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『となりのイスラム 世界の3人に1人がイスラム教徒になる時代』(内藤正典) [読書(教養)]


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いまや世界の人口の四分の一にあたる十五、六億人がイスラム教徒なのです。近い将来、三人に一人がイスラム教徒になる、とも言われています。
 このことは、イスラム教徒とかかわらずに生きていくことが、もはやできないという現実をあらわしています。
(中略)
イスラムから学ぶことはたくさんあります。とくに、日本人がいま直面している高齢者の介護や子育てといった問題で、吸収すべき知恵は数知れません。
 また、安全保障や治安の観点、もっとひろげて平和のためにも、イスラムと「戦う」という選択肢より「共存を図る」ほうが、人類史のレベルにおいて、はるかに大きな恩恵が生まれるにちがいありません。
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単行本p.4、6


 近い将来、人類の3人に1人がイスラム教徒になると予想されている。西欧世界とは異なる価値観を持つ隣人たちとうまく共存し、世界にこれ以上の衝突と惨禍を広げないようにするためにはどうすればいいのか。教義や歴史よりも実際のイスラム教徒がどんな人々であるかに焦点を当て、イスラムに関する基礎知識と共存のための知恵を学べる好著。単行本(ミシマ社)出版は2016年7月です。


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 イスラムの場合、さきほども触れましたが、根本的に私たち、あるいは近代以降の西欧世界で生まれた価値観とは相入れないところがあります。そこばかりに注目するなら、イスラム世界と西欧世界は、対立し、衝突し、暴力の応酬におちいってしまいます。それをどうしたら避けられるか、ここのところも考えなければなりません。イスラム世界と西欧世界とが、水と油であることを前提として、しかし、そのうえで、暴力によって人の命をこれ以上奪うことを互いにやめる。そのために、どのような知恵が必要なのかを考えなければなりません。
 そういう願いを本書に込めました。
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単行本p.7


 現代イスラム地域研究を専門とする社会学者である著者が、予備知識のない読者を対象に、非常に分かりやすくイスラムについて解説してくれます。

 宗教としてのイスラム教とその歴史についての解説書は多いのですが、本書の特徴は、何十年もかけて現地で行った調査をもとに、実際のイスラム教徒のありのままの姿を描き出すことに主眼を置いていること。もう一つの特徴は、「腹を割って話せば、互いに分かり合える」といった甘い話で誤魔化さないで、根本的な価値観の対立がどこにあるのか、なぜ暴力の応酬という悲惨な状況から抜け出せないのか、という構造を明らかにし、その上で共存の道を探ろう、とする姿勢です。

 全体は終章を含めて八つの章から構成されています。


「第1章 衝突は「今」起きたわけではない」
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 度が過ぎたリベラルというのも、異文化との共生を破壊する危険性をもっています。ドイツやフランスの場合、伝統的に外国人嫌いは極右の主張でしたが、いまや、ヨーロッパ各国では、ナショナリズムに寄りかかって外国人排斥を叫ぶのではなく、俺たちの文化を守る自由を認めてくれ、イスラムという宗教から離れて暮らす自由だって認めろよ、というかたちで排外主義を叫ぶようになっているのです。
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単行本p.36

 イスラム世界から欧州各国に移民してきた人々の再イスラム化、高まる反ムスリム感情と排外主義、これらが生み出す対立と暴力の連鎖、といった悲劇的な構造を、主にイスラム教徒移民の視点から読み解いてゆきます。


「第2章 イスラム教徒とは、どういう人か」
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 イスラム教徒と三十数年つきあってきましたが、イスラムの本質というのは、教科書的な説明の中にあるのではなく、「儲かったときには自分の才能で儲けたなどと思うな」というように人間のおごりをいましめ、弱い立場の人を助けるところにあるように私は思います。(中略)困っている人が目の前にいたら、彼らは必ず何かをします。どこまでできるかは人によります。しかし、何もしない、ということはない。
 それがイスラムする人――ムスリムなのです。イスラムが何かということを知るより、イスラム教徒とはどういう人なのか、そちらを先に知ることのほうが大事だと思います。
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単行本p.68

 成功しても失敗しても本人の責任にしない、困っている人がいれば助ける、子供とお年寄りを大切にする、他人を国や人種で分け隔てしない。実際のイスラム教徒がどういう人々なのかを紹介してくれます。


