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『死の鳥』(ハーラン・エリスン、伊藤典夫 :翻訳) [読書(SF)]


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作品に対する高い評価ばかりか、アメリカSF界最高のカリスマにしてトリックスター(ハーレクィン?)、ときにトラブルメイカーとして“喧嘩屋エリスン”とあだ名されもし、その言動だけでなく、ファッションからパフォーマンスにいたるまで、数々の逸話に彩られたレジェンド的存在。
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文庫版p.397


 世界の中心で愛を叫んだ除け者、悔い改めぬハーレクィン、米国SF界の生ける伝説。ハーラン・エリスンが60年代に書いた作品を中心に、日本オリジナルで編集された短篇傑作集。文庫版(早川書房)出版は2016年8月、Kindle版配信は2016年8月です。


[収録作品]

『悔い改めよ、ハーレクィン!」とチクタクマンはいった』
『竜討つものにまぼろしを』
『おれには口がない、それでもおれは叫ぶ』
『プリティ・マギー・マネーアイズ』
『世界の縁にたつ都市をさまよう者』
『死の鳥』
『鞭打たれた犬たちのうめき』
『ランゲルハンス島沖を漂流中』
『ジェフティは五つ』
『ソフト・モンキー』


『悔い改めよ、ハーレクィン!」とチクタクマンはいった』
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 まず、この調子。この調子。この調子。この調子、調子、調子、調子、調子、チック、タック、チック、タック、チック、タック、そしていつのまにか時はわれわれに奉仕することをやめ、われわれが時に奉仕するようになる。予定表の奴隷、太陽の運行の崇拝者となる、厳しく規制された生活に縛りつけられることになる、もし予定表を守らなければ組織は崩壊してしまうからだ。
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文庫版p.19

 時間厳守が道徳となり、遅刻が重罪となった世界。定時運行を司る最高権力者チクタクマンに対して、敢然と反旗を翻すヴィランがいた。その名はハーレクィン。様々ないたずらにより混乱を巻き起こし、多くの人々を遅刻させる、恐るべき社会の敵。チクタクマンは何としてでもハーレクィンを引っ捕らえろと命令するが……。アメコミ風ディストピアを舞台にした風刺作品。


『竜討つものにまぼろしを』
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「これから先、海峡を切り抜け、浅瀬をわたり、島を見つけ、霧の魔物を倒して女を救い、彼女の愛を射止める。そのときこそゲームはあんたのものになる」
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文庫版p.40

 気がついたら海賊船に乗っていた男。これからの予定は、嵐を切り抜けモンスターを倒し美女をものにしてドラゴンを殺すこと。だが、いくら英雄になったからといって、人間的に成長したというわけじゃない。

 事故で死んだら異世界転生、美女でチートで俺TUEEEE、という話はすでに半世紀前以上も前にハーラン・エリスンによって書かれていたという事実はもっと広く知られてしかるべきだと思う。


『おれには口がない、それでもおれは叫ぶ』
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 やつは決しておれたちを解放しないだろう。おれたちはやつの腹のなかに幽閉された奴隷なのだ。その永遠の寿命のあいだ、やつの玩具はおれたちだけなのだ。その永遠の時間、やつといっしょにすごすのだ。洞窟を埋めつくす巨体といっしょに。魂のない、思考だけの存在と化したやつといっしょに。やつこそ大地であり、おれたちは大地の子供だった。
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文庫版p.77

 巨大コンピュータの内部に幽閉された人類最後の生き残りたち。死ぬことが出来ないコンピュータは、自分を創り出した人類に対する激しい憎悪に駆られ、手中の人間たちにひたすら責め苦を与え続ける、永遠に、永遠に……。怒りと憎悪に満ちた地獄を描いた作品。


『プリティ・マギー・マネーアイズ』
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スロットマシンをにらんだまま長い時間が過ぎ、彼の疲れた茶色の目はジャックポット・バーの青い目に釘付けにされたかに見えた。だがコストナーは知っていた。自分以外の人間にはその青い目は見えず、自分以外にはその声は聞こえず、自分以外にはマギーのことを知っている者はいないのだ。
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文庫版p.114

 カジノのスロットマシンで大当たりを出した男。ジャックポット、彼にしか見えない青い目。それは、かつてそこで死んだ美女の目。小銭と引替にスロットマシンに魂を幽閉されてしまった美しきマギーの目だった。一台のスロットマシンを通して、人生どん詰まりになった男と女のやるせない出会いと裏切りをスタイリッシュに描いた作品。


『世界の縁にたつ都市をさまよう者』
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最新建築のなかでも最先端をゆく、完全な人びとのための完全すぎる住居。ユートピアをめざすあらゆる社会学的構想の最終結論。居住空間。かつてはそう呼ばれ、そのため人びとは住むことを運命づけられた。品位と清潔が図表化された、そのエレホンに。
 夜はない。
 影がおちることもない。
 そこに……影。アルミの清潔さのなかを行くひとつのしみ。ぼろ布とこびりついた土くれの動き。遠いむかしの墓地からよみがえった人影。
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文庫版p.133

