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『スタートボタンを押してください ゲームSF傑作選』(桜坂洋、チャールズ・ユウ、アンディ・ウィアー、ケン・リュウ、他) [読書(SF)]

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 人気ゲームの設定を使ったファンノベルはたくさんあるが、本書に収められた短編たちはそういったタイプではない。登場するゲームは架空のもの。ゲームそのものをモチーフとしテーマとしている。
 だから、あなたがゲーマーもしくはゲームに興味がある人ならば、これは必読の書。というよりも、もはやゲームをプレイするしないにかかわらず、ゲーム的感覚は我々にとって必須の習得能力のひとつだから、誰もが読むと良いと思う。
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文庫版p.357


 激しく進化し続けるコンピュータゲームは、私たちの現実認識や生き方をどのように変えてゆくのか。原著に収録された16篇のうち、桜坂洋からケン・リュウまで傑作短篇12篇を厳選収録したゲームSFアンソロジー。文庫版(東京創元社)出版は2018年3月、Kindle版配信は2018年3月です。

 『レディ・プレイヤー1』『ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ジャングル』などコンピュータゲームをテーマにした映画が立て続けに公開されるタイミングを見計らって出版されたと思しきSFアンソロジーです。タイトルを眺めただけでも、リスポーン、1アップ、NPC、神モード、サバイバルホラー、キャラクター選択、といった具合にコンピュータゲーム用語が飛び交っています。


[収録作品]

『リスポーン』(桜坂洋)
『救助よろ』(デヴィッド・バー・カートリー)
『1アップ』(ホリー・ブラック)
『NPC』(チャールズ・ユウ)
『猫の王権』(チャーリー・ジェーン・アンダース)
『神モード』(ダニエル・H.ウィルソン)
『リコイル!』(ミッキー・ニールソン)
『サバイバルホラー』(ショーナン・マグワイア)
『キャラクター選択』(ヒュー・ハワイー)
『ツウォリア』(アンディ・ウィアー)
『アンダのゲーム』(コリイ・ドクロトウ)
『計仕掛けの兵隊』(ケン・リュウ)


『リスポーン』(桜坂洋)
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 おれの望みは、いまとなっては顔もぼやけはじめている「おれ」に戻ることだけだった。かつてのおれも、おれが送ることができなかった幸福な人生というやつを夢想したことはある。が、誰か他のやつになりたかったわけではないのだった。毎日同じことの繰り返しだった牛丼屋のバイトだっておれがおれとしてやっていたことであり、どこかからおれを操る別の誰かにやらされたことではなかった。そのおれの肉体は、とっくのむかしに火葬されて墓の下に眠っている。
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文庫版p.40

 牛丼屋の深夜バイトをしていた「おれ」は、強盗に殺されてしまう。気がつくと「おれ」は強盗になっており、目の前にはもと「おれ」の死体が……。死ぬたびに近くにいた人間としてリスポーンする能力を得た男の奇妙な冒険。ゲーム的な活劇からアイデンティティの危機まで、巧みなストーリーテリングによって不死の感覚をとらえた作品。ログアウト不可。


『救助よろ』(デヴィッド・バー・カートリー)
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 デボンにはこんなふうに言ったことがある。
「わたしは現実が好きなのよ」
 そのときゲーム中だったデボンは、モニターの光でシルエットになった顔で言った。
「現実は偶然しかない。魅力的にデザインされてないじゃないか」画面をしめして、「でもファンタジー世界は、そのようにデザインされてる。(中略)驚異と冒険に満ちた、かくあるべき世界だ。現実を現実だからというだけで特別視するのは、狭量な精神のあらわれだ」
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文庫版p.50

 オンラインゲームにハマって戻れなくなってしまった恋人を救え。彼を現実世界に引き戻すために、彼女は旅立った。ノームから渡されたレアアイテムを手に、巨大グモやゴブリンを剣で倒しながら。ゲームは現実逃避に過ぎない、という議論をひねった作品。こつこつレベルアップ。