「第3章 西欧世界とイスラム世界はもとは同じ」
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 ヨーロッパとイスラム世界との違いは、いろいろありますけど、ひとつ言えるのは、「イスラム世界へ行くとだらっとできる」ということです。私はそれを実感しています。妻もイスラム圏に入った途端に、なぜかほっとすると言っています。
(中略)
 もちろん、ドイツでもフランスでも人が困ったりしていたら助けてくれます。でも、なんと表現したらいいか、人と接するときにひとりひとりがどこか身構えている……。自分は「個」として生きているという肩肘張った感覚。そういうふうに身構えないと暮らせないところに長くいると、やはり疲れてしまいます。
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単行本p.87、94

 西欧世界とイスラム世界の歴史的関係を解説しつつ、皮膚感覚レベルで両者を比較します。


「第4章 となりのイスラム教徒と共に」
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 そういうことを商売にするハラール・ビジネスというのは、イスラム教徒ではなくても、実に傲慢なことだと思います。イスラムをよく知らない日本人をおどして金をとっているようなものですから賛成できません。
(中略)
 イスラム教徒と仲良くする一番の方法は、「正直であること」です。中途半端な理解で、高いお金を出してハラール認証をとることではありません。
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単行本p.114、116

 日本にやってきたイスラム教徒をもてなすとき、何に気をつければいいのか。ハラールや飲酒についても解説されます。


「第5章 ほんとはやさしいイスラム教徒」
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敬虔なイスラム教徒であろうと、行動がかなりイスラムから逸脱したイスラム教徒であろうと、弱者を助けなければという思いについては、ほとんど差がありません。
 このことは、イスラム教徒とつきあうときにも大切な点です。かりに酒も飲んでいるし、もう世俗化したんだろうと見えるようなイスラム教徒がいたとしても、その人がイスラムを捨てたと思ってはいけません。
(中略)
 彼らに「イスラム教徒でなくなるってどういう感じですか?」と聞いたときに返ってくる言葉。どんなに世俗的に見えるイスラム教徒でも決まってこう言います。
「人間でなくなる感じがする」
 ここは、見誤ってはいけないところです。
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単行本p.149、150

 前章で紹介した飲食に続いて、祈り、ラマダン、弱者救済、そして性的なことに関する対応について解説されます。


「第6章 日本人が気になる12の疑問」
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イスラムの社会と西欧の社会は水と油なのか。この点に関して言えば、そのとおりなのです。
 しかし、水と油であることは、お互いを傷つけあうこととは別です。イスラム教徒ではなく、そして、イスラムと西欧とのあいだにこれ以上の衝突をふせぐことを考え続けてきた私は、傷つけあうこと、殺しあうことを止めるための知恵を生みださなければならないと感じています。同時に、それがいま、途方もなく難しくなってきたとも感じています。
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単行本p.179

 裁判制度、一夫多妻、女性差別、同性愛の禁止、イスラム銀行、ヴェールの着用。誤解されることも多いイスラム社会の仕組みと、その背後にある価値観を解説します。共感でき学ぶことも多い一方、現代の西欧社会からは受け入れることが出来ない価値観の相違もある、ということを具体的に教えてくれます。


「第7章 イスラムの「病」を癒すために」
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 西欧的な進歩主義は唯一無二の正しい道だという思い込みをもたないことです。イスラム世界は、イスラムの価値観の上に立って歴史を積み重ねてきたのです。西欧の進歩主義をものさしにして、彼らイスラム教徒の人たちの価値観を「遅れた状態」と見なすことだけは、間違ってもやってはいけない。そもそも、イスラム教徒の人たちの価値観が「遅れている」と言えるのでしょうか。
 その西欧こそ、今の中東・イスラム世界をずたずたに分割して線引きをし、植民地として支配したことを忘れてはいけません。英国やフランスには、今でも、彼らを啓蒙してやるために植民地にしたのは正しかったなんて言う人がいます。極端なことを言えば、こういう発想が「イスラム国」を生みだす原因のひとつだったとも言えます。
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単行本p.217

