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『人間性剥奪』(両角長彦) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]


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「私も職業柄、人間と呼ぶには首をかしげざるを得ないような人たちを大勢この目で見てきました。しかしその誰も、あなたには及ばない。まるで人間性をそっくり誰かの手で剥ぎ取られたかのようだ」
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単行本p.257


 中学校の教室内で起きた凄惨な無差別毒殺事件。だが事件が起きる前から、その教室では何かが進行していた。やがて皮肉にも「人間性」を名乗る犯人が、大規模テロの犯行予告を送りつけてくる。テロを防ぐためなら、未成年者をマスコミの餌食にするような非道も許されるのだろうか。『ラガド 煉獄の教室』でデビューした著者が、ポスト真実の時代に合わせ再び煉獄の教室に挑むサスペンスミステリ。単行本(光文社)出版は2016年6月です。


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「破壊願望、テロ願望は、程度の差こそあれ、誰でも持っているものさ。人間であればな。そう、人間だけが、いま自分の住んでいる世界を破壊したいという願望を持っているんだ。これは他のどの動物にも見られない、人間だけの特性だ」
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単行本p.138


 中学校で発生した無差別毒殺事件。給食に毒物が投入されたのは教室内の可能性が高い。捜査を開始した警察は、その教室では事件前から何か異常な事態が進行していたことに気づく。生徒も、教師も、それぞれ何かを隠している。だが、その実態を解明することは極めて困難だった。


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 学校の教室の実態というものを知ることはきわめてむずかしい。過去、日本各地の学校で事件が起きるたびに、警察は生徒や教師に対して聴取をおこなってきたが、成功した例は皆無と言ってよい。それほど教室というのは閉鎖的であり、外部からはうかがい知ることのできない空間なのだ。
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単行本p.77


 やがて「人間性」を名乗る犯人から、大規模テロと思われる「最終行動」の犯行予告が送りつけられてくる。「最終行動」を中止してほしければ、教室内で行われていたことの首謀者をマスコミの前で公開謝罪させろ、というのだ。


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〈人間性〉は逮捕されない。『最終行動』は予告通り実行される。これが、かなりの確率で現実になるであろうシナリオです。すでに、都内から地方へ脱出する人が続出してるんですよ。『最終行動』が起こるのが都内だと決まったわけじゃないのに。
 みんな不安なんです。〈人間性〉がどこにいるのか、何をしようとしているのか、わからないからです。『わからない』ほどこわいものはありません。
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単行本p.162


 しかし、仮にその子が例えば「いじめ」の首謀者だったとしても、未成年者をテレビ出演させ公衆の面前で謝罪させる、などといった非道が許されるだろうか。逆に、もしも謝罪しないまま実際に「最終行動」が起きて犠牲者が多数でたとしたら、生徒や学校にどれほどの非難が集中することか。

 迫るタイムリミットのなか、必死で「人間性」を探す警察。「人間性」はどこにいるのか。いや、そもそも「人間性」など本当にあるのだろうか。私たちに。


 というわけで、中学校の教室内における「支配構造」のようなものが、社会全体にパニックを引き起こすサスペンスミステリです。事件の舞台、展開、登場人物の配置など、明らかにデビュー作『ラガド 煉獄の教室』を意識した作りになっており、真相や犯人の最後のセリフも含め「ポスト真実」時代に合わせてリニューアルした『ラガド』という印象を受けます。



タグ:両角長彦
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『となりのイスラム 世界の3人に1人がイスラム教徒になる時代』(内藤正典) [読書(教養)]


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いまや世界の人口の四分の一にあたる十五、六億人がイスラム教徒なのです。近い将来、三人に一人がイスラム教徒になる、とも言われています。
 このことは、イスラム教徒とかかわらずに生きていくことが、もはやできないという現実をあらわしています。
(中略)
イスラムから学ぶことはたくさんあります。とくに、日本人がいま直面している高齢者の介護や子育てといった問題で、吸収すべき知恵は数知れません。
 また、安全保障や治安の観点、もっとひろげて平和のためにも、イスラムと「戦う」という選択肢より「共存を図る」ほうが、人類史のレベルにおいて、はるかに大きな恩恵が生まれるにちがいありません。
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単行本p.4、6


