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『ドラゴンの塔(下) 森の秘密』(ナオミ・ノヴィク、那波かおり:翻訳) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]

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故郷にいないと、自分の中身がからっぽになったような気がした。谷を出て山を越えたときから、毎日、故郷をなつかしんだ。根っこ……そう、わたしの心には根っこがある。その根は、穢れと同じくらいしぶとく、あの谷に根を張っている。(中略)なぜ〈ドラゴン〉があの谷から娘を召し上げるのか――それがふいに、わかったような気がした。なぜ、彼はひとりの娘を召し上げるのか、そして、なぜその娘は、十年の月日がたつと、谷から去っていくのか。
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単行本p.96


 邪悪な〈森〉に捕らわれていた親友カシアと王妃を救出したアグニシュカ。だがそれは狡猾な罠だった。人の悪意を操る〈森〉の策略により崩壊してゆく王国。アグニシュカたちが立てこもる〈塔〉は軍に包囲され、ついに武力と武力、魔法と魔法が激突する壮絶な攻城戦が始まる。『テメレア戦記』の著者による冒険ファンタジー長篇、その下巻。単行本(静山社)出版は2016年12月です。


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「〈森〉をあやつるやつは、愚かで猛々しいけだものとはちがう。そいつは目的のために思考し、計画し、行動する。そいつには人の心のなかが見えるんだ。そして、心に毒をたらしこむ」
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単行本p.120


 いよいよ〈森〉の秘密が明らかになる下巻。ちなみに上巻については昨日の日記を参照してください。


  2017年04月12日の日記
  『ドラゴンの塔(上) 魔女の娘』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-04-12


 〈森〉との闘いで善戦したアグニシュカ。だが、それもすべては〈森〉の策略だった。隣国との緊張関係、王国内部の政治力学、アグニシュカという異物。すべてを利用した狡猾な人心操作により、〈森〉は王国を崩壊へと導いてゆく。


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「あんなところに足を踏み入れちゃいけなかったんだ。踏みこんだうえに、兵はさらに進軍をつづけ、領土を広げ、木々を切り倒し、ついには〈森〉をふたたび目覚めさせてしまった。この先どうなるのかは、だれにもわからない」
(中略)
「そうよね、たぶん、あんな土地に住みついちゃいけなかったのよ。でも、もう手遅れだわ。〈森〉はわたしたちを放してくれない。わたしたちを逃がそうとしない。わたしたちを食い尽くし、むさぼり尽くしたいんだわ。だから、〈森〉に呑みこまれたが最後、戻ってはこられない。もう、やめさせなきゃ、そんなこと。逃げるんじゃなくて、やめさせなきゃ」
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単行本p.95、97


 アグニシュカと大魔術師〈ドラゴン〉ことサルカンがたてこもる〈塔〉を取り囲む数千の大軍。そして、武力と武力、魔法と魔法が激突する壮絶な攻城戦が始まる。どちらが勝利しても、疲弊した王国を〈森〉が取り込むだけ。分かっていながら、誰にも止められない戦争。

 まさに四面楚歌。ついに塔の大門が打ち破られ、敵兵がなだれ込んでくる。地下に逃げ込んだアグニシュカはサルカンと共に最後の魔法に挑む。奇跡は再び起きるのか。


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魔法書はすでに彼の手もとにない。『ルーツの召喚術』は消えてしまった。呪文を終わらせることはできないし、彼の力が尽きてしまったらきっと……。
 わたしは深く息をつき、サルカンの指に自分の指をからめて、呪文に合流した。彼はすぐには受け入れなかった。わたしは声をひそめ、息をはずませながら、自分の感じるままに歌った。もう地図はない。言葉も憶えていない。でも、わたしたちは、これをやり遂げたことがある。どこに向かうのか、なにを立ちあげるのか、それを憶えている。
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単行本p.257


 姿をあらわす〈森〉の正体。力でも魔法でも滅ぼすことの出来ない敵。その圧倒的なまでの悲しみと憎しみの理由を知ったアグニシュカには、はたして何が出来るのだろうか。


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 わたしは土山からおりて、池の底に広がる石を踏みながら〈森〉の女王に近づいた。女王が怒りをたぎらせてわたしに向かってくる。「アグニシュカ!」サルカンがしわがれた声で叫び、這いあがる樹皮と戦いながら、わたしのほうに片腕を伸ばした。わたしに近づいてくる〈森〉の女王の動きがしだいにゆっくりになり、止まった。召喚術の光が彼女を背後から照らし出す。女王のなかのすさまじい穢れが、長い歳月をかけて絶望がつくった苦渋の黒い雲が、召喚術の光に浮かびあがった。でも、光は彼女だけでなく、わたしの体も照らし、そして透過した。〈森〉の女王には、わたしの顔の奥に、彼女を見つけ返すほかのだれかが見えていたはずだ。
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単行本p.322


 理解と共感はヘイトを乗り越え共存への道を見つけることが出来るのか。西洋ファンタジーとして始まった物語は、現代の世界が抱えている課題へとストレートにつながり、やがて東欧民話の世界へと静かに回帰してゆきます。

 というわけで、魔法、東欧民話、師弟ドラマ、ロマンス、宮廷政治、戦争、さまざまな要素が絶妙なバランスで配置された、誰もがわくわくしながら読めるファンタジー長篇です。『テメレア戦記』が好きな方にはもちろん、物語の魅力でぐいぐい引っ張ってゆくファンタジー作品が好きな方に広くお勧めします。



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