 「イスラム国」に代表される過激派の台頭、内戦、クーデター、弾圧。秩序が崩れてゆく中東・イスラム世界と、深まる西欧社会との対立。何がどうしてこのような事態になってしまったのかを振り返ってゆきます。相いれない価値観を前に、「殲滅すべし」という発想も、「啓蒙して同化すべし」という発想も、いずれも対立を深刻化させるだけだということが強調されます。


「終章 戦争、テロが起きないために私たちができること」
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深夜の密航が、死の航海になるかもしれないことに気づいていたとしても、彼らはしっかりと前を向いていました。途方もない苦しみの果てにたどりついた、打ちひしがれた姿ではありませんでした。そのことが私を打ちのめしました。これだけの惨禍の中にあって、決して誇りを失わない姿に言葉を失ったのです。
 人道の危機の連鎖。内戦で家族を奪われ、生きる場所も奪われ、隣国にたどりついても安心も生計の手段もなく、最後の希望をヨーロッパに託して、彼らは海を渡ろうとしていました。
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単行本p.238

 内戦、難民、テロ、イスラム教徒に対する排斥と暴力。憎しみと恐怖の連鎖が止まらない世界の現状について、探るべき共存への道について、現場から考えます。



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『猫俳句パラダイス』(倉阪鬼一郎) [読書(教養)]

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 本書『猫俳句パラダイス』(「猫パラ」と略してください)には、愛らしい猫の俳句がたくさん詰まっています。(中略)表題句ばかりではありません。数百句にも上る引用句にもすべて猫が登場します。まさに猫だらけの俳句アンソロジーです。これだけの規模で猫俳句を集成した書物は前代未聞でしょう。
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Kindle版No.9


 愛らしい猫が登場する俳句を集めた猫句アンソロジー。新書版(幻冬舎)出版は2017年1月、Kindle版配信は2017年1月です。

 猫句アンソロジーといえば、昨年『ねこのほそみち 春夏秋冬にゃー』(堀本裕樹)を読みましたが、これは有名作品を数作とりあげてイラストと共に解説するものでした。ちなみに単行本読了時の紹介はこちら。


2016年12月06日の日記
『ねこのほそみち 春夏秋冬にゃー』(堀本裕樹、ねこまき:漫画)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-12-06


 一方、代表的な俳人の作品から「怖い」ものを選んで紹介した『怖い俳句』の倉阪鬼一郎さんが、猫が登場する句を集めてくれたのが本書。大量に猫句が収録されています。ちなみに『怖い俳句』の紹介はこちら。


2012年08月01日の日記
『怖い俳句』(倉阪鬼一郎)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2012-08-01


 『怖い俳句』のインパクトが大きかったので、また怖い猫が登場するかも知れないと思ってびびっている読者のために、最初に宣言してくれます。これで一安心。


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 猫には残酷な一面もあり、そういった部分を採り上げた俳句も多く作られていますが、本書ではマイナスイメージの作品はいっさい採りませんでした。『怖い俳句』の著者の本ですが、怖い猫の句は出てまいりませんので、そういったものが苦手な方も心安んじてページを開いていただければ幸いです。
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Kindle版No.24


 というわけで、ひたすら猫を愛でる句が並ぶ様は壮観です。特に多いのが、子猫を詠んだ句。


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猫の子のただ居て人を溶かす術 (照屋眞理子)
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薄目して仔猫はすべて意のままに (津久井健之)
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子猫ねむしつかみ上げられても眠る (日野草城)
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ペン擱けば猫の子の手が出てあそぶ (加藤楸邨)
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猫の子に太陽じゃれてじゃれてじゃれて (杉山久子)
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猫が子を産んで二十日経ちこの襖 (河東碧梧桐)
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猫の子のもう猫の目をしてをりぬ (仁平勝)
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れつきとした恋で生まれし仔猫かな (遠藤由樹子)
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 おとな猫の行動や仕草がかわいいかわいい、そしていじらしい、という句も。


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こんな手をしてると猫が見せに来る (筒井祥文)
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青あらし猫が頭突きをして去りぬ (明隅礼子)
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恋猫の胴の長きがごろんごろん (杉山久子)
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恋猫の恋する猫で押し通す (永田耕衣)
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恋猫がうしろ忘れているうしろ (池田澄子)
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 一方で、猫を愛でる人間の(駄目な)様子を詠んだ句もぎっしり。


