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『SFマガジン700【国内篇】 創刊700号記念アンソロジー』(大森望:編) [読書(SF)]

 「平井和正『超革命的中学生集団』以来四十年ぶりにハヤカワ文庫SFから出る日本SFなので、そういう意味でもたいへん貴重な一冊です」(文庫版p.493)

 SFマガジン創刊700号を記念して発行されたアンソロジー、その【国内篇】です。


『緑の果て』(手塚治虫)

 「ふん 艇長 あんたがそんなにブラッドベリ派だとは知らなかったぜ」「新聞記者くん きみこそあっぱれなハミルトン派だ」(文庫版p.15、16)

 一面の草原が広がっている星に着陸した探検隊。植物しかいないはずなのに、様々なものが実体化するという怪現象に見舞われる。やがて死んだはずの恋人に再会した隊員が脱走して……。レムの『ソラリス』を連想させるアイデアストーリー。最後の「蛇足」に著者の照れが感じられて、ちょっと微笑ましい。


『虎は暗闇より』(平井和正)

 「この世は生地獄だった。もはやぼくの眼はふたたび人間を見ることはなく、暗闇から現われる虎だけを見るのだった。己れをも他をも破壊してとどまることを知らぬ狂気の虎を……」(文庫版p.53)

 事故で突然ある種の超能力に目覚めた男。しかし、それは呪われた力だった。人間が持つ救いようのない凶暴さ、残酷さをテーマにしていた初期の頃の代表作。


『インサイド・SFワールド--この愛すべきSF作家たち(下)』(伊藤典夫)

 「クラークってのは、意外に茶目で、きさくなんだなあ」「無口で、いかにもとっつきにくそうだけど、話してみるとフレデリック・ポールが、あのなかではいちばん誠実そうですね」「いやあ、メリルおばちゃんは、いい人だ」(文庫版p.69)

 1970年に日本で開催された国際SFシンポジウムの裏話を書いたエッセイ。ソ連の作家たちが夜中に遊泳禁止の琵琶湖に飛び込んだ話とか、ブライアン・オールディスがいかに嫌な奴かとか、メリルおばちゃんが「SFの人たちよりベ平連の人たちのほうが好きだわ」(文庫版p.74)と言い放った話とか。


『セクサロイド in THE DINOSAUR ZONE』(松本零士)

 「おーい みなさん みなさんは みんな オレのひと雫 ナレの果てだよ----」(文庫版p.108)

 興奮すると過去にタイムスリップしてしまう体質の男が、恐竜時代で出会った美しい女性の正体は。『セクサロイド』シリーズの一編で、思春期男子の妄想と肥大自意識が横溢する、この作者らしい作品。


『上下左右』(筒井康隆)

 「実験小説系の短篇集『バブリング創世記』に収められたが、文庫化版からは(おそらくサイズの問題で)割愛されたため、今回が文庫本初収録となる。字が小さくてすみません」(文庫版p.122)

 漫画のコマのように表現される四階建てアパートの各部屋。それぞれの部屋にそこで交わされている会話が書かれており、ページをめくるたびに時間が経過してゆく。途中で爆発が起きて部屋の壁や登場人物を表す文字が吹き飛んだり。タイポグラフィというか、文字で描かれた漫画のような作品。確かに文庫版だと字が小さくて辛い。


『カラッポがいっぱいの世界』(鈴木いづみ)

 「すきとおってて、にぶくて、明るいの。自分でも知らないの。知らないで、あるいたり、わらったりしてるの。魂なんか、ないの。ある、と信じてるけど。エネルギーがうしなわれていく、その最後のあがきって感じ」(文庫版p.156)

 バンドの追っかけ、アイドル、流行、ヨコスカ、本牧、原宿。若い女性たちの音楽談義を通じて、あの時代の空気を幻視する強烈な純文学短篇。


『夜の記憶』(貴志祐介)

 「信じられるだろうか。人間であったということ。音を聞き、光を見、二本の足で歩み、掌で物に触れるということ。あれは何という豪奢で贅沢な経験だったことか」(文庫版p.204)

 異星の海洋生物の視点から語られる冒険譚と、リゾート地でくつろいでいる男女の話が、交互に語られます。後半になって二つのパートがつながってゆくところがキモ。しかし、読み所はむしろ奇怪生物や異様生態系の描写にあり、その手際はさすが『新世界より』の作者。


『幽かな効能、機能・効果・検出』(神林長平)

