってきて帰っていくのを毎日見てる
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ベランダを掃いたら埃がすごくて、台風が来て、母親が来る
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ハブラシが一本立ったコップにも黴が生えてる埃が降ってる
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 マヨネーズまみれでも、過労で倒れても、部屋が埃だらけでも、抜本的な対処まで手が回らず、とりあえずそのまましのぐ、そんな生活。

 食事をうたった作品でも、美味しいとか、不味いとか、とにかく味覚描写というものが欠落していて、いつもと同じものをただ食べる、それも「しんどい」と思いながら食べる、そんな作品が続きます。全体的に感じられるのは、疲弊感というか、抑鬱感というか、何もかも面倒になったときの、あの気だるさのようなもの。


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食パンとヨーグルトとゆで卵大切な朝食がいつもと同じ
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つまらない電車が過ぎるつまらないコンビニへ行くご飯を食べる
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菓子パンやプリンを食べるのが一番楽であとはしんどい
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いちごかグレープフルーツが食べたくてそれを買ってくる想像をする
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ベランダに外れた網戸が立てかけてある豚肉とキャベツ炒める
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食べ物を食べてしまう 蛍光灯をつけたらまぶしい 布団を着る
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 浴室でも、もう面倒なことはぜんぶ明日まわし、という気持ちが見えます。メディアで性的消費の対象にされるパーツだけ「大切」という表現からは、自分というものに価値を見いだせない悲しみも伝わってきます。


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食事中降ってくる虫 ぬるぬるの浴槽 人目を気にしない朝
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マンガにも映画にもおっぱいは出る 湯船に浮かぶ 胸は大切
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お風呂場で20分ほど水底を見つめていてもわたしはひとり
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浴槽に浮いた髪も濡れたまま寝た髪もいずれは乾く日々
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星を見て体を洗って洗い物大量に残しわたしは寝ます
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 「あきらめ」「無反応」「考えすぎないように」といった諦観を感じさせる言葉も多用され、生々しい印象を残します。


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しんしんと降る雪何も起こってない事については無反応です
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何もかもある世界で何も起きなくてもいいと思うあきらめ
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このシャツもカーディガンもスニーカーもいつかどこかで私が選んだ
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君のこと考えながら考えすぎないようにわたし桃のように寝る
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 というわけで、「日常のなかにあるささやかな感動」みたいなものを絶対に詠んでやるかという意地を感じさせる歌集です。その依怙地な姿勢の背後から、静かな哀しみのようなものが立ち上ってきます。



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『モーアシビ 第33号』(白鳥信也:編集、川上亜紀・他) [読書(小説・詩)]

 詩、エッセイ、翻訳小説などを掲載する文芸同人誌、『モーアシビ』第33号をご紹介いたします。


[モーアシビ 第33号 目次]
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『風裂』(北爪満喜)
『四月のバスで荻窪駅まで』(川上亜紀)
『夏の姉のための三重奏』(川上亜紀)
『フユアケボノ、@GINZA』(森岡美喜)
『amaoto』(浅井拓也)
『水の貌』(白鳥信也)

散文
『古楽へのお誘い・・・いざなわれ編』(サトミセキ)
『カモシカ生息調査』(平井金司)
『新宿を歩く』(清水耕次)
『風船乗りの汗汗歌日記 その32』(大橋弘)

翻訳
『幻想への挑戦 7』(ヴラジーミル・テンドリャコーフ/内山昭一:翻訳)
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 お問い合わせは、編集発行人である白鳥信也さんまで。

白鳥信也
black.bird@nifty.com


『風裂』(北爪満喜)
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風にワンピースがねじられる
巻きあげられてゆく長い髪は
生きもののように逆巻いて
額を泳ぐ 乱れさせる
目を覆われていても 分けられたあなたの気配が伝わってくる
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モーアシビ第33号p.5

 場面が進むにつれて、うねりが段々と強くなり、渦巻き、ヒフを切り裂く。風の印象が鮮烈な詩作。読者を混乱させる人称代名詞のトリッキーな使い方も印象的です。


『四月のバスで荻窪駅まで』(川上亜紀)
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八重桜の枝が風に揺れ
消防車のサイレンが響き
明るい四月の光のなかを
バスは窓を開けたまま行く
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モーアシビ第33号p.8

