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『SFマガジン2014年9月号 夏の必読SFガイド+α/ダニエル・キイス追悼』 [読書(SF)]

 SFマガジン2014年9月号の特集は、SFガイドとダニエル・キイス追悼でした。また、アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』の外伝ノベライズ〈後篇〉、および籘真千歳さんのシリーズ読み切り短篇が掲載されました。


『PSYCHO-PASS LEGEND 無窮花(ムグンファ)〈後篇〉』(吉上亮)

 「この社会を管理する女神は、何かが致命的に狂っている。どいつもこいつも狂ってるんだ。この社会の正気は、俺たち〈外〉の人間にとっての狂気だ。そして俺たちの正気は、この社会では狂気なんだ」(SFマガジン2014年9月号p.96)

 故国を失い日本に潜伏したチェ・グソン。彼には、美しき仮想空間〈無窮花〉に接続され歌姫として活躍する妹スソンの生命を維持するために大金が必要だった。

 その金を稼ぐため、シビュラシステムの管理から逃れようとする犯罪者たちの手引きという危険な仕事を続けるうちに、グソンは槙島聖護や王陵璃華子たちと出会う。

 順調にも思えた稼業だったが、やがて破局がおとずれる。すべてに裏切られ絶望の底に沈むグソンに救いの手を差し伸べたのは、槙島聖護その人だった……。

 アニメ本編の背景世界や登場人物に、ティプトリー『接続された女』やギブスンっぽさをぶち込んだ、『PSYCHO-PASS サイコパス』外伝チェ・グソン篇、完結。


『θ(シータ)11番ホームの妖精 本と機雷とコンピューターの流儀』(籘真千歳)

 「ここは東京上空2200メートル。地図には存在しない、幻の東京駅11番ホーム。出会いと別れの交差する場所(ターミナル)です----」(SFマガジン2014年9月号p.96)

 幻の東京駅11番ホームに勤務する少女が、本社からの指示に従って駅管理システム一斉更新のために手動でディスク入れ替え作業をしていたとき、システム全体が強力なサイバー攻撃に見舞われる。サイボーグ犬の義経が不在のため、少女は高度人工知能のアリスと共にこの非常事態に対処するはめに。シリーズ読み切り短篇。


[掲載作品]

『PSYCHO-PASS LEGEND 無窮花(ムグンファ)〈後篇〉』(吉上亮)
『θ(シータ)11番ホームの妖精 本と機雷とコンピューターの流儀』(籘真千歳)


タグ:SFマガジン
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『生物に学ぶイノベーション 進化38億年の超技術』(赤池学) [読書(サイエンス)]

 「ここ数年、科学者たちの間で、新たに注目されている領域がある。(中略)生物の形態や機能、仕組みなどを上手に模倣、あるいは活用した科学技術の開発である。こうした科学技術は、一般的に「生物模倣技術」と呼ばれている」(新書版p.14)

 生物が進化によって獲得してきた能力を模倣して開発された科学技術、バイオミミクリー(生物模倣)。その最前線を一般向けに紹介した一冊。新書版(NHK出版)出版は2014年7月です。

 「生存競争の中で生き残ってきた生物と、市場競争の中で勝ち残ってきた技術の間に、明らかな共通点がある(中略)そもそも生物の持つ技術とは、38億年という生物進化の過程で、安全性と機能性、そしてその有効性と持続性が証明されてきた「時を経た技術」にほかならない」(新書版p.3、6)

 こうした生物模倣技術の全体像を広く紹介する本です。

 全体は五つの章から構成されています。最初の「第一章 生物の形をまねる」では、生物の形態に注目し、それを模倣して開発された技術が紹介されます。

 「従来の方法論を覆し、スポーツ水着の新時代を開いたのが、2000年のシドニーオリンピックに向けて、ミズノとSPEEDO社が共同開発して発表した「ファーストスキン」だった。いわゆる「サメ肌水着」である。結果、競泳種目出場選手の6割がこの水着を着用し、それらの選手だけでメダル総数151個のうち、なんと100個のメダルを獲得した」(新書版p.40)

