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『ジャック・グラス伝 宇宙的殺人者』(アダム・ロバーツ、内田昌之:翻訳) [読書(SF)]

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 さて読者のみなさん、これよりわたしがドクター・ワトスン役として語るのは、この時代における最大の謎にまつわる物語です。もちろん、ここで言っているのは、マコーリイが“発見”したと主張する、光よりも速く移動する手段のことであり、その発見が引き起こした殺人と裏切りと暴力のことでもあります。当然でしょう。なにしろFTL(超光速)なのですから!
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単行本p.11


 伝説の殺人者ジャック・グラス、彼が現れるところ物理的に不可能な事件が起きる。謎を解く鍵はたった三文字、すなわち、FTL(超光速)。馬鹿SFと馬鹿ミステリを高い次元で融合させた傑作馬鹿SFミステリ。単行本(早川書房)出版は2017年8月、Kindle版配信は2017年8月です。


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 わたしは読者のみなさんに対して、最初からフェアに勝負を仕掛けるつもりです。さもなければ真のワトスンとは言えません。そこで、物語が動き出すまえに、まずここでなにもかも話しておくとしましょう。(中略)どの事件でも、殺人者は同一人物――言うまでもなく、ジャック・グラスその人です。それ以外考えられますか? いままでに彼よりも有名な殺人者がいましたか?
 どうです。これならフェアでしょう?
 みなさんの課題は、これらの物語を読み、数々の謎を解いて殺人者を特定することです。すでにわたしが答えを明かしてしまったにもかかわらず、その答えはみなさんを驚かせるでしょう。
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単行本p.11、12


 全体は三つの連作から構成されています。それぞれ謎めいた密室殺人がからみ、美少女探偵、陰謀、物理的に存在し得ないはずのFTL(超光速)テクノロジー、実際に観測された「質量が小さすぎる超新星」の謎、そして人類絶滅の危機が関わってきます。盛り込めばいいってもんじゃないだろう。


「第一部 箱の中」
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 7人全員が同じことを考えていた。11年もの歳月を、思いつくかぎりもっとも過酷な環境で過ごすというのに、頼りにできるのは手持ちの物資だけで、あらゆる方向に広がる何百万マイルもの真空でほかの人類から隔てられている。11年! 囚人たちとしては、何とか11年の刑期を耐え抜き、それが終わったときに公司(コンス)が彼らのことを忘れておらず、まだ商売を続けていて、内部がくりぬかれた球体を回収にくるだけの意欲があることを祈るしかない。
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単行本p.22

 刑罰として小惑星に送り込まれた7人の犯罪者たち。囚人船が戻ってくるのは、戻ってくるとして、11年後。生き延びるだけでも困難という過酷な状況のなかで、一人の男がこともあろうに脱獄を企てていた。誰あろう、ジャック・グラスその人である。だが、ここは小惑星の洞窟、周囲は真空の宇宙空間、助けの船がくる見込みはない。あまりにも完璧な牢獄から、いったいどうやって脱出するというのか。

 読み返すと、その丁寧な伏線の張り方に「このネタになぜそこまで」と読者を絶句させる超絶脱獄ミステリ。


「第二部 超光速殺人」
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「召使棟は厳重に監視されています――敷地全体も。事件が起きた時間帯には、だれもあの建物に出入りしていないんです。その悪名高いジャック・グラスは、どうやって倉庫に侵入して召使の頭を大きなハンマーで殴ったんですか?」
「そこはたしかに興味深いところよねえ?」ジョードは言った。「“だれが”の答が出たから、“どうやって”が残る」
「ほかのことはともかく、彼はどうやって島へ上陸したんですか? どうやってすべての保安チェックをすり抜けて地球へ降りたんですか? そもそも、どうやってわたしたちがここにいることを突き止めたんですか?」
「どれも良い質問ね」
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単行本p.186

 太陽系でもトップクラスの有力ファミリー、アージェント家の跡取りである美少女ダイアナ。バカンスで極秘に地球を訪れた彼女を待っていたのは、到着そうそう召使のひとりが殺されるという怪事件だった。現場は厳重に監視された建物のなか、記録されずに侵入することも脱出することも不可能な密室。ジャック・グラスは、いったいどうやって犯行を成し遂げたのか。そして、なぜそんなことをしたのか。

 「ミステリマニアの大富豪令嬢 vs 太陽系一の犯罪者」というミステリ読者大喜びの設定に、SF読者狂喜乱舞の馬鹿SFアイデア。大盛りつゆだく馬鹿SFミステリ。


「第三部 ありえない銃」
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「彼はありえない銃で撃たれたのです」
 老女は考え込んだ。「どういう意味だい、ジャック・グラス、そのありえない銃ってのは?」
「なにかを撃ち出すタイプの武器なの」ダイアナが言った。「ただ、その撃ち出されたものが消えてしまって。ありえないことに」
「というか、撃った者が消えたのです。(中略)バル=ル=デュックを殺した人物は、犯行のあともそこに残っていたにちがいありません。しかし、わたしたちが内部を徹底的に調べても、だれもいなかったのです。殺人犯が空中へ消え失せてしまったかのように」
「密室ミステリか」アイシュワリヤはうなずいた。
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単行本p.359

 太陽系中を逃走し続けるジャック・グラスもついに年貢の納め時か。宿敵たる捜査官(銭形警部みたいな人)に追い詰められたとき、一発の銃声が鳴り響く。捜査官の身体を粉砕し、バブル(球状の小型居住施設)の壁を貫き、バブルにドッキングしていた宇宙船に大穴をあけて、虚空の彼方へと消えた銃弾。しかし、いくら調べても発射した者はいない。一発の銃弾をめぐる謎は、人類の命運をめぐる壮大なSF展開へとつながってゆく。いや、たぶん。



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