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することがない猫の肉球をつまむ (きむらけんじ)
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昼寝の猫を足でつつく (きむらけんじ)
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猫をもむ 太陽がピザのようだわ (豊口陽子)
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待春の猫を伸ばしてみたりもす (杉山久子)
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愛猫の近況ばかり年賀状 (いそむら菊)
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 猫愛が暴走して、何やら確信に満ちた口調で断言しはじめたり。


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どの猫も世界一なり冬篭り (松本恵子)
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猫の棲む星や明るくあたたかし (津久井健之)
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ほろびゆくこの星にして猫生まる (仲寒蝉)
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恋猫の形相宇宙は膨張する (上甲平谷)
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何もかも知つてをるなり竈猫 (富安風生)
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小春日はしんじつ猫のためにある (仲寒蝉)
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一茶忌や諸人猫を愛すべし (糸山由紀子)
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 ついには、余人には何を言ってるのかよく分からないステージにまで。


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猫パンチの匂いがいつまでも残る (久保田紺)
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ネコ缶ひとつネコが私にくれました (久保田紺)
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コンビニで時々猫を買ってくる (櫟田礼文)
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今夜開店猫の質屋が横丁に (佐藤清美)
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サンタ或いはサタンの裔、我は牡猫 (高山れおな)
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くれないのサインコサインあくび猫 (早瀬恵子)
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原宿のはしからはしから猫の舌 (早瀬恵子)
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 しかし、猫句のこの量、尋常ではありません。「「困ったときの猫だのみ」で猫俳句を詠むと公言する俳人は何人かいる」(Kindle版No.573)とのことで、やはり猫句は詠みやすいのでしょうか。

 実はいくつか「それさえ入れておけば猫句になる、典型フレーズ」というものがあり、それを利用して量産しているのではないか、という気もします。本書で指摘されている猫句典型フレーズとは。


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 ある典型になるようなフレーズを含む俳句がいくつもありますが、この句の「猫の視野楽しからずや」もそれに含まれるでしょう。下の句に何を配してもさまになりそうです。
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Kindle版No.642


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上の句と中の句が何であろうと、「猫可愛」でまとめれば愛すべき猫俳句になりそうです。
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Kindle版No.190


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上の句が何であろうと「猫には猫の都合あり」を付けられそうです。
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Kindle版No.596


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 この句は「家猫のいる晩年よし」が典型となるフレーズです。逆に上の句に何を配してもきれいに閉じます。
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Kindle版No.645


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「猫の表情ゆたかなり」も典型になるフレーズで、どんな花にも合いそうです。
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Kindle版No.683


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「猫がゐるゆゑ帰る家」は典型となるフレーズです。
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Kindle版No.1330


 というわけで、最初から最後まで猫句がずらりと並んだ一冊。猫を愛する人、俳句や川柳を愛する人、両方愛する人、その他の人、あと猫、誰が読んでも楽しめる一冊です。


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つまりそのどう転んでも猫は猫 (戸辺好郎)
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『ねこのほそみち 春夏秋冬にゃー』(堀本裕樹、ねこまき:漫画) [読書(教養)]


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 この連載は、猫を詠んだ俳句を僕が選び、その句に僕が解説を書き、同時進行でねこまきさんがマンガを描くという趣向でした。二人のコラボレーションではあるのだけれど、僕は僕で勝手に解説を書いて、ねこまきさんはねこまきさんで自由にマンガを描くというスタイルを貫いたのです。その連載スタイルがいっそうコラボレーションの妙味を生み出したのではないかと思っています。
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 四季折々の猫を詠んだ俳句から88句を選び、それぞれに解説とマンガを付けた猫好きのための句集。単行本(さくら舎)出版は2016年4月です。

 見開き右側のページに俳句とその解説、左側ページにマンガ、という体裁で次々と名句が紹介されます。選ばれているのはいずれも「猫」を詠んだ句で、猫飼いなら「猫の行動から感じる季節感」あるある満載。マンガは「まめねこ」シリーズなどで猫好きの心をとらえているねこまきさん。

 季節ごとに、一句ずつ抜き出してみます。


[春]