 硬骨魚類の体表にある微細な突起と溝が作り出す極小渦が、水の摩擦抵抗を抑える。生物が進化によって獲得してきた「早く泳ぐための形」を取り入れたのです。他にも、ハコフグの形状を模倣して開発された自動車は、同種の車と比べて空気抵抗係数を1.6倍、燃費を20パーセントも向上させたといいます。

 ハムシが水中歩行するメカニズムを応用した水中接着技術。光によって表面微細構造を制御できる機能膜を使って、バラの花びらやハスの葉の超撥水効果を再現。カタツムリの殻に汚れがつかない理由である「ナノ親水」作用を実現した防汚建材。トンボの飛行原理を応用した、低風量で発電できるマイクロ風力発電機やエアコンの送風機。

 まだまだ続きます。ネコの毛繕いと毛玉吐きにヒントを得たサイクロン掃除機、タマムシの翅がもつ微細構造を応用して開発されたカラーフィルム、光を効率的に集めると同時に無反射というガの眼の特性を再現したモスアイパネル。

 「トンボは昆虫の中で最も低速で滑空できる生物である。このことは、たとえごくわずかな風しか吹いてなかったとしても、それを浮力に変えられることを意味する。これは、航空機の翼とまったく逆の性質である。高速化や高出力化を目指して進歩してきた近代社会に対し、自然界には逆の、高速では使えないが、低速では高性能を発揮するテクノロジーが存在していたのである」(新書版p.56)

 「私たちヒトは、メートルサイズの生物である。私たちの身の回りにはさまざまなものがあふれているが、それらはすべてこのメートルサイズを基本として開発され、調整されたものだ。(中略)サイズの小さな生物や、逆にサイズが大きな生物たちは、私たちとはまったく異なる世界で生きているのである。こうした生物世界のリアリティを理解することは、私たちに必ずや新しい視座や尺度を与えてくれるだろう」(新書版p.69)

 単純に「生物の真似をする」というだけでなく、原理的なレベルにまで踏み込んだ洞察を行い、その結果として、いわば思想として新しいテクノロジー領域を切り開く。生物模倣が持っている可能性に目がくらむ思いです。

 「第二章 生物の仕組みを利用する」では、生物の身体が持っている機能に着目して開発された技術が紹介されます。

 ザゼンソウが持っている発熱システムを応用した温度調節計。ホタルの発光メカニズムを使った食品衛生検査用の微生物測定システム。ネムリユスリカの仮死化(クリプトビオシス)能力を応用した臓器や血小板などの常温保存技術。魚類やハチなどの群れが自律制御されるアルゴリズムを使った自動車の自動運転システム。

 そしてもちろん、生物を模倣した様々なロボット技術も開発されています。昆虫の脚や翅の分散制御を応用した昆虫型ロボット、アメーバのように変形しながら動くモジュラーロボット、ヘビの移動方式を応用したヘビ型ロボットなど。共通する特徴は、中央制御方式ではなく、構成ユニットがそれぞれ自律的・適応的・シンプルな判断で動作し、全体として調和のとれた動きが実現されるということ。

 「多数の粗雑なものをうまく束ねることで全体としては、元の粗雑さからは想像もできないような優れた機能を発揮するという生物の設計原理があり、その辺りのカラクリが自立分散制御の鍵なのではないか」(新書版p.104)

 予測不能な環境変化や状況変化に対しても柔軟に対応し、最適化や効率化よりも「とにかく生き延びる」ことに成功してきた生物。そこから学ぶことで、全く新しい発想の技術が生まれてくるのです。わくわくします。

 「第三章 生物がつくったものを活用する」および「第四章 生物そのものを扱う」では、生物由来の物質などの利用について紹介されます。

 「人工的につくったガン細胞の中に、モズク由来のフコイダンを入れると、24時間後にはほとんどのガン細胞が死滅するのである。これは、フコイダンがガン細胞の自殺遺伝子にスイッチを入れる「アポトーシス」を起こさせるためだと考えられている。(中略)ただし、抗ガン剤に匹敵するといわれるフコイダンの生理活性効果の詳細なメカニズムはいまだ解明されていない」(新書版p.118、119)

