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『行き先は特異点 年刊日本SF傑作選』(大森望、日下三蔵、藤井太洋、宮内悠介、上田早夕里) [読書(SF)]

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実を言うと、編集部からは早い段階で、切りのよい十巻までで打ち止めの可能性を言い渡されていたのである。だが、七冊目の『さよならの儀式』が思ったより売れたこともあり、もう少し続けてもいい、というお許しが出た。少なくとも短篇賞が十回を迎える2018年版までは出すことができそうだ。
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文庫版p.8


 2016年に発表された日本SF短篇から選ばれた傑作、および第八回創元SF短編賞受賞作を収録した、恒例の年刊日本SF傑作選。文庫版(東京創元社)出版は、2017年7月です。


[収録作品]

『行き先は特異点』(藤井太洋)
『バベル・タワー』(円城塔)
『人形の国』(弐瓶勉)
『スモーク・オン・ザ・ウォーター』(宮内悠介)
『幻影の攻勢』(眉村卓)
『性なる侵入』(石黒正数)
『太陽の側の島』(高山羽根子)
『玩具』(小林泰三)
『悪夢はまだ終わらない』(山本弘)
『海の住人』(山田胡瓜)
『洋服』(飛浩隆)
『古本屋の少女』(秋永真琴)
『二本の足で』(倉田タカシ)
『点点点丸転転丸』(諏訪哲史)
『鰻』(北野勇作)
『電波の武者』(牧野修)
『スティクニー備蓄基地』(谷甲州)
『プテロス』(上田早夕里)
『ブロッコリー神殿』(酉島伝法)
『七十四秒の旋律と孤独』(久永実木彦)


『行き先は特異点』(藤井太洋)
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「とても驚いたよ。まさか、こんなところで出会うなんて」
「私も、こんなところに来るなんて思わなかった。まだ路上試験の最中なのよ、この車」
 ジュディは首を振って、ドアのロゴを示した。
〈グーグル・セルフドライビングカー〉
 追突してきたのは、実験中の自動運転車だったのだ。
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文庫版p.20

 カリフォルニア州の中央、人里はなれた場所で、グーグルの自動運転車が事故を起こした。しかも、その地点にはアマゾンの配送ドローンが荷物を誤配達して置いてゆく。どうやらこの何もない場所が、なぜかマシンを引き寄せる特異点になっているようなのだ。

 コンピュータが認識する位置データと現実との間に乖離が生じたとき起こり得る事件を扱った、SF的飛躍が少なめの作品。ラスト、理の果てに立ち現れる美しい光景が印象的です。


『バベル・タワー』(円城塔)
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縦籠の家は代々、垂直方向のガイドを専らとした家である。恭助は、帝国ホテルのカゴに生まれ、各地のエレベータを転々としながら成長した。エレベータ・ガールたちや整備員たちからひっそりと手渡される古文書を読みふけり、口伝を授けられながら育った。
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文庫版p.77

 「上へ参ります。ドアが閉まります」vs「次は六条、六条通りで御座います」。
 垂直方向への移動を司る縦籠家、水平方向への移動を司る横箱家。有史以来ずっとこの国を秘かに操ってきた二つの旧家がついに交差したとき、何が起きるのか。驚異の座標系伝奇SF。


『スモーク・オン・ザ・ウォーター』(宮内悠介)
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 ぼくが専門とする流体力学においては、こうした煙の揺らぎは、層流と乱流によって説明づけられる。煙はしばらく綺麗に上昇したのちに、乱流となり、さざ波のように揺れはじめる。ここからは解析が困難で、カオス理論まで関わってくる。
 この世は美しい。それを、記録に留めたかったのだ。でも確かに、馬鹿には違いない。
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文庫版p.122

 東京に隕石が落下した後、自宅療養中の父が失踪した。それだけではない、多くの患者が「煙」のような存在に取りつかれて、病院から抜け出していたのだ。煙の正体は。
 セブンスターの公式サイトで連載されたという、堂々たる煙草SF。


『太陽の側の島』(高山羽根子)
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 私はといえば、ただ部屋で考えているのです。無為に生きることが衝突を生む我々と、長く生きるために、できるだけ無為な生活をしようとしているこの島の人々は、生き物としての根本が違うのではないか。我々がもし、なんらかの方法でこの島の人々のような命の使い方を学んだとして、果たして同じように生きていかれるのだろうかと、風が響く屋根の下、悶々としているのです。
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文庫版p.205

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「私は最近思うのでございます。こんな大変な世の中で、私たちが生きていることすら奇妙に思えるほどの困難の中で、どんなできごとが起こっても、そんなもの不思議のうちになど入らないのではございませんでしょうか」
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文庫版p.197

 太平洋戦争末期。南の島に流され、そこに基地を作るべく農作業に精を出す兵士と、「外国人」の少年を密かにかくまうその妻。二人の手紙によるやり取りから、次第にこの世とは異なる条理の世界が見えてくる。一読するや大きな感動に包まれる傑作。個人的に本書収録作品中で最もお気に入り。


