So-net無料ブログ作成
検索選択
メッセージを送る

『靴下編み師とメリヤスの旅』(川上亜紀)「モーアシビ」第32号掲載 [読書(小説・詩)]


――――
 こんなふうに小さなパン屋の片隅で、黙々とした編み物の世界からとつぜん顔をあげるとまもなく、私は見知らぬ年上の女性の靴下を編むことになったのだった。
――――
「モーアシビ」第32号p.42


 難病を抱えて母と二人きりで暮らしている語り手。パン屋で出会った老婦人のために靴下を編む約束をするが……。編み物を通じて自分の生活が異国とかすかにつながってゆく気配。小さな希望を静かな筆致で丁寧にえがく短篇。同人誌発行は2016年11月です。


――――
私はもう〈新しい〉といわれる薬や治療法をあまり信用しなくなっていて、早く下痢が治まらないとくたびれてしまう、ステロイドの内服で治療したいと言いはったので、骨がだめになって将来大腿骨がポッキリ折れたりしたら寝たきりになってしまいますよなどとさらに脅かされもしたのだが、ともかく八月の末にはさっさと退院してきた。〈将来〉のことなんてもういい。
――――
「モーアシビ」第32号p.33


 母親との二人暮らし、難病を抱えて、就職も断られてばかり。楽ではない、希望の薄い生活のなかで、語り手の女性は編み物を始めます。そんな彼女がパン屋の片隅で出会った年上の女性。会話の流れで、ふと、靴下を編んであげましょうか、と申し出てしまうのでした。


――――
「ええ、そうかもしれません。もしよかったら、水色の毛糸で靴下を編んであげましょうか?わたしにとっていまは靴下を編む時期みたいなんです。よい靴下編み師になれるとは限らないですけどね」
――――
「モーアシビ」第32号p.40


 そうして丁寧に慎重に靴下を編んでゆく語り手。完成に近づくにつれて、不安が頭をもたげてくる。果たしてあのときの約束を、忘れないでいてくれるだろうか。ちゃんとあの人に再会して靴下を渡すことが出来るのだろうか、と。


――――
減薬のあいだに少しずつ靴下を編むという作業療法に近い手仕事がなかったら、私はステロイドのもたらす高揚感や疲労感に振り回されてもっと妙なことを始めていたかもしれない。はたして今後靴下編み師になれるのかどうか、それはまったく別の問題だけれど。
――――
「モーアシビ」第32号p.50


 始めて他人のために、というか、「仕事として」編んだ靴下。それは、語り手が予想もしなかった運命をたどることに。自分の生活と遠い異国とが繋がったような気配。

 というわけで、落ちついた語りのなかから静かな諦念とささやかな希望が浮かび上がってくる、感動的な短篇です。川上亜紀さんの小説短篇集が出版されればいいのになあ。



nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

『しんくわ』(しんくわ) [読書(小説・詩)]


――――
好きなひとの瞳の中に僕がいてなんて素敵な二人の焼き肉食べ放題
――――
グーグルで徐庶を検索するたびにJOJOでは? と尋ねられるトラップ
――――
とてもそれは絶唱に似た 「信長の野望」 兵糧 0 の突撃
――――
猫のくせに、野良の雄猫のくせに、一度腹を撫でてやっただけなのにセックスしながらあの猫、俺に挨拶しやがった
――――
五七五五七七や! しんくわよ と短歌の神様が追ってきて言う
――――


 「怒りが三十九歳を短歌に向かわせた。」
 「困るよね。作るよね。短歌。」
 「笑ったらいいと思う。」
 ちょっとこう忘れがたいほどの笑いと何かのセンスに圧倒される驚異のしんくわデビュー歌集。単行本(書肆侃侃房)出版は2016年12月です。


――――
 元旦の夜、凍った路面でバイクに乗ったまま転倒して、十字靱帯が切れて、膝が九十度よりも曲がらなくなってしまった。そして、一月四日には、そのバイクを盗まれた。バイクを盗んだのは若い少年だった。彼は尾崎豊を気取って夜の闇を僕のバイクで疾走したのだろうと思う。許せん! 怒りが三十九歳を短歌に向かわせた。
――――

