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『ブラッグ 無差別殺人株式会社』(両角長彦) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]


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「殺し請け負いの会社──もっとも表向きは、人材派遣会社の看板をかかげていますがね」
「まあ、殺しのための人材派遣と考えれば、不当表示にはならないかと思いますが」須藤が笑いながら言いそえた。(中略)
「人にはいろいろな素質がある。計算の素質、音楽の素質、料理の素質。
 われわれの場合は、命令によって人を殺せる素質です。そういう素質を持った者が、うちの会社には集まっているんです」
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Kindle版No.914、943


 何の理由もない無差別殺人から、依頼により実行される暗殺まで、殺しの総合請け負い会社「ブラッグ」。社員はみんな殺し屋。今日も誰かが社員に殺され、殺した社員も別の社員に粛清される。究極のブラック企業をえがくミステリ連作短篇集。文庫版(実業之日本社)出版は2014年4月、Kindle版配信は2014年8月です。


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「殺し屋の会社だなんて。そんな会社があってたまるか」
「あら、どうしてですか?」友子は首をかしげた。
「いろいろな会社があるじゃないですか。人を助ける会社、人をだます会社、人を売り買いする会社。殺し屋の会社があったってふしぎはありません」
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Kindle版No.1220


 星新一さんのショートショートに「社員全員が泥棒」という盗賊会社の話がありましたが、こちらはさらにエスカレートした「社員全員が殺し屋」という殺人会社が登場します。これが本当のブラック企業、というたちの悪い冗談みたいな設定ですが、それを大真面目に書いてしまう。殺し屋ですのよ。

 これまでも「超常現象に見せかけた事件だけを担当する専門捜査官」とか「一度に何十人もの探偵を投入して無理やり物量で解決する探偵社」とか、荒唐無稽なのにどこか変なリアリティの境界をついてくるような設定で一部読者を喜ばせてきた手際は健在です。

 どの話も読者の予想を裏切る展開が待っているミステリ作品なのですが、何しろ人が(しばしば無意味に)殺されるわけで、倫理も正義もへったくれもなく、かといってピカレスクロマン的な爽快感があるわけでもないし、後味が悪いこと悪いこと。殺し屋たちの活躍を描く悪漢小説だと思って読んではいけません。


[収録作品]

『kill 1 三人とも』
  ショートショート『二種類』
『kill 2 惨劇のあとで』
  ショートショート『一億円捨てる』
『kill 3 しゃべるのやめたらしぬ』
  ショートショート『丑の刻サービス』
『kill 4 違う違う』
  ショートショート『わかっていない標的』
『kill 5 入社試験』
  ショートショート『わかっている標的』
『kill 6 夜の散歩』
  ショートショート『ラッキーアイテム』
『kill 7 反社長派全員処刑』
  ショートショート『轢断』
『kill 8 虐殺慰安旅行』


『kill 1 三人とも』
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「順序が逆だ。殺人犯だから逮捕されたんじゃなく、逮捕されたことで殺人犯になってしまったんだ」
「馬鹿な。そんなことってあるか」
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Kindle版No.309

 資産家が誘拐された。容疑者は三人。誰もが動機を持ち、そして何かを隠している。誰が真犯人なのかを確かめるために、警察はある人物の助言に従って簡単なテストを試みるが……。ごく定型的なミステリだと思って読んでいると、いきなり背後に回り込まれて刺される導入作品。


『kill 2 惨劇のあとで』
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「命令ですからね。上から言われれば、多少気のすすまないことでもやらざるをえない。誰だってそうなんじゃないですか?」
「でも──いくら何でも!」
「そう、いくら何でも、たったそれだけの理由で大虐殺をひきおこすなどとは、誰も思わない。だからやるんです。つまりそれが会社の、なんと言いますか、理念みたいなもので──」
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Kindle版No.595

 ライフル乱射による大量殺人が発生。たまたま現場に居合わせた女性は命からがら逃げ出して助かったが……。会社の業務として事務的に無差別大量殺人をやるという常軌を逸した犯人との対決の行方は。


『kill 3 しゃべるのやめたらしぬ』
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「しゃべるのをやめたら死ぬ?」
「おばあちゃんにとって、しゃべるのは息をすることと同じなんです。しゃべり続けている自分だけが生きている人間で、黙っているまわりの人たちは死んだ人間なんです」
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Kindle版No.744