『NPC』(チャールズ・ユウ)
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 最初はとらわれの身だった。なにも考えないイリジウム収集作業員としてゾンビのように歩きまわっていた。かわりに自由に考えられた。それからあのプラズマ嵐に襲われ、いろいろなことが起きた。自由に体を動かせ、行きたいところへ行けた。しかし思考はとらわれていた。なにかに縛られていた。この仕事に、あるいはこの人生に。
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文庫版p.118

 小惑星でイリジウム収集をひたすら続けていた男が、ある事故に巻き込まれ、突然PCになってしまう。これまではNPCだったのだ。男は次々と提示されるミッションをひたすらクリアするが、奇妙なことに、それまでよりもむしろ不自由な人生を送っているという感覚から逃れられない。意外な設定で「自由とは何か」というテーマを扱った作品。乱入上等。


『猫の王権』(チャーリー・ジェーン・アンダース)
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「これは一つの閉じた生態系ではないかと仮説を立てているんです」ジュディは言った。「レプトスピラX菌と、人間と、ゲームの猫たちの三者による生態系。現実の猫が飼い主をトキソプラズマに感染させて、さらに猫好きにするようなものではないかって」
「なるほど」
 わたしは大広間のパーティションの隙間から、猫のマスクの人々がずらりと並んだ列を見た。まるで雨だれのようにぽつぽつとゲーム機を叩いて操作している。性別も年齢層も体格もさまざま。服装もトラックスーツからビジネスカジュアルまで。猫のマスクだけがほぼいっせいに上下に動く。目を見開いてまばたきせずに統治する機械の群れ。
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文庫版p.138

 伝染病が引き起こす脳障害に苦しむパートナーに、プレイすることで認知機能のリハビリになるというゲームを与えた語り手。介護している語り手のことも忘れてしまったように、患者はゲームにのめり込んでゆく。分解されつつあった脳機能がゲーム世界に適応し、再構成されてゆくのだ。ゲームと介護という現実的なテーマを扱った作品。上位ランキング。


『キャラクター選択』(ヒュー・ハワイー)
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「わたしは生きてお店にたどり着きたいだけなの」
 わたしがそう言っても、夫は耳にはいらないらしい。
「――まだ1ポイントも稼いでないじゃないか。そんなの……ばかげてる。このまま市街を出たらゲームオーバーだぞ。敵前逃亡で捕まる。いるべき場所は市街の反対側だ。空爆を待つんだ。でないとこのステージをクリアできない。一度でもこのステージをクリアしたことがあるのか?」
「いいえ」
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文庫版p.234

 いつもより早く職場から帰宅した夫が、育児の合間に彼のゲームをプレイしている妻を見つける。どんな風にプレイしているのか見せてくれと頼む夫。妻は、驚くべきスキルで、一人も敵を殺さず、獲得ポイント0のまま戦場を駆け抜け、市街戦から離れた平和な場所で花を育てているのだった。ハイスコアを目指すプレイを当然と考える夫との意識のずれ。ゲームのプレイスタイルを通じて、多様性というテーマを扱った作品。俺様プレイスタイル。


『計仕掛けの兵隊』(ケン・リュウ)
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「信念は自己認識の言い換えに過ぎない。あんたは成功したよ、シェヘラザード。自分の物語を語って、命を長らえた。こんどは、あたしが自分にいい話をする番さ。自分自身についての話を」
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文庫版p.314

 父親からの依頼で賞金稼ぎがつかまえた少年。宇宙船で護送してゆく最中に、少年は与えられたコンピュータを使ってテキストアドベンチャーゲームを作り出す。ひまにまかせてプレイした賞金稼ぎは、そこで語られている少年自身の物語に感銘を受ける。小説と違って読者が能動的に考えないとストーリーが進行しない、というテキストアドベンチャーの特性を活かした「語り」のパワーを描いた作品。そのコマンドは無効です。



