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『伊藤典夫翻訳SF傑作選 ボロゴーヴはミムジイ』(ヘンリー・カットナー、フリッツ・ライバー、フレデリック・ポール、他、伊藤典夫:翻訳) [読書(SF)]

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 本書は、そうした若き日の伊藤さんが〈S-Fマガジン〉のために選りすぐって訳した傑作中短篇から、時間・次元テーマを中心に精選したアンソロジーで、伊藤さんの輝かしき功績を顕彰する「伊藤典夫翻訳SF傑作選」の一巻として構想された。また、お気付きの方もいるだろうが、伊藤さん自身が厳選した『冷たい方程式』の続巻の性格も合わせ持つ。
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文庫版p.420


 親の理解をこえた存在へと成長してゆく子供たち、同じ一日を永遠に繰り返す街、世界全体の時間逆行、場所によって時間の流れが極端に異なる世界、露出度の高い美女vs緑色の巨大アメーバなど、40年代から60年代にかけて書かれ伊藤典夫さんが翻訳したSF短篇傑作選。文庫版(早川書房)出版は2016年11月、Kindle版配信は2017年3月です。


[収録作品]

『ボロゴーヴはミムジイ』(ルイス・パジェット)
『子どもの部屋』(レイモンド・F.ジョーンズ)
『虚影の街』(フレデリック・ポール)
『ハッピー・エンド』(ヘンリー・カットナー)
『若くならない男(フリッツ・ライバー)』
『旅人の憩い』(デイヴィッド・I.マッスン)
『思考の谺』(ジョン・ブラナー)


『ボロゴーヴはミムジイ』(ルイス・パジェット)
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 人間本位の見かたをすれば、パラダインのまちがいは、そのおもちゃを即座に捨ててしまわなかったことにあった。彼はその意味に気づかず、気づいたときには、状況はかなりのところまで進んでいた。
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文庫版p.30

 未来人がタイムマシンの実験でうっかり過去に送った知育玩具。それを拾った幼い兄妹は、遊んでいるうちに親の理解をこえた高次元認識力を持つ超人へと成長してゆく……。

 「子供が“大人には見えない友だち”に感化され、人間には入れない異世界へと連れ去られてしまう」というホラー作品によくあるプロットのSF版ですが、最後の最後にタイトルの意味が判明するあたりの仕掛けに感心させられます。著者はヘンリー・カットナーの別名義。


『子どもの部屋』(レイモンド・F.ジョーンズ)
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「これを、おまえはどう考える? 本筋のほかに象徴的な物語のあるのがわかるか?」
「うん。ぼくらが、普通の人とは違うといってるんだよ。この先を読めば、ほかの仲間がいるところへ行く方法がわかるんだ。そうじゃなかったら、読めないはずなんだ。パパが読めるとわかったときは嬉しかったよ。同じ仲間なんだもの」
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文庫版p.86

 たわいない子供向きの本に隠された情報に気づいた父親。特定の能力を持つ者だけが読み取れるその隠れメッセージによって、幼い息子は「仲間たち」からの連絡を受けとっていたのだ。やがて彼らから「人類の存亡をかけた戦いのために息子の力が必要」と告げられるのだが……。

 友だち少ないSF少年にとって「自分は選ばれた能力者で、いつか仲間に出会って大きな使命に目覚め、このつまらない世界から抜け出して活躍することになるんだ」というのは共通信念。それを親の視点から描いた作品で、『幼年期の終わり』(アーサー・C・クラーク)を連想させるところがあります。


『虚影の街』(フレデリック・ポール)
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「だろうとも。そして目を覚ましたときには、朝だった。きみは、おもしろいものを見せてやろうといいだした。そして、ぼくといっしょに外へ出ると、新聞を買ったんだ。日付は、六月十五日となっていた」
「六月十五日? だが、それは今日じゃないか! その、つまり――」
「そうだよ。いつも、今日なんだ!」
 呑みこむには時間がかかった。
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文庫版p.170

 たまたま地下室で眠り込んでしまい、翌朝目覚めた語り手は、今日も昨日と同じ日であることに気づく。この街の住人は、毎晩寝ている間に記憶を消去され、同じ六月十五日を毎日毎日くり返しているらしい。だが、誰が、何の目的で、こんな大掛かりな陰謀を進めているのか。

 いわゆる時間ループものですが、物理的な現象ではなく、人為的な記憶リセットによる社会的ループを扱っています。真相が分かったと思って油断していると、最後の最後にとんでもない設定が明かされ、堂々たる馬鹿SFであることが判明するという……。