 近い将来、人類の3人に1人がイスラム教徒になると予想されている。西欧世界とは異なる価値観を持つ隣人たちとうまく共存し、世界にこれ以上の衝突と惨禍を広げないようにするためにはどうすればいいのか。教義や歴史よりも実際のイスラム教徒がどんな人々であるかに焦点を当て、イスラムに関する基礎知識と共存のための知恵を学べる好著。単行本(ミシマ社)出版は2016年7月です。


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 イスラムの場合、さきほども触れましたが、根本的に私たち、あるいは近代以降の西欧世界で生まれた価値観とは相入れないところがあります。そこばかりに注目するなら、イスラム世界と西欧世界は、対立し、衝突し、暴力の応酬におちいってしまいます。それをどうしたら避けられるか、ここのところも考えなければなりません。イスラム世界と西欧世界とが、水と油であることを前提として、しかし、そのうえで、暴力によって人の命をこれ以上奪うことを互いにやめる。そのために、どのような知恵が必要なのかを考えなければなりません。
 そういう願いを本書に込めました。
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単行本p.7


 現代イスラム地域研究を専門とする社会学者である著者が、予備知識のない読者を対象に、非常に分かりやすくイスラムについて解説してくれます。

 宗教としてのイスラム教とその歴史についての解説書は多いのですが、本書の特徴は、何十年もかけて現地で行った調査をもとに、実際のイスラム教徒のありのままの姿を描き出すことに主眼を置いていること。もう一つの特徴は、「腹を割って話せば、互いに分かり合える」といった甘い話で誤魔化さないで、根本的な価値観の対立がどこにあるのか、なぜ暴力の応酬という悲惨な状況から抜け出せないのか、という構造を明らかにし、その上で共存の道を探ろう、とする姿勢です。

 全体は終章を含めて八つの章から構成されています。


「第1章 衝突は「今」起きたわけではない」
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 度が過ぎたリベラルというのも、異文化との共生を破壊する危険性をもっています。ドイツやフランスの場合、伝統的に外国人嫌いは極右の主張でしたが、いまや、ヨーロッパ各国では、ナショナリズムに寄りかかって外国人排斥を叫ぶのではなく、俺たちの文化を守る自由を認めてくれ、イスラムという宗教から離れて暮らす自由だって認めろよ、というかたちで排外主義を叫ぶようになっているのです。
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単行本p.36

 イスラム世界から欧州各国に移民してきた人々の再イスラム化、高まる反ムスリム感情と排外主義、これらが生み出す対立と暴力の連鎖、といった悲劇的な構造を、主にイスラム教徒移民の視点から読み解いてゆきます。


「第2章 イスラム教徒とは、どういう人か」
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 イスラム教徒と三十数年つきあってきましたが、イスラムの本質というのは、教科書的な説明の中にあるのではなく、「儲かったときには自分の才能で儲けたなどと思うな」というように人間のおごりをいましめ、弱い立場の人を助けるところにあるように私は思います。(中略)困っている人が目の前にいたら、彼らは必ず何かをします。どこまでできるかは人によります。しかし、何もしない、ということはない。
 それがイスラムする人――ムスリムなのです。イスラムが何かということを知るより、イスラム教徒とはどういう人なのか、そちらを先に知ることのほうが大事だと思います。
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単行本p.68

 成功しても失敗しても本人の責任にしない、困っている人がいれば助ける、子供とお年寄りを大切にする、他人を国や人種で分け隔てしない。実際のイスラム教徒がどういう人々なのかを紹介してくれます。


