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『鏡』(チャイナ・ミエヴィル) [読書(SF)]

 SFマガジン2009年8月号は、『ペルディード・ストリート・ステーション』刊行に合わせたチャイナ・ミエヴィルの特集号でした。お恥ずかしながらミエヴィルを読むのは初めてです。

 ここ数年で読んだ「英国の新鋭SF作家」たちはいずれもゲテ・・・個性的な書き手ばかりだったような印象があるので、今回もひねくれた期待を持って読みました。

 で、ローカス賞を受賞したミエヴィルの中編『鏡』ですが、これは「鏡の世界からの侵攻」という古典的なアイデアのホラー作品。夜中に一人で鏡を見ているときなど、「もしも自分の鏡像がこちらの動作を真似するのを止めて、内側から鏡を割って襲いかかってきたら」というのは、子ども時代に誰しも想像する悪夢だと思いますが、それをそのまま書いてしまいました。

 書くとしても、例えば『ジョジョ』で何度かやったように、幻想的ホラー個人体験にすることで設定の荒唐無稽さが目立たないようにしようと考えるものだと思うのですが、そんな配慮を最近の「英国の新鋭SF作家」に求めても無駄のようです。

 いきなり鏡の中から飛び出してきた鏡像たちとの戦争が勃発、世界中を巻き込んだ戦乱、文明の崩壊、各地で抵抗を続けるゲリラ兵、暴徒と化して略奪に走る生存者、そこに襲いかかる鏡像世界の怪物たち、みたいな展開に。後はもう『マッドマックス2』へと一直線。

 例えば敵でいっぱいの地下鉄駅に単身で乗り込んでゆき、襲ってきた相手を殴り倒してショットガンを頭に突きつけてお前らのボスの居場所を言え、みたいなシーンを読んで嬉しい人にお勧め。最後の最後に定番を外すラストは意外にもまともで、私は好きですが、怒る人がいても不思議はありません。

 他には、個人的にインパクトが大きかったのが『ある医学百科事典の一項目』というショートショートで、これはミーム(文化的複製子)が本当に脳内寄生虫だったら、というそれだけのアイデアで書かれているのですが、読んだ後で何とも言えない嫌な気分になります。

 総じて、あまりにも素朴でストレートな発想、重厚で薄暗い雰囲気、全体に漂うグロテスクさ、キャラクターの希薄さ、そして読後の後味の悪さ。ここら辺がチャイナ・ミエヴィルの特徴であるように思えました。好みに合う人ならハマると思いますが、個人的には苦手なタイプです。


タグ:SFマガジン
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『最後の星戦(老人と宇宙3)』(ジョン・スコルジー) [読書(SF)]

 好評スペースオペラ『老人と宇宙(そら)』シリーズ、意地のように続けてきた悪ノリ邦題もちょっと苦しくなってきた第三弾です。第一作に引き続きジョン・ペリーが主人公となって大活躍します。こいつが主人公だと明るくていいよね。

 第一作は、軍に入隊した老人たちがエイリアン種族と戦わされるという、還暦版『宇宙の戦士』というか、分別くさい年寄り連中といかにもゲーム的で派手な戦闘シーンの組み合わせが妙な可笑しさを生んでいたわけですが、さすがに同じ手はきかないだろうと思いつつ読んでみました。

 驚いたことに、小細工なし、堂々たるスペースオペラになっています。前半は『アヴァロンの闇』(ニーヴン、パーネル、バーンズ)みたいな異星入植モノ、後半はシリーズ全体の決着をつける星間政治闘争で盛り上がります。

 クライマックスには、宇宙艦隊を率いて襲ってきたエイリアン種族の強襲を、農場に立てこもったわずかな入植者たちが手持ち武器で撃退するという、これぞスペースオペラの駄法螺、じゃなくて醍醐味というべき痛快な展開が待っています。

 宇宙の未来を賭けたエイリアン種族との一大駆け引きなど興味ない読者のために、しっかりもの美少女、武闘派美人、クールなレズビアンお姉様、という完璧な布陣を展開。さすがです。

 まあ、どのエイリアンもあまりに米国人だとか、特殊部隊のトップがこんないい加減なことでいいのかとか、あのギフトは本シリーズの基準で見てもご都合主義すぎるだろうとか、そもそも美少女が頑張っちゃえば宇宙は何でも意のままになるんかいとか(本件については第四作でフォロー予定)、真面目に読むと色々と困ったちゃん炸薬弾ですが、あまり気になりません。ストーリー展開とキャラクターの魅力で一気に読まされてしまいました。

 やっぱりスペースオペラっていいなあ。次回作の翻訳が楽しみです。


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『五人姉妹』(矢内原美邦、ミクニヤナイハラプロジェクト、黒田育世) [舞台(コンテンポラリーダンス)]

 先日NHK教育「芸術劇場」で放映された『青ノ鳥』が良かったので、ミクニヤナイハラプロジェクトの新作を観るために夫婦で吉祥寺シアターまで行ってきました。

 設置された4つの(大型コンテナみたいな)部屋を次々と移動させるダイナミックな舞台にまず目を引きつけられます。しかし、「絶叫+早口セリフ回し+ハイテンションダンス」という特徴は今回も変わりません。

 とにかく誰もかれもすぐ絶叫するし、ほとんどいつも同時に複数の役者が何かに追い立てられているかのように恐るべき早口でしゃべり散らします。それでも足りないとばかりに部屋をぐるぐる動かしたり他人に蹴りを入れたり、特にアクションがなくても全員がしゃべりながらひたすら身体を動かすという忙しさ。余白までびっちりと埋めつくされた被害妄想系の怪文書みたい。

 アフタートーク(後述)で黒田育世さんが「今回はきちんとセリフを聞き取ろうと決意していたのに、五分で断念した」とおっしゃったように、奔流のような言葉の連射は意味を理解する以前にまず聞き取りが困難なレベル。

 これはセリフというよりパーカッション、会話というよりノイズミュージックだと割り切って、素直にコンテンポラリーダンス作品として観賞することにしました。

 コンテンポラリーダンス作品として観るとこれが非常に面白く、しゃべりながらいちいち決めポーズを作るところも、ふた昔前のアイドルの振りを連想させるダサかっこいい系の動きも、途中で挟み込まれる群舞のフォーメーションも、どれも心にしっくりきます。いい感じ。

 とにかくテンションの高さは尋常ではなく、見ている方もどきどきして血圧が上がります。一時間半の上演時間ですが、気を抜く時間がほとんどないため、ぐったり疲れます。役者も大変でしょう。

 終演後のアフタートークでは、何とBATIKの黒田育世さんがゲストでした。けっこう饒舌で、作品の感想や分析をぽんぽんとテンポよく語り、寡黙な矢内原美邦さんを引っ張っていました。

 最近、言葉と身体との関係を探求するような作品を続けざまに発表していることを指摘されて「ダンスの力はもちろん信じているけど、誰も私の中からダンスを奪うことは出来ないけれど、ダンスの世界だけに小さく閉じこもることはしたくなくて」と語る黒田育世さんを近距離で見る。こんなに嬉しいことはありません。そしてこの発言は矢内原美邦さんにもピタリ当てはまるような気がします。

 「(ミクニヤナイハラプロジェクトの舞台には)最初はダンスの観客も大勢来てくれたけど、段々と来なくなった」と矢内原美邦さんがぼやいていましたが、いやコンテンポラリーダンスに興味がある観客こそ、ミクニヤナイハラプロジェクトは観ておいた方がいいと思います。


『五人姉妹』

作・演出・振付 : 矢内原美邦
出演 : 稲毛礼子、笠木泉、高山玲子、三坂知絵子、光瀬指絵、山本圭祐
音楽 : 中原昌也
衣装 : スズキタカユキ
美術 : 細川浩伸(急な坂アトリエ)
照明 : 森規幸(balance,inc.DESIGN)
映像 : 高橋啓祐
舞台監督 : 原口佳子(office モリブテン)


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『難解な本を読む技術』(高田明典) [読書(教養)]

 私の場合、読書量もさることながら、読書の質というのもまた大問題。ただ楽しむための読書、娯楽としての読書、いわば「軟派な読書」ばかりにふけってしまい、自分を鍛える読書、成長するための読書、人生観を一変させる読書、といった「硬派な読書」を避けるようになっています。何が書いてあるのか分からない、理解不能な本にぶつかると、すぐに読むのを諦めて投げ出してしまうという悪癖。

 難解な本、特に現代思想書を、いかにして読み解き、理解し、自分のものにするか。本書はそのための基本的な考え方、ノウハウを分かりやすく解説してくれる一冊です。

 と言っても特別なメソッドが紹介されているわけでもなく、読書ノートのつけ方、通読と精読の使い分け、といった基本的なことが中心。今も昔も、ネット時代になっても、やはり何度も再読を繰り返しながら手を動かして読書ノートを充実させてゆく他に王道はないということがよく分かります。

 「閉じている本/開いている本」、「外部参照が必要な本/不要な本」、「登山型/ハイキング型」、といった難解本の分類を示し、それぞれに対して読み解くためのコツを書いてくれるのも嬉しいところ。こういうのは苦しんでいるうちに自然と分かってくるものですが、最初から頭に入っていれば少しは楽が出来るかも知れません。

 後半では、学生が作成した実際の読書ノートを公開した上で、さらに「代表的難解本ガイド」として、デリダ、スピノザ、ウィトゲンシュタイン、ソシュール、フロイト、フーコー、ラカン、ドゥルーズ、ナンシー、ジジェク、それぞれ最初に取り組むべき著作を取り上げ、その読解のための道筋を示してくれます。

 全体的にロジカルで冷静な筆致で書かれていますが、ときどき感情のほとばしりが見られるのが個人的にツボに入りました。例えば次のような箇所。

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「まともな研究者であれば、自分の限界を充分に理解しています。「わからないことを、わかる」と言い張るのは、「わかっていることが何もない」ことの証拠です。そういう人は、ちょっと面倒な質問をすると感情的になったりすることが多いので、気をつける必要があります」(p.101)
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(無駄な本、ダメな本は読むべきではないと言うと)「本に対して失礼」などという、よくわからない主張を繰り広げる人も少なくないようです。しかし、一年のあいだに出版される本が5万点以上とも言われる現代の日本においては、礼を失することなどを気にしてはいられません。あえて言いますが、読者に対して礼を失しているのは、大量のくだらない本を書く人たちのほうです」(p.110)
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 色々と鬱積しているご様子。同情しつつも、思わず笑ってしまいました。

 なぜ難解本を読み解くのか、単なる知的挑戦、パズルを解くようなものなのか。著者の回答は『おわりに-思想を「生かす」ということ』(p.142~p.149)に書かれていますが、ここでは現代思想を学び理解することの意義が情熱的に語られており、とりあえず難解本を読むつもりがない人も、この8ページだけは目を通した方がよいかと思います。

 というわけで、特に若い学生たちに読んでほしい本です。ちなみに私自身としては、正直言って失意体前屈、涙目で「すいません、もう年寄りの愚民なんです。ここまで厳しい読書には耐えられそうもありません。なにとぞご勘弁下さい。余生は娯楽読書で過ごしとうございます」と訴えたい気持ちでいっぱい。

 若い学生さんは、本書を片手に難解本にどしどし挑戦し、人類の知の蓄積を継承して、より良い世の中を作っていって下さい。私がなるべく長く娯楽読書を続けられるように。ひとつよろしくお願いします。


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『多読術』(松岡正剛) [読書(教養)]

 このところ読書量が落ちているのが大問題です。せめて一定期間あたりの平均読破冊数を平均購入冊数以上にしないと、それこそ未読本が着実に増殖して手の打ちようがなくなってしまいます。というかなっています。

 かと言って、巷にあふれる「速読法」みたいな本を読んでみても、そこに書いてあるのは要するに「本を読まない(で内容を知った気になる)方法」であり、そんなの速読以前に読書じゃないよ。飛ばし読みとかするな。本を読むときは、著者、というより書物に対して敬意を払え、おらあっ!

 というわけで、いかにして多くの本を読むか。この緊急テーマについて、もと工作舎編集長というか、読書サイト界の星、『千夜千冊』の松岡正剛さんが、ご自身の技法や理論を詳しく解説してくれた一冊がこれです。

 対談というかインタビュー形式で書き下ろされており、話し言葉が中心なので非常に読みやすくなっています。自分の読書歴、読書とは何か、編集工学、読書スタイルなど、話題も豊富。

 内容は結構難しいというか、編集工学の理論などもぽんぽん飛び出してきて、かなり高度。抽象度も高く、実用性(多くの本を読むための具体的なノウハウ)を過度に期待すると肩すかしをくらうかも知れません。

 ただ、あちこちに散りばめられている読書に関する言葉が冴えていて、いちいち心に響くのですね。こんな感じです。

「無知から未知へ、それが読書の醍醐味です」(p.69)

「本は二度以上読まないと読書じゃない」(p.16)

「読書ってアスリートみたいなところがあるんです。(中略)ほっておけばカラダがなまるように、アタマもなまる。エクササイズやストレッチは、どうしても読書にも必要です」(p.18)

「本と接するというのは、とてもフィジカルなことなんです」(p.21)

「(読書には)優劣も貴賤も区別がないと思うべきなんですが、やっぱり読書の頂点は「全集読書」なんですよ。これは別格です」(p.61)

「(読書のために)いちばん心がけたことは、寝ないようにするということでしたね(笑)」(p.46)

「ぼくは母がクリスマスに本を枕元においてくれて以来、本には名状しがたい「誇り」のようなものや、「誉れ」のような敬意をもってきました。それがちっとも減衰しない」(p.140)


 きりがないのでこのくらいにしておきますが、これらの言葉がどれほど読書意欲を刺激することか。読むぞ、読んでやるぞ、死ぬまでにどれだけ読めるか勝負だっ、という気合がみなぎってきます。

 前述したように、読書ノウハウ本としての実用性には疑問があるのですが、そんなことより、読書という行為について改めて考え直し、読書意欲を盛り上げるために読むべき一冊だと思います。


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