 薬学・医療の分野では、他にもカブトムシの幼虫から作られる「耐性菌を生まない抗生物質」、ヤママユガの幼虫から作られる「ガン細胞を休眠させ増殖を止める物質」などの画期的な新薬の研究開発状況が紹介されており、胸が躍ります。

 「すでにミドリムシから抽出したバイオ燃料を混合した燃料で、いくつかの航空会社が、テストフライトを実施している。2020年頃には、ジェット燃料の代替として、本格的に導入が開始される予定だ」(新書版p.150)

 他にも、ハエや幼虫を利用したリサイクルシステムから、海水で農作物を育てる海上農業システムまで、様々な技術が紹介されています。

 「第五章 生態系に寄り添う」は、さらに一段階レベルの高い生物模倣、つまり生態系そのものを維持する仕組みに学んだ技術が紹介されます。

 土砂崩れを防ぎながら自然環境や景観を保全するノンフレーム工法。生物多様性維持と生活の両立を目指すゼロエミッションハウス。

 「自然界は、自立性、多様性を維持したまま、見事に調和している。ここから得られるヒントは、ものづくりにとどまらず、これから望まれる持続可能な農業や、まちづくり、社会システムに対しても、必ずや大いなるイノベーションをもたらすはずである」(新書版p.174)

 そして最後には、技術そのものではなく、技術を育ててゆくやり方そのものを生物進化から学ぶ、というテーマにまで到達します。

 「ここ最近、最先端技術関連の展示会に行くと、完成した商品ではなく未完成のシステムやコンセプト技術のみを展示・解説するブースが目立っている。そこでクライアントとの要望のすり合わせが行なわれ、初めて商品化というアクションが起こされる。つまり、限られた素材やラインで、ベースとなる未完成品をつくっておき、集団や社会の中で、よりよいものへと仕上げていくのだ」(新書版p.207)

 というわけで、生物模倣技術の数々を紹介しつつ、技術開発の新しい方向性を力強くアピールする一冊です。進化が磨いてきた様々な能力、人間が考えた工学とはまったく異なる原理で動作している生き物、多種多様な種が共存し調和している生態系など、まだまだ私たちがそこから学び、これまでとは違った方法論や基本原理にもとづいて技術を発展させてゆく余地は十分にあるのだ、ということがよく分かります。


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『信じられない現実の大図鑑』(ドーリング・キンダースリー:著・編集、増田まもる:監修、翻訳) [読書(サイエンス)]

 木星のなかに地球をぎっしり詰め込んでみる。サハラ砂漠の砂丘のなかにエッフェル塔を埋めてみる。人間が一生で吐く息を気球に詰めて浮かべてみる。ヒッコリー松の幹に人類史年表を書き込んでみる。

 様々なデータを美しいビジュアルで表現した、驚きに満ちたサイエンス図鑑。単行本(東京書籍)出版は2014年7月です。

 私たちは月について、少なくともその外見とサイズについて、よく知っていると思っています。では、おなじみのオーストラリア大陸の直上に月を浮かべてみたら、どんな光景になるか想像できますか。

 ちょっと調べれば、月の直径がオーストラリア大陸の東西幅よりも小さいことはすぐに分かります。しかし、「実際に」オーストラリア大陸の上に浮いているリアルな月の絵を見ると、驚きと感動を禁じ得ません。すごい、絵の力って凄い。

 こんな具合に、そのままでは無味乾燥なデータを、なじみ深いものと並べて描くことで、直観的に理解できるようにした図鑑です。全体は四つの章から構成されています。

 最初の「地球から飛び出す」では、宇宙に関する様々なデータをビジュアル化します。

 太陽の前にずらりと地球を並べる(太陽の直径は、地球を109個並べたものに等しい)、木星の中に地球を詰め込む(木星の体積は地球1320個分)、小惑星ベスタをフロリダ半島の上に浮かべてみる(フロリダ半島に向けて小惑星が落下しつつある光景にも見える)、火星のマリネリス峡谷を北アメリカ大陸の上に刻んでみる(大陸は南北に分断される)、おおいぬ座VYと太陽を正しい縮尺で並べてみる(赤色超巨星VYの直径は太陽の1400倍、無理があった)、無人探査機の「現在位置」を、地球を起点とする物差しの上に並べてみる。