「第3章 西欧世界とイスラム世界はもとは同じ」
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 ヨーロッパとイスラム世界との違いは、いろいろありますけど、ひとつ言えるのは、「イスラム世界へ行くとだらっとできる」ということです。私はそれを実感しています。妻もイスラム圏に入った途端に、なぜかほっとすると言っています。
(中略)
 もちろん、ドイツでもフランスでも人が困ったりしていたら助けてくれます。でも、なんと表現したらいいか、人と接するときにひとりひとりがどこか身構えている……。自分は「個」として生きているという肩肘張った感覚。そういうふうに身構えないと暮らせないところに長くいると、やはり疲れてしまいます。
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単行本p.87、94

 西欧世界とイスラム世界の歴史的関係を解説しつつ、皮膚感覚レベルで両者を比較します。


「第4章 となりのイスラム教徒と共に」
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 そういうことを商売にするハラール・ビジネスというのは、イスラム教徒ではなくても、実に傲慢なことだと思います。イスラムをよく知らない日本人をおどして金をとっているようなものですから賛成できません。
(中略)
 イスラム教徒と仲良くする一番の方法は、「正直であること」です。中途半端な理解で、高いお金を出してハラール認証をとることではありません。
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単行本p.114、116

 日本にやってきたイスラム教徒をもてなすとき、何に気をつければいいのか。ハラールや飲酒についても解説されます。


「第5章 ほんとはやさしいイスラム教徒」
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敬虔なイスラム教徒であろうと、行動がかなりイスラムから逸脱したイスラム教徒であろうと、弱者を助けなければという思いについては、ほとんど差がありません。
 このことは、イスラム教徒とつきあうときにも大切な点です。かりに酒も飲んでいるし、もう世俗化したんだろうと見えるようなイスラム教徒がいたとしても、その人がイスラムを捨てたと思ってはいけません。
(中略)
 彼らに「イスラム教徒でなくなるってどういう感じですか?」と聞いたときに返ってくる言葉。どんなに世俗的に見えるイスラム教徒でも決まってこう言います。
「人間でなくなる感じがする」
 ここは、見誤ってはいけないところです。
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単行本p.149、150

 前章で紹介した飲食に続いて、祈り、ラマダン、弱者救済、そして性的なことに関する対応について解説されます。


「第6章 日本人が気になる12の疑問」
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イスラムの社会と西欧の社会は水と油なのか。この点に関して言えば、そのとおりなのです。
 しかし、水と油であることは、お互いを傷つけあうこととは別です。イスラム教徒ではなく、そして、イスラムと西欧とのあいだにこれ以上の衝突をふせぐことを考え続けてきた私は、傷つけあうこと、殺しあうことを止めるための知恵を生みださなければならないと感じています。同時に、それがいま、途方もなく難しくなってきたとも感じています。
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単行本p.179

 裁判制度、一夫多妻、女性差別、同性愛の禁止、イスラム銀行、ヴェールの着用。誤解されることも多いイスラム社会の仕組みと、その背後にある価値観を解説します。共感でき学ぶことも多い一方、現代の西欧社会からは受け入れることが出来ない価値観の相違もある、ということを具体的に教えてくれます。


「第7章 イスラムの「病」を癒すために」
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 西欧的な進歩主義は唯一無二の正しい道だという思い込みをもたないことです。イスラム世界は、イスラムの価値観の上に立って歴史を積み重ねてきたのです。西欧の進歩主義をものさしにして、彼らイスラム教徒の人たちの価値観を「遅れた状態」と見なすことだけは、間違ってもやってはいけない。そもそも、イスラム教徒の人たちの価値観が「遅れている」と言えるのでしょうか。
 その西欧こそ、今の中東・イスラム世界をずたずたに分割して線引きをし、植民地として支配したことを忘れてはいけません。英国やフランスには、今でも、彼らを啓蒙してやるために植民地にしたのは正しかったなんて言う人がいます。極端なことを言えば、こういう発想が「イスラム国」を生みだす原因のひとつだったとも言えます。
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単行本p.217