 「それがなにかの役に立つ機械なのか、それとも機械に見えるだけの言ってみれば芸術作品なのか、おれたちにはわからなかった。そのような人間的な感覚を超えた想像もつかない物体なのだとなるとお手上げだが、おれたちは手を上げるためにそいつを手に入れたのではなかった」(文庫版p.207)

 異星人の遺跡から謎めいた物体を盗掘したジェイク&コーパスの二人組。さて、これは道具なのか、芸術作品なのか。そもそも異星人の遺物を前にその区別に意味はあるのか。あるとしても検証可能なのか。切実なのに浮世離れしてる、現実的なのに哲学領域にある、そんな議論を二人であーだこーだ延々とやるという、いかにも作者らしいユーモラスな一編。


『時間旅行はあなたの健康を損なうおそれがあります』(吾妻ひでお)

 「めしも食えんのにSFなんか読んでられっか! でもハインラインは読む」「ハインライン恐るべし」「○○なんてつまんねーー」「SFじゃねーよ」「こーゆースレたファンがSFを孤立化させてったのか」(文庫版p.240)

 早川書房からの依頼でタイムトラベルした吾妻ひでおが、自分の若い頃のSF人生を冷静に観察する。健康を損なうおそれがあるのは、時間旅行よりむしろSFですね。


『素数の呼び声』(野尻抱介)

 「このコンタクトで得た教訓はなんだろう」「『知性は寝て待て』ですか」「うむ……」(文庫版p.270)

 とある恒星系から、素数周期で発信されている電波源が見つかる。博士と美人助手はさっそく宇宙船に乗ってファーストコンタクトに向かったが……。軽快なノリで展開するユーモアハードSF。素数信号は知性の存在を意味するか、というメインアイデアに加えて、ラスト近くにおまけのように大ネタをいくつも出してくる贅沢な一編。


『海原の用心棒』(秋山瑞人)

 「他の誰が逃げようとも、わしだけは逃げてはいけないのだ。レッドレインと共に戦おう。(中略)レッドレインに命運を救われた“金切り声”一族(スクリーム・クラン)は四十二番群の最後の郎党として、その戦いを最後まで見届けよう。それが、わしの戦いだ。疾眼(スピードアイ)の戦いだ。待ってろ、相棒」(文庫版p.386)

 ならず者の四兄弟に襲われ壊滅した集落。生き延びた少年が出会ったのは流れ者のガンマン、レッドレインだった。圧倒的な強さを誇る四兄弟に敢然と戦いを挑み、一人また一人と倒してゆくレッドレイン。だが弟たちを殺され復讐心に燃える最強の長兄は、レッドレインに最後の決闘を挑む。果たして生き残るのはどちらか。その戦いを見届けるために、少年は命をかけた。

 西部劇調のプロットおよびタイトルから『荒野の用心棒』を連想しますが、むしろ『北斗の拳』に近いかも。ちなみに登場人物はすべてクジラと潜水艦。舞台は海。銃は魚雷です。


『さいたまチェーンソー少女』(桜坂洋)

 「いまのわたしにとってチェーンソーは、わたしのすべて、わたしの全存在。チェーンソーがあるからわたしがある。人間がなにかの目的を持って生まれてきたのであるなら、ぶった斬ることがわたしの目的だ」(文庫版p.448)

 失恋した少女が、元カレを殺して自分も死のうと思い詰める。今は亡きテキサス人の祖父が誕生日プレゼントにくれた巨大チェーンソーを振りかざし、学校の先生をぶった斬り、クラスメイトをぶった斬り、ついに親友までも真っ二つ。「わたしの前に道はない。わたしの後ろに血の海ができる」(文庫版p.443)。血塗られた恋路を歩む少女の前に立ちはだかるのは宇宙人の手先。だが、少女は負けない。「わたしの一族は百四十年もチェーンソーを使いつづけてきたのだ」(文庫版p.439)。唸れ、チェーンソー。戦え、さいたまチェーンソー少女。元カレをぶった斬るそのときまで。

 色々な意味で暴走している、『テキサス・チェーンソー』よりずっと面白い話。『All You Need Is Kill』に続いてハリウッド映画化が望まれる傑作。


『Four Seasons 3.25』(円城塔)