 タイトル通りの、のどかな情景。その底から、地震がくればあっけなく失われてしまう日常のもろさ、人工物の儚さ、のような感慨が立ちのぼってくる詩作。


『夏の姉のための三重奏』(川上亜紀)
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どうしてもたどりつきたかった
そこへ その場所へ 高い空の彼方
その夏に飛んだ高度はいまも計測不可能だ

わたしは十六歳で空は青く青く広がり
手に楽譜を持たされたまま困っている
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モーアシビ第33号p.12

 失われてしまったものへの感傷をのせて三重奏曲が流れる詩作。J-POPの歌詞のような表現を巧みに配置することで、異なるイメージを描き出してゆく手際が見事。


『古楽へのお誘い・・・いざなわれ編』(サトミセキ)
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ピアノは感情をダイレクトに鍵盤に流し入れることができるが、たとえばチェンバロはそう簡単にはいかない。楽器と音と自分のあいだに、不思議なギャップもしくは空間があり、それをコントロールできないと音楽が成立しないのだ。
 古楽器の場合、「わたしが楽器を弾きこなす」のではない。わたしが楽器を弾いているのか、楽器にわたしが弾かれているのか。楽器と自分と作曲家の音楽が一体になり、空間にその響きがうまく溶け合って、初めて古楽器の演奏が人の心に届くものとなるのだ。
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モーアシビ第33号p.44

 古楽器にハマっているという著者が、その魅力を存分に語る随筆。ものすごく興味深くて、今号収録作品中で個人的に最もお気に入り。


『カモシカ生息調査』(平井金司)
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 新潟県教育委員会がカモシカの生息調査をやっていて、調査員に私も加わることになった。欠員の補充としての新任である。本誌に寄稿している浅井拓也さんは調査員を何年もやっているが、私を推薦してくれたのだ。
(中略)
 調査は各自八回、八五〇〇円の日当が支給される。全員が八回調査するとかなりの金額になるが、それだけ予算が計上されているわけだ。簡単な説明を受けただけで生態のことなど知らない私がまともな調査ができるはずはない。拓也さんに相談すると、報告書を出しさえすればいいのだという。
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モーアシビ第33号p.46

 国の特別天然記念物であるニホンカモシカ。その生息調査に参加したときの、わりと赤裸々な体験記。


『風船乗りの汗汗歌日記 その32』(大橋弘)
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帰宅後はスペクトルマンですよ。いよいよ流星仮面ですよ。この回はどちらも巨大化せず人間並みのサイズで戦う。仮面ライダーを見るような気分。流星仮面はそのネーミングに負けない大げさなマントがどうしても接近戦には邪魔だろうから、光線類の「飛び道具」で仕事をしているのだろう。ゴルゴみたいだね。二人とも表情がないので、ストーリー展開上随所で、とりわけ流星仮面には激しくあるはずの感情の揺れが、戦闘中もことさら表面化しない。(中略)うっかりすると見ていて目頭が熱くなる。やばいですな。ただ、ゴリやラーが邪悪なのを通り越してどうかすると無邪気な感すら覚えるのに比べると流星仮面は情に厚くて生真面目で、と何とも追い込まれやすいキャラクターなので、かえって遣る瀬無い気分になる。
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モーアシビ第33号p.56

 仕事のこと、書籍購入、読書録、旅など、つらつらと綴ってゆく身辺雑記。静かに、やや抑鬱的なトーンで語られる日々の暮らし。という文章のなかに「今日もスペクトルマン。午前中からスペクトルマン」「朝っぱらからスペクトルマン」「ストーリー、無理があるような気がするのは気のせいか…」などと生真面目に書かれているのが妙におかしい。


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『17's MAP』(構成・振付:近藤良平、コンドルズ) [ダンス]

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「け、け、……、け・ん・ぽ・う・か・い・せ・い!」
「い、い、……、い・み・ん・も・ん・だ・い!」
「い、い、……、……、……、い、いも!」
「……、も・ん・ぶ・か・が・く・だ・い・じ・ん・しょ・う・じゅ・しょ・う!」
(盛大な拍手)
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 2017年5月12日は、夫婦で彩の国さいたま芸術劇場に行って、近藤良平率いる大人気ダンスカンパニー「コンドルズ」の新作公演を鑑賞しました。毎年、この時期になるとさいたま芸術劇場にやってくる恒例の「地域の皆様にも初夏の風物詩として親しまれている」(劇場関係者談)コンドルズさいたま公演、第11回です。上演時間95分。