 「イスラム国」に代表される過激派の台頭、内戦、クーデター、弾圧。秩序が崩れてゆく中東・イスラム世界と、深まる西欧社会との対立。何がどうしてこのような事態になってしまったのかを振り返ってゆきます。相いれない価値観を前に、「殲滅すべし」という発想も、「啓蒙して同化すべし」という発想も、いずれも対立を深刻化させるだけだということが強調されます。


「終章 戦争、テロが起きないために私たちができること」
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深夜の密航が、死の航海になるかもしれないことに気づいていたとしても、彼らはしっかりと前を向いていました。途方もない苦しみの果てにたどりついた、打ちひしがれた姿ではありませんでした。そのことが私を打ちのめしました。これだけの惨禍の中にあって、決して誇りを失わない姿に言葉を失ったのです。
 人道の危機の連鎖。内戦で家族を奪われ、生きる場所も奪われ、隣国にたどりついても安心も生計の手段もなく、最後の希望をヨーロッパに託して、彼らは海を渡ろうとしていました。
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単行本p.238

 内戦、難民、テロ、イスラム教徒に対する排斥と暴力。憎しみと恐怖の連鎖が止まらない世界の現状について、探るべき共存への道について、現場から考えます。



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『作家と楽しむ古典』(池澤夏樹、伊藤比呂美、森見登美彦、町田康、小池昌代) [読書(随筆)]

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 あたしはこう見えてすごくまじめなんですよね。『日本霊異記』を訳しているとき、アメリカやヨーロッパで日本文学を研究している友人たちの顔がしきりによぎっていました。ああいう人たちに、景戒さんの姿勢や心意気がちゃんと伝わる現代語訳にしたかったんです。だから、一字一句、まじめに、ニュートラルに、置き換えました。(中略)
そうやって、ボロボロになりながらつくり上げた現代語訳です。出版を記念して、池澤夏樹さんと町田康さんとあたしが朗読する会があったんです。あたしはその前日くらいにやっと本を見たところだから、他の人の訳文見てなかった。つまり『宇治拾遺物語』は、まず、耳から、町田康さんの声で入ってきた。腰が抜けましたね。「やっぱ瘤いこう、瘤」「マジじゃね?」とあり、いやぁ感動した。自分のまじめさ、馬鹿正直に逐語訳した自分が情けなくなった。といって町田さん、荒唐無稽な訳ではない。まじめにきちんと原文に沿っている。しかもそのときの会場が原宿で、若い人ばかりで、みんな町田康目当てで、町田さんの、抑えた読み方に若い人たちがバンバン反応していく。町田さんもそれにビシビシ応えていく。それを見ちゃったあたしは半年くらいショックが抜けなくて、しばらく「町田コロス!」って思ってました。町田康の『宇治拾遺物語』を読めたことは、あたしの長い文学生活で一、二を争う衝撃でした。
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単行本p.53、63


 シリーズ“町田康を読む!”第56回。

 町田康の小説と随筆を出版順に読んでゆくシリーズ。今回は、池澤夏樹さんの編集による『日本文学全集』の古典現代語訳を担当した作家たちによる連続講義を書籍化した一冊。単行本(河出書房新社)出版は2017年1月です。

 本書で扱われている古典の現代語訳のうち、個人的に読んでいたのは第08巻に収録されている『日本霊異記/発心集』(伊藤比呂美:現代語訳)と『宇治拾遺物語』(町田康:現代語訳)だけです。ちなみに単行本読了時の紹介はこちら。


2016年02月16日の日記
『日本霊異記/発心集(日本文学全集08収録)』
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-02-16

2016年02月18日の日記
『宇治拾遺物語(日本文学全集08収録)』
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-02-18


 本書は、前述の二名を含む五名の古典現代語訳担当作家による連続講演を書籍化したもの。それぞれの現代語訳を読んだ方はもちろんのこと、人気作家のエッセイアンソロジーとして読むことも出来ます。