――――
猫のくせに、野良の雄猫のくせに、一度腹を撫でてやっただけなのにセックスしながらあの猫、俺に挨拶しやがった
――――

――――
岡山でカード整理出来ず泣く
しんくわの声聞くときぞ
秋は悲しき

 しんくわは三国志大戦のカードおよそ三万
枚と、三国志大戦TCGのカード約一万枚で
部屋が埋もれてしまい、数万枚のカードを部
屋に置いたまま逃げるように引越しをした。
彼はネットのない環境にいて、ネットカフェで
この文章を書いている。笑ったらいいと思う。
――――

――――
五七五五七七や! しんくわよ と短歌の神様が追ってきて言う
――――


 正直、びっくりした。現代短歌は面白いおもしろいとは聞いていたけど、まさかここまでぶぶぶぶっ。


――――
好きなひとの瞳の中に僕がいてなんて素敵な二人の焼き肉食べ放題
――――

――――
激怒するペンギン達はとんかつを叩いてる。叩いてる。叩いてる。
――――

――――
殿乱心 俺も乱心 庭番も そして全員腐乱死体
――――

――――
カンフーアタック 体育館シューズは屋根にひっかかったまま 九月
――――

――――
ぁっ、んっ、くぅっ」ダイイングメッセージとして残された文字がなんだか喘いでいます
――――


 一つ一つの作品も強力なのですが、連作を並べてみるとさらにコンボボーナスが入って一定時間無敵状態に。


――――
夏至パンクス 生き抜くためにガムの表面のさらさらした粉を舐めるよ
――――

――――
夏至パンクス2号 生き抜くために遠い昔生かさず殺さず亀をなぶりものにしたものだよ
――――

――――
夏至パンクス3号 僕は川越シェフを擁護する 彼、シェフじゃないか
――――


 ゲームの話題なんかも、ごく当たり前の題材として使われてたり。


――――
とてもそれは絶唱に似た 「信長の野望」 兵糧 0 の突撃
――――

――――
呼吸するようにイカサマをするという遊戯王プレイヤーを囲む猫達
――――

――――
叩いても叩いても黄蓋はいい声で泣くので叩くのをやめられない
――――

――――
グーグルで徐庶を検索するたびにJOJOでは? と尋ねられるトラップ
――――

――――
「万葉集を読みなさい。すべてはそこからです。江戸時代の賀茂真淵をはじめ今日まで、何人もの学者が万葉集のテキストを、ああでもない、こうでもないと研究してきた。いまから千二百年前のテキストをだ。あなたは、今から一年前に出来たカードゲームのテキストですら、ろくに覚えようとしない。2chの三国志大戦TCGスレッドですら、名も無きプレイヤーが一文字、句読点まで、ああでもない、こうでもない、と議論している。リアルマネーに物を言わせてカードを大人買いし、ろくにテキストを見ないなんて、むしろ、女カードのイラストを見てにやにやしている貴方なんか、だめだ。だめだ。だめだ。来年くらいに、小喬のフィギュアを抱いて新婚さんいらっしゃいに出なさい、貴方は全国から辱められないといけない!」
――――


 なぞの歌心みちみちてキャンセル技も使いこなすしんくわの次の歌集が楽しみ。


――――
短歌を作らざるをえないんです、だって鳩ですよ。たまに羽をバサッとか拡げたりして、「俺様、鳩だけど、どう?」なんて存在をアピールしちゃったりしているんですよ。困るよね。作るよね。短歌。
――――


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

『国境とJK』(尾久守侑) [読書(小説・詩)]


――――
眠りから目覚めるといつも灰色のつめたい教室にいる。名前をうしな
ったわたしたちは蠟のように固まった臙脂の制服をきて、なにも語ら
なかった。昨日から新たにうごかなくなった制服姿が三つあることを
なんとなくで察知して、心もち身体を近づけ合う。国境の街、寒波と
感染症の閉ざしたこの街でわたしたちは名前をうしなった。
(ここにおいていこう)
わたしたちの誰かが呟くと、誰かが立ち上がり、教室の扉をひらく。
廊下にもたくさん動かなくなった制服がおちていて、でもわたしたち
は歩いていく、きめていた。わたしたちは今日、国境をめざす。
――――
『国境とJK』より


 仲間の死体をまたぎ越し、傷つき血を流しながら戦場を歩き続ける。女子高生という苛烈な試練を生き延びようと必死にもがく若者たちの姿を描く青春詩集。単行本(思潮社)出版は2016年11月です。