 続いて「驚くべき地球」では、山や河、海についてのデータをビジュル化します。

 北アメリカ五大湖とシベリアのバイカル湖を並べてみる(五大湖をすべて合わせてもバイカル湖を満たすことは出来ない)、ビッグ・ベンとエッフェル塔を位置関係を保ったままアマゾン河の河口に置いてみる(河口の広さはロンドン・パリ間の距離に匹敵する)、ナイアガラの滝の下にオリンピック競泳用プールを置いてみる(一秒間で満杯になる)、クルーベラ洞窟の中にエッフェル塔を入れてみる(地底から地表まで七つ積み重ねられる)、アイランドパーク・カルデラ(火口)に東京都を入れてみる(すっぽり入る)、最長の天然水晶の横に観光バスを並べてみる(同じくらいのサイズ)、最大の氷山の上にベルギーを置いてみる(その逆でないところが凄い)。

 世界中の水を集めてアフリカ大陸の上に置いてみる(サハラ砂漠よりずっと小さい水玉にしかならない)、地球上のすべての氷がとけたら海面はどれだけ上昇するか(自由の女神像は腰まで海につかる)、といったビジュアルも衝撃的ですが、満員のローズボール・スタジアム800個が並んでいる光景のインパクトが凄い。これは、黒死病による死者の数をビジュアル化したものです。もう一つ、8000人の大群衆が集まっている光景。世界人口は一時間でこれだけ増えています。これは一時間ごとにジェット旅客機23機が到着して次々と旅客を降ろしていることに匹敵するのです。

 「人類とあらゆる生物」では生き物に関するデータ、「ここまできている先端技術」ではテクノロジーに関するデータが、それぞれ同様にビジュアル化されます。

 というわけで、ページをめくるたびに驚きを覚える驚異の一冊です。全ページフルカラーで、眺めているだけでも美しい。図鑑好きの子供なら何度も何度も見直して飽きることがないでしょう。大人が見ても様々な発見があります。夏休みに親子で一緒に楽しむ一冊としてお勧めです。


タグ:絵本
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『いる?いない?のひみつ(学研まんが新ひみつシリーズ39)』(並木伸一郎:監修、こざきゆう:構成、おがたたかはる:まんが) [読書(オカルト)]

 「この地球上にはわれわれ人類がまだ見たこともない生き物がうじゃうじゃいるんだよ。いっぽう、UFOの正体もなかなかの謎だ!」

 未確認研究所を訪れた悠真(ゆーま)君と優帆(ゆーほ)さんの前に現れたのは、架来未知太朗と名乗る謎のアフロ博士。三人は世界中を飛び回ってUMAとUFOの謎を探ることになったのでした。学研の老舗学習漫画、新ひみつシリーズ最新刊。単行本(学研教育出版)出版は2014年7月です。

 旧シリーズを含めて40年以上も発行され続け、累計2000万部以上の販売実績をほこる学研の老舗学習漫画、新ひみつシリーズ。その最新刊は、夏休みを意識してか、未知動物UMAと未確認飛行物体UFOがテーマです。

 「UMAもUFOも、われわれにその姿をほんの少し見せることがある。それらの痕跡をたんねんに拾い集め、正体を明らかにしていくことが、わたしの使命なのだよ!」

 悠真君、優帆さん、架来未知太朗博士の三人が、世界中の有名なUMAとUFOを見てゆきます。そもそも、宇宙人のひみつを教えてあげよう、とかいう怪しいおじさんに子供たちがほいほい付いて行くという展開は学習漫画として問題ないのか、という気もしますが、これは「ひみつシリーズ」から続く伝統なので大丈夫。

 紹介されているUMAは、ビッグフット、ネッシー、イエティ、シーサーペント、チュパカブラ、ローペン、ビッグバード、ノモス、スカンクエイプ、ヨーウィ、ニューネッシー、チャンプ、グロブスター、ツチノコ、カッパ、クッシー。