古事記
『日本文学の特徴のすべてがここにある』(池澤夏樹)
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 日本人の心性は、『古事記』の昔からあったのだと思います。やまとごころ、もののあわれ、無常観、日本文学の特徴とされるものは、すべて『古事記』に見つけることができます。日本文学は、それを洗練させながら、連綿と伝えるいとなみでありました。
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単行本p.36

 成立過程、編集、速度と文体、といった様々な観点から『古事記』を語ります。天皇礼賛の書という評価は正しいか、各国の神話との比較、そして古事記に表れた日本人の心性、といった話題が次々と。


日本霊異記・発心集
『日本の文学はすべて仏教文学』(伊藤比呂美)
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 どの話でもそうなんです。先ほどの「邪淫の縁」だと、セックスで死んだ二人の話の後に、背骨の柔らかい男は自分の口でマスターベーションするものだなんて言ってる。それを読んだあたしたちは、なるほど! なんて全然思わないですよね。(中略)
 景戒さんは、背が低くて、なんだかキュートで、頭がよくて、セックスが好きで、好きだってことを平気で言える、いい男でした。そんな人が考えたことですから、奇妙なコメントにも何か目的があったはず……。
 それで行きついたのが、仏教です。
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単行本p.66

 エロ満載、あるがままの人間の業を描いた仏教説話集『日本霊異記』について、そして日本文学は仏教とどのように関わってきたのか、思い入れたっぷりに語ります。
「みんな、町田さんのばっかり読んでるみたいですけど、あたしのもじっくり読んでくださいね。百年後にも残るクラシカルな訳、をしたつもりですから」(単行本p.64)


竹取物語
『僕が書いたような物語』(森見登美彦)
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『美女と竹林』というタイトル、この美女はやはりかぐや姫をイメージしていました。それに僕がデビューしてから今まで書いてきた小説には、片思いをして右往左往するアホな男たちが多かったです。『竹取物語』から千年の時がたっているとは思えないほど同じですね。
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単行本p.103

 キャラクターを立てる工夫、和歌をどうやって現代語に訳すか、など『竹取物語』の翻訳にあたって工夫したところを解説してくれます。


宇治拾遺物語
『みんなで訳そう宇治拾遺』(町田康)
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 破格な翻訳です。でも、ただ形を壊そうとか、元の話を裏切ってやろうとか、とにかくむちゃくちゃやればいいとかいうわけではないんです。原文を読んで、おもしろい、楽しい、なんでこうなるの? と思った気持ちがやっぱり大事です。そして自分で訳してみて、この訳文ええやんけ、とおもしろがれる気持ちが大事です。単なる破壊じゃあ、なかなか楽しくできませんから。
 けっこう遊べます。やれと言われてやった仕事ですけど、『宇治拾遺物語』の翻訳はおもしろいばっかりでした。こんなんで金もらえるんやったら一生これやるわ、と思いましたね。
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単行本p.144

 話題沸騰、伊藤比呂美さんをして「町田コロス!」と言わせた名訳はどのようにして出来上がったのか。実際に翻訳してみよう、ということで、様々なコツを伝授してくれます。


百人一首
『現代に生きる和歌』(小池昌代)
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 このように和歌はいろいろな解釈ができるものですから、踏み分けて、踏み分けて、奥に入っていくときりがない。でも、いろいろ知って、たくさん読んだ後に、また素直な気持ちで一首に帰ってくる。すると前よりも、もっと耳が立ってくる。
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単行本p.161

 百人一首から六首をとりあげ、その解釈の試みを通して、和歌の「きりもない奥の深さ」と「微妙なところでの受け取り方の変化」を解説します。



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『地獄に咲く花』(川村美紀子) [ダンス]

 2017年2月5日は、夫婦で横浜赤レンガ倉庫1号館3Fホールに行って「横浜ダンスコレクション2017 ダンスクロス+アジアセレクション」を鑑賞しました。『地獄に咲く花』はこの日上演された作品のうちの一つで、川村美紀子さんが踊る20分ほどのソロダンス作品です。

