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『アステロイド・ツリーの彼方へ 年刊日本SF傑作選』(大森望、日下三蔵、藤井太洋、宮内悠介、上田早夕里) [読書(SF)]


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あっと驚く新発明から、ノアの方舟、自動販売機、狸、ビリヤード、源氏物語、平行世界、無人探査機などなど、ありとあらゆる題材が扱われている。(中略)この一冊を読むだけでも、いまの日本SFの多様性が実感できるはずだ。
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文庫版p.8


 2015年に発表された日本SF短篇から選ばれた傑作、および第七回創元SF短編賞受賞作を収録した、恒例の年刊日本SF傑作選。文庫版(東京創元社)出版は、2016年6月です。


[収録作品]

『ヴァンテアン』(藤井太洋)
『小ねずみと童貞と復活した女』(高野史緒)
『製造人間は頭が固い』(上遠野浩平)
『法則』(宮内悠介)
『無人の船で発見された手記』(坂永雄一)
『聖なる自動販売機の冒険』(森見登美彦)
『ラクーンドッグ・フリート』(速水螺旋人)
『La Po'esie sauvage』(飛浩隆)
『神々のビリヤード』(高井信)
『“ゲンジ物語”の作者、“マツダイラ・サダノブ”』(円城塔)
『インタビュウ』(野崎まど)
『なめらかな世界と、その敵』(伴名練)
『となりのヴィーナス』(ユエミチタカ)
『ある欠陥物件に関する関係者への聞き取り調査』(林譲治)
『橡』(酉島伝法)
『たゆたいライトニング』(梶尾真治)
『ほぼ百字小説』(北野勇作)
『言葉は要らない』(菅浩江)
『アステロイド・ツリーの彼方へ』(上田早夕里)
『吉田同名』(石川宗生)


『ヴァンテアン』(藤井太洋)
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「その点バイオハックは違う。世界中の人が扱ってるから働きもよく分かってるし、ツールもたくさんある。そのおこぼれで私みたいなプライベーターが挑戦できるの。あなたが3Dプリンターを買い集めるのと同じ。作って試せるのって凄いことよ」
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文庫版p.26

 豆、パプリカ、サラダ菜、トマト、そして羊羹。いますぐ使えるものでとりあえず作って、試す。見た目はジャーサラダそっくりな手作りDNAコンピュータが、やがて世界を変えてゆく。DIYハッカー精神あふれる力強いハードSF。


『小ねずみと童貞と復活した女』(高野史緒)
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『白痴』と『アルジャーノン』の合体は十代の頃からやってみたかったし、それに『ドウエル教授』や『ソラリス』等、高野史緒という作家を造ってきた数々のワクワクを召還し、「悪ふざけの続き」を思う存分させてもらった。(中略)この世のすべてのワクワク、特にSFのワクワクと、それを共有する全ての仲間たちに感謝したい。
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文庫版p.79

 あの事件の後、白痴に戻ったムイシュキン公爵はどうなったのか。実は、開発されたばかりの知能向上薬により、実験動物であるネズミ(名前はアルジャーノン)と共に天才化していたのだった。ナスターシャを復活させる方法を探し求め、ドウエル教授の首と共同研究していた語り手は気付く。そうだ、惑星ソラリスに行けばイイじゃん(以下略)。


『法則』(宮内悠介)
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 僕は確信した。
 あのときオーチャードを殺せなかったのは、僕が使用人であったからなのだ。
 ――この世界は、ヴァン・ダインの二十則によって支配されている世界なのだ。
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文庫版p.122

 推理小説を書く上で守るべき規則をまとめたヴァン・ダインの二十則。それは物理法則よりも優先し、絶対的にこの世を支配しているのだ。そのことに気付いた語り手は、それを逆手にとった完全犯罪を目論むが……。「ふざけたほうの宮内悠介」による論理アクロバット。


『聖なる自動販売機の冒険』(森見登美彦)
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「飛んできた自動販売機たちの中に見えた。あったかいきつねうどんが出てくる自動販売機。未来的な技術を結集して『きつねうどん』を出すなんて、人類って可愛いなあと思う」
「きつねうどんが食べたくなったな」
「今でもあるのかなあ、あの自動販売機……」
 我々は自動販売機たちが飛び去った彼方を見つめていた。
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文庫版p.190

 残業中、ビルの屋上に出てみた語り手は、奇妙な自動販売機を発見する。それは人類の次なる進化をうながす2015年宇宙の自動販売機、なのか。それより気になるのは隣のビルの屋上にいる美女。そして見よ、夜空を埋めつくす自動販売機の大群を。そこにはチェリオの姿さえ……。深夜の自動販売機の明滅にSFを感じてしまう抒情作品。


『インタビュウ』(野崎まど)
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野崎 しかしなぜ我々はこんなところに居るんでしょう。
香月 野崎君、それは言っちゃいけない。早川書房刊行のSF作品は実は全てノンフィクションで、作家や編集がこうして定期的に宇宙取材に出てネタ集めをしていることが知られてしまったら世界中がパニックになるだろうし、多分早川書房も潰れる。
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文庫版p.262

 新作『know』が話題になっている野崎まど先生のインタビュー記事。場所は未開惑星。そこには「インタビューの会話」そっくりの声で吠える巨大怪獣インタ・ビウィが棲息していた。あらすじ付きの書影を吐く怪獣、『know』の表紙カバー絵で対抗だ。SFマガジンに掲載されるはずだったのがボツを喰らった(わかる)幻の作品が年刊日本SF傑作選に選ばれるという椿事。


『アステロイド・ツリーの彼方へ』(上田早夕里)
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 メインベルト彗星から無数の微生物が宇宙空間へ撒き散らされるように、バニラもまた、アステロイド・ツリーの彼方、遥か遠くの惑星へ向けて旅立っていった。
 僕は、それを甘い感傷に彩られた記憶として心に留めるようなーーそんな人間にはなりたくないと思っている。
 生命とは何か、知性とは何か。
 その問いに対する好奇心と探究心を満たすために、僕たち人類が何をしたのか、いつまでも覚えておくつもりだ。
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文庫版p.516

 テレプレゼンス技術により、地上にいながらにして宇宙探査が可能な時代。語り手は「宇宙探査機搭載用AIの世話」という仕事を引き受ける。見た目は猫そっくりの自律ロボット型AI「バニラ」と次第に打ち解けてゆく語り手だが、バニラという存在には隠された秘密があった……。SFを使って「人間とは何か」を切実に問い続けてきた作家が、「人間はなぜ“人間とは何か”を切実に問い続けるのか」を問う。


『吉田同名』(石川宗生)
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 深夜0時30分頃、政府主導の下、警察署、市役所が合同で『吉田大輔氏大量発生対策本部』を緊急発足。続く1時、大輔氏に取り囲まれたまま何時間も身動きが取れずにいた通行人や住民の救出に向け、大輔氏の搬出作業を決定。(中略)翌朝には用意した全施設への収容が完了したが、各収容人数が2、300パーセントを超過してもなお四丁目の半分は大輔氏に占められていた。
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文庫版p.524

 第七回創元SF短編賞受賞作。突如、何の理由もなく二万人近くに増殖した吉田大輔氏。とりあえず施設に分散収容されたものの……。同一人物が大量に増殖したらどうなるか。居住は、食料は、社会への影響は。同一人物たちによる共同生活はどのような形をとるだろうか。風刺的な、あるいは幻想文学的なシチュエーションを、徹頭徹尾あくまで現実的にシミュレートする奇妙な作品。



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