 「有限の記述で抑え込める無限などはせいぜい高が知れている。事実上、無限の前の塵に等しい。おれたちの宇宙はそんなちんけなものではなくて、想像を超えた無限の塵から成り立っている。方程式が抑えることができるのは、ほんのわずかな書き記すことのできる程度の確定記述だ。確定記述同士の間、刹那と刹那の間には、像の群れが大手を振って通り過ぎることができるほどの隙間が巨大な口を開けている」(文庫版p.476)

 市役所の窓口で時間を逆行する申請を行った男。すべての民意を叶えるというのが市長の公約で、公約であるからには実現されるのだ。『順列都市』(グレッグ・イーガン)に登場する「塵理論」を、さらに拡大したと思しき「隙間理論」を扱った作品。記述と記述の間、描写されてない隙間を利用したタイムトラベルが論じられます。どうしようもなく円城塔。


[収録作品]

『緑の果て』(手塚治虫)
『虎は暗闇より』(平井和正)
『インサイド・SFワールド--この愛すべきSF作家たち(下)』(伊藤典夫)
『セクサロイド in THE DINOSAUR ZONE』(松本零士)
『上下左右』(筒井康隆)
『カラッポがいっぱいの世界』(鈴木いづみ)
『夜の記憶』(貴志祐介)
『幽かな効能、機能・効果・検出』(神林長平)
『時間旅行はあなたの健康を損なうおそれがあります』(吾妻ひでお)
『素数の呼び声』(野尻抱介)
『海原の用心棒』(秋山瑞人)
『さいたまチェーンソー少女』(桜坂洋)
『Four Seasons 3.25』(円城塔)


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『SFマガジン700【海外篇】 創刊700号記念アンソロジー』(山岸真:編) [読書(SF)]

 「“眠っていた秀作”であることに違いはないが、SF史、日本SF史、翻訳SF史、〈SFマガジン〉史に欠かせない巨匠から新鋭までの超有名作家ばかりを選んだ」(文庫版p.460)

 SFマガジン創刊700号を記念して発行されたアンソロジー、その【海外篇】です。


『遭難者』(アーサー・C・クラーク)

 「すでにはるかな高みに到達した今も、上昇速度は落ちる気配がなかった。地平の視界がおよそ五万マイルに及ぶと、下方にひろがる大黒点の全貌が見えはじめた。彼には、目も、それに類する視覚器官もなかったが、からだをつきぬけていく輻射線のパターンによって、身もすくむような眼下の光景を知ることができるのだった」(文庫版p.10)

 太陽フレアによるコロナ質量放出により宇宙空間に放り出されてしまったプラズマ生命体が、まっすぐに地球に向かう。果たして人類は、その存在に気づくことが出来るのか。太陽系内ファーストコンタクトを扱った古典的傑作。


『危険の報酬』(ロバート・シェクリイ)

 「あのもの静かで、礼儀正しく、法を遵守する人々は、おれに逃げてほしくないのだ、とレイダーは悲しい気持ちに襲われた。彼らは殺しが見たいのだ」(文庫版p.48)

 多数の追手から必死に逃げ回っている平凡な男。彼が出演しているのはTVの殺人ゲーム番組。制限時間いっぱい逃げ切れなければ、本気で殺されるのだ。視聴者の皆さんは、善良なる大衆は、彼の逃亡を助けるという設定だったが、実際には大違いだった……。

 いわゆる「リアリティ番組」を予見した作品。これが1950年代に書かれたというのも凄いのですが、その風刺も古びていません。そして何より、今読んでもサスペンス小説として抜群に面白い。


『夜明けとともに霧は沈み』(ジョージ・R・R・マーティン)

 「人が必要としているのは知識だけなのか? そうは思わんね。人には神秘も必要なんだ。詩情も、ロマンも。思索と驚異を経験するためには、答えの出ていない謎も多少はあったほうがいい」(文庫版p.96)

 霧に包まれた惑星。その霧のなかには魑魅と呼ばれる謎めいた怪物が住んでおり、迷い込んだ人々を殺してしまうという。観光客はそのロマンに惹かれてこの星にやってくるが、あるとき大規模な科学調査団が魑魅の正体を暴こうとする。

 いわゆるUMAを扱った作品。超常現象に神秘とロマンを求めるか、謎解きと合理的説明を求めるか、その対立がドラマの軸となります。しかし何と言っても本作の読み所は、異星の風景描写の素晴らしさでしょう。


『ホール・マン』(ラリイ・ニーヴン)

 「あの機械の中には、おそろしい密度と質量をもった何かがはいっている。そいつを支えておくには、とてつもない莫大な強さの場が必要だ」(文庫版p.113)

