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『ディレイ・エフェクト』(宮内悠介) [読書(小説・詩)]

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 やがてフェードインするように、かつてここに建てられていた家が重なりあった。
 つまり、玄関近くの廊下には古い台所や勝手口が現れ、リビングが茶の間と二重になった。わたしの寝室は曾祖父一家の寝室に半占拠され、妻の寝室や子供部屋はというと、古い庭の柿の木や雑草が生い茂った。
 わたしたち一家にとどまらず、東京じゅうで起きた現象だった。
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単行本p.11


 太平洋戦争末期の東京が、現代の東京と重なりあう。二つの時代の共存というSF的な設定を用いて、滅びゆく東京と家族の危機を重ね合わせる表題作など、三篇を収録した短篇集。単行本(文藝春秋)出版は2018年2月、Kindle版配信は2018年2月です。


[収録作品]

『ディレイ・エフェクト』
『空蝉』
『阿呆神社』


『ディレイ・エフェクト』
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「……わたしたちの世界を、神の奏でる音楽だと仮定してみましょう。その神様が、わたしたちには知るべくもないなんらかの深遠な意図をもってか、あるいは単に足を滑らせてか、ディレイのスイッチを踏んでしまった」
 踏むと表現したのは、ギタリストなどが扱うエフェクタは足元に並べられるからだ。
「こうしてディレイがかかったのだとすれば、もしかすれば、明日にも現象は止まるかもしれません。逆に、76年以上つづく可能性もある。あるいは、76年つづいたあと、また1944年の1月に戻って無限にくりかえされることも考えられます」
 真木が短くうなり、両肘をついて口元を覆った。
「どうする。戦後が終わらないじゃないか」
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単行本p.29

 現代の東京に重なるようにして「再生」される太平洋戦争末期の東京。まるで立体映像のように現実と二重写しになった1944年の町並みと人々。やがてくる東京大空襲を前に、人々はそれぞれに対応を決めなければならなかった……。
 SF的な設定のもと、二つの時代の響きあいと家族の危機を並行して描く作品。


『空蝉』
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「……俺はバンドをやりながら、漠然とこんなことを思っていたよ」
 伊佐木の刺身とともに、ホイル焼きが目の前に差し出された。
「これ以上に刺激的な、燦めくような日々は、今後俺たちの人生に訪れるのだろうかとね。それは――そう、まるで薄氷の上を歩くようだったよ。いつか、氷が割れることはわかっている。でも、誰もそこから降りられず、魅入られたように、氷の輝きに目を囚われているんだ」
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単行本p.106

 かつてバンドの中心となっていたカリスマ性の強い天才ミュージシャン。彼はなぜ自殺したのか。真相を探るために関係者への取材を続ける語り手は、遠い昔に過ぎ去った自らの青春を振り返ることになる。著者らしい構成で描かれる青春音楽小説。


『阿呆神社』
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 とまあ、こんな調子。とにかくみんな語る語る! よくぞここまでってくらい、いろいろ訴えてくるもんさ! あげくのはて、ここに来るころには、だいたい事態はどうにもならなくなってるんだ。つくづく思うんだけど、人間って、こう、物事をややこしくすることにかけては天才的な生き物だよな。
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単行本p.140

 もう人生どんづまり、どこにも行き場のない幼なじみの三人の男女。彼らが関わった、どうにもしょぼい殺人事件の顛末を、ほぼ一部始終を見ていたさえない神様が物語る。ユーモラスで切ない語り口が印象的な作品。



タグ:宮内悠介
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