 轢き逃げ事件のただ一人の目撃者である老婆は、一見無意味な言葉を絶え間なくしゃべり続けるという症状を患っており、警察も証言がとれず苦慮していた。だが、それこそが真犯人が彼女を見逃している理由でもあったのだ……。口封じのために命を狙ってくる犯人との攻防戦。最後に殺されるのは誰か。


『kill 4 違う違う』
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「どうも、さっきから話に食い違いがあるようですな」主任は首をかしげた。
「生徒さんの身が心配じゃないんですか」
「もちろん心配です。ただ同時に、犯人の身も心配なのです」
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Kindle版No.1106

 銃を持った男が女子生徒を人質に学校内に立てこもる。人質の身を案ずる警察。だが学校側が案じているのは、むしろ犯人の命だった……。ついに「ブラッグ」という会社名が明らかに。これまで事件の背後に見え隠れしていた会社がメインの舞台となってゆく後半に向けて、シリーズの転換点となる一篇。


『kill 5 入社試験』
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 この世界のどこにも自分の居場所などないと思っていたのに、ちゃんと用意されていたのだ。生きていればよいことがあるというのは本当だと春一は思った。ブラッグ社という救い主がいたのだ。春一は興奮してきた。早く入社して社長に会いたい。そのためには試験に合格しなければ。対立候補を蹴落として──春一は不意に立ち止まった。
 対立候補。ライバル。いったいどんな内容の試験なのか。
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Kindle版No.1426

 人を殺し放題で給料まで貰えるなんて、まるで俺のためにある会社だ。何としてもライバルを蹴落として(というか抹殺して)入社したい。ブラッグへの就職を希望する若者は入社試験の予行演習として残虐なホームレス狩りを繰り返すが……。ブラック企業に憧れる就活生が意識高いところを見せるために行う暴力犯罪という、ねじれきったブラックユーモア作品。


『kill 6 夜の散歩』
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“おかしなものです。同じ会社の二人が、一人の標的をめぐって、殺すか守るかの争いをしているなんて”
 彼女は急に恐怖を感じた。浅野の言うことは一から十まで荒唐無稽だが、どこか妙なリアリティがある。それが鋭い針のように、彼女の心臓を突き刺してきたのだ。
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Kindle版No.1804

 見知らぬ男に「あなたは狙撃手に狙われている。私のいうとおりに行動しないと死ぬ」と携帯電話で告げられた女。背後にあるのはブラッグの内紛。社長派と反社長派の対立がエスカレートして、ついに「何の理由もなくランダムに選ばれたターゲットを殺す」vs「それを阻止する」という派閥抗争に巻き込まれたのだ。えらい迷惑。とはいえ彼女の命をコマにしたプロの殺し屋同士のガチバトルは勝手に進んでゆくのだった。


『kill 7 反社長派全員処刑』
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 理想に燃える者たちが新天地を作る。いいことだ。しかしこのブラッグ社にしても、最初はそういう理想のために作られたのではなかったか。殺人衝動をおさえられない、この世では受け入れられない者たちの居場所を作るという大目的のために。
 それがいつしか腐敗し、社内は派閥争いと粛清に明け暮れるだけの、日本中どこででも見られる、ありふれた不毛な場になりさがってしまった。
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Kindle版No.2047

 どんどんエスカレートするブラッグ社内の派閥抗争。何しろ社員全員が殺しのエキスパートなので、ばんばん人死に。ついに社長ご決断、反社長派は皆殺しにしましょう。いやー、すべての社長の夢ですな。


『kill 8 虐殺慰安旅行』
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かすかに聞こえてくるのは──何十人もの悲鳴と絶叫、そして断末魔だった。ホテルに宿泊している百人のブラッグ社社員たちが、廊下や各部屋で殺し合っているのだ。
 正確には殺し合いではなく、一方的な虐殺だ。社長派の五十人が、かつての反社長派を殺して回っている。
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Kindle版No.2308

 ついに決行される殲滅作戦。阿鼻叫喚の慰安旅行。困ったのはブラッグに潜入している公安の覆面捜査官、どうすりゃいいの。そして大虐殺が終わったとき、ブラッグの秘密がついに明かされるのだった……。



タグ:両角長彦
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