――――
海の家がいきおいよく燃えている。反射してちらちらひかる海面と、
沖へにげていくこどもたち。炎はかれらをつつんで水平線へと一直線
にのびる道になる。やっぱり息がしろい、雪だ、燃えるこどもに粉雪
がふる。そう、わかっていた。渚でいちばんかなしい物語が、いまか
ら始まるなんてことは。
――――
『ナギイチ』より


 今の日本で女子高生をやっているのは、戦場に身を置いているようなもの。傷つけられ、心を殺されながら、それでも歩いてゆくしかない彼女たちの、痛々しい姿。あっちにも、こっちにも、戦死者と難民ばかりがあふれて。


――――
ポニーテールをほどいて
急行を待つ、たとえば下北沢駅に流れる
発着のメロディ、それから
忘れないでほしい。このリボンのネイビー
わたしは、決して伝わることのない
開戦のしらせを家族と
友達全員にメールで送って
携帯をホームから投げ捨てた
線路にもたれた液晶の表示する
04:48
たたかうための電車に
いま、のるところだった
――――
『透明な戦争』より


――――
あんなに明るい子だったのにね
こわいわね
おばさんたちの世間話だけが
すぐ横を通り過ぎて
いない人の話をしているのだと知れた
それで窓にならんだ顔がいっせいに
色々に変な表情をして
秋になった
校庭に、色のないセーラー服が
いくつも脱ぎすてられていて
それに触ったら、どうなるかしれないと
よけながら校舎の入り口に歩いた
――――
『YUKI NO ASA』より


 その頃、同年代の男子は何を考えているのでしょうか。


――――
 みらいとは湾岸に輝くヨコハマの、かはたれどきを彩るショコラのあじ
に似て苦く、むかし壊れたワーゲンを走らせるとよがるようにして波打つ。
きみにあいたいというのはほんとう? FMラジオはうそしか云わないか
ら、過去につながる交通情報をブロックして十年さかのぼる。
――――
『84.7』より


――――
雨宿りをする
二年前、出会った日のきみがいた
雨があがって
蟬が鳴いて
潮の匂いがむっとたちこめる
ふたりむきあったまま
ソニーのヘッドホンを外すと
外気に染み渡っていく夏のメロディ
県道を挟んでぼくらはもう
別々の海街にいた
――――
『海街』より


――――
           きみは。僕の背中に摑まって、ライダースジ
ャケットに乱反射する海を後部座席からみていたね。あのころ二百キ
ロで世界を置き去りにしながら捨てた新品のNOKIAは今でも遺失
物係と通話中のままで、だから僕はときどき訛りのない言葉できみに
話しかけてみる。もしもし、僕は何をわすれたのでしょうか……
――――
『コールドゲーム』より


 うん、まあ、男子高生の世界だわな。この年代の男女差というか溝というか生きる過酷さ切実さの違い。詩集全体が、その対比を強調するような構成に仕組まれているような気がします。そして戦場離脱後の、絶望的な距離感。


――――
 眠りつづけていると東京の喧騒が溶けてくる感覚がある。ここは都
心からは少し離れた郊外だけれど、雨のよるの渋谷の映像がきらりき
らりと、よくみえる万華鏡のように脳内を去来することが、ときたま
あった。どしゃぶりのハチ公前から、TSUTAYAにむかって歩いて
いくさやかさん。よくみると泣いていた。空が灰色だった。考えてみ
れば雨の日にあまり空は見ない。信号機をつっきって、ハイドロプレ
ーニング現象で魔法のようなうごきをみせるプリウスが、ゆっくりと
交差点に侵入していく。飲み込まれていくさやかさんは、来月二十三
になるはずだった。足元に転がった傘の花柄は妙に明るい。そこでま
たねむりに戻り、朝になる。
 白血病のこどもが、ぴゅーと指笛をふいてふざけている日曜日、お
昼の病棟。さやかさんはもう来ない。目をあかく腫らしたさやかさん
が、あの日、なにを考えて渋谷にいたのかをずっと考えているけれど、
ぜんぜんわからない。とてもかなしいけれど涙もでない。海のみえな
い病棟で、わたしはわたしのなかにもある潮の満ち引きに共鳴してい
た。
――――
『ナショナルセンター』より