 UFO事件は、アーノルド事件、ロズウェル事件、ベルギーのUFOフラップ、甲府事件、ヒル夫妻事件、宇宙飛行士が目撃したUFO。あと周辺ネタとして、ツングースカ大爆発、いわゆるオーパーツ(ナスカの地上絵、黄金ジェット、遮光器土偶、タッシリナジュールの宇宙人壁画、パレンケの宇宙飛行士、サラマンカの宇宙飛行士、チブサン古墳)が紹介されています。

 とりあえず小学生なら知っておきたいネタは揃っていますね。

 監修は並木伸一郎さんということもあり、フライング・サーペント、アルプ、南極のニンゲン、インカニヤンバ、ブルードッグ、ドローンズ、髪の毛座UFO、広東省のメカUFO、河北省のピラミッド形UFOなど、いや小学生は知らなくてもいいんじゃないかなと思えるマニアックなカラー写真も満載。

 あなどれないのが「まめちしき」のコーナー。大人でも意外に知らない豆知識が載っていたりします。

「フリーマンがビッグフットとそうぐうした事件は、ワラワラ事件とよばれている」

「ボストン応用科学アカデミー調査団が水中カメラで撮影した写真は、全部で2000枚もある」

「1954年、イタリアで農婦が持っていた花束を身長1mほどの宇宙人にうばわれる事件が起きた」

「カッパの正体について、「グレイ」という宇宙人だとする説もある」

「UMAの死体が発見されることもあるが、研究調査しようとすると、何者かに持ち去られる場合が多い」

 微妙に学研『ムー』読者を想定した内輪受けっぽい記述も含みながら、本文では触れられなかった他の事件についても一行で紹介してくれます。学研としても、将来の『ムー』読者を確保するために懸命に努力しているようです。

 というわけで、今の小学生たちは妖怪妖怪と騒がしいようですが、UMA、UFO、オーパーツといった古典教養を知ってオカルト好きの伝統を受け継いでいってもらいたいものだと思います。

 身近に小学生のお子様がいる方は、夏休みのプレゼントとして手渡すか、いやむしろ子供部屋にこっそり置いておくとよいでしょう。あと、小学校の図書委員の皆さんは、本書が確実に書棚に並ぶよう、必要に応じてリクエストを出すなど手配をよろしくお願いします。


タグ:並木伸一郎
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『レストレス・ドリーム』(笙野頼子) [読書(小説・詩)]

 「私は、私という文字に過ぎなかった。この時初めてワープロの外に出たのだった。」(Kindle版No.3179)

 「結局私には名前だけしかない。そしてその名前にはただ自分がその世界で、その名前故に与えられた、固定した役割を破るという任務だけがある。
 そう、思い出した。私の名前は桃木跳蛇、夢の中の私。」(Kindle版No.818)

 シリーズ“笙野頼子を読む!”第87回。
 
 世にはびこる不快で無責任で気持ち悪い言葉。一見明快な構造の中に抑圧性を隠し持ち、女性を疎外しながら、一切の懐疑や深い洞察をすべり落とす単調な文脈。主体も論理もなく嫌なリズムに乗せてひたすら繰り返されるだけの、反論しても反論しても無視されあるいは愚弄される、そんなゾンビ言語。無力感にさいなまれ、心を折られ、魂を腐らせ、自らゾンビ化しつつあるそのとき。さあ、思い出そう。20年以上も前に戦い抜いたヒーローがいたことを。

 笙野文学の切り込み隊長、邪を祓う翼ある蛇、桃木跳蛇の壮絶な戦いの記録。その電子書籍版をKindle Paperwhiteで読みました。単行本(河出書房新社)出版は1994年2月、文庫版出版は1996年2月、Kindle版配信は2014年7月です。

 「当時このような悪夢を見るあまりに力尽きた作者は、私を分身として戦わせ、その戦いに同化する事によって自分のいる現実世界のひどい構造を理解し、なおかつ何らかの救いをこの理解と把握によって予感したがため、生き延びたのです。九〇年代半ばこれは珍しいゲーム小説でした。」
(『だいにっほん、ろりりべしんでけ録』より。Kindle版No.1240)