恋猫の恋する猫で押し通す    永田耕衣

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「なんで恋で、こんなにボロボロになんなきゃいけないのよ。かわいそうに」
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[夏]

猫の尻見せられてゐる大暑かな    仙田洋子

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 夏の季語である「大暑」は、陽暦でいうと七月二十三日ごろにあたり、めちゃくちゃ暑い日でもあるのだ。
 そんな日に猫がすり寄ってきて、「ほれほれ」とお尻を向けてきて、「好きやで、あんさんのこと、ほんま好きやで」とすり寄ってきたら、いくら飼い主でも思わず、「あんたの好きなんはわかったから。暑いねん!」と叫び出したくなるだろう。
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[秋]

黒猫にアリバイのなき夜長かな    矢野玲奈

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 飼い主にこっぴどく怒られた黒猫にとっては、秋の夜は長すぎる。夜長に拗ねる黒猫はかわいい。
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[冬]

炬燵よりおろかな猫の尻が見ゆ    平井照敏

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とにかく悪事がばれていないと思いつつ炬燵に入った。だが、そのぴょんと出たお尻が何もかも物語っている。おろかで、やっぱりかわいい猫のお尻である。
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[新年]

去年今年肥満は猫に及びけり    今枝立青

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 さらに寝正月ともなると、肥満はますます及びそうである。食べては炬燵で一緒に寝そうだ。
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 親しみやすい解説と、愛らしい猫マンガが、こんな感じでついています。結論としては、「春夏秋冬、どの季節でも、猫はかわいい」ということに尽きます。
 他に、個人的に気に入ったその他の猫句をいくつか挙げておきます。


猫の毛の暗く過ぎたり螢籠(ほたるかご)    石田波郷

小春日の猫に鯰のごとき顔    飯田龍太

暑き日や先づ猫が邪魔夫が邪魔    上野さち子

蚊柱に猫が片手を入れにけり    鈴木鷹夫



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『ART TAIPEI 2016 台北國際藝術博覽會カタログ」(社團法人中華民國畫廊協會、台湾) [読書(教養)]

 2016年11月14日は夫婦で台北世界貿易センター1号館に行って、台湾国際芸術博覧会「ART TAIPEI」を鑑賞しました。

 「ART TAIPEI」は、 1992年以来、四半世紀近くに渡って毎年開催されているアジア最大規模のアート展示会・作品即売会。アジア地域を代表する現代アートの祭典です。今年は世界各地から150社をこえるギャラリーが出店し、しかもそのうち55社は初出展といいますから、規模もさることながら、勢いというか成長がすごい。

  ART TAIPEI 2016 台北國際藝術博覽會
  http://art-taipei.com/2016/tw/

 巨大な会場は出展ギャラリーごとに区切られており、それぞれの区画ではタブレットを手にした画廊の担当者が熱心に売り込みをしています。入る前は美術館の雰囲気を予想していましたが、これはまぎれもなく展示・即売会。一般参加者もスマホでばんばん写真撮影しています。

 展示されている現代アート作品(多くが若手アーティストによる新作)も、ハイアートですファインアートです美術界に一石を投じる前衛的な試みです、といった感じではなく、ポップというか親しみやすいというか、はっきり言うと「金になる」「物欲を刺激される」という訴求力の結晶。

 もちろん私が買えるような額ではないのでただ観て回るだけでしたが、しばしば「欲しい」という衝動を覚える作品があり、金があったら何をしでかすか自分でも予想できない現代アート恐るべし。

 会場で購入したのはカタログだけですが、これが大判・フルカラー・500ページ近い分量という重たい一冊。お値段も立派な800元(2800円くらい)。持ち歩くだけで汗だくに。ちなみに、11月だというのに台北の気温は31度でした。真夏か。

 がっつり現代アートした後は、口直しにスイーツなポップアートということで、以前から欲しかった『接接在日本』の2巻と3巻を誠品書店で購入しました。ちなみに、4巻購入時の紹介はこちらです。

  2016年06月02日の日記
  『接接在日本4(ジェジェ イン ジャパン ヨン)』(接接、JaeJae、ジェジェ)
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-06-02



タグ:台湾
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『誰が音楽をタダにした? 巨大産業をぶっ潰した男たち』(スティーヴン・ウィット、関美和:翻訳) [読書(教養)]


