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『ホワット・イフ? 野球のボールを光速で投げたらどうなるか』(ランドール・マンロー、吉田三知世:翻訳) [読書(サイエンス)]

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 ばかげた質問など存在しないと人は言う。それはどう考えても間違っている。(中略)しかし、ばかげた質問にきちんと答えようと努力することで、ものすごく面白いことが見えてくるのだ。
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Kindle版No.84

 マシンガンを束ねて下向きに連射すれば空を飛べますか? 身体からすべてのDNAが消えてしまったらどのくらい長く生きていられますか? 地上に落下したステーキがちょうどいい具合に焼けて食べ頃になるようにするにはどのくらいの高さから落とせばいいですか?

 ネットで寄せられたサイエンスまわりの馬鹿げた質問の数々に、大真面目に(いやそれほど真面目でもないけど)回答するうちに、科学的かつ定量的に果てしなく暴走してゆくギーク妄想。結果として、たいてい地球が破滅することに。異色のユーモアサイエンスなぜなに本。単行本(早川書房)出版は2015年6月、Kindle版配信は2015年6月です。


 一見馬鹿げているようだが意外と真剣な考察に値する疑問、馬鹿げているように見える馬鹿げた疑問、馬鹿げていることに疑いの余地がないばかりかそもそも質問者が馬鹿に違いない疑問など、ネットで寄せられた様々な疑問に、大量のギークなユーモアを混ぜ込んで回答する本です。定量的に突き詰めていった結果、しばしば地球を破壊してしまうのが特徴。


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投稿された大量の質問を分類して、『ドラゴンボールZ』の孫悟空がらみの質問を除いてくれた、フィン、エレン、エイダ、そしてリッキーにも感謝します。
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Kindle版No.4655


 採用された質問の多くが、ごく身近なものが「極端な量」になったら何が起きるか、というものです。こんな感じ。


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光速の90パーセントの速さで投げられた野球のボールを打とうとしたら、どんなことが起こりますか?
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Kindle版No.176

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地球にいる人間全員が一斉にレーザー・ポインターを月に向けたら、月の色は変わるでしょうか?
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Kindle版No.516

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地球にいるすべての人間ができる限りくっつきあって立ってジャンプし、全員同時に地面に降りたら、どんなことが起こりますか?
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Kindle版No.768

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モグラ(mole)を1カ所に1モル(mole)集めるとすると、どうなりますか?
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Kindle版No.820

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マシンガンを何挺か束ねて下向きに撃ってジェットパックの代わりにし、飛ぶことはできますか?
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Kindle版No.1144

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世界のすべての人間が、今やっていることを全部やめて、計算をやりはじめたとしたら、どのくらいの計算能力が達成できますか? それは現在のコンピュータやスマホの性能と比べてどの程度のものですか?
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Kindle版No.1562

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ステーキを高いところから落として、地上に到達したときにちょうど食べごろに焼けているようにするには、どれぐらいの高さから落としたらいいですか?
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Kindle版No.1757

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上を車が往来できるような、ロンドンからニューヨークまでをつなぐ橋をレゴで作るとすると、レゴは何個必要ですか? また、それだけの数のレゴはすでにもう製造されていますか?
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Kindle版No.3511


 意味あるいは意図がよく分からないけど、妙に気になる、そんな疑問も数多く収録されています。


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インターネットは物理的にどれぐらいの空間を占めていますか? 
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Kindle版No.1441

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もしも誰かのDNAがすべて突然消えてしまったら、その人はどれくらいのあいだ生きていられますか?
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Kindle版No.2142

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そんなことがあるとすればの話ですが、インターネットのデータ伝送速度がフェデックスのそれを超えるのはいつのことですか?
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Kindle版No.3142

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互いに違った意味をもつ英語のツイートは、いくつ存在しますか? 世界中の人間がそれを音読するにはどれだけの時間がかかりますか?
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Kindle版No.3440

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ウィキペディア全体(たとえば英語版ウィキペディア)を印刷して所持しているとして、オンライン版で加えられる変更に遅れないように印刷版を更新するには、プリンターは何台必要ですか?
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Kindle版No.3969

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大英帝国で日が沈んだのはいつですか(そんなことが起こっていたらの話ですが)?
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Kindle版No.4104


 もちろん、お前は何を言ってるんだ、という疑問が生ずる疑問も。


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もしも人間に車輪があって飛べたなら、どうやって飛行機と区別したらいいでしょうか?
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Kindle版No.1302

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もしも一生分のキスをがまんして、それだけの吸う力をたった1度のキスに投入するとしたら、そのキスはどれぐらい吸引力があるものになるでしょうか?
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Kindle版No.2614

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毎日、どの人間にも、七面鳥になってしまう確率が1パーセントあり、どの七面鳥にも人間になってしまう確率が1パーセントあったとすると、どんなことになりますか?
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Kindle版No.3735


