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『医療の選択』(桐野高明) [読書(教養)]

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社会保障を削減することも、あるいは社会保障を維持するために負担増を覚悟することも、どちらも大変なことである。国民にとっては大きな苦痛だ。右に行っても左に行っても厳しい道のりが予想される。しかし、どちらの道も選ばずにジッとしていることによって、財源確保の道は閉ざされてしまう。
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Kindle版No.2537

 高齢化の進行につれ増大する一方の医療費。医療の破綻を避けるために、私たちはどのような選択を迫られているのか。医療改革の方向性をめぐる議論を、一般向けに分かりやすく整理してくれる一冊。新書版(岩波書店)出版は2014年7月、Kindle版配信は2015年1月です。


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年々増大する国民医療費という問題を前に、どの国もその選択にはとまどいがある。しかし、二つの未来像のどちらを選ぶかによって、医療の考え方に大きな違いが生まれる。一方では医療は個人が選択するサービスに過ぎないのであるから、一般の商品と同様に自己責任に委ねるのが適切という考え方になる。もう一方では、医療を受けることは個々人の基本的人権に属し、社会がそれを支えていく必要があるという考え方になる。
 どちらの考え方が本質的に正しいかの判定を下すことはとても難しい。また、その判定を論理的に下そうとすることは、しばしば不毛の議論に陥りかねない。それぞれの国民がその国民性や社会の歴史の違いに基づいて決断をし、選択をするべき問題なのだ。
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Kindle版No.553


 増大の一途をたどる医療費は、すでに社会保障費では支えきれないところまで来ています。破綻を避けるために、私たちは選択をしなければなりません。医療の公平性を維持するために税負担増を受け入れるのか、負担を下げるために医療に市場原理を持ち込むのか。

 この議論は待ったなしの状況です。例えばTPPをめぐる交渉で、米国は日本に対して明確な要求を突きつけてきています。


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要するに米国は、日本の医療制度を1961年からつづいてきた国民皆保険制度から米国式の市場経済方式に、少なくとも部分的に転換するべきだと言っているのである。
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Kindle版No.2409


 医療レベルで世界一をほこる米国様の言うことだから正しい、のでしょうか。必ずしもそうではありません。


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 民間部門に委ねることにより市場的競争を促し、それによって価格を低下させ、また医療の質を向上させることができる。これが、新自由主義的な医療制度改革のスローガンだ。しかし、市場的競争の導入によって医療費がさらに高くなる事態や、利用面での大きな格差が生じるというパラドックスが発生する。このことは、すでに米国の医療の経験や、米国と似た医療制度を導入した国の経験でよくわかってきている。こうした「市場主義医療のパラドックス」は、市場による効率化というスローガンが、それとはまったく逆の結果を生む恐るべき現象だ。
(中略)
社会保障を削減し、医療を自己責任にするという選択をした結果、人と人とが分断化され、社会から連帯意識が消失し、恵まれた少数の人々と恵まれない多くの人々との間に著しい格差が生まれる。そのような未来を、われわれ日本人は望んで選択するだろうか。
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Kindle版No.1083、2556


 米国の医療状況を見ると、それが決して理想的なものとは言えず、特に低所得者にとっては悲惨なものであることが分かります。では、米国とは異なる道こそが正解なのかというと。


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「小さな政府」を徹底しつつ、医療・介護や年金を充実させよという意見は、願望としてはありえても、まったく現実的でないことは明らかだ。では、「大きな政府」がよいのだろうか。この問題は、日本だけでなく世界各国で国民的な争点になってきた事柄である。
(中略)
 結局われわれは、程度の違いはあれ、高負担・高給付の社会か、低負担・低給付の社会か、この二つの社会のどちらを選ぶかを迫られていることになる。繰り返し述べると、医療費の選択は医療のあり方の選択であると同時に、われわれがどのような社会や国の未来を目指すかの選択でもある。岐路に立つ国民皆保険制度を前に、われわれ自身の生きる上での価値観が問われているのだ。
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Kindle版No.1234、1288


 一方を選べば悲惨、他方を選べば無惨、ぐずぐずしていると破綻、議論は浅短、というわけです。厳しい。

 この大きな選択をめぐって、かつて「混合診療」を解禁した歯科でどのような問題が生じたか、医学分野で起きている専門分化と断片化がどのような問題を引き起こすか、医療と介護の乖離がどう問題になっているか等、より具体的な課題についても紹介されます。

 こうして様々な医療問題を整理してゆくと、結局は「生きることに対する価値観」を、納税者であり潜在的患者である私たちが選択しなければならないのだ、ということがよく分かります。

 これまで「医療問題はあまりに複雑かつ専門的なのでよく分からない。医療関係者がきちんと議論して決めてほしい」などと漠然と感じていたのですが、その甘さを思い知らされました。問われているのは専門知識ではなく、私たちの価値観なのです。


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少子高齢化を迎える日本の未来社会が少しでも良いものとなっていくためには、医療がよく機能していることが必須だ。そのためには、どのような選択があるのだろうか。このことを考えるために、本書が役に立つことを心から願っている。
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Kindle版No.23


 というわけで、医療問題を根っこから把握したい方にお勧め。