 異星人が残した基地を調査するうちに、重力波通信機を発見した科学者。その中には量子ブラックホールが入っていると言い張ったことで仲間から馬鹿にされ、プライドを傷つけられた彼がとった行動とは。

 アシモフの『反重力ビリヤード』みたいな展開になるハードSF。原子核よりも小さい量子ブラックホールという発表当時(1973年)最新のネタを扱ったものの、翌年にホーキング放射(ブラックホールの蒸発)が発見され、ハードSFとしてはいきなり古びてしまったのはお気の毒。


『江戸の花』(ブルース・スターリング)

 「おまえに、おまえたち日本人に、おれのために働いてもらいたい。おれをうけいれて自分たちのものにしてしまえば、おまえたちのほうが不器用な外人よりうまくやれるぜ。おまえたちみんなを金持ちにしてやるぞ。江戸は世界一の都会になるのさ」(文庫版p.172)

 文明開化に湧く明治初期の東京を舞台としたサイバーパンク。急激なテクノロジーの流入により社会と人間が容赦なく激しく変化してゆく様をブルース・スターリングが書いたらそれは誰が何と言おうとサイバーパンク、ということで納得する他はありません。


『いっしょに生きよう』(ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア)

 「この生き物の心には何かを希う気持が長いあいだ強く働いており、それがわたしの思いとよく似ているのだ。倒木の壁がなくなってほしいとわたしがいつも願っているように、これも何かを求めている」(文庫版p.180)

 異星に着陸した探検隊が遭遇したのは、テレパシー能力を持った植物のようなエイリアンだった。妻を失って悲嘆にくれていた隊員は、そのエイリアンに不思議な共感を覚える。ファーストコンタクトSFとロマンス小説を合体させたような短篇。


『耳を澄まして』(イアン・マクドナルド)

 「人類が宇宙に進出し、いままでにだれも想像したことのないほど途方もないものを経験したり、理解しなければならない領域に踏み入る場合、人の意識、知覚は、そこに見出すものを包容できるように変えられなければならない」(文庫版p.254)

 暴走したナノマシンによる疫病が猛威を振るっている世界で、疫病を生き延びた少年が隔離された孤島に送られてくる。孤島に住んでいるただ一人の住人である修道士は、少年を見守り、その様子に耳を澄ませ、来るべきものに備えるのだった。

 静かな隔離病棟ものかと思わせておいて、堂々たるポストヒューマンSFへと展開してゆく作品。クラークの『幼年期の終わり』を連想させる雰囲気もあります。


『対称』(グレッグ・イーガン)

 「ビッグバンの温度では、四つの力のあいだの対称性が復活する……でも、その上にもう一段階ある。非常な高温では、四つの次元すべてが等価になるだけのエネルギーを、時空それ自体が吸収する」(文庫版p.277)

 モノポール衝突実験で作り出される高エネルギーにより超対称性理論を検証していた粒子加速器で事故が発生。調査に向かったグループも消息を絶ってしまう。第二次調査団がそこで目撃したものは、時空そのものが変容した姿だった。

 ビッグバンの前には時間と空間の「対称性のやぶれ」が起きておらず全ての次元が等価だった、というアイデアを元にした、がちがちのハードSF。対称性次元と、それが再凍結したエキゾチック時空間の描写に息を飲みます。


『孤独』(アーシュラ・K・ル・グィン)

 「母はしだいに理解するようになった。成人の女は他人の家に入らず、たがいに話をしあうこともなく、男と女はほんの短い気まぐれな関係をしばしば結ぶだけで、男は生涯孤独な生活を送るのだが、それでもある種のコミュニティは存在するということ、繊細で確かな意図と抑制、つまり社会的な規律をもつ薄く広い見事なネットワークが存在することを」(文庫版p.327)

 ある惑星のロストコロニーを調査している文化人類学者。彼女にとってその社会は貧しい原始的なものだったが、そこで暮らし学んでいる幼い娘にとっては、それはきわめて自然で豊かな社会と文化だった。調査期間が終わり、娘は母と共に人類文明へと帰還する。だが、「故郷」から引き離され、異質で馴染めない文化への同調圧力をかけられ続ける生活に、娘は次第に衰弱してゆく。