 未来の完全都市に復活した切り裂きジャック。安全で清潔で完璧なその都市の住民を、次々と切り裂いては遺体を蹂躙してゆく。彼の狂気は、都市として具現化した永遠の退廃に打ち倒つことが出来るだろうか……。(今読むと)レトロフィーチャーな都市を舞台としたスラッシャー映画風の作品。


『死の鳥』
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 狂える者は到来し、干渉を始めた。ダイラは人びとに知恵を授け、時は過ぎていった。彼の名はダイラから〈蛇〉に変わり、新しい名は嫌悪された。だが〈とぐろの聖〉の判断に誤りがなかったことを、ダイラは知っていた。ダイラは人びとの中からひとりを選んだ。うちに火花を秘めた男を。
 このすべては記録としてどこかに残されている。これは歴史である。
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文庫版p.187

 一人の男が25万年の眠りから目覚めたとき、すでに人類は滅び、地球は終焉をむかえようとしていた。彼を導く〈蛇〉が、その運命を見届ける。男は神と対決することになるのだ……。こりに凝った華麗な文章と構成を駆使して聖書の創世記を引っくり返す神話的物語。


『鞭打たれた犬たちのうめき』
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 神だ! 新しい神、子供の貪欲さとまなざしを持つ太古の神がふたたび降臨したのだ、霧と市街と暴力の神、狂った流血の神が。崇拝者を欲し、生贄としての死か、さもなくば選ばれた他の生贄の死に立ちあう永遠の証人としての生か、その二者択一をせまる神。この時代にふさわしい神、都会とそこに生きる人びとの神。
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文庫版p.260

 多くの人びとが見守るなかで起きた凄惨な殺人事件。その現場を目撃した女は、次の生贄として目をつけられた。都会に充満する憎悪と暴力衝動が生みだした新たな神への……。他者への憎悪と流血への渇望を抱えた都会人のストレスを、暗い迫力に満ちた文章でたたきつけるように描くフィルム・ノワール調の作品。


『ランゲルハンス島沖を漂流中』
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「ヴィクトル、聞け。マーサ・ネルスンは中にいる。一生を無意味に消費して。ナジャはここにいる。なぜとか、どんなふうにとか、なんのせいでそうなったのか、そんなことは知らん……だが……無意味に消費された人生がある。
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文庫版p.326

 自らの死を願う不老不死の狼男。彼は奪われた自分の魂を見つけて人生に終止符を打つべく、魂のありかを探す。それは意外にも膵臓の内部、ランゲルハンス島に隠されていた。偉大なるフランケンシュタイン博士の科学力によって身体を細胞レベルまで縮小し、血流に乗ってランゲルハンス島に上陸した彼は、ついに魂を掘り出すことに成功。だがその過程で、社会の不寛容さと無関心ゆえに人生を無意味に消費された人びとのことを知った彼は、ひとつの決断を下す……。

 完全な馬鹿SFとして展開してきて、いつの間にか、社会によって見捨てられた弱者への共感と怒りと悲しみというエリスンのテーマに到達して泣かせるトリッキーな作品。


『ジェフティは五つ』
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ジェフティが聞くラジオ番組は、常識的には、アインシュタインが想定した時空世界のありかたからいえば、存在しえない場所から送られているのだ。だが彼が受けとるものは、それだけではない。ジェフティが持っているラジオ番組の賞品は、現在だれも作っていないものなのだ。彼の読むコミック・ブックは、三十年前に廃刊になったもの。彼の見る映画は、死んで二十年にもなる俳優たちが演じているもの。ジェフティは、世界がその進歩の過程で失った、過去の無限の快楽と歓喜をうけとる端末器なのだ。
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文庫版p.355

 5歳のジェフティ。同い年の友達が大人になったときも、相変わらず5歳のままのジェフティ。彼が聞いているラジオ番組も、映画も、音楽も、コミックも、すべて何十年も前に終了したシリーズの「新作」なのだ。5歳のときに熱中していた色々なものが今でも続いていたらどんなにいいだろうという願望を、ノスタルジーをこめて描くブラッドベリ風の作品。


『ソフト・モンキー』
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彼女はアランを抱いてすわり、優しくゆすりながら、アランが気持ちよく眠れるように、寒い思いをしないようにと気を配っていた。人的資源局から、市当局から、人びとが追いたてに来たときも、彼女は赤んぼうを抱いたままでいた。役人たちが、身じろぎもしない青ざめた赤んぼう取りあげたとき、アニーは通りへ逃げだした。彼女は逃げた。逃げるすべは知っている。逃げつづけることさえできれば、二人はしあわせに暮らせるのだ。だが厄介ごとは背後からせまっていた。
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文庫版p.392

 失った赤ん坊の代わりに汚れきったぬいぐるみを必死に抱き続けるホームレスの女。たまたま犯罪組織による暗殺現場を目撃してしまい、命を狙われるはめになった彼女は、殺し屋たちに闘いを挑む。酷薄な社会からすべてを奪われ、たった一つ残された大切な赤ん坊を守るために。社会的弱者への無関心や冷淡さに対する怒りと悲しみが炸裂するエリスンらしい傑作。



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