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 この本の縦糸は、その3本だ。ひとつ目はmp3の生みの親でその後の優位を築いたあるドイツ人技術者の物語。ふたつ目は、鋭い嗅覚で音楽の新しいジャンルを作り、次々とヒット曲を生み出し、世界的な音楽市場を独占するようになったあるエグゼクティブの物語。そして、3つ目が、「シーン」と呼ばれるインターネットの海賊界を支配した音楽リークグループの中で、史上最強の流出源となった、ある工場労働者の物語だ。
 この3つの縦糸が別々の場所で独立して紡がれる中、横糸にはインターネットの普及、海賊犯を追う捜査官、音楽レーベルによる著作権保護訴訟が絡み合う。3人のメインキャラクターに加えて、リークグループの首謀者、それを追うFBIのやり手捜査官、ジェイ・Zやジミー・アイオヴォンといったこの20年でもっともヒットを生み出した音楽プロデューサー(今や既得権益側になってしまった!)が登場し、謎解きと冒険を足して2で割ったような群像活劇が繰り広げられる。
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単行本p.353


 その昔、CDという高額商品の形で流通していた音楽。だが、音楽はネットから無料で手に入れるものとなり、従来の音楽業界は崩壊した。どうしてそんなことになったのか。mp3を開発した技術者、音楽業界の重鎮、そして音楽ファイルのリークに邁進した海賊犯。事態の中心にいた三人の人物を追うことで、「革命」の経緯を明らかにする衝撃と興奮のノンフィクション。単行本(早川書房)出版は2016年9月、Kindle版配信は2016年9月です。


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 数年前のある日、ものすごい数の曲をブラウジングしていた時、急に根本的な疑問が浮かんだ。ってか、この音楽ってみんなどこから来てるんだ? 僕は答えを知らなかった。答えを探すうち、だれもそれを知らないことに気づいた。(中略)
 音楽の海賊行為はクラウドソーシングがもたらした現象だと僕は思い込んでいた。つまり、僕がダウンロードしたmp3は世界中のあちこちに散らばった人たちがそれぞれにアップロードしたものだとイメージしていた。そうしたバラバラのネットワークが意味のある形で組織されているとは思いもしなかった。
 でもそれは間違っていた。
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単行本p.10、11


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 そして、やっとノースカロライナの西にある田舎町にたどり着いた。(中略)この町で、ある男がほとんどだれとも関わりを持たずに、8年もの年月をかけて海賊音楽界で最強の男としての評判を揺るぎないものにしていた。僕が入手したファイルの多くは、というかおそらくほとんどは、もともと彼から出たものだった。彼はインターネットの違法ファイルの「第一感染源」だったのに、彼の名前はほとんどだれにも知られていなかった。
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単行本p.13


 ネットからいとも簡単にダウンロードできるようになった海賊版音源。CDが発売される前に高音質の曲データが無料で手に入るのですから、CDを買う人がいなくなったのも無理はありません。しかし、そもそも誰がそんなことを可能にし、誰がどうやって発売前のCDからデータを抜いてネットに流出させたのでしょうか。そしてデジタル海賊という脅威を前に、音楽業界はどう対処したのでしょうか。

 本書はこの疑問に答えるために、「主役」となる三人に焦点を当てて、彼らの人生を追ってゆきます。最初に登場するのは、音楽圧縮ファイル形式であるmp3を開発した技術者の物語。


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 予想に反して、mp3は12分の1のサイズでCDの音をほぼ完璧に再現した。アダーは言葉を失った。驚異的な技術だった。アルバムがたった40メガバイトに収まるなんて! 未来の計画なんて忘れていい。今ここでデジタルジュークボックスが実現できる!
「自分がなにをやってのけたか、わかってる?」最初のミーティングのあとにアダーはブランデンブルグに聞いた。「音楽産業を殺したんだよ!」
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単行本p.78


 インターネットの普及とmp3の実用化。そんな破壊的イノベーションが生まれたことに気づかぬままこの世の春を謳歌していた音楽業界。その頂点に君臨するエグゼクティブの物語が続きます。