『ハッピー・エンド』(ヘンリー・カットナー)
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 おれがほしいのは、と彼は思った。健康と名声と富だ。それが手にはいったら身を固め、気苦労も心配も忘れて、一生を幸福に暮らすんだ。ハッピー・エンドさ。
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文庫版p.222

 未来からやってきたロボット(猫型ではありません)から渡された「解決ボタン」。それは、何かトラブルに巻き込まれたときに押すと、未来人の心を読み取って解決策を知ることが出来るという便利なひみつ道具。しかしそのために、未来から送り込まれてきた刺客アンドロイドに追いかけ回されることに。

 冒頭に「語り手は大金を手に入れて一生を幸福に暮らしました」というハッピー・エンドを明示してしまうという大胆な構成。それじゃあサスペンスが台無しだろう、と思いつつ最後まで読んで、この仕掛けによって思考誘導されていたことに気づくという、読者をひっかける手口が冴えた作品。またもやヘンリー・カットナー。


『若くならない男(フリッツ・ライバー)』
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 わたしたちの人生はすべて忘却と収束から成っている。子どもが母親に吸いこまれるように、偉大な思想も天才の心にのみこまれてゆく。はじめ、それはいたるところにある。空気のようにわたしたちを包んでいる。つぎに、それは狭まりはじめる。知る人の数が減る。やがて、ひとりの大人物が現われ、それを自分の中にとりこみ、秘密にしてしまう。あとには、なにか価値あるものが失われたという、いらだたしい確信が残るだけ。
(中略)
 わたしたちのすることも、みなこれと同じだ。住まいは新しくなり、わたしたちはそれを解体し、材料を石切り場や鉱山に、森や畑にこっそりしまいこむ。衣服は新しくなり、わたしたちはそれを脱ぎ捨てる。わたしたち自身も若くなり、忘れ、盲いた目で母をさがし求める。
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文庫版p.244

 時間は巻き戻り、歴史は反転し、文明は次々と消えてゆく。人々は、墓から掘り起こされることで生まれ、どんどん若くなり、やがて赤ん坊に戻って母親に吸収されて一生を終える。だが、語り手だけは例外。若くならないまま、何千年も生き続け、文明の痕跡が消えてゆく歴史を目撃し続けるのだった。

 時間反転ものの嚆矢とされる短篇だそうで、ストレートな表現が素朴な感動を呼びます。個人的に、『旅人の憩い』(デイヴィッド・I・マッスン)の次に気に入った作品。


『旅人の憩い』(デイヴィッド・I・マッスン)
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〈敵〉を見たものはいない。〈戦争〉が、いつ、どのように始まったか知るものもない。情報や通信は、意味をなさないほど困難なのだ。〈境界〉附近とそのかなたで、〈時間〉がどうなっているのか、だれひとり知るものはない。
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文庫版p.280

 〈境界〉に近づくほど時間集束が激しくなり、離れれば時間の流れがゆるやかになる世界。〈境界〉をはさんで激しい戦争が続いており、銃後の土地で数十年も生活している間に、前線ではわずか数分しか時間が経過しないのだ。敵の総攻撃が迫るなか、突如退役させられた語り手は、時間傾斜を下って麓の町で民間人として暮らすことになったが……。

 「場所によって時間が流れる速度が極端に異なる世界」というSFアイデアを軸に、前線と銃後の意識乖離を重ねた作品。文章そのものの密度や緊迫感に差をつけることで時間集束の効果を表現してのけるなど非常にスタイリッシュ。ラストの風刺にも強烈なものがあり、本書収録作品中で個人的に最もお気に入り。


『思考の谺』(ジョン・ブラナー)
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 ほかに雑誌が一冊、首をかしげながら、彼女はそれをとりあげ、眉根を寄せてそのけばけばしい表紙を見つめた。SF雑誌だ。だから、目をさましたとき、不死鳥反応のことを思いだしたのだ――その現象の解説がなかにのっている。
 いったい、どうしてこんなものに金をつかったのだろう? 二シリングもの大金を!
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文庫版p.292

 スラム街の安アパートで記憶の混乱に苦しむ女。なぜか自分のものではないはずの記憶がフラッシュバックしてくるのだ。しかもその記憶は、どう考えても地球ではない惑星で人間ではない生物が体験したものとしか考えられない。なぜそんな記憶が自分の中にあるのか。理由が分からないまま、彼女は謎の追手から逃げることになるが……。

 露出度が高い美女と緑色の巨大アメーバが出てくる古めかしいパルプSFプロット、その伝統に忠実な中篇。パロディ? 風刺? いや本気です。



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