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『裏世界ピクニック ファイル5 きさらぎ駅米軍救出作戦』(宮澤伊織) [読書(SF)]

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「おまえらが裏世界に行くのは勝手だけど、あたしはもう絶対行かないからな」
「ですよね。わかってます」
 私は鳥子と顔を見合わせて頷いた。
「今日来たのは、次の探検──きさらぎ駅米軍救出作戦の相談のためです」
――――
Kindle版No.188


 裏世界、あるいは〈ゾーン〉とも呼称される異世界。そこでは人知を超える超常現象や危険な生き物、そして「くねくね」「八尺様」「きさらぎ駅」など様々なネットロア妖怪が跳梁している。日常の隙間を通り抜け、未知領域を探索する若い女性二人組〈ストーカー〉コンビの活躍をえがく連作シリーズ、待望のセカンドシーズン開幕。ファイル5のKindle版配信は2017年6月です。

 『路傍のピクニック』(ストルガツキー兄弟)をベースに、日常の隙間からふと異世界に入り込んで恐ろしい目にあうネット怪談の要素を加え、さらに主人公を若い女性二人組にすることでわくわくする感じと怖さを絶妙にミックスした好評シリーズ『裏世界ピクニック』。ファイル1から4を収録した文庫版の紹介はこちら。

  2017年03月23日の日記
  『裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル』(宮澤伊織)
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-03-23

 最初の四話はSFマガジンに連載された後に文庫としてまとめられましたが、セカンドシーズンは各話ごとに電子書籍として配信することになったようです。おそらく何話か溜まった時点で第2巻として文庫化されると思われます。

 さて、ファイル5はタイトル通り、「ファイル3 ステーション・フェブラリー」において裏世界に残してきた米軍を二人が救出に向かう話です。圧倒的な戦闘力を持つ軍を民間人が救出に向かうというのも変な話ですが、語り手である紙越空魚が持っている「視る力」なしには、どんなに火力があっても無意味。逆に、彼女の支援さえあれば、敵地を突破できる可能性が出てくるのです。


――――
「本当なのか。それなら状況はまったく違うものになる」
「脱出できますよ、少佐」
――――
Kindle版No.463


 救出の見返りに強力なアサルトライフルを手に入れた空魚。元ネタの一つであるゲーム『S.T.A.L.K.E.R. Shadow of Chernobyl』で、“フルオート射撃可能な狙撃銃”というチートっぽい銃器を手に入れたときの喜びがふつふつと。

 しかし、ここは裏世界。よく分からない怪物たちの猛攻を退け、もちろん待っているに違いないラスボスを倒すことなしに脱出できるほど甘くはありません。果たして救出作戦は成功するのか。今回のラスボスはどのネットロア妖怪なのか。


――――
 寄り添う私と鳥子の前まで少佐がやってきた。
「温存してきた燃料をすべて使う。君たちが最後の希望だ。われわれを家に連れ帰ってくれ」
 気圧された私は、何も言えずに頷いた。
――――
Kindle版No.604


 語り手である空魚のどこか歪んだやばい感じ、主役二人の関係性(一部読者は大いに期待しているらしい)、「裏世界と関わっている民間団体」という新たに明かされた設定、そして空魚が手にいれた強力な銃器。新たな要素は、シリーズをどの方向に引っぱってゆくのか。

 というわけで、「得体の知れない怪異に怯える」という感じだったファーストシーズンに対して、ファイル5はど派手なドンパチから始まります。これがファイル3の「後片付け」の回なのか、それともセカンドシーズンの基調となるのか。今後のシリーズ展開を楽しみに待ちたいと思います。



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『SFマガジン2017年8月号 スペースオペラ&ミリタリーSF特集』 [読書(SF)]

 隔月刊SFマガジン2017年8月号の特集は「スペースオペラ&ミリタリーSF」でした。また、早瀬耕さんと谷甲州さんの連作シリーズ最新作、さらにラファティの短篇が掲載されました。


『プラネタリウムの外側』(早瀬耕)
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コンピュータがどんなに進化しても、死者と死の瞬間の経験を語り合うことはできないだろう。
 それを頭で理解していても、私が知りたいのは、そのときの彼の気持ちだ。(中略)
そして、私が作らなくてはならないBOTは、「死」の直前を知るためのシミュレーションだった。
――――
SFマガジン2017年8月号p.69、74

 今は亡き恋人は、死の直前に何を考えたのか。それを確かめるべく、有機素子コンピュータ上でシミュレートされた恋人との会話を繰り返す語り手。だが次第に有機素子板の中と外の区別が曖昧になってゆき……。

 SFマガジン2016年2月号に掲載された『有機素子板の中』、SFマガジン2016年6月号に掲載された『月の合わせ鏡』、に続く連作シリーズ第三弾。『有機素子板の中』と同じく、出会い系チャットサービスのインフラ(会話BOT)を使って意識というものの在り方を探ります。


『亡霊艦隊』(谷甲州)
――――
 一時は再建不可能とまで報じられていた航空宇宙軍内宇宙艦隊は、急速修理によって続々と戦列に復帰する動きをみせていた。おそらく一ヶ月もしないうちに、航空宇宙軍は戦力を回復するだろう。(中略)外惑星連合側も、手をこまねいていたわけではない。航空宇宙軍の艦隊再建が完結しないうちに、拙速で作戦を開始していた。
――――
SFマガジン2017年8月号p.220

 第2次外惑星動乱。開戦劈頭の奇襲攻撃により大きな戦果をあげた外惑星連合軍。だが、航空宇宙軍は急速に戦力を回復させつつあった。慢性的な人員不足に苦しむ外惑星連合軍は、一気に趨勢を決めるべく保有する全戦闘艦艇を投入した作戦を開始する。新・航空宇宙軍史シリーズ最新作。


『《偉大な日》明ける』(R・A・ラファティ、伊藤典夫:翻訳)
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 メルキゼデク・ダフィー、書店主、美術商、質店主、そして時には街の名士は、心を決めかねて立ち尽くした。きょうが《偉大な日》なのか彼には確信がなく、仮にそうだとしても、自分が気に入っているかどうか確信はないのだった。
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SFマガジン2017年8月号p.318

 ついにやってきた《偉大な日》。信仰さえあれば実質など不要。コーヒーだってカップなしに飲めるのだ。すべての人々はひとつに溶け合い、内面化する。すばらしい…夢のようだ…新しい世界が来る…ユートピアが…。あー、それって自分が書いた風刺コラムの皮肉だったのに、本当に《偉大な日》が明けちゃうなんて、どうすりゃいいんだ。問答無用のラファティ。


タグ:SFマガジン
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『誤解するカド ファーストコンタクトSF傑作選』(野﨑まど・大森望:編) [読書(SF)]

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この広い宇宙のどこかには、人間がまだ見ぬ異質な地球外生命がいるのではないか――その可能性は、なぜか、わたしたちの興味を強くひきつけます。そうした異質なものとの“最初の出会い”を、SFの世界では“ファーストコンタクト”と呼びならわしてきました。
(中略)
ファーストコンタクトSFは、『竹取物語』以来、千年以上の長い歴史を持ち、作品数も膨大。本書一冊でその歴史を概観するのはさすがに無理があるので、このテーマの多様性が一望できるよう、なるべく違ったタイプの作品を集めようと心がけた。
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文庫版p.7


 異星文明など「未知なるもの」との最初の遭遇をえがく「ファーストコンタクトSF」のアンソロジー。文庫版(早川書房)出版は2017年4月です。


[収録作品]

『関節話法』(筒井康隆)
『コズミックロマンスカルテット with E』(小川一水)
『恒星間メテオロイド』(野尻抱介)
『消えた』(ジョン・クロウリー)
『タンディの物語』(シオドア・スタージョン)
『ウーブ身重く横たわる』(フィリップ・K・ディック)
『イグノラムス・イグノラビムス』(円城塔)
『はるかな響き Ein leiser Ton』(飛浩隆)
『わが愛しき娘たちよ』(コニー・ウィリス)
『第五の地平』(野崎まど)


『消えた』(ジョン・クロウリー)
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残された選択肢は、その受けとりを拒否することしかない。首を振り、きっぱりと、しかし礼儀正しく「いいえ」と告げること、なぜなら善意チケットを受けとるだけで「はい」のしるしと受けとられるかもしれないし、なにに対する「はい」なのかだれも正確には知らないけれど、少なくとも識者のあいだでは、これが《世界支配》に対する同意(または、少なくともそれに抵抗しないこと)を意味するという見方が主流だった。
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文庫版p.132

 巨大なマザーシップから現れた「エルマー」と呼ばれる生体ロボットか何かが、一件一件、個別に家庭訪問。親切に雑用を引き受けながら「善意チケット」へのサインをお願いしてくる。サインしたらどうなるのか分かったものではない。だが、たまたま別れた夫に子供を拉致され気が動転していた語り手は、なかば自棄になって善意チケットにサインしてしまう。彼女はいったい何に同意したのだろうか。善意とは何なのだろうか。


『タンディの物語』(シオドア・スタージョン)
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 母親は、金属質のぐにゃぐにゃしたものと、その中で震えていた紫色の謎めいたものを思い出した。あれはまるで、窓からべつの世界を覗いているみたいだった。それとも戸口。
「タンディ」母親は衝動的に質問を口にした。「戸口を抜けてきたブラウニーは何人いるの?」
「四人よ」タンディは快活に答え、スキップしはじめた。「ひとりはわたし用、ひとりはロビン用、ひとりはノエル用、ひとりは赤ちゃん用。ねえ、ジュース飲んでもいい?」
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文庫版p.193

 これはタンディの物語。カナヴェラルのくしゃみ、縮れのできたゲッター、漂う状態、サハラ墜落事故のアナロジー、ハワイと失われた衛星、利益分配プランのアナロジー。これらのレシピからつくられる、これはタンディの物語だ。

 「異世界から侵入してきた何かが子供たちにとりつく」という古典的な物語が、高揚感をもたらす素敵な文体で語られます。実は、子育てに疲労困憊している親のための願望充足SFだったりして。


『イグノラムス・イグノラビムス』(円城塔)
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 多数の触手で飾られた球体は、センチマーニにもよくわからない複雑な情報処理をその内部や表面で実行しており、センチマーニの意識なるものはその流れに浮かぶ泡のようなものだとも言える。脳の活動を化学反応と考えるなら、人間の意識も同じくその泡のような存在なのだが、センチマーニは別の個体の上に浮かんだ泡ですら、特徴さえ一致するなら、同じ自分として認識するし、認識される。
(中略)
 そこでのわたしは、センチマーニという流れの中に突然浮かんだ、人間という泡だった。そこにわたしというパターンが浮かび、わたしは自分がそこにいると認識し、膨大な距離を一瞬にして飛び越えていた。
――――
文庫版p.235

 突然、異星種族センチマーニになった語り手。いや、センチマーニの意識が走っている情報処理媒体(触手)上に「わたし」に相当するパターンが生じたのだ。こうして語り手はセンチマーニの文化と社会について学ぶことになったが……。

 「ワープ鴨の宇宙クラゲ包み火星樹の葉添え異星人ソース」から始まるグルメSF、だと思っていたら、いきなり人類とは本質的に異質な世界観、時間観、アイデンティティを持った異星人の文化と社会を正面から描くハードSFへと跳躍する傑作。ワープ鴨。

 映画『メッセージ』の原作『あなたの人生の物語』(テッド・チャン)を読んで、あの異星人たちはどんな社会でどういう人生観のもとに暮らしているのか、もう少しそこ突っ込んで知りたいなあ、と思った方にもお勧めです。


『わが愛しき娘たちよ』(コニー・ウィリス)
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「父親なんてクソの山よ」
 そのときあたしは、アラベルの話を思い出していた。ひじから先くらいの長さのちっちゃな茶色い動物。それから、ブラウンの言葉――お父さんはきみを守ろうとしてるだけなんだ。あたしは口を開き、
「クソの山以下よ。父親なんて、だれもかれも」
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文庫版p.328

 全寮制寄宿学校に放り込まれた不良娘のタヴィは何もかもむかついていた。ボーイフレンドは「テッセル」と呼ばれる小動物に夢中で、彼女とセックスしようとしない。校長は露骨に色目を使ってくるし、同室になった新入生はいつも何かに怯えてゲロ吐いてる。何が、お父さんはきみを守ろうとしてるだけなんだ、だよ、クソが、死ねよ。

 男が誇らしげに「父性」「男らしさ」とみなすもろもろの実態(つまり未成年者など身を守ることも抵抗することも出来ない相手に対する性暴力、性的虐待、服従強制)を、怒りを込めて告発した1985年発表作品。今でも古びていません。


『第五の地平』(野崎まど)
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 彼の目の前に、寥廓たる草原が広がっている。
 そして頭上には、それよりも遙かに広大な宇宙があった。
 故郷モンゴルはすでに7auの彼方であった。今チンギスが立っている場所はモンゴル族の勢力の前線。木星の軌道を越えて、土星周回軌道へと向かう道程の中ほどである。
(中略)
 人類の技術進歩はチンギスを宇宙に連れ出した。それからチンギスはがむしゃらに覇道を進んできたが、地球から7auの地において、とうとう自分の疑問を無視できなくなっているのだ。上下左右前後の区別すらない宇宙で、自分はいったい何を目指して走り続ければいいのか、と。
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文庫版p.355

 時は13世紀初頭。遥か太陽系の彼方まで広がる大草原を、宇宙馬に乗って駆けるチンギス・ハーン。だが、土星軌道を前にして、彼の心には疑問が生じていた。遠くへ行きたい、その一心でここまで版図を広げてきたが、宇宙で真に「遠く」を目指すには、どちらへ向かえばいいのか。腹心の部下は助言する。宿敵に一騎討ちを申し込むのです。互いの回りを馬で周回しつつ光速近くまで加速し、しかる後に正面から激突すれば、そのエネルギーは必ずや超根理論が予言する余剰次元への扉を開くことでしょう、と。

 まあとにかく、これが、野崎まど。



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『終わりなき戦火(老人と宇宙6)』(ジョン・スコルジー、内田昌之:翻訳) [読書(SF)]

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「〈均衡〉はただの楽しみでこんなことをしているわけではない。ニヒリストでもないんだし。なにか意味があるはず。なにか計画があるはず。これはなにかにつながるはず」
「“すべての物事の終わり”につながるんだ。もっとふつうに言うと、コロニー連合とコンクラーベのどちらか、あるいは両方がばらばらになって、このあたりの宙域にいるすべての種族が常におたがいに戦争をしている状態に戻るということだ」
――――
文庫版p.423


 〈均衡〉と名乗る謎の組織の暗躍により地球とコロニー連合は決裂、さらにコロニー連合に属する惑星は次々と反乱を企てつつあった。一方、エイリアン種族同盟である「コンクラーベ」も、人類への対処をめぐって分裂の危機に陥る。事態が悪化して手のつけようがなくなってから面倒事を押し付けられるハリー・ウィルスン中尉の外交チームは、いつもの通り、宇宙に迫る「すべての物事の終わり」に立ち向かうことになった。「老人と宇宙」セカンドシーズン最新刊。文庫版(早川書房)出版は2017年3月、Kindle版配信は2017年3月です。


――――
「繰り返しますが、コロニー連合の破壊はその計画の一部ではあります。しかし、それはほぼ二次的なことです。わたしたちは〈均衡〉がコンクラーベを破壊するために利用する梃子です。この組織がいままでやってきたことは、地球ステーションの破壊も含めて、なにもかもその目標へ向かう活動の一環なのです」
――――
文庫版p.440


 主人公をハリー・ウィルスン中尉にバトンタッチ、ストーリーの焦点をドンパチよりも外交に置いた(「バビロン5」っぽい)セカンドシーズンに突入した「老人と宇宙」シリーズ。その最新巻は、〈均衡〉の暗躍により、コロニー連合が苦境に立たされた状況から始まります。

 まずは地球との関係は最悪の状況に。


――――
「地球はコロニー連合を心底憎んでいて、われわれを邪悪な存在とみなし、全員死んでくれと願っている。彼らにとってもっとも重要な宇宙への出発点だった地球ステーションが崩壊したのはわれわれのせいだと考えているのだ。われわれが手をくだしたのだと」
――――
文庫版p.38


 そして、コロニー連合に属する各植民惑星は、次々と反乱を起こしつつあります。


――――
「コロニー連合はファシストもどきのクソですよ、ボス。そんなことは地球を離れるためにやつらの船に足を踏み入れた最初の日からわかっていました。だってありえないでしょう? やつらは貿易を支配しています。通信を支配しています。コロニーの自衛を許さず、コロニー連合をとおさないかぎりどんなことも勝手にはさせないんです。それに、地球に対してやってきたことは忘れられません。何世紀もずっとですよ。ねえ、中尉。いま内戦が起きているとしても驚くことじゃありません。もっと早く起きなかったことのほうが驚きです」
――――
文庫版p.378


 その一方で、エイリアン種族同盟であるコンクラーベも、分裂の危機にさらされていました。


――――
「ガウ将軍が退陣させられることになったら、コンクラーベの中心が崩壊する。それでもこの同盟は存続する? しばらくのあいだは。でも、空虚な同盟でしかないし、すでにあちこちで生まれている派閥は離れていく。コンクラーベは分裂し、それらの派閥がまた分裂する。そして、なにもかも元のもくあみになる。わかるのよ、ハフト。現時点ではほとんど避けようがないわ」
――――
文庫版p.175


 こうなると外交努力でどうなるという状態ではないのですが、それでも何とかしなければならないのが、われらがハリー中尉が属するコロニー連合外交チーム。

 というわけで、四つの連作中篇から構成される長篇という形式で、コロニー連合最大の危機が描かれることになります。


『精神の営み』
――――
ぼくは孤独だった。生き延びるためにはやつらにすがるしかなかった。そして怯えていた。
 それでも、ぼくは支配されるつもりはなかった。
 たしかに隔離されてはいた。たしかに怖くてたまらなかった。
 でも、すごく、すごく怒ってもいた。
――――
文庫版p.82

 〈均衡〉の襲撃により捉えられたパイロットは、生きたまま脳を摘出され宇宙船につながれる。文字通り手も足も出ない状況で〈均衡〉への服従を強いられた彼は、だが不屈の精神で反撃の機会をうかがう。


『この空虚な同盟』
――――
「どの選択肢を選んでも、あなたを排除するための投票につながります。それが現実になるとき、すべてが崩壊するのです」
「以前はもっと簡単だったのだがな――コンクラーベの運営は」
「それはあなたがまだコンクラーベを築いている最中だったからです。築いているものが存在していないときのほうが、野心あるリーダーでいるのは容易です。しかし、コンクラーベが存在しているいま、あなたにはもはや野心はありません。今のあなたは、ただの役人の親玉にすぎないのです。役人が畏怖の念を呼び起こすことはありません」
――――
文庫版p.199

 人類への対処をめぐって分裂の瀬戸際にあるコンクラーベ。リーダーであるガウ将軍とその副官ハフト・ソルヴォーラは、危機を回避、少なくとも先送りすべく政治的努力を続けていたが、見通しは暗かった。


『長く存続できるのか』
――――
「例の〈均衡〉の一件は、こうやって住民の行動を具体化させているかもしれないが、その原因になったものは何年もまえから存在していたんだ」
「だったらコロニー連合は何年もまえからこの事態にそなえているべきだったのよ」パウエルはすでにこの会話に退屈していた。「そうしなかったから、いまわたしたちやテュービンゲン号のみんながバカげた内輪の危機を次々と巡り歩くはめになってる。こんなのバカげているしムダだわ」
――――
文庫版p.346

 反乱鎮圧、議会封鎖、脅迫、暗殺、空爆。あらゆる手段を用いてコロニー連合からの離脱を阻止しようとするコロニー防衛軍。だがあまりの強硬姿勢に住民は反発。それどころか鎮圧任務を遂行するヘザー・リー中尉ですら疑問を抱く。すでにコロニー連合の命運は尽きているのではないか。