『二本の足で』(倉田タカシ)
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「いや、だから、スパムなんだよ。シリーウォーカーの群れが、特定の人間をターゲットとして認識したら、最終段階の仕掛けとして、こういう人間のスパムが来る。知り合いのふりをして」
 すごい設定だよね、と、彼女は笑いながらふたりの顔を見て、――ああ、でも、きみたちもこの設定を共有してるわけね。
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文庫版p.306

 今や人間の資産なんてどんどん〈スパモスフィア(スパム圏)〉に吸収されているし、何と言っても最近のスパムは二本の足で歩いてくるのよ。地に足ついたシンギュラリティですね。というわけで意識をAIで上書きされた人が標的型スパムとして普通に歩いてやってくる時代、添付意識にうかつに心を開いたりしないよう気をつけましょう。
 移民受け入れにより多民族国家となった近未来の日本を舞台に、様々なルーツを持つ若者たちの迷いや葛藤を描く青春SF、だと思う。


『電波の武者』(牧野修)
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「電波の武者(ラジオ・ザムライ)を集めなさい。今すぐ。今すぐ集めなさい」
 母の顔が強ばるのが薄暗い部屋の中でもわかる。
 どうしたの。
「ヤツが来たのよ。止めなきゃ。みんなで止めなきゃ。この世が終わっちゃう。すべてのこの世が終わっちゃう」
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文庫版p.373

 妄想宇宙に忍び寄る現実の影。非言語的存在から物語を守るため、電波言語で戦えラジオ・ザムライ。展開せよ異言膜、夜空に溢れる悪文乱文線。問答無用の『月世界小説』スピンオフ短篇。


『スティクニー備蓄基地』(谷甲州)
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投入された「生物兵器」は、貯蔵施設の物理的な破壊を計画している可能性があった。貯蔵された物資で核融合を引き起こし、フォボスごと吹き飛ばすつもりではないか。
 悪夢だった。工事現場からのデブリの流出どころではなかった。フォボスから分離した大量の岩塊は、凶暴な破壊力を秘めたまま軌道上をさまよう。そして一部は火星地表に落下し、岩屑の暴風雨となって降りそそぐ。
 火星の環境は破壊され、多くの犠牲者を出して開発計画は頓挫する。そんなことを、させてはならなかった。どんな手を使っても、阻止しなければならない。そう切実に思った。だが敵の動きは、予想以上に速かった。
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文庫版p.429

 ついに勃発した第二次外惑星動乱。火星のフォボス地下にあるスティクニー備蓄基地にいる波佐間少尉は生物兵器による予想外の攻撃を察知したが……。新・航空宇宙軍史シリーズの一篇。


『プテロス』(上田早夕里)
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 本当の意味で宇宙生物学者になるためには、科学者としての常識どころか、『人間であること』すら、捨てねばならない瞬間があるのかもしれない。
 その勇気はあるかと自問してみた。
 しばし躊躇ったのち、ある、と志雄は結論した。
 プテロスはそれを教えてくれたのだ。
 もう一度同じ体験をしたときには、恐れずに飛び込んでみろと。
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文庫版p.461

 惑星を周回し永遠に吹き続ける暴風、スーパーローテーション。一度も地上に降りることなく、そのなかを一生飛び続ける異星生物プテロス。プテロスの個体と「共生」することで惑星探査を進める科学者は、共生相手を理解しようと試みる。だが、人間は、人間のままで、根本的に異なる精神を理解しコミュニケートできるのだろうか。ジャック・ヴァンス風の異星風景描写が印象的なコンタクトテーマSF。


『七十四秒の旋律と孤独』(久永実木彦)
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 空間めくり(リーフ・スルー)の普及により、海賊行為は事実上消滅していた。瞬間移動が可能な宇宙船を襲撃することは、ほとんどの場合無意味であり、非効率的だからだ。
 果たして、朱鷺型の登場と七十四秒の発見は、新たな海賊行為の手法を生みだした。(中略)そこで鋳造されたのが、わたしのような高次領域(サンクタム)専用の船外戦闘員だ。
 わたしはTT6-14441。通称、紅葉。グルトップ号の警備を担う、第六世代の朱鷺型人工知性である。有事となれば敵朱鷺型人工知性を破壊し、愛すべき船員たちを守るのが、わたしの役割だ。
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文庫版p.528

 超光速航行で空間を飛び越えるために必要な時間、七十四秒。だが高次空間にいる間、船内の時間は止まってしまう。つまり七十四秒のあいだ、船は完全に無防備となってしまうのだ。
 ずっと意識を切られた状態で船に搭載され、静止した時間のなか、七十四秒だけ起動する戦闘メカの孤独な戦いを描く、第八回創元SF短編賞受賞作。



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