 現実の、見えにくい構造と制度をむき出しにし、言語の力で解体する。その後も延々と続いてゆく言語闘争、その最初の血戦を描いた長篇作品です。全体は四篇の連作から構成されています。


『レストレス・ドリーム』

 まずはチュートリアルステージ。舞台となる悪夢が紹介されます。夢を見ている人間を殺戮し、悪夢世界の中にゾンビとして転生させる恐ろしい街「スプラッタシティ」。そしてそれを支配している「大寺院」。

 住民はすべて大寺院からコントロールされるゾンビであり、ひたすらゾンビ言語を撒き散らして、街にやってきた夢見人を殺戮してはゾンビにしようと狙っています。

 「誰かに都合のいい権力と技術と制度の塊である。が、その都合のいい誰かが実は誰であるか本当のところ大寺院の関係者ももう判らないらしい。もしかしたらそれはもう数百年も前に死に絶えていて、今はただこの制度だけが歯止めの利かない、春の狂気のように自己増殖しているだけなのかもしれないのだった。」(Kindle版No.76)

 スプラッタシティの構造と制度、その現実世界との類似点を大まかに把握したら、このステージは終了です。

 第1ステージ「仏間」。法事のためでしょうか、親戚一同が集まって大殺戮を繰り広げます。

 「お互いの譲り合いに基づき誰も絶対に傷付かないいい関係の殺人。----男が女を殺し女は男に殺され相互に関わり合う。多人数の女が慎ましくたったひとりの女を分け合って殺す。女が慈しみの心で差し出した子供を老人が殺す。男は男同士絶対殺し合わないように等分に斬り合う。女は殺されて笑う。ゾンビ達の基準で、ユーモアの判るいい女程笑う。」(Kindle版No.562)

 おなじみの寒々しい風景ですね。

 ここはゾンビの仲間でないと認められた者はどんなにひどいことをされても文句は許されない世界。例えば、こともあろうに都議会で薄汚い女性蔑視ヤジを飛ばされても愛想笑いするしかないような、そんなひどい世界ですから、子供はもちろん成長過程で親に殺されます。既にゾンビにされているので、何度だって殺されます。

 「ダカラサー、オマエ、ソウイウトコ、素直ジャナイトサー、馬鹿ニナレル女ガホントーニ賢クテサアア……軍服めいた上着の、表情だけ妙に幼い中年過ぎの男が、ごましおのチョビ髭を震わせながら、十五歳くらいの女ゾンビの、プラスチックで補強された首を絞め続けている。」(Kindle版No.577)

 「無論ゾンビになってしまった以上もう本当に死ぬ事は出来ないのだ。このまま何回も疑似殺人の被害者になり続けて、結局は原形もとどめずただ意識だけはあるという卑屈ゾンビになってしまうかもしれなかった。或いは何度も自殺を繰り返し永遠に死ねない自殺ゾンビになる。」(Kindle版No.587)

 第2ステージ「階段地獄」。スプラッタシティには「ブスの地獄」「ヒステリーの地獄」「ババアの地獄」「日本の母地獄」「本当の愛の地獄」「女として生き、悔いのない地獄」など様々な女性用地獄がありますが、そのうちの一つ「馬鹿女の落ちる地獄」に落とされた跳蛇は、言語クラッシュの技を駆使してここから脱出しなければなりません。

 「言葉だけで出来た階段世界の、馬鹿女に関するあらゆる文章や単語の集まっている一画である。(中略)単なる罵りや噂話ではなく、肉体や生命を脅かす呪いの力を持ち、刃物よりも鋭い断面を光らせ、あらゆる角度から襲い掛かる言葉。」(Kindle版No.694、699)

 「ミニスカートの馬鹿女」「男と張り合う馬鹿女」「めくじら立てたよ馬鹿女が」「差別差別とぎゃあぎゃあわめく馬鹿女」などの言葉が次々と跳蛇に襲いかかってきます。このステージ攻略の基本、それは。

 「総ての馬鹿女という単語を、ともかく足が当たる限り蹴り続ける。階段の縁に足を切られぬよう蹴る。文脈は見ない。」(Kindle版No.716)