 人類学テーマSFの大傑作。展開は『アルプスの少女ハイジ』(ヨハンナ・シュピリ)ですが、登場する架空の異星文化に説得力があり、また人類文明(つまり西洋白人文化)との文化摩擦に苦しむ姿には、強い共感を覚えます。著者の幼少期が重ねられていることもあり、本書収録作のうち個人的に最も感動した一編。


『ポータルズ・ノンストップ』(コニー・ウィリス)

 「いま見学したキャビンと、一冊のパルプ雑誌と、ありあまる想像力から、すべてがはじまったのです」(文庫版p.388)

 何も面白みのない田舎町にやってくる不可解なツアー団体。彼らはどうやらSF作家ジャック・ウィリアムスンを崇拝しているらしいのだが……。米国SF界のグランドマスターを賛美しまくる、ファンがファンのために書いた一編。


『小さき供物』(パオロ・バチガルピ)

 「わたしは容器を持ち上げ、投入口にあてる。胎児は吸いこまれて焼却炉へ消える。母親の化学物質をたっぷりかかえて。これは供物だ。次の子に未来をあたえるための、血と肉と人間性の柔らかな犠牲」(文庫版p.422)

 環境汚染により奇形や重度障害を抱えた子供ばかりが生まれるようになった時代。その対策として開発された生殖技術が、妊婦たちに厳しい倫理的葛藤を突きつける。アイデアとしては先行作品がありますが(例えば津原泰水さん)、『第六ポンプ』など同作者の他作品と共鳴することで奥行きが増してくる傑作。


『息吹』(テッド・チャン)

 「あなたがたの命も、われわれの命とおなじように終わる。万人の命が必ずそうなる。どんなに長くかかるとしても、いつかはすべてが平衡状態に達する。願わくば、そのことを知って悲しまないでほしい。願わくば、あなたがたの探検の動機が、たんに貯蔵庫として使える他の宇宙を探すことだけでなく、知識への欲求、宇宙の息吹からなにが生まれるかを知りたいという切望であってほしい」(文庫版p.450)

 局所的にエントロピーを減少させることで持続する生命、そして最終的に不可避な宇宙の熱的死(ヒートデス)。この概念をものすごく拡大して、とんでもない原理で活動し思考する知的生命たちの思索を描いた作品。基本的にバカSFなんですが、それを感動的に読ませてしまうところが凄い。


[収録作品]

『遭難者』(アーサー・C・クラーク)
『危険の報酬』(ロバート・シェクリイ)
『夜明けとともに霧は沈み』(ジョージ・R・R・マーティン)
『ホール・マン』(ラリイ・ニーヴン)
『江戸の花』(ブルース・スターリング)
『いっしょに生きよう』(ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア)
『耳を澄まして』(イアン・マクドナルド)
『対称』(グレッグ・イーガン)
『孤独』(アーシュラ・K・ル・グィン)
『ポータルズ・ノンストップ』(コニー・ウィリス)
『小さき供物』(パオロ・バチガルピ)
『息吹』(テッド・チャン)


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『SFマガジン2014年7月号 創刊700号記念特大号』(グレッグ・イーガン) [読書(SF)]

 SFマガジン2014年7月号は、『創刊700号記念特大号』ということでこれまでの記事を抜粋して歴史を振り返るとともに、谷甲州とグレッグ・イーガンの新作を掲載してくれました。


『サラゴッサ・マーケット』(谷甲州)

 「外惑星連合が保有した唯一の正規フリゲート艦で、巡洋艦とも称すべき機能を有していた。だが、回収するのは容易ではない。(中略)サラマンダーは毎秒数百キロの高速に達していた。太陽系を離れて、天頂方向に飛翔していたのだ」(SFマガジン2014年7月号p.249)

 アンダーグラウンドなビジネスの拠点として知られている、土星の衛星イアペトゥスにあるサラゴッサ・マーケット。そこに店を構えているサルベージ業者に舞い込んできたのは、外惑星動乱時に失われた巡洋艦サラマンダーの回収、という驚くべき依頼だった。

 第1次外惑星動乱終結後を舞台とした新・航空宇宙軍史、その第3話。


『端役』(グレッグ・イーガン、山岸真:翻訳)

 「あなたは〈大災厄〉を忘れたというの?(中略)重力が横むきになったときのこと。重力がわたしたちを地球の中心にむけて引っぱるのをやめて、そのかわりに東に引っぱるようになったとき」(SFマガジン2014年7月号p.346)