――――
 答えはわかっていたけれど、冷たい歩道橋をかけぬけて時間ぴったりに
タイムカードを通した呼吸停止の五秒前、バイト先のコーヒーの匂いがし
みついたセーターに透明なメッセージがとどいて俺を貫通していく夕方が
おわり、じりりと鳴った目覚ましを叩き壊して起電力ゼロでむかう一限は
自主休講でちょっと可愛いコンビニ店員しかもう見えない。これから寝る
のにレッドブル買ったわ。と意味のないつぶやきを放ってサークル棟でだ
らつきながら一日がはじまって、おわっていく。明日もどうせはじまって
おわって、あさっても、無難なシャツにバーガンディのニットを合わせて
暖房をきってアパートを出て同じ道をチャリではしる、たぶん。
――――
『Sugar Campus』より


 というわけで、生き延びることが出来なかった者たちのことを思う詩集。そうでない者たちは、何であれ、みな幸せになればいいと思う。


――――
医者になってから、高校生のころはヲタクだからと見向きもしてくれ
なかったような女子がすきですなどと言いながら平気で近づいて来る
ようになったし、そのせいでかつてヲタクだった同僚はバーベキュー
とか花火とか、およそ縁のなかった世界の表側で活躍している。かわ
いい女の子を毎晩部屋に連れ込んで、それでいてしっかり者の育ちの
いい彼女は別にいて、週末に映画をみにいったりドライブをしたりし
ている。表側の世界は華やかだなあ、キラキラしているものしかなく
て、ヲタクはひとりもいないそんな世界が現実にはあるなんてこと、
いや、知ってたけど。
――――
『ヲタクになれなかった君たちへ』より



nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

『さあ、文学で戦争を止めよう 猫キッチン荒神』(笙野頼子)「群像」2017年4月号掲載 [読書(小説・詩)]


――――
 この地球で一番強く残忍で無残な力が、人間を汚染したいミイラにしたい家族をばらばらにしたい、子供が育つ前に潰して使って喰ってしまいたいという最悪の欲望に取りつかれながら、何もかもを数字にするためにだけ押し寄せてくる。経・済・暴・力。総理? 嬉しいだろ、「まだまだ余裕ある」日本の貧乏人が世界基準にそろえば、「ムダが省ける」からねえ。
――――
「群像」2017年4月号p.27


 シリーズ“笙野頼子を読む!”第109回。

 千葉の片隅でドーラなき日々を静かに生きる作家と猫、見守る荒神様。だが人喰い国家と世界銀行は戦争つれてやってくる。さあ、文学で戦争を止めよう。『ひょうすべの国』と『未闘病記』を背負い「今こそ」放たれる神変理層夢経シリーズ最新作「@群像なう」。


――――
 だから言おうよ、言うだけでもさ、だって「群像」は、本来、文学で戦争を止めるためにあるんだから。ね、戦後戦犯になりかねなかった、ここの版元が、平和憲法下で再出発するために作った雑誌なんだ。そこへ体に拷問の跡がある左翼が純文学のために協力したんだよ、書いて貰うまでは大変でしたって初代の編集長は言っていたはずで。そしてあれから七十年、ついに戦前、だったらこれ止めるためにずーっとここにあったんじゃないの?
――――
「群像」2017年4月号p.15


 これまで「文藝」「すばる」に掲載されてきた『神変理層夢経』シリーズ、その最新作がついに「群像」に掲載。荒神様もハッスル。「そういうわけで、僕@群像なう、つまり、ここは自由でしょ? だから僕はここで口を利くね。」(「群像」2017年4月号p.12)なので、「これ、台所話なんだ、台所ではなんだって語れるのだ、なぜかこの国ではここに偉いやつは入って来ないしね、ここなら戦争を止められるさ。」(「群像」2017年4月号p.16)ということで。


――――
 さあ、今こそ文学で戦争を止めよう、この、売国内閣の下の植民地化を止めよう。
――――
「群像」2017年4月号p.10


――――
 さあ、止まれ、今止まれ! 文学の前にこの戦前止まれ。そして「今こそ」文学は売国を報道する。だって新聞がろくに報道しないからね。
――――
「群像」2017年4月号p.11

――――
 こうなったらもう、報道より文学の方がよっぽど迅速だよ。ていうか僕の「飼い主」の命取るな。
――――
「群像」2017年4月号p.16


 荒神様、金毘羅、ギドウ、そして今は亡きドーラにいたるまで、様々な声が響きわたるなか、すべてを薄っぺらい数字に押しつぶし経済効率だけで語るものどもへの怒りをこめた糾弾と「お馴染みの退屈で素敵な、身辺雑記!」(「群像」2017年4月号p.12)が並行して語られます。