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『NNNからの使者 あなたの猫はどこから?』(矢崎存美) [読書(小説・詩)]

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「そう。みんなにミケさんって呼ばれてるの」
 背中を撫でられてゴロゴロ喉を鳴らしている。
「この子、ちょっと不思議な猫として有名でね」
「そうなんですか?」
「子猫とかを斡旋したり、保護猫施設に連れていったりするのよ」
「ええっ!?」
 なんかそういう話、ネットで読んだことあるような――。
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文庫版p.83


 猫、飼いたいけど、色々と事情もあって……。悩みを察知されるや、たちまち舞い込んでくる猫との良縁。そんな猫飼いあるある現象の背後では、NNNなる謎の猫組織が暗躍しているらしい。ミケさんと呼ばれている不思議な三毛猫(雄)がもたらす「猫と人の出会い」を描く五つの物語を収録した短篇集。『NNNからの使者』シリーズ第二弾。文庫版(角川春樹事務所)出版は2018年4月です。


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 この小説はフィクションです。
 作中に描かれる猫の行動は、すべての人間を猫の下僕にするため暗躍する謎の組織NNN(ねこねこネットワーク)の理念に則っているように見えますが、ほんの少し関係あるかもしれません。
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 というわけで、猫好きのあいだで(主にネット上で)話題にのぼりがちな謎の組織NNN(ねこねこネットワーク)の暗躍を扱った謀略サスペンスシリーズ、ではなくて、猫を飼いたいと思っている人が自分の猫と出会うロマンス小説です。人の視点、猫の視点、ときどき切り替えながら語られてゆく五つの物語。猫飼いの読者はもちろん魅了されますが、それほど猫に興味がない方でも、読めばきっと猫を飼いたいと思うはず。

 ちなみに前作の紹介はこちら。すべての作品は独立していますので、どちらから読んでも大丈夫です。

  2017年10月16日の日記
  『NNNからの使者 猫だけが知っている』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-10-16


[収録作品]

『第一話 聞こえなかった声』
『第二話 願掛け猫』
『第三話 セーター猫の奇跡』
『第四話 猫に優しく』
『第五話 猫大好き、でも――』


『第一話 聞こえなかった声』
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「捕獲器に入って……」
 怖いのはわかっている。でも、そこに入れば暖かい場所でおいしいものが食べられる。風邪だって治してもらえる。
 優しい飼い主のところで暮らせる。
 できれば小雪がその「優しい飼い主」になりたかった。
「入ったら、あたしと……一緒に暮らそう」
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文庫版p.48

 一人暮らしをしたいと思いつつ、同居している親に精神的に束縛され何もできないでいる若い女性。そんな彼女が出会ったのは野良の虎猫。家を出て、この子と一緒に暮らしたい。でもこわい。どうしたらいいの……。勇気を振り絞って新しい人生に一歩踏み出そうとする彼女を、最後の瞬間に助けてくれるミケさん、かっこいい。


『第二話 願掛け猫』
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 大盛り上がりの三人を見ながら、本当にそうなのかな、と海は思う。考えても結論は出ない。多分みんな偶然だ。きっとあの三毛猫がいなくたって、こうなっていたはず。きっと。きっとね。
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文庫版p.89

 ペット飼育禁止のアパートに引っ越してきた若い男。そこに一匹の子猫がやってくる。隣人と一緒にこっそり世話しているうちに、何だか次々とアパートの住人が参加してきて、あっという間に保護猫グループ化。何と、このアパートの住人はみんながみんな猫好きだったのだ。え、じゃあミケさんの出番ないじゃん、と思った読者を待ち受ける驚愕の真相。