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業界最高の年に世界最大のレコード会社を経営していたモリスは、地球上でもっとも権力のある音楽エグゼクティブというだけではなかった。歴史上、もっとも力のある音楽エグゼクティブだった。(中略)ユニバーサルの市場シェアはワーナー時代よりもはるかに大きくなっていた。アメリカ国内で販売されるアルバムの3枚に1枚、世界中の4枚に1枚はユニバーサルのものだった。
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単行本p.150、243


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続々とヒットが生まれていた。8年前、ユニバーサル・ミュージックは存在しなかった。今では世界市場の4分の1を支配し、この地球上で最大のレコード会社になった。モリスは指導者のアーメット・アーティガンと同じく、この時代の伝説的存在になるべき人物だった。ニューヨーカー誌に憧れの人として紹介されるほど、有名になって当然だった。「大物」として認められるべき人物だった。
 でもそうはならなかった。
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単行本p.199


 そして最後に登場するのは、無名の貧しい工場労働者。ただし、彼が働いていたのはCDプレス工場だったのです。


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 全体としては、優雅な人生とは言えなかった。グローバーは工場で働き、実家の裏庭に置いたトレーラーに彼女と住んでいた。ピットブルを20匹も飼い、週末にはストリートレースとオフロードでバイクを飛ばす。彼女は不機嫌で、入れ墨はばかげていたし、借金もかさんでいた。いちばん好きな音楽はラップで、2番目がカントリーで、グローバーの人生はそのふたつがぐちゃぐちゃに混じりあったようなものだった。
――――
単行本p.93


 そんな彼がデジタル時代の海賊王となり、FBIの追求をかわしつつ、音楽業界を追いつめてゆく運命にあるとは、いったい誰が想像できたでしょうか。


――――
 でもそこにインターネットがやってきた。それは別世界への入口だった。(中略)グローバーは発売前CDの世界一の流出元になった。ユニバーサルで、彼はいい立場にいた。度重なる企業統合で、工場に驚くほどのヒットCDが次から次に流れてきた。グローバーはだれよりも何週間も早く、ヒットアルバムを文字通り手に入れることができた。
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単行本p.93、182


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グローバーが持ち出したアルバムは世界中のトップサイトを通してピンクパレスのような個人のトラッカーサイトにアップされ、そこからパイレートベイやライムワイヤー、カーザーといった公開サイトに広がった。数億、おそらく数十億というmp3のコピーファイルの元をたどると、グローバーに行きついた。この期間にユニバーサルが音楽市場を独占していたことを考えると、グローバーのリークした曲がiPodに入っていない30歳以下の人間はほとんどいなかったはずだ。グローバーは音楽業界のがんで、アンダーグラウンドの英雄で、シーンの王様だった。史上最高の音楽泥棒だった。
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単行本p.325


 彼を含む海賊たちはネット上で組織化され、海賊団として音楽業界を荒し回るようになります。


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 あらゆるジャンルのアルバム3000枚を毎年リークした。彼らは潜入と拡散の世界的なネットワークを作り上げた。インターネットの陰に隠れて違法コピーの山を築き、解読できない暗号にしてそれを保管していた。FBIの専門家集団と大勢の私立探偵がこのグループに潜入しようと試み、5年もの間挑んでは敗れていた。彼らが音楽業界に与えた損失は間違いなく本物で、何億、何十億ドルにものぼっていた。
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単行本p.332


 底辺が、頂点に、挑む。音楽ビジネスの未来が賭けられた世紀の戦い。海賊行為の是非はともかく、わくわくさせられる展開です。


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海賊版が販売に打撃を与え、2000年のピークからCD売上は3割も減っていた。市場シェアを急速に伸ばしたユニバーサルでさえ、売上を維持するだけで精一杯だった。音楽業界はどこを見ても火の車だった。タワーレコードは一直線に破たんへと向かっていた。ソニーのコロンビア部門はいまだに社内の家電部門と内紛状態にあった。EMIは借金でクビが回らなくなっていた。BMGは音楽事業を売却しようとしていた。
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単行本p.200


 というわけで、まるで映画のシナリオのような劇的なノンフィクション。実際に映画化が予定されているそうです。音楽ビジネスモデルの急転換、海賊行為と知的所有権、インターネット上で活動しているカウンターカルチャーグループの実態など、興味深い話題がてんこ盛り。お勧めの一冊です。



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