 すべてが横倒しになり、東が「下」になった世界。人々が暮らしている洞窟の出口からは、大地が「上下」に広がっている。いったい物理法則はどうなってしまったのか。

 洞窟の中で物理法則を探求する話なので、また『白熱光』かと思いきや、意外にも『クリスタルの夜』へと向かう、イーガン待望の新作。


[掲載作品]

『サラゴッサ・マーケット』(谷甲州)
『端役』(グレッグ・イーガン、山岸真:翻訳)


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『ひまわり』(構成・振付:近藤良平、コンドルズ) [ダンス]

 「この劇場で最も長く上演されているのはシェークスピア、16年。二番目はコンドルズ、8年。何かが間違っています」

 2014年5月25日は、夫婦で彩の国さいたま芸術劇場に行って、近藤良平率いる大人気ダンスカンパニー「コンドルズ」の新作公演を鑑賞しました。

 彩の国さいたま芸術劇場開館20周年記念公演ということですが、もちろん、いつも通りのコンドルズ。ギャグ、芝居、影絵、人形劇(というか楽屋ネタ)、映像、もちろんダンス。あらゆるネタを次々と放り投げては回収しないで次いってしまう勢いに満ちた鉄板安定の楽しさ100分。

 今回は何と言ってもラストが凄い。

 狂躁的でかっちょいい最後の群舞が終わり、静寂と薄暗がりのなか、舞台上にひとり残った近藤良平さん。そして、無音のまま、思わず息をのむような凄いソロダンスを踊ります。

 やがてそれも終わり、コンドルズのメンバーたちが舞台上に再登場してきて、観客も夢から覚めたような気持ちで「さあ、軽快なエンディングだ」と思うわけですが、ここから意表をついて、怒濤のひまわり演出が始まるのです。

 さいたま芸術劇場大ホールの大仕掛けを駆使して、観客の目の前で舞台大転換、消えるコンドルズ、出現するひまわり畑。夕日を思わせる照明。一面のひまわりの中、再び踊り始める近藤良平さん。すごい。虚を衝かれて、ぐっときます。じわっときます。泣ける。


タグ:近藤良平
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『銀色テンポラルの中で鳴く/MAKE IT futten』(東京ELECTROCK STAIRS Vol.9、振付・音楽:KENTARO!!) [ダンス]

 「KENTARO!!が、くぼみの中から、仲間にして欲しそうにこちらを見ている」

 2014年5月24日は、夫婦で東京芸術劇場シアターイーストに行って、KENTARO!!率いる東京ELECTROCK STAIRSの新作公演を鑑賞しました。

 5名の女性ダンサーが踊る『銀色テンポラルの中で鳴く』と、KENTARO!!がソロで踊る『MAKE IT futten』の二本立て公演です。上演時間はそれぞれ60分と50分。間に10分間の休憩が入ります。

 どちらもヒップホップをベースにしているものの、何というか、予想外の動きが次々と繰り出されてくる独創的なダンス作品です。KENTARO!!が振付と音楽の両方を担当していることもあって、音楽と動きの一体感がすごく心地よい。

 KENTARO!!のソロは割と静かな雰囲気で悪くないのですが、個人的には、東京ELECTROCK STAIRSの女性ダンサー5名によるパワフルなダンスに圧倒されました。ヒップホップ中心に色々と繰り出してひたすら踊ります。とにかく体力すげえ。

 小芝居やら歌やら色々とやらされたり(激しいダンスの直後ときには途中に歌わせる鬼振付もあってお気の毒)、順番にソロで踊ったり、全員でどわーっと踊るシーンもありますが、印象的なのはやはり2名+3名に分かれての強烈なダンス。

 同じ振付を二人あるいは三人で踊っても、それぞれのダンスから個性の違いが強く感じられるところが面白く、みんなそれぞれに「自分のダンス」を勢いに乗ってぐいぐい押し出してきます。盛り上がる。

 あくまで個人的な印象ですが、高橋萌登さんの動きには格別にシビれるものを感じました。パワー、スピード、テクニック。激しい動きの前後最中でも常に軸がしっかり決まっている感じというか、高速回転ですっと立っているコマのような、その安定感と躍動感、あとヤバイ感、これがもう脳天直撃で、観ているだけで気力体力消耗しそうなイキオイ。素敵だと思います。

[キャスト]

『銀色テンポラルの中で鳴く』

振付・音楽: KENTARO!!
出演: 横山彰乃、高橋萌登、服部未来、泊麻衣子、田代理絵

『MAKE IT futten』
振付・音楽・出演: KENTARO!!


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