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『サボり上手な動物たち』(佐藤克文、森阪匡通) [読書(サイエンス)]

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少しずつ見えてきた野生動物の本当の姿は、私たちが抱いている「常に全力投球、ど根性」というイメージに比べると明らかに「サボって」いる。手は抜くし、利用できるものはとことん利用する。そして当然、休むし、寝る。でもそれは効率を上げ、または死ぬ確率を下げるための、やむにやまれぬ選択である。
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単行本p.117


 動物に小型カメラや行動記録計を取りつけて、野生環境における行動を観測するバイオロギング。音響解析によるクジラ類の行動研究。それらが明らかにしたのは、野生動物が周囲の環境を利用して労力を節約する、つまり巧みに「サボる」姿だった。様々な野生動物の生態イメージを刷新するサイエンス本。単行本(岩波書店)出版は2013年2月、Kindle版配信は2017年8月です。


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 動物を調べるための基本的手段は観察だ。一見、観察可能に思える海の中は、実はほとんど見えていなかった。そんな海で暮らしている動物を調べる場合、バイオロギングや音響という特殊なやり方がとても役に立つ。海の動物の暮らしぶりや、驚くべき能力が判明する一方で、「野生動物はいつでも一生懸命」といった、人間の一方的な期待を裏切る結果がいくつも得られた。常に最大能力を発揮しないどころか、同種他個体や他種、あるいは人間に大きく依存して暮らしていたのである。
 そんな野生動物たちの姿は、サボっているようにも見える。しかし、よくよく考えてみれば、このやり方こそ厳しい自然環境で生き抜いていく動物たちの本気の姿なのだ。
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単行本p.109


 バイオロギングとクジラ類の音響分析、それぞれの専門家が一般向けに研究成果を紹介してくれる本。様々な野生動物たちの生態が取り上げられていますが、特に「手を抜くことで効率を上げる」という行動パターンに注目するところが特徴です。全体は5つの章から構成されています。


「1 実は見えない海の中」
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 バイオロギングや音響という新たな手段を得て、これまで「チラ見」しかできなかった海の大型動物を研究対象にできるようになった。そして、バイオロギングや音響という手段は、観察に準ずる隔靴掻痒な手段ではなく、観察を主たる方法として進める研究とは異なる視点をもたらしてくれることもまたわかってきた。
 例えば、バイオロギングによって得られるパラメータとして、加速度がある。観察できない動物の動きを、加速度センサーによって捉え、一秒間に数十データという細かさで記録する。これによって、例えば、泳いでいるときのペンギンやアザラシが、どれだけ一生懸命に翼やひれを動かしているのかがわかる。しかし「動かしていない」こともまたわかるのは「想定外」だった。
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単行本p.17

 通常の方法では観察できない野生動物の海中における行動。それを研究するために開発されてきた技術とその歴史を概説します。そして「観察しようと思っていなかったこともひっくるめて記録してしまう」というバイオロギングの特性から、思わぬ発見が得られることを示します。


「2 他者に依存する海鳥――動物カメラで調べる」
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不思議なのは、深いところに生息している魚種も頻繁に胃の内容物に見つかる点だ。マユグロアホウドリは、その他のアホウドリと同様に細長い翼を持ち、長距離飛翔に特化した形態を持っている。そのため、水中に潜るのはあまり得意ではない。(中略)アホウドリが、どうやって深いところに生息する餌を食べているのかという疑問に対し、得られた映像データから「シャチのおこぼれを頂戴する」のがわかった。
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単行本p.29

 アザラシ、ペンギン、海鳥など様々な動物に対するバイオロギングから分かってきた、彼らの潜水行動、採餌行動、子育て行動などを解説します。


「3 盗み聞きするイルカ――音で調べる」
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ある一頭のイルカに、見ることはできないが音は通過するスクリーンの向こう側に物体を提示し、それをエコーロケーションで調べさせた。別のイルカがすぐ横で頭部を水上に出させた状態(=自分ではエコーロケーションできない)でスクリーンの向こうにある物体が何であったかを報告させるという実験を行った。その結果、自分ではエコーロケーションできないイルカも物体をきちんと当てることができたので、他のイルカのクリックスを聞いて、前方の情報を知る能力を持っていることがわかった。
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単行本p.54

 イルカは、自分は手を抜いて音を出さず、他の個体が出した探査音の反響を聞いてエコーロケーションすることが出来る。また天敵であるシャチに探査音を盗み聞きされ居場所を特定されないよう周波数をずらすなどの工夫をしている。視覚より聴覚が大切な海中環境における音響探知の駆け引きを解説します。


「4 らせん状に沈むアザラシ――加速度で調べる」
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意外なことに、ドリフト中のアザラシは腹を上に向け、足ひれを動かさずに、まるで木の葉が落ちるように、くるくると旋回しながらゆっくりと沈んでいた。キタゾウアザラシが二か月半の採餌旅行中に延々と潜水を繰り返すという発見がなされて以来、彼らはいつ休み、いつ寝るのかという疑問を皆が抱いていた。くるくると旋回しながらドリフトするアザラシの動きは、この間に休息ないし睡眠していることを示唆している。アザラシのなかには、ドリフトした後、そのままコツンと海底にぶつかり、そのまま五分間仰向けになってじっとしている者もいるそうで、その情景を思い浮かべるとなんだか笑えてくる。
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単行本p.76

 翼を動かさずに浮上してくるペンギン、らせん状に潜水しながら寝るアザラシ、垂直に立った姿勢で眠るクジラ。動物に取りつけた加速度センサーから得られるデータが明らかにした彼らの意外な行動を紹介します。


「5 野生動物はサボりの達人だった!」
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 魚類から哺乳類に至る水生動物に、共通の装置を取り付けてその動きを調べてみると、本当はもっと深く長く潜ることができるのに、浅く短い潜水が主であったり、最大速度よりもずっと遅い速度を通常の移動に用いているといった日々の暮らしぶりが見えてきた。
(中略)
 我々人間は、ついつい動物の最大能力に目を奪われがちだが、動物の真の能力は最大値ではなく平均値にこそ現れる。ごくまれにしか行われない最大限の動きより、日々の暮らしぶりに着目することで、彼らの生き様を正しく理解できる。
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単行本p.109

 深く長く潜ったりしないペンギン、なるべくゆっくり泳ぐアザラシやウミガメ、消費エネルギーを節約して飛ぶオオミズナギドリ。動物たちの「最大能力」に注目しがちな癖を改め、普段の「手抜き節約モード」で発揮している能力に注目することで彼らの姿が見えてくる。バイオロギングや音響解析によって次第に分かってきた動物の生態について解説します。



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