 一枚一枚に般若心経が焼き付けられた(アイロンビーズで)細長い布、というかタペストリーが、舞台左右の天井から何枚も垂れ下がっている舞台。奥へゆくほど短くなっているため、遠近法によって彼方に向かって通路が延びている印象を与えます。周囲は闇に包まれ、床は黒一色。そこに、白い砂(素材はビーズらしい)で作られた道が一本、舞台奥へと続いています。

 そんな舞台中央手前、観客のすぐ目の前、こちらに背を向けて、すっくと立つ人影。「れんげのはーながひーらいた、ひーらいたとおーもったら、いーつのまーにか、つーぼんだ」というあの童謡がご本人の声で流れ、観客の肝を冷やします。

 非常にシンプルな舞台装置と演出なのに、まだ動いてもいないのに、思わず息をのむような迫力。いきなり地獄、煉獄か、とにかくそこら辺に放り出されてしまった感に包まれます。参考までに、本人のツイートに添付されていた写真へのリンクを貼っておきます(リンク切れの際は申し訳ありません)。

https://pbs.twimg.com/media/C39UaWVUcAATgxH.jpg

 そして殺気にも近い悲嘆、苦悩、絶望、怒り、声なき絶叫が全身からほとばしるようなダンスが始まり、ほどよく冷えた観客の度肝を一気に引き抜きます。苦しみ悶えながら、一歩、また一歩と、抗えない力に引き寄せられるように白い砂の道を舞台奥に向かって進んでゆく。そこに天井から白い砂が、ざざっーと、降ってきて、さらに身体を打ちのめす。消えたあとには、白い砂で描かれた蓮の花が……。

 吸った息が吐けないような緊迫感。あまりにも理不尽に酷い目にあわされたが故に地獄に落ちるしかないような、そんな印象と共に、その仕業に加担したことを糾弾されているような衝撃と緊張を覚えます。わずか20分の作品ですが、ずっと終わらないような恐ろしさを感じさせる、凄絶なソロでした。



タグ:川村美紀子
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『Coincidance in Between』(高橋萌登 × ユン・ボラム) [ダンス]

 2017年2月5日は、夫婦で横浜赤レンガ倉庫1号館3Fホールに行って「横浜ダンスコレクション2017 ダンスクロス+アジアセレクション」を鑑賞しました。『Coincidance in Between』はこの日上演された作品のうちの一つで、日本の高橋萌登さんと韓国のユン・ボラムさん、二人の共同制作による30分ほどのデュオです。

 ユン・ボラムさんは「コンペティション・ソウルダンスコレクション」を受賞した振付家だそうで、手足が細くすらりと背が高いボーイッシュな外見。並ぶと高橋萌登さんが頭ひとつ分くらい小柄なのが目立ち、どうも小動物めいた印象。クマのキャラクターが描かれた赤いパジャマの下を履いているという姿も幼児っぽさを強調します。

 二人が一緒に舞台上にいると、どうもそりが合わなそう。何か交流しなきゃいけないと思いつつも、互いに要領がつかめないという感じ。座っている相手の背後から顔を両手でつかんで持ち上げ、肩を後ろからこづいてよろけさせる、自分を背負わした上であっち行けこっち行けと気まぐれに指図するなど、保育園でよく見かける幼児的薄悪意行動が繰り返されたりして、ああ、友だち作るやり方が分からない同士なんだな、と。

 互いの国の言葉で文章を読みあげる、といった交流の試みめいた場面もあるのですが、ちっとも相手に伝わってない、それ以前に自分が何言ってるのか理解してない感がひしひしで、どちらかというと諦観が漂います。激しいダンスシーンもありますが、それぞれにがんがん踊ってる印象が強い。ダンス自体は両名とも力強く、観ていて高揚します。

 というわけで、アジアセレクションではあるけどあんまりダンスクロスしない公演でした。



タグ:高橋萌登
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