――――
ほら、人間まるごと、お金や数字と見なされて数え上げられ、毟られて喰われるんだよ。しかもそうして喰ったお金は人喰いの金庫、タックスヘイブンで固まって冷えるだけなんだね。格差は広がり、景気は一層悪くなって、つまりは「下方から」、死んでいく流れ。
(中略)
 世の中って何? ひとりひとりの事情が違う、でも、大きいものはやって来て「平等に」まき散らす、相手の都合を一切考えずにただやらかす、上からね、天からね、そして下では? 弱いものから死んでいく。その上ここはひどい国、人喰いの国、そしてここの家、そんな人喰いから見ると、「努力してない」家、「役に立ってない」家、だから罰を食らうかも。
――――
「群像」2017年4月号p.17、18


――――
 要は健康な人間なら仕事の合間にするようなただの整理整頓をこの慢性病患者は無上の幸福感で「無事」やっているわけだ。ともかくまず台所の模様替えを済ませたいのさ。台所に猫と快適に住めるようにしたいと。人喰いに怯えながらも良く生きるべし、と。つまり連中の目的は搾取、略奪だから。ならば幸福でいる事も威嚇で復讐だ。
――――
「群像」2017年4月号p.37


 『ひょうすべの国』と『未闘病記』を背負って、台所から戦いを挑む文学。ただ静かに「幸福」に暮らすことが威嚇で復讐になるほかはないひどい国。ドーラが、ギドウが、若宮にに様が、それぞれの声が、暮らしと命と文学を支えてゆく。特にドーラについては、読者も色々と思いだして泣く。しみじみと泣く。


――――
「ほら、ドーラいなかったらあなたいないでしょ、お礼は、ドーラにお礼は? ……嚙むわ、体重かけて嚙むわ、ばーか、ばーか」。いつも、思いだしているよ、ドーラ、ドーラ。
――――
「群像」2017年4月号p.74


――――
 気が付くと私は台所で書いている。ドーラの世界にいて、ドーラの話を打ちおえると、後ろのソファベッドに、離れた位置だけどちゃんとギドウがいる。死の世界はない。そして、生きている猫のその眠りは、というと。いや、結局それだっていつ死ぬかもしれないから。
――――
「群像」2017年4月号p.87


――――
 ああ、猫といる郊外の一軒家の、庭に花、昼の風呂、夜は星空。なのに、……。
 幸福な余生のはずが薬を奪われる? 戦争に突入する? 政府は文学部をなくそうとしているよ? 変な軍事研究なら大学でもお金出すといっているよ?
――――
「群像」2017年4月号p.106


 文学で戦争を止めよう。そういっただけで、わいてくるわいてくる客観公平中立冷笑マンの方々。文学でミサイル迎撃できるのかw、せっかくならあらゆる紛争も文学で止めて下さいよw、ってか。


――――
 あなたは気づいてない、人と自分の能力差とかばっかり気にしている、差別好きの、人の足ひっぱって暮らす妬み妖怪。でもあなたがそうやって他人を差別したり馬鹿にしたり冷笑したりしているうち、あなたの弱者叩きの結果、国は貧乏になり、戦争もやってくる。あなたには見えない、戦前が見えない。
 私はそれを知っている、だから不幸だ。あなたはそれを知らない、だから「幸福」だ、だったらさあ、安心して私をさげすみ、泣いている私を見たがって追い回しなさいよ。
(中略)
は? 文学に何が出来るのかだって、お前ら、原発とTPPの報道が「出来て」から言えよ、小説が「届かない」のはてめえらが隠蔽したからだろ。こっちは十年前から着々とやっていたよ。悔しかったらむしろ、お前らが文学に届いてみろ、小説を買いも覗きもしないで読む能力なくて、それで「文学に何が出来るんだ」じゃねえわい、ばーかばーかばーか。
――――
「群像」2017年4月号p.55、57


――――
切実な言葉にでも、それらすべてを単なるテキスト、表現としてしか受け止めない「学術的冷静さ」に溢れている。そんな彼らは無論、自分だけは特別でなんでも保留する。そのくせ「公平に、みんなの立場」で「未来を考えて」ものを言ったつもりでいる。また、常に反権力を気取り被害者のつもりでいる、当時に当事者意識というものがまったくない。
(中略)
最初はヲタクの受け身、と思っていた。消費一辺倒で世間知らず、故にどこへでもクレーム用語を垂れ流すのだと。しかし実はもっと本質的な正体があった。
 それは投資家の意識なのだ。こうなると性暴力と経済収奪、ヘイトスピーチはまったく三位一体に見えてくるものだ。要は弱肉強食のためのヘイトデマである。経済収奪のための、被害と加害との、逆転である。
――――
「群像」2017年4月号p.99、100