 蹴ることで文脈を破壊し、言葉を組み換えてゆくのです。

 「こうした跳蛇の戦略には特に論理的根拠があるわけではない。この世界を統御する気持ち悪いリズムに違和感を抱き、同時にそれを我慢強く聞き続けて行く事で反射的に戦えるようになるのだった。」(Kindle版No.912)

 何という厳しい修行であることか。

 ここをノーミスでクリアする自信がない方は、あらかじめ「国民の理解を得られるよう丁寧に説明してゆきたい」とか「安全性が確認されたものから順次」とかいった気色悪い言葉を並べて、言語クラッシュで解体する練習を積んでおきましょう。


『レストレス・ゲーム』

 桃木跳蛇が階段地獄で奮闘している頃、「私」はワープロの内部に取り込まれて苦闘しています。「私」がワープロで言葉を入力し、跳蛇を支援する。両者が協力しないと無事に進むことは出来ません。

 第三ステージ「舞台」。階段地獄を突破した跳蛇は、「スプラッタシティの上下左右が絶対に正しいと思わせられる呪い。住民がゾンビであると判ってはいても彼らの共同体に影響を受け、思わずプレッシャーを感じてしまう呪い。」(Kindle版No.937)をかけられてしまいます。

 呪いのせいで、自分は非常識でわがままな困り者でただ他人に迷惑をかけているだけではないか、といった雰囲気にのまれそうになったタイミングで、このステージのボス敵「王子」と「アニマ」が登場。女はこうあるべき、といった呪いを似非インテリくさい口調で放つのが得意技です。

 「ボクは生きた生身の女が好きなんです。本当に賢い自立したおとなの女がね、男の気持ちのよく判るこちらを拘束しない温かい女が。そういう女は本当の勇気を知っている。因習に立ち向かう選ばれた女なんだ。ボク、頭の悪い馬鹿女だけは我慢がならないなあ。」(Kindle版No.1027)

 「あらっ、あなたは女である事を否定するの。きっと男に劣等感持ってるのね。女性本来の姿を抑圧するのは差別論者ですわ(中略)いいかげんに意地を張るの止めたらどう。」(Kindle版No.1171、1225)

 「君は生まれつき優しい女の子なんだよ。(中略)ただあんまり顔形がひどいもので心もねじくれて育ってしまったんだなー。(中略)戦いはよくないよ。女性は平和と環境保護に貢献しなくては駄目だよ。それにボクは勝ち負けなんかにこだわらない。ボクは君の事を考えてあげているんだ。」(Kindle版No.1231、1237、1246)

 死ねよ、と思いますが、意外に侮れないのですよ、このきっしょく悪い呪詛は。こういうセリフを口にする、しかもそれで相手を懐柔できると本気で思ってたりする、そんなやつ、いやいやいやいやまじにいるし。で、懐柔できないと分かるといきなり態度を変えてくるし。

 「あんた結局さー、ブスの女流作家なんだよなー。ブスのじょーりゅーうー。男にもてないからブスの女流作家になって、どこまでいってもじょりゅうはじょりゅうだしなー。(中略)ほら見ろよお前はじょりゅーなんだよ、ヒステリーで笑いものの恥ずかしい女流だ。みっともなくてはた迷惑な醜い女流だ。」(Kindle版No.1262、1270)

 がんばれ桃木跳蛇、呪いに負けるな。というか、女流って侮蔑語なのだそうですよ。「自称芸術家」みたいなものでしょうか。


『レストレス・ワールド』

 第四ステージ「ゴミ置き場」。次々と刺客が襲ってきます。まずは「キモノを着て、お掃除に相応しい真っ白なタスキを掛け、竹ボウキに片手を添え脇にしおらしく挟んでいる」(Kindle版No.1525)という若妻ゾンビ。油断すると振り回される竹ボウキに切り刻まれてしまいます。

 戦いを見守る「私」は、母、愛、子供、といった抑圧の言葉をワープロのキーで変換して無力化してゆきます。

 「母と出ればくそばか、愛と出れば死ね、男女とくれば私宇宙、そもそも愛とはなにかですっ、にはケムールスダールの愛バルタン星人の宇宙共通語は……、などと打ち続けたが、戦いはそろそろ終結である。」(Kindle版No.1710)