 そして、お前らどんだけ血と破壊に飢えてるんだ、と言いたくなる疑問も。


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アメリカでは毎年何軒の家が全焼していますか? その数を大幅に増やす(たとえば、少なくとも15パーセントとか)一番簡単な方法は何でしょうか? 
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Kindle版No.278

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チーズを切るワイヤーで、おへそのところで真っ二つに切断されるためには、人間はどれくらい速く走らないといけませんか?
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Kindle版No.2067

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アメリカ合衆国を完全な廃墟にしてしまうには、何発の核ミサイルを撃ち込まねばなりませんか?
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Kindle版No.2616

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ハエトリグサが人間を食べることができるとすると、人間が完全に水分を抜き取られ吸収されてしまうのにどれくらいの時間がかかりますか?
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Kindle版No.2903

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旅客機の内部では共鳴周波数が比較的均一であるとすると、「この旅客機を墜落させる」には、何匹のネコに、この旅客機の、どの共鳴周波数で鳴かせればいいでしょうか?
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Kindle版No.4582


 こういった疑問の数々に真面目に答えるのは大変な苦行だと思われますが、意外なことに、著者はノリノリ。適当な切り返しやギャグで回答するのではなく、様々な論文を調べ、データを集め、定量的な計算をして、さらにそれをどんどんエスカレートさせてゆきます。ギークやSFファンが馬鹿話をするときの習性ですね。

 例えば「光速の90パーセントでボールを投げたら」という疑問。おそらくこれは「相対論効果でボールが歪んで見えるのではないか」といったことを尋ねているのではないかと思われるのですが、著者はきちんと計算した上で、次のように解説してくれます。


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ガンマ線と核融合生成物は、空気中の分子の原子核から電子を奪い去り、空気分子をずたずたに破壊しはじめる。球場内の空気は高温のプラズマと化し、膨張する。
(中略)
球場の1.5キロ以内にあるものはすべて潰え去り、周辺の市街地全体が猛火に包まれる。球場のダイヤモンドだった場所はいまや、かつてバックネットがあったところより数十メートルから100メートルほど外の地点を中心とする、巨大なクレーターとなっている。
(中略)
バッターは「死球」を受けたと判断され、1塁に進むことができるはずだ。
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Kindle版No.192、214、218


 全人類がロードアイランドに集まって一斉にジャンプしたらどうなるか。著者の綿密なシミュレーションの結果はこうです。


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 数秒が経過する。全員があたりを見回す。
 気まずい雰囲気が漂い、みなちらちらと他の人の様子を窺う。誰かが咳払いをする。
(中略)
混沌とした状況になる。暴力がはびこる。誰もが食べ物と飲み物をほしがっている。食料品店はみな略奪され空っぽになる。新鮮な水はほとんど見つからない。そして、この状況を打開する有効なシステムはまったく存在しない。
 数週間のうちに、ロードアイランドは数十億の人間の墓場となる。
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Kindle版No.791、811


 全人類がレーザーポインタを月に向けても何も起きない(普通ならここで終わりますよね?)ので、さらにレーザー出力をアップしたら、まだ足りないのでさらに出力を上げたら、核爆発X線レーザーを地表に隙間なくびっしり敷きつめて一斉放射したら、という具合にエスカレートしてゆき、ついにレーザー・アブレーション推進の原理で月が軌道から外れて飛んでいった、ばんざい、ばんざーい、地球は破壊されたけど、俺たちはやったぜ、とか。

 1モル匹のモグラ(モル)を集めたら、月よりも大きなモグラ惑星が誕生する(普通ならここで終わりますよね?)が、その惑星の重力、気温、地質学はどうなるだろうか、などと考察を開始。モグラ惑星の誕生から終末までの歴史を語ってしまうとか。

 意外な豆知識も豊富。例えば、大英帝国に日が沈むための条件。


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14あるイギリス領(イギリス領南極地域を数えなければ13)のすべてで同時に太陽が沈んでいることは絶対にない。しかし、イギリスがとある小さな領土を失うと、ここ200年以上で初めて、大英帝国全体で日が沈んでいる状態が実現する。
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Kindle版No.4123


 さて、それはどの領土でしょうか。

 という具合に、次から次へとユニークな話題が飛び出してきて、飽きさせません。知っていても役に立つわけではありませんが、読み物としては最高にイケています。挿入されるイラスト(著者による落書きみたいなギャグ漫画)から、注釈(に見せかけたギャグが多い)まで、とにかく楽しい。あたりまえのことにいちいち[要出典]を付けるなど、皮肉や風刺もたっぷり詰まっています[要出典]。

 ただし、本書に掲載されている内容を実際に試してみて、地球を破壊するのは止めておいた方がいいでしょう。どうしてもやるというなら、事前に免責事項を読んでおくように。

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 私は、インターネットで絵を描いている人間だ。自分が描いたものが大うけして、アクセス数が爆発的に増えれば嬉しい。つまり、私はみなさんに良かれと思ってこのサイトをやっているわけでは必ずしもないということだ。
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Kindle版No.1460