 当日はまさに開演の1時間前に埼京線が人身事故で全面運休するというアクシデントがあり、与野本町へのアクセスが断たれてしまいました。私たちは車内アナウンスを聞いてタクシーを探すべくホームに降りたのですが、その途端にドアが閉まって発車(とりあえず一駅だけ動かすことになったらしい)、小さな駅に取り残され、タクシー全滅、状況不明、というパニック状態に。

 とりあえず何とかぎりぎり開演時間に劇場に駆け込んだのですが、そこで開演を15分遅らせるというアナウンスがあり、とりあえずトイレ時間確保。

 勝山康晴さんが急遽登壇して「ぼくと尾崎豊」みたいなトークで場を持たせます。客席に向かって「コンドルズはどうでもいいけど尾崎豊を聞きにきた」という方はおられますか」と(たぶん冗談で)質問したのに対して、手が挙がったのには驚きました。尾崎ファンすげえなおい。

 結局、30分遅れで開演。大半の観客が何とか間に合ったようです。劇場関係者もコンドルズのメンバーも調整が大変だったろうと思います。ありがとうございました。

 というわけでようやく幕があがると、そこには観客席から見て左手前から舞台奥まで延々と伸びている「壁」が。プロジェクションにより無機質なコンクリート壁に見えたり、フェンスに見えたりします。存在感ならバットシェバ舞踊団のあの「壁」にも負けません。

 これまでのさいたま公演でも、圧倒的なまでの舞台の奥行きを利用した演出が恒例だったのですが、今回は最初から全開。

 で、この「壁」の前でいろいろとやらかすわけですが、何しろテーマが「17歳」ということで、思春期男子の間抜けと体力と妄想が炸裂。コンドルズのトレードマークとなっている学ランが見事に決まっています。

 逆光のなか、やたらかっこいい決めポーズの影となって佇む、という本来「お笑い」であるべき演出が、これが本当にかっこいい、という驚き。

 特殊影絵芝居はありましたが、今回は人形劇は省略。これまでの公演で用いた人形を与野本町駅で特別展示していたのと関係があるかも知れません。ないかも知れません。

 近藤良平さんが踊るシーンはいつもより多く、最後はかっこいいソロで決めてくれました。カーテンコール後、越えられないものの象徴として使われていた「壁」をさっと開いて(一部がドアのように開閉する仕掛け)退場したのには思わず笑ってしまいました。「壁」を前に蹉跌したり叫んだりしていた思春期とは違って、大人だからね。


タグ:近藤良平
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『巨大ブラックホールの謎 宇宙最大の「時空の穴」に迫る』(本間希樹) [読書(サイエンス)]

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 著者らは現在この本の執筆中も、電波望遠鏡で巨大ブラックホールを直接写真に収めようという国際プロジェクトを推進中です。世界中のミリ波サブミリ波帯の電波望遠鏡を束ねて「視力300万」という人類史上最高の性能を達成する、EHTプロジェクトです。本書のしめくくりでは、目前にせまったEHTによる観測と、それによって期待される「巨大ブラックホールの直接撮像」についても解説します。
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新書版p.5


 いよいよ目前に迫った、巨大ブラックホールの直接撮像。国際プロジェクトEHTに参加している著者が、200年に渡る巨大ブラックホール研究の歴史、現在までに知られていること、そして残された謎について、一般向けに解説する一冊。新書版(講談社)出版は2017年4月、Kindle版配信は2017年4月です。


東京新聞 2017年4月11日夕刊記事
「ブラックホール撮影 世界の望遠鏡が協力 プロジェクト進行中」より
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 天の川銀河の中心にあると考えられている超巨大ブラックホールを撮影しようと世界の電波望遠鏡で一斉に観測する国際共同プロジェクトが今月一日から十四日までの日程で行われている。日本の国立天文台などが運営する南米チリのアルマ望遠鏡のほか、米国や欧州、南極の望遠鏡が参加することで、地球サイズの仮想望遠鏡を形作り、見ることが不可能とされてきたブラックホールの輪郭を浮かび上がらせる計画だ。
(中略)
 チームは、重力の影響でブラックホールの周囲を回転する高温のガスが発する電波を観測する計画。この結果、光や電波を出さないブラックホールが黒い穴として見える可能性がある。本間希樹(まれき)・国立天文台教授(電波天文学)は「ブラックホールや周囲の現象の解明につながる」と期待している。