『第三話 セーター猫の奇跡』
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「今日は、猫を飼いたいけど飼えないらしい人がペット可のお部屋を決めたよ」
 と話す。
「どうして飼えないの?」
「猫アレルギーなんだって」
「ふーん。それは残念だね」
 ミケさんはそう言って、何やら考えているようだった。
「猫アレルギーって僕たち猫にはよくわからないことだよね」
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文庫版p.98

 猫アレルギーで猫を飼えない女性のために、奇跡の出会いをもたらすべく奔走するミケさん。「せっかく猫が好きで、飼える場所にいるんだもの。飼えるようにしてあげたいよね」(文庫版p.99)というわけで、NNN活動の基本「猫を飼いたいと思った途端、まさにぴったりの猫との出会いが」の背後にある、猫同士のネットワークから手配の詳細までがよく分かる物語。


『第四話 猫に優しく』
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 働けるのなら、あの子を養うこともできる。自分以外のものにお金を使うことがうれしくて、大輔はまた少し泣いた。
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文庫版p.159

 これまで不遇な人生を送ってきた男が、占い師から「猫に優しくしなさい」と助言される。そうすれば運が開ける、と。半信半疑ながら何とか猫に優しくしようと頑張っているうちに、幸運をもたらすオッドアイの白猫が現れる……。


『第五話 猫大好き、でも――』
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 人生には、いくつか「あの時こうだったら」と思う分岐点がある。柾樹の場合、それにはいつも猫が絡んでいるような気がする。
 家に帰ると、黒豆が熱烈歓迎してくれた。犬ももちろんかわいい。それはわかっている。
(中略)
 ただ時折、とてつもなく「猫が飼いたい」と思う自分もいる。今までの歴代の犬たちに申し訳ない気分になるが、犬は犬、猫は猫なのだ。
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文庫版p.167

 飼うのに何の障害もなく、猫大好きなのに、たまたま積極的に動かなかっただけで、猫を飼いはじめる絶好のチャンスを何度も逃してきた男。見るに見かねたミケさん、これまでで最も強引かつストレートな猫斡旋をしてくるのだった。



タグ:矢崎存美
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『ウラミズモ、今ここに(「Web河出」掲載)』(笙野頼子) [読書(小説・詩)]

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 改憲森友の影で、民は売られる。医療なし、水道代五倍、薬代倍、新薬高価なまま、後々は国境のない医師団までも苦しみぬくかもしれぬ。当然、戦争はさせられるし憲法はぶっこわされる。ばかりか日本中が海外から持ってきた核廃棄物の置き場にされても文句言えなくなる。だって憲法よりISDSの方が強いからね。
(中略)
 TPPは「変わった」けれど地獄のISDS条項は残ったまま、他国はなんとか対応しているけど日本はまったく放置したままだ。その他もどんどん作り込まれている。ね、ね、どうかどうか無関心にならないで! 焦ってて文章やや乱暴ですけれども。そしてできることは少ないし仕事のついでだけどでも最後まで抵抗するから。
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 シリーズ“笙野頼子を読む!”第117回。

 河出書房新社の本のポータルサイト「Web河出」に寄稿された短篇。Web掲載は2018年4月です。以下のリンクから全文読むことが出来ます。

  [書き下ろし短篇小説]ウラミズモ、今ここに  笙野頼子  2018.04.16
  http://web.kawade.co.jp/bungei/1995/


 ちなみに、『ひょうすべの国』の紹介はこちら。

  2016年11月29日の日記
  『植民人喰い条約 ひょうすべの国』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-11-29


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 笙野です。ごぶさたしています。慢性腎不全の老猫の看病をしつつ、TPP警告小説『ひょうすべの国』の続篇「ウラミズモ奴隷選挙」を書いています。(中略)これは、出来る範囲で最後までTPPに反対していきたい。行ける人には選挙に行ってほしい。そう願いつつ書き進めている作品です。
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 無論最後まで希望は捨てません。偏向報道はずっと何とかあきらめさせようとしてずーっと「もう決まったから」ばっかり言ってきているのでね、そしてこれは逆らう以外の選択肢はないほどの事態でもあるので。
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 ろくに報道もされないまま、なし崩し的にTPPが発効してしまうかも知れないという危機的状況のなか、執筆中の次作『ウラミズモ奴隷選挙』に先駆けて発表された短篇です。予告篇といっていいかも知れません。何しろ実際の政治状況が笙野文学をすごいイキオイで実現してゆくので、文学にもよりいっそうのスピードが求められるという、こんな状況、もういやだ。


