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『読書で離婚を考えた。』(円城塔、田辺青蛙) [読書(随筆)]

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妹から、お義兄ちゃんとお姉ちゃんって、電波女とクズ男みたいな関係だよねと言われました。
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単行本p.130


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 先日お会いした某SF作家さんからハラハラしながら連載を見守っています。夫婦仲は大丈夫なんですか? という質問を受けました。大丈夫ですよね? 違いますか? 違うんですか? どうなんですか? 山は死にますか? 海はどうですか?
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単行本p.102


 円城塔と田辺青蛙の作家夫婦。読書傾向がまったく異なる二人は、夫婦間の相互理解を促進するために、交互に一冊ずつ課題図書を指定しては感想文を書きあうというリレーエッセイ企画に取り組む。ところが連載が進むにつれて険悪になってゆく夫婦仲。イヤミと苦言の応酬のはてに待ち受けているものは……。プロの作家によるブックガイドであると同時に実録夫婦喧嘩という奇妙な一冊。単行本(幻冬舎)出版は2017年6月、Kindle版配信は2017年6月です。


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 本棚を見るとお互いの人柄が分かるなんて話がありますが、うちは壁の前に本棚がバーンとあって、右と左の半分半分で分けているんですよ。私の方は妖怪とか呪いの本だとか、怪談やルポルタージュ作品、実際の事件を基にして書かれた『黒い報告書』のようなフィクション小説や幻想怪奇作品が多くて、夫の方はPC関連の専門書や物理、数学の本、料理や手芸本、漢文や歴史書に洋書と、なんか見ると胃の辺りがシクシクと痛くなってくるようなもんばっかり並んでいるわけですよ。
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単行本p.14


 作家同士で結婚した二人が、相互理解を促進するために、交替で課題図書を指定しては感想文を書く、というリレーエッセイ企画を始めます。著者たちはお互いことがよく分かり夫婦円満、読者はプロの作家によるブックガイドとして重宝する、そんな素晴らしい本が出来上がる予定だったのですが……。


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 夫は何故、不器用な人生に馴染めない男が主人公の作品ばかりを選ぶのだろう。
 これを私に読ませることによって、何か気が付いて欲しいことがあるのだろうか?
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単行本p.44


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妻がどうして、「相互理解」のために「動物に襲われる」話を勧めてくるのか今のところ謎です。
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単行本p.52


 互いに「なぜこんな本を勧めるのか?」という相手の意図が理解できず、疑心暗鬼にかられてゆくことに。まあ、この辺までは「夫婦仲が微妙にこじれる、という演出で読者を面白がらせよう」というサービス精神とも思えるのですが、次第に……。


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 ただ、僕の中でこの連載が、「続けるごとにどんどん夫婦仲が悪くなっていく連載」と位置づけられつつあることは確かです。僕の分のエッセイが掲載された日は、明らかに妻の機嫌が悪い。
「読んだよ」と一文だけメッセージがきて、そのあと沈黙が続くとかですね。
 どうせ自分は○○だから……と言いはじめるとかですね。
 あんなことを書かれると、誰々から何かを言われるから困る、とかですね。
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単行本p.96


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自分は夫のことをどれだけ知っているのか自信がなくなってきました。
 そういう関係だと思っていたのは、こちらだけですか?
(中略)
 この連載で夫婦仲が悪くなっていたことにも気が付いてませんでしたよ。
 時々夫は黙って機嫌が悪くなっていることがあるんですが、それもきっと原因があるんですよね?
 もう、なるべく早いうちに謝っておくことにします。「ごめんなさい」。
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単行本p.103


 うわあ、これはヤバい。

 連載いったん中断して夫婦で話し合った方が……、などと読者がハラハラしているうちに、とうとう読書感想文のなかに相手に対するイヤミが混じるようになってゆきます。


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 この連載をはじめてだんだんわかってきたのですが、どうも妻には、強固な自己像があるようです。
 どうもその人は、「おしゃれでかわいい、気のつく奥さん」というような姿をしているらしい。
 だから僕が、妻は脱いだ服をそのへんに置いておく、というようなことを書くと、ちょっと機嫌が悪くなったりします。「もう、みんなにだらしない奥さんだって勘違いされたらどうするの! ぷんぷん」みたいな生き物です。
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単行本p.63


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 僕から眺めている妻は、日頃からつかなくてもいいようなちっちゃな嘘をこまめに振りまいては片っ端から忘れていく生き物で、設定に一貫性がありません。勢い重視。締め切りに追われる週刊連載を見ているような感動があります。その場だけの辻褄が回転していることもあります。
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単行本p.257


 それに対して妻はこんなことを書いてきます。


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夢の中でPCを立ち上げここの連載のサイトを更新すると『離婚届けの書き方』という本が夫からの課題図書として掲載されており、本文には一言「察して」……と書かれているだけでした。(中略)正夢にならないといいですね!
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単行本p.200


 これはけっこう深刻なメッセージだと思うのですが、何と夫は、夢の件を完全にスルーして、文中に書かれていた「3メートルの宇宙人のオブジェを部屋に置いている」という部分に、こんな風にかみつくのです。


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3メートルの「宇宙人のオブジェ」ではない。「3メートルの宇宙人」のオブジェ。
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単行本p.201


 いかんなー。典型的なこじれパターンだなー。

 「二人が付き合って初めてデートしたとき」といった話題で何とか修復を試みるも、行き違いが発覚してさらにこじれてゆく夫婦仲……。


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夫の認識ではこの時はまだ私とは付き合っていないつもりだったらしい
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単行本p.253


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今更ですが、妻がこの連載のコンセプトを理解しているのか、たまにわからなくなりますね。
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単行本p.269


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相互理解を目的としているのではなく、自分がレビューを書きやすい本を選んでいるのではないかと疑っています。
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単行本p.234


 こ、これはアカン。非難の応酬はじまった。もうブックレビューどころじゃないのでは。

 最終回となった課題図書。夫が『ソラリス』(スタニスワフ・レム)を指定すると、妻は『バトル・ロワイアル』(高見広春)で返すという、最後まで続く何かの応酬。

 というとまるで最初から最後まで殺伐とした諍いが続くような印象になりますが、もちろんそんなことはなく、微笑ましい話題も数多く含まれています。例えば、理系マンガの傑作『決してマネしないでください。』(蛇蔵)の連載最終回の読者アンケートはがきに円城塔が熱烈推薦文を書いてきて、それが単行本の帯に掲載された、という有名なエピソードの背後で誰が暗躍していたのか、とか。


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 数ヶ月前の話なんですが、『決してマネしないでください。』という「モーニング」で連載していた漫画をこっそり仕込んでおいたら見事嵌ってくれました。いやあ嬉しいですね。
 もう気分は若紫を仕込む光源氏ですよ。
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単行本p.209


 というわけで、夫婦仲こじれ具合があまりにリアルで、そこばかり気になって、紹介されている本のことが頭に入ってこないという不思議なブックガイド。それぞれの愛読者はハラハラしながら見守るとよいと思います。



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