 得られたデータを数カ月かけて解析して組み合わせ、早ければ夏ごろに画像を公開できる見込みだ。
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http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201704/CK2017041102000240.html


 巨大ブラックホールを直接撮影する、早ければこの夏に画像が公開される、という新聞記事を読んでぶったまげました。まじですか。

 というわけで、新聞記事にも登場した本間希樹先生の解説書を読んでみました。基礎知識から始まって、巨大ブラックホール直接撮像プロジェクトに至るまでの流れを分かりやすく解説してくれる本です。全体は10章から構成されています。


「第1章 ブラックホールとは何か?」
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シュバルツシルト半径は厳密には相対性理論を使って求めるべきものですが、本書での説明では相対性理論を使わずに、あくまでニュートン力学の範囲内で物事を考えています。それにもかかわらず、上で求めたブラックホールの半径は、じつは相対性理論を使って求めた場合とぴったり同じになります。これはある意味偶然なのですが、ここではそれ以上深く追求せず、ニュートン力学的な考察でよしとしておきます。
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新書版p.25

 ブラックホールとは何か、それはどのようにして誕生するのか。まずは基本となる知識をおさらいします。


「第2章 銀河の中心に潜む巨大な穴」
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 このようにブラックホールは、本体に加えて降着円盤とジェットの3つの成分がセットになっている、というのが現代の描像です。ところが、じつはこの3つの主要な成分のうち、ちゃんと撮像(画像の撮影)によって観測されているのはジェットだけです。(中略)ジェット以外の降着円盤とブラックホールはまだ分解して観測された例はなく、現代天文学でも重要なフロンティアとして残されています。
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新書版p.61

 銀河の中心核に存在すると考えられているブラックホール。太陽の100万倍から100億倍という途方もない質量、驚異のエネルギー解放効率、何もかも桁外れの天体「巨大ブラックホール」の特性にせまります。


「第3章 200年前の驚くべき予言」
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じつはブラックホールの可能性が科学的に初めて指摘されたのは、今から200年以上も前のことです。ブラックホール研究の歴史は意外に長いことに驚かれる読者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。(中略)ミッチェルとラプラスは単にブラックホールの提唱者であるだけでなく、「巨大ブラックホールを初めて考えた科学者」でもあるのです。
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新書版p.64、71

 意外なことに200年前から存在の可能性が指摘されていた巨大ブラックホール。一般相対性理論に基づく現代的ブラックホール理解に至るまでの研究の歴史を概説します。


「第4章 巨大ブラックホール発見前夜」
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この数行の報告が、巨大ブラックホールに関連した「ジェット」を初めて直接的に捉えた記念碑的なものといえます。
 なお、このM87という天体は、本書の主題である巨大ブラックホールの研究において、現在注目度の最も高い天体の一つです。現在も頻繁にいろいろな波長の望遠鏡で観測されますし、本書の中でもこれからたびたび登場します。そして、うまくいけば、近い将来ブラックホールを「黒い穴」として初めて撮影できるのも、この天体かもしれません。このような巨大ブラックホール研究の重要天体であるM87の研究の原点も、カーチスの1918年の論文にあります。
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新書版p.99

 観測技術の発展により相次ぐ新発見。そのなかで、後に巨大ブラックホールとむすびついて理解されることになる活動銀河中心核と宇宙ジェットの発見について解説します。


「第5章 新しい目で宇宙を見るーー電波天文学の誕生」
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 観測可能な宇宙が一挙に広がって非常に遠い天体が見つかったことにより、これらの天体が途方もない大きさのエネルギーを放射していることが判明します。(中略)3C273の例に当てはめると、3C273はじつに太陽の2兆倍(!)の明るさを持つことになります。3C273は「準恒星状」の天体ですから、図2-5にあるように「点」にしか見えない小さな天体です。そのような狭い領域から、太陽2兆個分という巨大な銀河にも匹敵する莫大なエネルギーが出ているのです。
(中略)
そこでこのような天体の正体として有力な候補となってくるのが、エネルギーを効果的に解放することができる巨大ブラックホールです。宇宙からやってくる電波が発見されてからわずか30年、電波天文学の進歩とともに巨大ブラックホールの存在が現実のものとなっていきます。
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新書版p.138、139

