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『ルート350』(古川日出男) [読書(小説・詩)]

 古川日出男さんの短編集。単行本出版は2006年4月、私が読んだ文庫版は2009年4月に出版されています。

 読み始めてすぐ、そのあまりのカッコよさに震えました。何といっても文章に込められたパワーというか電圧が桁違いで、その言葉が持つ情熱が、怒りが、矜恃が、読者の心を揺さぶります。

 ほぼ全ての短篇が、嘘と虚構ばかりの閉ざされた場所に遺棄された子どもたちの話です。生き延びるために、ある者は破壊や反逆を企て、ある者は自分の居場所をホンモノにしようと試み、またある者は移動し続けようとする。最初はその特異な設定に戸惑いますが、すぐ「これは今の社会のことだ、そしてこれは私たちの話だ」と分かってきます。

 どの話も安易なハッピーエンドにはなってませんが、どこか「祈り」のようなものを感じさせるラストが多く、読後に奇妙な勇気がわいてくる力強い作品集です。本書を読んで、いずれ古川日出男さんの長編を出版順に読んでゆこうと決意しました。


[収録作]

『お前のことは忘れていないよバッハ』
『カノン』
『ストーリーライター、ストーリーダンサー、ストーリーファイター』
『飲み物はいるかい』
『物語卵』
『一九九一年、埋め立て地がお台場になる前』
『メロウ』
『ルート350』


タグ:古川日出男
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『不可能犯罪コレクション』(二階堂黎人) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]

 集団監視下にある被害者を誰にも目撃されることなく刺殺した犯人。入ることも出ることも出来ないビルの屋上から被害者を突き落として消えた犯人。新雪につつまれた屋敷に足跡を残さずに出入りした犯人。いったいどうやってそんな犯行をなし得たのか・・・。不可能犯罪(密室を含む)は、何よりその強烈な謎で読者の心をつかみます。

 というわけで、不可能犯罪を扱ったミステリ短篇小説アンソロジーです。単行本出版は2009年6月。全て書き下ろし新作、二階堂黎人さんが選び抜いた新鋭や先鋭の競作、ということで、大いに期待して読んでみました。

 まず感心したのは、『父親はだれ?』(岸田るり子)です。

 何しろ他の作品が「犯行は不可能である」と力説してやまない中で、不可能でも何でもない事件を平然と書いてしまうのです。いや、待てよ。これが不可能犯罪になるためには、犯人は(現場にいることが出来なかった)こいつでなければならないはずだ・・・。などと倒錯しまくった考えが脳裏をよぎります。

 しかし、読者がそう考えることはお見通しだろうから、などと悩んでいる時点で既に作者の術中にハマっています。そして予想外の方角からやってくるオチに驚き、さらにタイトルの本当の意味に気づいて、やられたなあ、と。

 『不可能犯罪コレクション』というタイトルのアンソロジーに書き下ろしで収録された一篇、というメタ情報を誤誘導として活用する狙いが見事です。登場人物たちの心理のあやを探ってゆく展開も小説として楽しめましたし、明らかにされる(犯人ではなく被害者の)動機にも説得力を感じます。よい作品だと思います。

 動機と言えば、『ドロッピング・ゲーム』(石持浅海)も、純粋に心理面の謎解きになっているのが面白いと思いました。この作品の場合、動機に説得力を持たせるために特殊な背景世界を用意しているのですが、本作を読んだ限りでは、無理に異社会という設定に逃げなくても何とかなったのではないか、という気がしてなりません。作者は同じ背景世界のシリーズ化を考えているとのことなので、何かたくらんでいるのかも知れませんが。

 他に、能の舞台を扱った『花はこころ』(鏑木蓮)が印象に残っています。

 トリック自体は大したことがない、というか本書に収録された他の作品で「陳腐なトリックの典型例」として揶揄の対象とされているやつですから、おそらくミステリ愛好家ならすぐに見抜いてしまうことと思われます。

 ただ、能楽師の世界や能舞台についての描写が興味深く、謎解きだけに頼らない筋書きやテーマ設定がしっかりしており、一般小説として充分に楽しめる作品になっていると思いました。

 ごりごりのパズル小説(謎とその解明を除けば何も残らないような作品)は好みではないもので、他の作品は個人的にちょっと合いませんでした。

[収録作]

『佳也子の屋根に雪ふりつむ』(大山誠一郎)
『父親はだれ?』(岸田るり子)
『花はこころ』(鏑木蓮)
『天空からの死者』(門前典之)
『ドロッピング・ゲーム』(石持浅海)
『『首吊り判事』邸の奇妙な犯罪』(加賀美雅之)


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『はむつんサーブ with Big Baby 2』(はむつんサーブ) [映像(コンテンポラリーダンス)]

 Big Babyの新作をバックに、はむつんサーブのアニメーションダンスが炸裂するDVD第二弾。『百鬼夜行宴戯』と『暗黒乱舞』の2曲のダンスビデオが収録されています。

 相変わらず気持ちいい動きです。カクカクとロボットのように動く身体、波うつ手足、コマ送り、ムーンウォーク、静止など、不思議なダンスパフォーマンスで視覚的な驚きを与えてくれます。けっこう癖になります。

 “動き”の芸はもちろん凄いのですが、何と言っても振付のセンスがいい。特に『暗黒乱舞』など、最初は動きそのものに驚くわけですが、すぐにその動きが生み出す「ダンス」に引き込まれてゆきます。コンテンポラリーダンス作品として高く評価できるのではないでしょうか。

 まあしかし、本編は2曲合わせても10分程度で、ほとんどの収録時間はメイキング映像に費やされており、後は宣伝用の付録映像がちょびっと入っているだけ。これに3曲入りCDが付いて、定価3360円(アマゾンでは2500円切っています)というのはどうでしょうか。いかにも割高で、熱心なファン以外にはお勧めしにくいものがあります。

 初めての方には、まずは前作『はむつんサーブ with Big Baby』の方をお勧めします。


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『短篇ベストコレクション 現代の小説2009』(日本文藝家協会) [読書(小説・詩)]

 2008年に発表された短篇の中から、日本文藝家協会が優秀作品を厳選して収録したアンソロジーです。収録作は基本的には一般小説ですが、SFやホラーも含まれています。

 まず特筆したいのが『明るい農村』(高村薫)。

 ある寂れた寒村で老人たちが昔の思い出を語り合うという、まあそれだけの作品ですが、山間をゆらりゆらりと漂うUFO、山奥に棲む異形の子どもたち、探ろうとする者は死ぬか行方不明になる「村の秘密」が、ごく日常的というか懐古的な雰囲気で語られるのが何とも言えない味を出しています。

 普通ならホラーか伝奇モノにしかならないような素材を巧みに活かして、平穏無事のためなら人が殺されても平気で見て見ぬふりする、ときには積極的に加担する、そういう田舎の人々のリアルな姿と、その背後にある人知を超えた不可思議や恐怖が、ほのぼのとした筆致で“明るく”書かれており、こういうの個人的に好みです。日常の中にあるハイストレンジネスを扱った小説に興味がある方は必読でしょう。

 他に『キャッチライト』(久保寺健彦)も面白い。マラソン競技を扱ったスポ根ですが、「10代の頃は超人気アイドルだったが、今や30歳の売れないタレント」というヒロインの設定がうまい。そんな彼女が、芸能界復帰を目指してマラソンイベントに参加する。トップを走っている限り、テレビに映り続けることが出来るというのが狙い。そこで捨て身のアピールで売り込みをかけるのだ。

 客観的に見れば、人気凋落して忘れられた元アイドルのみっともない悪あがきに過ぎないのですが、他人にどう思われようと構わない、恥知らずの馬鹿女と罵られようが何だろうが、自分がテレビ画面を独占するのを誰も妨害できない、トップを走り続けている限り・・・。

 というわけで、読んでいくうちにヒロインの意地に共感し、その孤独で過酷で、しかも馬鹿馬鹿しい奮闘を応援してしまうわけです。どっか方向を間違えている熱血とユーモア。素晴らしい。作者の他の作品も読んでみようと思いました。

 他には、陳腐な設定ながら確かな筆力でぐいぐい読ませるサスペンス小説『同窓会』(角田光代)、時を超えて種子を飛ばす植物というイメージを人生に重ね合わせた抒情SF『トキノフウセンカズラ』(藤田雅矢)、とぼけたユーモアが星新一のショートショートを思い出させてくれる『検問』(伊坂幸太郎)、妻に先立たれた夫の悔悟という定番をオヤジ臭さなく書いてのけた『厭だ厭だ』(あさのあつこ)といった作品が印象に残っています。

 ただ、収録作にはベタな人情ドラマの類も多く、そういうのは個人的にあまり好きではないので残念。とは言え、好き嫌いは別として、今まで読んだことのない沢山の作家と出会う良い機会なのは確かなので、このシリーズはこれからも読んでみようと思いました。

[収録作]

『琥珀』(浅田次郎)
『まぶしいもの』(伊集院静)
『ごめん。』(唯川恵)
『明るい農村』(高村薫)
『豆を煮る男』(森絵都)
『キャッチライト』(久保寺健彦)
『嫁はきたとね?』(新野哲也)
『同窓会』(角田光代)
『明日を笑え』(小路幸也)
『昭和の夜』(福澤徹三)
『冤罪』(今野敏)
『フォーカス・ポイント』(鈴木光司)
『幻影』(高橋克彦)
『トキノフウセンカズラ』(藤田雅矢)
『検問』(伊坂幸太郎)
『骰子の七つの目』(恩田陸)
『たてがみ』(古処誠二)
『ダガーナイフ』(石田衣良)
『女友達』(江國香織)
『厭だ厭だ』(あさのあつこ)
『ジョーカーの徹夜仕事』(大沢在昌)
『吸血花』(清原康正)


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『90億の神の御名 -ザ・ベスト・オブ・アーサー・C・クラーク(2)』 [読書(SF)]

 アーサー・C・クラークの日本オリジナル短編集、全3巻のうちの第2巻です。1950年代に書かれた短編15篇と科学エッセイ1篇、計16篇が収録されています。

 クラークといったら真っ先に思い浮かぶようなハードSFの傑作、代表作がぞろぞろと。どれもクラークらしさがいっぱいで、読んでいて胸が熱くなります。ほとんどは再読ですが、少しも退屈しませんでした。

 『海底牧場』や『遙かなる地球の歌』など後の同題長編の元になった短編はもとより、異星人が建造した巨大人工天体内部を探検する『木星第五衛星』、原始人が来訪者と接触することで文明への道を歩み始める『夜明けの出会い』、月面で発見された謎の構造物が「人類が宇宙へ進出したこと」を星々の彼方へ通知する警報装置だったという『前哨』、エアロック間の真空を宇宙服なしで飛び渡るはめになった宇宙飛行士を描いた『大きく息を吸って』(『天の向こう側』の一部)など、後に書かれる名作の原型があちこちに散りばめられているのが何と言っても嬉しいところです。

 収録作のうちでは、『前哨』、『月面の休暇』、『木星第五衛星』、『密航者』、『月に賭ける』、『天の向こう側』、『幽霊宇宙服』といった、太陽系内の宇宙開発を扱った作品が個人的に好き。

 何しろアポロ月着陸前に書かれた作品なので、例えば月面の描写など確かに時代遅れというか執筆後に明らかになった科学的事実とは異なっている点も多々ありますが、しかしハードSFとしての魅力はいささかも薄れてはいません。今読んでも、その臨場感には驚かされます。そして、そのユーモアに思わず微笑んでしまいます。

 他にも、『おお地球よ・・・』、『時間がいっぱい』、『90億の神の御名』、『星』、『究極の旋律』といった皮肉なオチがついたSFショートショートも、その手際のよさで楽しく読めます。『究極の旋律』など、30年後に書かれたグレッグ・イーガン『新・口笛テスト』(短編集『TAP』に収録)と比べてみても、そんなに古臭くは感じませんでした。

 夢中で読み終わってから、ふと我に返って、いまだ有人惑星探査が行なわれておらず、異星文明の痕跡もなく、月面基地すら存在しない、しかもクラークがいない、そんな「21世紀」を生きていることを思い出して愕然となりました。何かが決定的に間違っているような気がしてなりません。


[収録作]

『前哨』
『月面の休暇』
『おお地球よ・・・』
『時間がいっぱい』
『90億の神の御名』
『木星第五衛星』
『夜明けの出会い』
『海底牧場』
『密航者』
『星』
『月に賭ける』
『究極の旋律』
『天の向こう側』
『遙かなる地球の歌』
『幽霊宇宙服』
『ベツレヘムの星』


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