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『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』(ピーター・トライアス、中原尚哉:翻訳) [読書(SF)]


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「だれでもだれかを失ってるよ。でも戦争が終わってアメリカが負けたという事実に変わりはないんだ」
「戦争ははじまったばかりさ。黙って死を受けいれるつもりはない」
(中略)
「時間が解決するわ。凶暴な殺し屋だって、平和が続けばきっと変わる」
「どんなふうに?」
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新書版p.32、33


 枢軸側の勝利による第二次世界大戦の終結から40年後。日本合衆国「USJ」となった旧アメリカは、国民に天皇崇拝を強制し過酷な言論弾圧を行っていた。悪名たかい特別高等警察(特高)の職員である昭子は、「アメリカが第二次世界大戦に勝利した世界」という設定の国賊的ゲームを取り締まるべく、検閲局員のベンと共に、開発者の行方を追っていたが……。21世紀の『高い城の男』(P.K.ディック)として書かれた歴史改変SF。文庫版(上下巻)および新書版(早川書房)出版は2016年10月、Kindle版配信は2016年10月です。


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 本書『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』は、改変歴史SFとしても、巨大ロボットアクションとしても、スリリングな謀略サスペンスとしても、ジャパネスク風味のポストサイバーパンクSFとしても、『一九八四年』的な監視社会を描くディストピア小説としても、極限状況を浮き彫りにする戦争文学としても、胸を打つ人間ドラマとしてもすばらしい。年間ベスト級どころか、このさき長く読み継がれる小説になるだろう。
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新書版p.367


 カバーイラストを見て「インチキ日本を舞台にした巨大ロボット戦闘アクション小説」を期待して読むと、肩すかしを食らうでしょう。どちらかと言えば、グロテスクな悪夢的ディストピアを舞台に展開するバディもの、という側面が強い作品です。

 物語の中心となるのは、検閲局に勤めるベン(紅巧)と特高課員である昭子。二人はある捜査のために手を組みます。しかし、かたくなな態度を崩さない昭子と、マイペースなベンとでは、どうにも相性が悪くて。


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「ねえ、こうしようよ。お昼休みは仕事を忘れる」
「なぜだ」
「しばしの休息はだれだって必要さ」
「皇国の敵は休まない。われわれにも休息はない」
(中略)
「僕が非協力的だったらきみは撃つだろう」
「国賊であればすべて撃つ」
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新書版p.78、97


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「陛下を裏切るくらいなら潔く死ぬ」
「きみが死んでも皇国の利益にはならないよ」
「貴様は生きていてすら皇国の利益にならん」
「僕は皇国一の忠士だ」
(中略)
 昭子は憤慨した。
「貴様は上司から厄介者とみなされているんだぞ。仕事に無頓着だと。同僚からも多くの指摘が寄せられている。仕事が遅い、欠勤が多い、勤務態度が不適切」
「職業倫理に欠けることは否定しないよ。遊ぶほうが好きだということも」
「無能力は極刑に値する罪だ」
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新書版p.144、145


 読んでいて声が聞こえてくる、声優の見当さえつく、ような感じです。

 まあバディものなので、何者かに命を狙われたり、当局から反逆の疑いをかけられて追われるはめになったりするうちに、次第に互いの力量を認めあってゆく二人。

 そしてUSJが持つ非人道的でおぞましい側面を目の当たりにして、それまで狂信的愛国者として振る舞っていた昭子の言動も少しずつ変化してゆきます。


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「なぜそんなことをするんだ」
「世の中の厄介事はすべて退屈が原因なんだよ」
「根絶すべき皇国の敵は多いな。あたしは退屈など理解できん」
「だれもが強い大義を持って生きているわけじゃないんだよ」
「落胆しないのか?」
「僕が?」
「貴様たち軍人はサンディエゴで多くの血を流したのに、生き残った者たちがつくった世界はこれだぞ」
「そんなふうに考えたことはなかったな」
「USJをもっといい国にしなくてはならん」
 皮肉かと思ってベンは曖昧に笑ったが、昭子の表情は真剣だった。
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新書版p.240、


 しかし、特高、反乱組織、ヤクザ、もう誰も彼もが敵に回って、二人はさんざん酷い目に合うはめになります。ばんばん拷問されるし。全体的に猟奇的悪夢感が強く、残虐で非道な場面も多いので、苦手な方は注意した方がよいかも知れません。

 「メカ」と呼ばれる巨大ロボット兵器が登場しますが、活躍するシーンは少なめ。ただ、「ナチスのバイオメカ戦車との肉弾戦」とか、「皇国軍のエースパイロット率いる八機の精鋭メカ部隊に包囲され、たった一機で大立ち回り」とか、燃えるシチュエーションを狙ってくるのが憎いところ。


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「どないしてほしい、おっさん?」久地樂は口のなかをいっぱいにしたまま訊いた。
「第十五というと、たしか小笠原知事の直属大隊だね」ベンは言った。
「伊東の名は聞いたことがある。最強の一人といわれる女性メカパイロットだ」昭子が言った。
「その看板に偽りがないか、もうすぐわかるで」久地樂は言った。
「どんな選択肢がある?」ベンは久地樂に訊いた。
「戦うか、逃げるか。まあ実質、選択肢はないな。逃げようてしてもやられる」
「しかしメカ八機を相手にはできないだろう」
「ベルト締めとき」
――――
新書版p.307


 戦前戦中の暗い世相、そこに混入されたトンデモニッポンやアニメニッポン、いやますディストピア感。ディックの『高い城の男』とはかなり雰囲気が違う、というかまったく別の作品という印象なので、“原典”を未読の方が読んでも大丈夫です。



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