 ケムールスダールの愛バルタン星人の宇宙共通語。読者をも脱力させる言語実弾の威力すごいです。

 続いて登場するのは、カニバットとタコグルメの二人組。そう、この二人がここで初登場するのです。

 「……しかし思想は違え相通ずるものはございますねー。」
 「そこはそれ私達一流同士ですから。」(Kindle版No.1743)

 キモい「オヤジの紐帯」攻撃を仕掛けてくるものの、割とあっさり撃退。しかし、こいつら意外にしぶといので、気を緩めてはいけません。


『レストレス・エンド』

 第五ステージ「大寺院」。激しい戦いの連続です。愛を失う地獄、世界が見えなくなる地獄、などの階段をクリアしてゆき、大寺院に乗り込んでゆく跳蛇。「私」と「桃木跳蛇」が分断されるという危機を乗り越え、大寺院から放たれる悪夢の振動、狂ったリズムを破壊しなければなりません。

 「王子はにたにた笑いながらそれを拒否した。ただのにたにた笑いは、それがまっとうなおとなの怒りを湛えた、妙に冷静な拒否の微笑だという、王子の強固な思い込みに支えられて、それなりに迫力があった。なぜか王子は被害者になっているのだった。」(Kindle版No.2501)

 「拒否されると少女はふいに非常に澄んだ目になり、小さい声でこう言って死んでしまった。----あたしはなんにも出来ないから血を吐いて死にます。」(Kindle版No.2503)

 好きなものをただ好きでいたいだけの少女を、被害者の顔をして抑圧してくる世界の醜さ。「私」と「桃木跳蛇」は合体し、大寺院を支えている物語、美しく優しく男に都合のいい女だけが愛と幸福を獲得する物語、に戦いを挑みます。

 「王子様と結婚する娘はカエルにも中年男の糞にも親切なのっ、御近所にきらわれてしもうたら終わりどすえ」(Kindle版No.990)

 「戦うしかなかった。形式だけ物語を捨てても別に自由になれるわけではなかった。落ちた物語は夢の底で眠り続け、やがてまた人間の共通意識に向けて、働き掛けようとするはずであった。」(Kindle版No.2584)

 いよいよ最終ステージ。文章のリズムを武器とし、文字を叩き出すドラムを打ち鳴らし、カニバット、タコグルメ、王子、これまでに戦ったボス敵と再戦する桃木跳蛇。そして、ついにラスボスの姿が……。

 「長老合体ゾンビ・王子メタモルフォーシス・ドラゴン。何の恥ずかしげもなく発音するところはさすがに王子だった。物語に出て来る各国の王子の、都合のいい部分をよりすぐって何億もの王子が一体化していた。というより、世界の共通悪夢、シンデレラ物語の化物であった。」(Kindle版No.3092)

 長老合体(中略)ドラゴン。何の恥ずかしげもなく叫んじゃうところはさすがだと私も思いますが、こういう恥や自意識がちいとも感じられないところがいっちゃん恐ろしいのです。

 この嫌な構造と制度を無意識下で強固に支えている物語の根源に向けてきりきりと矢を引き絞る桃木跳蛇。多くの読者が感動の涙を流したラスト一行に向けて、戦いはぐんぐん加速してゆきます。

 というわけで、『硝子生命論』で反転攻勢に転じた著者が、次に放った全編これ言語戦闘という壮絶な長篇。この先も、はるか彼方の『だいにっほん三部作』に向かって延々と続く、果てしない戦いがここから始まったのです。そこに希望はあるのか。この20年で本質的には何ひとつ変わっていないようにも思える現実のなかで、今も私たちはこの戦いの行く末を見守り続けているのです。

 「むしろ、希望はあるのです。だからこそ作者は叩かれても叩かれてもこの嫌な町の模型を作り続けて、止めないのでしょう。それが本当の世界に存在している限り----。
 桃木が話を終えた。でも、----。
 希望、と言ったのは無論まだ二十代の桃木の「明るい希望」に過ぎない。」
(『だいにっほん、ろりりべしんでけ録』より。Kindle版No.1328)


タグ:笙野頼子
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