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文学は売国を報道する。だって新聞がろくに報道しないからね。
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こうなったらもう、報道より文学の方がよっぽど迅速だよ。
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『さあ、文学で戦争を止めよう 猫キッチン荒神』 単行本p.16、26


 というわけで、『ウラミズモ奴隷選挙』は「文藝」で発表予定とのこと。掲載が楽しみです。というか、老猫と難病患者に闘いを任せておいて「掲載が楽しみです」とか気楽なことをいっちゃう自分ってどうなの、泣く。



タグ:笙野頼子
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『特別公演』(勅使川原三郎、佐東利穂子) [ダンス]

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歌の力こそぼくらの目に光をそそぎ、
  あらゆる芸術を解する力を授けてくれる。
  だから心うれしきひとも疲れたものも、
  つつましやかにこよなき味をたのしむ。
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『青い花』(ノヴァーリス、青山隆夫:翻訳)より


 2018年4月14日は、夫婦でKARAS APPARATUSに行って勅使川原三郎さんと佐東利穂子さんの公演を鑑賞しました。キューバでの公演から一時帰国して二日間だけ特別公演を行うとのことで、先月の特別公演と同じく、新作を踊ってくれました。上演時間60分の舞台です。


[キャスト他]

演出・照明: 勅使川原三郎
出演: 勅使川原三郎、佐東利穂子


 ドイツ・ロマン主義の作家ノヴァーリスの小説『青い花』にもとづくダンス作品です。「青い花」を佐東利穂子さんが、その青い花を追い求め各地を遍歴する「詩人」を勅使川原三郎さんが、それぞれ踊ります。

 最初のシーンは、時計や風の音が流れるなか、「詩人」が夢をみる場面。


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壁の時計がものうげに時をきざみ、がたがたなる窓の外で、風がうなり声をあげていた。月の光が射して部屋が明るくなったかとみると、また暗くなった。青年は眠られぬまま寝台の上を輾転として、あの旅の人のこと、その口から語られたあれこれを思いだしていた。
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『青い花』(ノヴァーリス、青山隆夫:翻訳)より


 やがて彼は夢のなかで出会った「青い花」を求めて様々な場所をさまようことに。潮騒や嵐、轟く雷鳴など、多様な音が流れ、この音響効果と照明効果によって場所や天候の変化が劇的に示されます。

 憧れ、困惑、焦り、人間的な表情を浮かべる勅使川原さん。青い照明を浴びて目の前に立つ夢幻のような佐東利穂子さん。どちらも強烈な印象を残します。


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葉が輝きをまして、ぐんぐん伸びる茎にぴたりとまつわりつくと、花は青年に向かって首をかしげた。その花弁が青いゆったりとしたえりを広げると、中にほっそりとした顔がほのかにゆらいで見えた。この奇異な変身のさまにつれて、青年のここちよい驚きはいやが上にも高まっていった。
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『青い花』(ノヴァーリス、青山隆夫:翻訳)より


 大きく、激しく、きっぱりとした動きが特徴的で、とにかく大盤振る舞いというか、かっこいいダンスがたくさん観られて単純に嬉しい。勅使川原さんの作品をはじめて観るなら、これが最適ではないでしょうか。いずれアップデートされて劇場で公開されることを期待したいと思います。