 家族のこと猫のこと難病のこと、国家に奪われない私的な祈りと信仰のこと。すべての「私小説」要素が、当事者意識に支えられ悲壮な覚悟となって、読者の心を強く打ちます。『ひょうすべの国』と合わせて、ぜひ読んでほしい作品です。


――――
 台所でギドウとの日常だけを静かに暮らしたい。しかしこの二階の情報は今後の私達に影を落とすもの。というより、弱くとも筆の力を持っている身なら少しなりとも、「報道」をするよ? というか、見えないものを見せる事こそ普通に(私の)文学だ。
(中略)
 そして、……私の「異様な」、「凄まじい」、「ものすごい」本は死んでも残る。書くことしか出来なければ、この戦前を書く。どのような醜いものをも、全部をよけないで書く。よけないでいてこそ、私の本は売れない。そして死後も残る。戦犯と言われたいか? 言われたくない! どうか百年後も読者よ私を見つけてそしてうっとりして、喜々として「ああ、誰も読んでいないのよ私だけが読むのよ(といってるやつがあっちこっちにいる事はともかくとして)」と呟いててください。
――――
「群像」2017年4月号p.90、108



タグ:笙野頼子
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

『桜前線開架宣言』(山田航) [読書(小説・詩)]


――――
短歌が少数の人にしか読まれないって、どう考えてもおかしいじゃないですか。だって商業出版される小説の九割は、自費出版の歌集よりつまんないですよ。
――――
単行本p.269


 1970年以降に生まれた若手歌人40人をセレクト。それぞれの作風を紹介すると共に、一人あたり56首もの作品を選んで掲載してくれる現代短歌入門書。単行本(左右社)出版は2015年12月です。


――――
 文学なんて自分には縁遠いものだと思っていた。というか今も縁遠いと思う。でも短歌のリズムにはすっかりハマってしまったのだ。
(中略)
 僕は本が嫌いなのではなくて、「物語」があるものが嫌いなだけなんだと気づいた。音楽と同じ感覚で楽しめる本も世界にはあって、短歌はまさにそれだった。ほどなくして俳句も現代詩も好きになっていった。
(中略)
 しかしぼくは大きな勘違いを一つしていた。寺山修司から短歌に入ったぼくは、歌集というものをヤングアダルト、つまり若者向けの書籍だと思い込んでいたのだ。短歌が世間では高齢者の趣味だと思われていたなんてかけらも知らなかったし、実状をそれなりに知った今でも心のどこかで信じられない。どうせなら、ぼくと同じ勘違いを、これから短歌を読もうとする人みんなすればいいと思う。みんなですれば、もう勘違いじゃなくて事実だ。
 ぼくは短歌のおかげで大人にならなくて済んだから、今はとても楽しいです。
――――
単行本p.6、7、8


 教科書に載っているような古典ばかりが短歌じゃない。就活、バイト、ゲーム、アニメ。現代を生きる僕たちの心を揺さぶる色々なことを、だいたい31文字で表した、とびきりクールで面白い現代短歌の世界。1970年以降に生まれた若手歌人40人とその代表作を紹介する現代短歌入門にも最適な短歌アンソロジーです。

 掲載されている歌人は次の通り。一人につきそれぞれ紹介2ページ、作品4ページ(56首)が割り当てられています。

[1970年代生まれの歌人たち]

  大松達知
  仲澤系
  松村正直
  高木佳子
  松本秀
  横山未来子
  しんくわ
  松野志保
  雪舟えま
  笹公人
  今橋愛
  岡崎裕美子
  兵庫ユカ
  内山晶太
  黒瀬珂瀾
  斎藤芳生
  田村元
  澤村斉美
  光森裕樹

[1980年代生まれの歌人たち]

  石川美南
  岡野大嗣
  花山周子
  永井祐
  笹井宏之
  山崎聡子
  加藤千恵
  堂園昌彦
  平岡直子
  瀬戸夏子
  小島なお
  望月裕二郎
  吉岡太朗
  野口あや子
  服部真里子
  木下龍也
  大森静佳
  藪内喬輔
  吉田隼人

[1990年代生まれの歌人たち]

  井上法子
  小原奈実


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ: