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『折り紙衛星の伝説 年刊日本SF傑作選』(大森望、日下三蔵、宮内悠介、三崎亜記) [読書(SF)]

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本書収録作以外にも、2014年に発表された日本SF短篇の収穫は多数。本書とひとつも作品がかぶらない傑作選をもう一冊編むこともじゅうぶん可能だろう。いま、日本の短篇SF状況は、そのくらい元気なのである。
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文庫版p.605

 2014年に発表された日本SF短篇から選ばれた傑作短篇、および第六回創元SF短編賞受賞作を収録した年刊日本SF傑作選。文庫版(東京創元社)出版は、2015年6月です。


[収録作品]

『10万人のテリー』(長谷敏司)
『猿が出る』(下永聖高)
『雷鳴』(星野之宣)
『折り紙衛星の伝説』(理山貞二)
『スピアボーイ』(草上仁)
『φ』(円城塔)
『再生』(堀晃)
『ホーム列車』(田丸雅智)
『薄ければ薄いほど』(宮内悠介)
『教室』(矢部嵩)
『一蓮托生(R・×・ラ×ァ×ィ)』(伴名練)
『緊急自爆装置』(三崎亜記)
『加奈の失踪』(諸星大二郎)
『「恐怖の谷」から「恍惚の峰」へ―その政策的応用』(遠藤慎一)
『わたしを数える』(高島雄哉)
『イージー・エスケープ』(オキシタケヒコ)
『環刑錮』(酉島伝法)
『神々の歩法』(宮澤伊織)


『折り紙衛星の伝説』(理山貞二)
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 それなら自分は、と彼は思う。墜ちない機体を作ろう。金星の空をいつまでも飛び続けられる飛行機を作ろう。材料のストックが続くかぎり、何度でもやり直し折り直そう。
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文庫版p.119

 タイトルは『折紙宇宙船の伝説』(矢野徹)から来ていますが、超能力もエロも出てこないストイックなハードSF。竹林のなかをすいすい飛び回る紙飛行機のイメージが、30年のときを経て、金星の大気圏を永遠に飛び続ける衛星へとつながり、そしてオールドSFファンの涙腺に突き刺さります。


『スピアボーイ』(草上仁)
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 マドックは、群れを見る時にいつも覚える畏怖の念に打たれた。何千という数の全長八メートルのミサイルが、群れをなして飛んでいく。そのところどころが陽光を弾いてチラチラと光り、まるで黒雲に輝く銀の棒をちりばめたようだ。個体間の距離は数メートルもない。それでも、スピアたちは互いに衝突することなく、優美に編隊飛行を続けている。
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文庫版p.142

 ジェット推進で大空を舞う異星飛行動物スピア。その群れを飼育する牧場にとって、スピアを乗りこなして群れを導くスピアボーイは必要不可欠な存在だった。老スピアボーイのマドックは、牧場乗っ取りをたくらむ敵が雇った凄腕の若者と決闘するはめになるが……。

 痛快SF西部劇(+空戦)で、昨年の年刊日本SF傑作選『さよならの儀式』に収録された『ウンディ』と同じく、異星生物との信頼関係によって試練を乗り越えてゆく物語です。


『Φ』(円城塔)
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 わたしは危機について語ろうとしている。あまりにも単純であるがゆえに長く気づかれることのなかったこの宇宙の危機についてだ。(中略)
 わたしの概算によると今この瞬間、この宇宙は百三十八文字から形成されており、これは先頃から単調に継続してきた縮小の結果であると考えられる。それぞれの段落は一文字ずつ短くなっていくことになっているらしく、我々に残された段落は、この段落を含めてあと百三十八しかないという計算になる。
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文庫版p.185

 段落が進む毎に、段落に含まれる文字数が一文字ずつ減ってゆく。この法則に気づいた語り手は、小説の終わりが迫っていることを悟るのだった。アイデアと形式と記述内容が一体化した自己言及的短篇。

 著者いわく「こうしたものの常として、見かけよりも手間がかかる。ふつうの文章で書けばよかったと毎度思う。コストパフォーマンスが非常に悪い」(文庫版p.202)とのこと。


『薄ければ薄いほど』(宮内悠介)
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 ホスピスは死ぬ場所ではなく、一日一日をいかに生きるかという場所だとされる。
 それは、死に向けて精神的な準備をする場であり、そうだからこそ患者は自分が自殺しているなどとは思わないし、思えるはずがないというのが、関係者の見方である。
 だがーー本当に、ホスピスに入ることは自殺ではないのだろうか?
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文庫版p.251

 あるホスピスで起きた自殺事件。取材を続ける記者は、生と死をめぐる問いかけに向きあうことになる。最新長篇『エクソダス症候群』も連想させる社会派ミステリ。

 「疑似科学シリーズ」の一篇であることからタイトルが何を差しているのかは予想がつきますが、それが意外な形で主題とからんでくるところはお見事。SF要素は非常に薄いものの、薄ければ薄いほど……。


『教室』(矢部嵩)
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「気持ち悪いねあんた。あんただけじゃない。みんな気持ち悪い。この教室のみんな気持ち悪い。正気なのそれで。何やってんのあんたら馬鹿じゃねえのみんな俺も含めてみんな」
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文庫版p.284

 ごくありふれた教室の授業風景、のはずなのに、どうにも薄気味悪いというか、不快というか、何とも言えない嫌な感触なのはなぜ。人を不安にさせる文章のパワーがすごい一篇。


『緊急自爆装置』(三崎亜記)
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市役所に来られた際、急に自爆したくなったのに、自爆装置の用意がない。そんな経験はありませんか?(中略)そんな皆さまのために、市役所一階ロビー東側に、緊急自爆装置を新たに設置しました。市民の皆さまは、どなたでもお気軽に自爆できます。どうぞご利用ください。
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文庫版p.313

 役所に設置した公共の緊急自爆装置。「税金の無駄使いではないか」という苦情が来たので使用制限すると、今度は「市民の自爆権をないがしろにするのか」とクレームが来て……。

 奇妙な設定により、お役所仕事の不条理をリアルに描く、著者の原点という感じがする「お役所不条理もの」。自爆ボタンはあちこちに設置しておいてほしい。


『環刑錮』(酉島伝法)
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 赳志の斜め上に、真下に、左右に、前後に、それらの向こうに、そのまた向こうにも、環刑囚の氣配があった。
 千三百人余りの環刑囚が、第六終身刑務所と呼ばれる複合汚染された土壌の中を蠕進していた。広さ千平方米、深さ四十米に及ぶ地下一帯が、舎房であり作業房だった。
 第六終身刑務所は、こうやって環刑囚と共に随時移動し続けている。
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文庫版p.461

 強制的に巨大ミミズに変容させられ、汚染土壌のなかをひたすら這い進む刑罰、環刑錮。多画数漢字と常軌逸ルビ、変態言語感覚で創られた異形世界を舞台に展開する、前代未聞の脱獄劇。

 そのあまりに独創的な才能と文章技。SF読者のみならず、広く一般小説読者からも2014年を代表する一篇と認められ、『短篇ベストコレクション 現代の小説2015』(日本文藝家協会)に収録された傑作。


『神々の歩法』(宮澤伊織)
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 彼らの敵は、人ではない。
 彼らが殺しに来たのは、ある種の神だ。
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文庫版p.502

 第六回創元SF短編賞受賞作。
 地球に飛来した狂気の異星人(というか神にも匹敵する高次存在)がおっさんに憑依して破壊の限りを尽くす。阻止すべく現地に派遣されたサイボーグ部隊の前に現れた謎の少女。最初から最後までアクションシーンだけで構成された『20億の針』というか、悪役がまったくヒドゥンする気のない『ヒドゥン』というか、いかにもゲーム・アニメ的な娯楽活劇。

 くすぐりネタがたくさん散りばめられていますが、個人的には、懐かしい「TTYF!」の一発がツボでした。


第六回創元SF短編賞選考経過および選評

大森望コメント
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 SFはどんな突拍子もないことも好きなように書けるジャンル。それだけに、自分で思いついた設定は、他のだれもかなわないレベルまで徹底的につきつめて考えてほしい。教科書的な小説の書き方を守るより、そっちのほうが重要です。
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文庫版p.574


日下三蔵コメント
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 今回、過去最短の一時間足らずで選考が終わった。これは評価が分かれて議論になる作品が存在しなかったためである。珍しく選考委員の足並みが揃ったともいえるが、逆にいうと突出して個性的な作品が見当たらなかったということでもある。
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文庫版p.575


恩田陸コメント
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現実の生活もエンターテインメントも皆SFになってしまったこの世界で、改めて「SF短編賞」に腕に覚えのある人が応募するのならば、見たことのない地平、体験したことのない領域に踏み込む冒険をしてほしいと思うのは贅沢な望みだろうか。文章表現から内容に至るまで「知っている」「見たことのある」ものの域を出ていなかったのは、「2015年のSF短編を読みたい」と思っていた私には、作者の能力と可能性よりも、「残念だ」という思いが先に立ってしまったのだ。
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文庫版p.579



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