 来月はシアターΧで新作公演『調べ』、続いてアップデートダンス新作も公開されるそうで、もうこうなったら、ぜんぶ観る。



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『たべるのがおそい vol.5』(今村夏子、岸本佐知子、他、西崎憲:編集) [読書(小説・詩)]

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 今回もまた素晴らしい書き手に恵まれてただ感謝するばかりです。(中略)本好きのかたに何かを手渡したいという希望が漠然とあってその希望にそって今後も編集したいと思います。
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編集後記より


 小説、翻訳、エッセイ、短歌など、様々な文芸ジャンルにおける新鮮ですごいとこだけざざっと集めた文学ムック「たべるのがおそい」その第5号です。単行本(書肆侃侃房)出版は2018年4月。


[掲載作品]

巻頭エッセイ 文と場所
  『おさまりのよい場所』(酉島伝法)

特集 ないものへのメール
  『ジェネリック』(柴田元幸)
  『拷問の夢を見ている』(大前粟生)
  『昆虫図鑑にないキミヘ』(黒史郎)
  『こんにちは、鴨長明さん』(蜂飼耳)

創作
  『天井の虹』(岸本佐知子)
  『ある夜の思い出』(今村夏子)
  『千年紀の窓』(米澤穂信)
  『馬』(齋藤優)
  『地下鉄クエスト』(大田陵史)
  『雨とカラス』(澤西祐典)

翻訳
  『ごみ』(ツェワン・ナムジャ、星泉:翻訳)
  『ジャングル』(エリザベス・ボウエン、西崎憲:翻訳)

短歌
  『四月』(仲田有里)
  『これはテストだとあいつは言っておれは水にはいる』(フラワーしげる)
  『杏仁豆腐』(内山晶太)
  『星ふるふ』(小原奈実)

エッセイ 本がなければ生きていけない
  『窓のない部屋から』(石井千湖)
  『ドロナワ古本コレクター』(北原尚彦)


『天井の虹』(岸本佐知子)
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 いつも私鉄の駅で待ち合わせ、「ウコンの力」を立ったまま一気飲みし、そば屋で腹ごしらえをしてから、飲み屋に行く。いったん座ると、長い。誰よりも早く店に入り、誰にも背中を見せない。
 私たちはメニューのおすすめグラスワインを上から順番に頼む。どんどん飲み、ぽつぽつ話す。
(中略)
 話しているうちに目が回ってくる。天井の隅に虹が出る。スツールの陰を動物の影がちらちら出たり入ったりする。テーブルの上を小さい小さいアベベが走る。朝になると、どうやって家まで帰ったのか、ちゃんと代金は払ったのか、いつも記憶がない。あれだけ長い時間いっしょにいたのだから、バンマツリや舌の裏の筋以外のいろいろな深い話もしたはずなのに、きれいさっぱり忘れてしまっている。
――――

 酒を飲んでしゃべった変な話を並べた連作形式の作品。何しろ岸本佐知子さんなので、その変さも玄人っぽく変。翻訳・エッセイだけでなく創作もどんどん書いてほしいものだと、個人的にそう思います。


『ある夜の思い出』(今村夏子)
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 人間の、男だった。長髪で顔の半分がひげだった。驚いたのは、彼がわたしとそっくり同じ姿勢でそこにいたからだった。
 お腹を下にして寝そべっている。そしてわたしの顔をじっと見つめている。まるで金縛りにあったように、わたしたちはしばらくお互いの顔から視線を外すことができなかった。
 最初に動きを見せたのは男のほうだった。通り道のあちら側から、ズリ、ズリ、と腹這いで近づいてきた。わたしは男と正面から向かう合うように、ゆっくりと体の向きを変えた。
――――

 もう立っているのも面倒くさいので、ずっと寝そべって生活していた女性。父親から就職しろと説教され、思わずよついばいのまま家出した彼女が、路上で出会った男。彼は同じように腹這いのまま路上を這っていた。ぼくのうちにこないかと誘われた彼女は、男と一緒に、ズリ、ズリ、と路上を這い進んでゆく。これまで「たべおそ」に掲載されたちょっと嫌な怖い話と違って、とてもストレートなボーイ・ミーツ・ガール・ストーリー。


