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『青い眼がほしい』(トニ・モリスン) [読書(小説・詩)]

 米国のノーベル文学賞作家トニ・モリスンの作品を、なるべく原著の発表順に読んでゆくシリーズ“トニ・モリスンを読む!”。その第1回として、彼女のデビュー長篇を読んでみました。原著の出版は1970年、翻訳版の出版は1981年。私が読んだ単行本は、1994年6月に出版されています。

 はっきり言って、かなり陰惨な話です。貧しい黒人の一家に生まれた幼い少女が虐待されて育ち、やがて実父に強姦されて妊娠。そのせいで家族は離散し、街中の人々から軽蔑と嫌悪の眼で見られた少女は、とうとう気が狂ってしまう。まあ、心踊る楽しい本ではありません。

 黒人で、女で、貧しくて、美しくない少女が望んだのは、「青い眼」。誰よりも青い眼になれば、小学校の英語の教科書に出てくる理想的な家庭、すなわち頼もしい(白人中産階級の)おとうさん、優しい(専業主婦の)おかあさん、素敵な(一戸建ての)おうち、そして元気な(美しい青い眼をした)娘、そういった境遇が手に入る、そして(世間の、というか白人の基準通りに)幸福になれると、彼女はそんな風に思い詰めるのです。作中あちこちに教科書の文章が抑圧的に挿入されることで、この思い込みの切実さと、恐ろしさ、忌まわしさが表現されています。

 神様にお祈りして願いをかなえようとした彼女は、騙されて自分の手で老犬を殺してしまいます。犬の断末魔を見た彼女は、おそらくそのショックで精神が崩壊し、現実から逃避して、自分がとうとう青い眼を手に入れた、だから他人はみんな自分に対して敬意を払ってくれている、と信じたまま、家庭からも世間からも絶望的に排除されてゆくのです。

 「青い眼」とは、世間から押しつけられた偏見や価値基準の象徴でしょうが、そういった偏見が内面に深く根を下ろしたとき、人間の心や可能性がどのようにしてむしばまれてゆくのか。様々な登場人物の来歴や内面描写を通じて、そのことが克明に書かれた小説です。

 一つのストーリーを直線的に展開させるという構成ではなく、中心となる出来事に直接的、間接的に関わった(背景あるいは土壌となった)人々それぞれの物語を順番に語ってゆくという形式で、独立した色々な物語が詰め込まれています。

 このため、短編集を読んだような印象があります。どれもこれも気の滅入る人生や光景ばかりではありますが、次から次へと飛び出してくる物語や印象的なシーンの豊富さには驚かされます。

 というわけで、いかにもデビュー作らしい、生真面目というか、余裕がないというか、息づまるような長篇です。次回作を読んでみたい、と思わせる迫力があります。なお、訳文にはかなり不満が残りました。日本語として、こなれてないというか、どうにもかたくて読みにくい。そこは残念でした。


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