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『胡瓜草』(花山多佳子) [読書(小説・詩)]

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「軽井沢に跳梁跋扈する悪質な猿の特定が急がれます」とぞ
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初めて見たアメリカン・チェリーの色のごと
思ひ出してゐる鳥山明を
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抱かれて少しもうれしくないウサギ抱かれてまなこ迫り出してくる
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メンドクセエのレンゾクセイと唄ひつつまたも息子は着替へしてゐる
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やうやくに起きし娘と諍へば戻りゆくなり昼の臥床へ
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 家族や動物や生活の細部を、ユーモアをこめて活写する歌集。単行本(砂子屋書房)出版は2011年4月です。

 日々の生活のなかで、ふと気になったことを書き留めたような作品が印象に残ります。それも、辛辣なユーモアというか、ツッコミが素晴らしい。


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姿煮と表示され居るゐる真空パックの小さな魚
これは姿か
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「軽井沢に跳梁跋扈する悪質な猿の特定が急がれます」とぞ
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高熱にとつぜん襲ひかかられて「これから心入れ替へるよ」と言ふ
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眉間に蜂迫りきて背ける目は見たり「蜂に注意」といふ看板を
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孤高の人を容れざる世なればすべからく孤低の人の増えゆくばかり
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 特にツッコミがなくても、淡々とした描写のなかに巧みにユーモアが織り込まれていたり。


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ケータイをひらけば数字またたきてけふがきのふになつてしまへり
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サイレント・モードで呻きケータイが机の端よりころげ落ちたり
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初めて見たアメリカン・チェリーの色のごと
思ひ出してゐる鳥山明を
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上滑りする感じが嫌 フライパンに半透明のたまごの白身
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 動物を詠んだ作品からは観察眼の鋭さが感じ取れます。


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植立てのパンジーを抜く楽しみを鴉はいかに鴉に伝ふ
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いつせいに鳴くことあらばおそろしき上野公園に群がれる鳩
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はじめから思ひ出のやうに鳴いてゐるこの年の蝉 梅雨長かりき
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抱かれて少しもうれしくないウサギ抱かれてまなこ迫り出してくる
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一丁前にのけぞつてゐる小さきものロボロフスキーは尻尾みじかし
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 しかし、何といっても多いのは、息子と娘を題材にした作品。どれも若者あるあるという臨場感にあふれています。


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ダ・サーイと伸ばして言ふは女の子 ダセエとつぶやくやうに男の子は
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就活をしてゐる息子 就活をせざりし娘に寛大ならず
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ストーヴの三メートル以内に三人がゐてそれぞれに没頭しをり
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 「就活をしてゐる息子」の様子はこうです。


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相手の言ふ「ふつう」を互ひに罵りて息子とわれの夜が更けゆく
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ごはんつくるおかあさんのために一曲とギターはげしく鳴らして唄ふ
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メンドクセエのレンゾクセイと唄ひつつまたも息子は着替へしてゐる
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就活の日々の間にすこしづつ息子は太つていくやうに見ゆ
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履歴書にかならず不備ある迂闊さを言ひ出でて息子は怯ゆるごとし
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新卒者内定二人で上司らは四十代とぞ息子危ふし
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春になれば出てゆくならんこの家がアレルギー源と信じる息子
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この家にゐるとだめになる、と言つてアパートに帰つてゆきたり
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 息子さんは何とか就職して家を出て行ったようです。一方、「就活をせざりし娘」との生活は、こうです。


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やうやくに起きし娘と諍へば戻りゆくなり昼の臥床へ
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歌つくるわれの背後に他人の歌読み上げてゐる娘なりけり
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描いた絵を見せむと寄りくる表情にすでに不機嫌のいろが濃厚
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 そういうわけで、娘さんは母親と同居したまま絵を描いたりしているようです。読了後に調べて驚いたのですが、この娘さんは歌人の花山周子さんなんですね。そういうわけで、続いて娘さんの歌集も読んでみることにします。


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