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『memories』(270725 PROJECT 高塚謙太郎) [読書(小説・詩)]

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義脳逃走の結末はある種の確変と同じで、脱兎族の口承系ではそもそも在界すら保証できない。逃走は私たちにとってすでに消滅を意味する。眼球を左右に引き裂くように移動させ、義脳をねじ込んだ数世紀の間、平行世界の統制がほぼ綻びのないところとなっている。しかし各々の平行世界の進み続けるベクトルを操ることはむろん不可能で、というか、そこに対しては完全に無関心であり無防備でもあったため、義脳世界、というものへのイメージもそれに従ってかなり貧困であったと言わざるを得ない。
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『平行と恩寵』より


 SFの語彙や言い回しをもて遊んでみたら、そこに現出したのは、純粋エスエフ、臨界量未満のエネルギー準位不安定な純SF詩集。同人誌発行は2015年7月です。


 ある作品がSFだと思われるのは、アイデアやプロットより何よりまず、SFの語彙や表現が使われているから。逆に言えば、ごく日常的な光景だってSFの言葉で書けばSFになってしまうはずですね。違いますか。

 では、試してみましょう。


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反乱分子の収拾にやや手こずったが、いくつかの陽はさほど影響を受けず冷却期に突入しつつある。夕食後、オーブンで焼き上がったパウンドケーキにたっぷりと白いクリームを乗せて家=族はテーブルを囲んでいる。いずれすべての荘園が冷え切った黒点付近へと吸収され、不毛地帯へと姿を変えていく。
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『家=族は荘園で』より

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時系が、ある軌道の近似値のぐるりを出たり入ったりしつつも、まったく別の軌道のように振る舞っており、それを星系も鷹揚に受け入れている。これが何度も繰り返され、はたまた幾重にも同時多発的に上書きされていくうちに、あらゆる系が、鬚根のように繁茂し、遠目には一本の美しく白濁した川の流れのように映る。はたして攪拌は完了している。
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『愛のジューサー』より


 どうです、オーブンでパンケーキを焼いたり、ジューサーで野菜果物をぎゅんぎゅんしたって、こーれこの通り、SFですよ、SF。

 しかし、ここまでやるなら、もう日常もキッチンウェアも不要なのではありますまいかするめいか。


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触手だと考えられていた一本の管がそのまま一人の位階を吸い取っていったとき、管の中から一揆のおこる音があふれだし、小刻みに震えながら静々と穴を閉じてしまった。管はそのままそこの大気圏を突破し、わうんわうんという響きとともに私は独立を宣言した。そのまま私そのものが、惑星面に管を使わした。和平を叫ぶ一揆に比べれば、どこまでも細く長い管だった。やがて管の数は増加し、管の穴から蘭の花が所狭しとひらいたり閉じたりしていた。
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『管と蘭』より

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戦線にとうとう定理を動員し始めてから、にわかに球体少女、桃々々、の後退戦も噂されたが、事実はこうだ。少女たちの球体というギミックがエロの水源のように語られもし、書かれもしてきた経緯から、それぞれの身体を引き離すためにとられた手法の一つが、球体少女、というリリックだった。つまり、少女の属性(ギミック的な)としての球体、というコンテクストをわやわやにしておく、場合によっては転倒させてしまう、という修辞的な技術革命が新たなテクストを量産する、ということだ。
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『球体少女桃々々の抒情』より


 管や球体でさえSFに。蘭も桃々々も純SFに。すごいや先輩、僕もSFになれますか、なれるとも服部。じゃあ、嫁化羽化蟻もSFになれるんですね、そうだとも服部。


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人為的に発生させた光線については、服部、を、服部、と呼び始めたころまで、一切吸収しなかったことに誰も説明ができていない。服部、と名づけることではなく、服部、と名指すことに、服部、は一つの反応を示したことになる。実を言うと、埋葬部に隠れていた、服部、の部分は、そもそも光線とは無縁の在り方をしていたこと、これは早くから指摘されていた。埋葬部より上方で露出していた塊、つまり、服部、の尖端だけが、太古から光線を吸い取っていた。
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『私は服部』より

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ボット化への抵抗という、ある種の本質的ではない抗いから流出していったヨメカウカアリを商号としておこう。嫁化=羽化=蟻、という連絡は忘却されて久しいが、仕掛けを操る上で何ら問題はない。座、の商号が流出の憂き目にあっているヨメカウカアリだが、商号である、という技術を誇示するというアイデア、これが、座、で決議されたことを説得的に示す根拠は見当たらない。また、実際にヨメカウカアリについては、生態はおろか、その姿すらほとんど確認されていない。
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『ヨメカ、ウカ、アリ』より


 というわけで、SFのかっこ良さが、そしてそのあかんところが、コンデンスされ、アイデアやプロットとはまるで無関係に純粋にSFであることを追求したような、気がする、驚異の詩集です。


タグ:同人誌
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