 電波天文学の誕生、電波干渉計の原理、そして後に巨大ブラックホールものものと判明することになるクェーサーの発見にいたる流れを解説します。


「第6章 ブラックホールの三種の神器」
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 このように、クェーサーのエネルギーを説明するのにブラックホールが必要と考えられるようになり、またX線の観測での恒星質量のブラックホールの発見や、VLBIによるジェットの超光速運動の発見などと合わせて、活動銀河中心核の正体がブラックホールであるという説が確立されていきました。
 さらにこれと並行し、理論的なブラックホールの研究も進み、巨大ブラックホールの基本的な描像が確立されていきます。中心には巨大ブラックホールが存在し、そこへ降着するガスが降着円盤を形成しつつ莫大なエネルギーを放射するとともに、ガスの一部がジェットとしてそこから飛び出していく、というのが基本的な描像です。
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新書版p.169

 ついに明らかになったクェーサーの正体。そしてX線天文学が明らかにした恒星規模のブラックホールの存在。活動銀河中心核に存在する巨大ブラックホールの基本的な描像が確立されていくまでのプロセスを解説します。


「第7章 宇宙は巨大ブラックホールの動物園」
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1970年代中頃までに巨大ブラックホールの概念が基本的に確立し、活動銀河中心核は巨大ブラックホールとその周囲の降着円盤、そしてジェットという3つの成分からなるシステムとして考えられるようになりました。わずか3つの成分ですし、そこで行われていることといえば、重力によってガスを集めてブラックホールに落とすだけですから、きわめて単純なシステムということができます。ところが多くの活動銀河中心核を観測していくと、非常に多種多様な性質を持っていることが明らかになります。
(中略)
じつは、活動銀河中心核のこのような多様性を比較的簡単に説明するシナリオが提唱されています。活動銀河中心核の「統一モデル」というものです。
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新書版p.174、

 活動銀河中心核の多様性を説明する「統一モデル」の確立、そして活動性を示さない銀河(私たちの天の川銀河を含む)の中心部に存在する「隠れた巨大ブラックホール」の発見。巨大ブラックホールが観測の対象となるまでの動きを解説します。


「第8章 巨大ブラックホールを探せ!」
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ブラックホール存在のより確からしい証拠を得るためには、ブラックホールにより近いところで非常に大きな速度を測定することが鍵なのです。1990年代に入ってこれが実現した画期的なケースが、NGC4258という近傍の銀河にある活動銀河中心核と、私たちの銀河系の中心にある、いて座Aスターになります。速度を測る測定の原理は同じですが、前者はVLBIの手法を用いて、また後者は赤外線の補償光学(大気のゆらぎを打ち消す手法)の技術を用いて、それを実現しています。
――――
新書版p.197

 質量測定、降着円盤の回転速度の測定。銀河中心核に巨大ブラックホールが存在する証拠をつかむために行われてきた観測について解説します。


「第9章 進む理解と深まる謎」
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 ここまで見てきたように、巨大ブラックホールの存在はほぼ確実と考えられる一方で、現在でもまだまだ多くの謎が残されています。(中略)これらの謎がいまだ未解決で残っている最大の理由は、何よりも巨大ブラックホールそのものがとても小さくて観測できなかったからです。しかし、今後数年以内に巨大ブラックホールの直接撮像が実現する可能性が高まってきており、それが実現するとこれらの謎の解明も劇的に進むことでしょう。
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新書版p.232

 巨大ブラックホールの起源、中間質量ブラックホールの存在、連星ブラックホール合体、降着円盤からガスが供給されるメカニズムの詳細、ジェットの加速および絞り込みメカニズム、そして巨大ブラックホールの直接的観測。いまだ残されている謎と課題についてまとめます。


「第10 章 いよいよ見える巨大ブラックホール」
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 このようなミリ波サブミリ波帯での地球規模のVLBI観測網の実現を目指すのが、EHT(Event Horizon Telescope)と呼ばれる国際プロジェクトです。"Event Horizon"とは「事象の地平線」を意味し、これはブラックホールが「事象の地平線」で覆われていることにちなんだ名前です。文字どおりブラックホールを事象の地平線のスケール(シュバルツシルト半径)で分解し、本当に「黒い穴」であるかどうかを直接に証明することを目指しています。
(中略)
 日本でも、著者ら国立天文台の研究者を中心とするグループが、すでに10年近くこの国際プロジェクトで活動してきています。
――――
新書版p.243、246

 「月面に置いた一円玉を地球から撮影するのに匹敵する」という巨大ブラックホールの直接撮像。国際プロジェクトEHTとそこに用いられる観測技術について解説します。


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