So-net無料ブログ作成
検索選択
メッセージを送る

『ザ・万字固め』(万城目学) [読書(随筆)]

 「煽り文句を真に受け、私は電力株を買った。ネット証券に口座を新たに開設し、いちばん大きな会社がいちばん安心だろう、と東京電力の株をしこたま購入した。2010年12月のことである。(中略)経験したことのない額を一気に約定させたときには、さすがに身体が熱くなった」(単行本p.132、133)

 東京電力株主総会、全日本愛瓢会への入会体験、台湾でのサイン会、森見登美彦への嫌がらせ、謎球技「遠投げ」の思い出。人気作家によるエッセイ第三弾。単行本(ミシマ社)出版は、2013年02月です。

 万城目さんの本はこれが初めてなのですが、とにかく話題になっている「やけどのあと(2011 東京電力株主総会リポート)」を読んでみたかったのです。

 「トレード画面にその数字が収まりきらず、「S」という千を意味する記号が、0がたくさん並んだ脇に添えられているのを、私ははじめて目撃した。(中略)あまりの急降下に、私は呆けた。何ら手を打つことなく、注文を発することもなく、ただただ口を開けて金が消えていく様を見守っていた」(単行本p.136、137)

 震災のわずか数カ月前に欲をかいて東電株を大量購入した著者。事故後、当然ながら暴落して連日ストップ安。こんな「心温まるエピソードはそうはお目にかかれない」(単行本p.139)と自虐する美味しいネタから始まって、話は事故後はじめて開催された東電株主総会への出席という流れになります。その光景は。

 「前方のガチガチの応援団に、おそらくこの会社には柔軟さという言葉は存在しないのだろう、と開始十分にして、東京電力は見事にその社風を全会場にアピールすることに成功していた」(単行本p.144)

 「抑揚のない調子でだらだらと続けられると、一気に目の前から現実が消えていくのである。東京電力の役員は、常に自分たちが主役になることを嫌がった。隙あれば、主役の座を国や法律に委ねようとした。(中略)それはどこまでも滑稽な眺めだった」(単行本p.148)

 「時間が経過するにつれ、参加した株主が徐々に理解し始めたのは、この株主総会には何の推進力もなければ、目の前にいる役員の誰もが責任を取るつもりがない、ということだった。(中略)具体的に今後どう行動するのか、過去にどんな責任があったのかは、誰も何も言えないのだった。彼らは無力だった。株主はもっと無力だった。そこにはとことん現実が存在しなかった」(単行本p.149、151)

 うん、まあ、そうでしょう。

 「全日本愛瓢会なる、ひょうたんを愛好する人々が集うNPO法人が作成するひょうたんガイドブック、価格は二千円」(単行本p.19)を注文したら、全日本愛瓢会に入会してほしい、そうすれば冊子は無料でプレゼントする、年会費は一年三千円、という電話がかかってくる。「二千円の本を注文し、三千円の勧誘で折り返してくることに新鮮な驚きを感じ」(単行本p.20)、全日本愛瓢会に入会した著者。

 森見登美彦が綿矢りさにサインをもらう現場に居合わせた著者。

 「「あ、僕もついでにやっときましょうか」と申し出ると、森見さんは口の端っこを歪め、「いや、別に」と言うので、張りきって綿矢さんの隣にへろへろの字でサインをしておいた」(単行本p.227)

 台湾のサイン会にて、読者から「森見登美彦さんと仲がよいですか?」という質問を受けた著者。

 「「森見さんとはそうですねえ・・・・・・、仲がいいか悪いかと言ったら、うん、悪いですね」(中略)おもしろおかしく言ってみたつもりが、真面目に通訳されてしまったか、場の雰囲気が急にシュンとしてしまった」(単行本p.79)

 京都を舞台に大学生があたふたする小説を書く者同士、なんかこう、余人には窺い知れない絆のようなものがあるのかも知れません。

 『鴨川ホルモー』の翻訳に当たって「ホルモー」をどう訳したかを見ると、「極東アジアを構成する各国の国民性がほのかにうかがい知れておもしろい」(単行本p.62)という著者。

 「何の注釈もなく「ホルモー」を受け入れてしまう日本と台湾、この両者は明らかにゆるい。一方、読者に何かしらの注釈をつけてあげようとする中国と韓国、こちらは真面目である。そして、北朝鮮ではホルモーの存在自体が許されない」(単行本p.62)

 他に、日本語で「サイコパス」という言葉がこわく感じられないのは「サロンパス」という商品のせいではないか、藤堂高虎という戦国武将は父の名前が藤堂虎高で母の名前は「とら」で「親子揃ってどんだけ虎づくしやねん」(単行本p.43)とか、子供の頃に遊んでいた謎の球技「遠投げ」の思い出とか、エーゲ海の旅、寿司や鰻の話など。

 意外に手堅いという印象のエッセイ集ですが、あちこちに笑える部分もあって、退屈しないで一気に読み通せます。同じ作者の小説も読んでみることにします。


タグ:万城目学
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(1) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 1

この記事のトラックバックURL:
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。