『これはテストだとあいつは言っておれは水にはいる』(フラワーしげる)
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いいものが売れる時代がほんとうにきたらどうすると不動産屋が言う赤羽の夕方
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焼き魚がふいに口をひらいてどうだうまいかという春の第一日
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写真の下にまじょがりと書かれ 書いた祖母がもういないこと
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起きた上半身が歯ブラシを使う朝 大きなものが家をまたぐ
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ウインクができなくて両目をつぶってしまう女の子しか入れないんだここ
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 フラワーしげる氏の短歌はとても好きです。


『拷問の夢を見ている』(大前粟生)
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パーティなんて嫌いだ。希望なんてどこにもないんだ。こんなことならいつもみたいに拷問を受けている方がましだった。私はあなたがくるのを待ち望んでいる。きっとあなたは私に対しての凄惨な拷問でパーティ会場の空気を凍らせてくれる。(中略)そのとき私はどんな顔をしているだろうか。内面ではあなたがきてくれてほっとしているのだが、無理やり怒り顔を作っている。きっとそうだ。私たちは拷問する者と復讐する者、そういう関係だから。
――――

 夢のなかでよく拷問されている。あるときパーティ会場の夢を見た。そのいたたまれなさときたら、いつものようにあなたから拷問を受けている方がましだ。早く来てほしい。とても共感できるような、意外とそうでもないような、そんなちょっといい感じの作品。


『ごみ』(ツェワン・ナムジャ、星泉:翻訳)
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 ごみの山の麓からラサという高原の街を見下ろすと、そこは相変わらずの喧騒が渦巻き、何かに向かって突き進んでいる。思い返してみると、幼い頃からこの街はそうやって前に突き進んでいた。今や大人になったけれど、この街はいまだ飽くことなく前へ前へと向かっている。いったいいつゴールにたどり着くことができるのだろう。この街はゴールに着くまで、今日の赤いおくるみにくるまれた赤ん坊のようなごみをどれだけ捨てることになるのだろう。そう思うと恐ろしくてたまらなくなった。
――――

 チベット、ラサの郊外で、うずたかく積み上がったゴミの山を漁って生活している人々。一人の若者が、ゴミのなかに生きた赤ん坊が捨てられているのを見つけてしまう。もちろん育てることなど無理。しかし、そのままでは死んでしまう。どうすればいいのだろう。
 チベット現代文学界の若手期待の星による、人がごみのように扱われる社会の冷淡さをどこか寓話めいた雰囲気で描いた物語。


『地下鉄クエスト』(大田陵史)
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「何をしているんですか?」なぎさは訊いた。僕が一番聞きたかったことだ。「どうみても地下鉄の作業員には見えないんですけど」
「送別ですよ」金髪の彼は言った。「二人を途中まで送り届けるために、三田から歩いています。といっても、私は、目黒からこの路線を歩いていますが」
「どうです? 一緒に歩きませんか?」彼は重そうな高級腕時計を確認した。「始発まで、あと一時間はあります。今日は神保町までが限界かと思いますが、帰る方向が同じようだったら行ける所まで行きましょうよ。どうせもう寝れないでしょう?」
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 深夜、泥酔して地下鉄のホームで眠り込んでしまった男。目が覚めると終電はとうに過ぎており、照明は消され、出口にはシャッターが降りている。どうすればいいだろう。そこに数名の男女の一団が線路を歩いてやってくる。先頭で旗を持っている男が声をかけてくる。「ようこそ、SOS大東京探検隊へ」
 地下鉄駅取り残され客送迎業、地下鉄の線路沿いに出る屋台など、微妙なリアリティがある「深夜の地下鉄コミュニティ」を描いた楽しい作品。



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