『生きるも死ぬも』
――――
「あなたは何を望んでいるのですか?」ローウェンがたずねた。
「わたしがなにを望んでいるか?」ソルヴォーラは同じ言葉で応じると、人間の大使たちに向かってぐっと身を乗り出し、自分がおれたちの種族と比べてどれほど大きな生物であるか、そしてどれほど憤慨しているかを強調した。「あなたについて考えずにすむことを望んでいますよ、ローウェン大使! あるいはあなたについて、アブムウェ大使! あるいは人類について。これっぽっちも。理解できますか、女性大使の方々? あなたがたの種族にどれほどうんざりさせられているかを? わたしの時間のどれだけが人間たちの相手で失われているかを?(中略)もしも魔法で人類を消し去ることができるなら、わたしはそうするでしょう。ただちに」
「妥当な判断ですね」おれは言った。
――――
文庫版p.485

 ついに明らかになった〈均衡〉の恐るべき計画。だが、阻止するためにはコロニー連合、地球、コロニー惑星群、そしてコンクラーベ、そのすべてが協力する必要があった。互いに対する不信と反目に満ちた各勢力を、ハリー中尉たちのチームはまとめあげることが出来るのか。今、宇宙の歴史は最大の政治的試練に直面していた。セカンドシーズンいきなりのクライマックス。


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『J・G・バラード短編全集1 時の声』(J.G.バラード、柳下毅一郎:監修、浅倉久志他:翻訳) [読書(SF)]

「二十一世紀の神話創造者」(柳下毅一郎)より
――――
 偉大な作家は数多い。だが、重要な作家は数少ない。J・G・バラードは二十世紀でもっとも偉大な作家ではないかもしれない。だが、彼が二十世紀においても指折りの重要な作家として名を挙げられるのはまちがいないだろう。バラードは二十世紀に生きる我々の生について書いた。我々の生のかたちは何に規定されているのか、未来のそれはいかなるかたちを取るのか。半世紀におよぶ作家生活の中で、バラードはその内容もスタイルもラディカルに変化させてきたが、問題意識はつねに変わらなかった。
(中略)
 メディアとテクノロジーに支配された現代人にとっての「自然」。それを問うことこそが二十世紀文学たるSFの意味だとバラードは考えていたし、だからバラードは二十世紀でもっとも重要な作家となりえたのである。
――――
単行本p.411、413


「序文」(マーティン・エイミス、柳下毅一郎:翻訳)より
――――
彼はくりかえし同じ疑問に立ち戻る。現代の状況は我々の精神にどんな影響を与えるのか?――ハイウェイの運動彫刻、空港の建築物、ショッピング・モールという文化、蔓延するポルノグラフィー、そして自分では理解できないテクノロジーへの依存。バラードは仮の答えとして「倒錯行為」を提出する。それはさまざまなかたちをとるが、そのすべてが(バラードはバラードであるから)極端な病理である。伝統的SFから距離を取りはじめたとき、自分は外宇宙を拒否して「内宇宙」を選んだのだと述べた。内宇宙こそ彼の縄張りだった。
(中略)
 J・G・バラードは二十世紀のもっとも独創的英国作家として記憶されることになるかもしれない。独創性の度合いを論じるのは無粋というものだろう(それはゼロか一かのどちらかなのだから)。だがバラードはなぜか独創的に独創的だった。彼はよく、作家というのは一人だけのチームなのだと言っていた(だから読者のサポートが必要なのだ)。だが彼は同時に一人だけのジャンルでもあった。彼は並ぶ者なき唯我独尊の存在だった。彼のような者は、わずかでも似た者も、どこにもいなかった。
――――
単行本p.9、12


 ニュー・ウェーブ運動を牽引し、SF界に革命を起こした鬼才。J.G.バラードの全短編を執筆順に収録する全5巻の短編全集、その第1巻。1956年のデビュー作から1961年の作品まで主に50年代に書かれた15編を収録。単行本(東京創元社)出版は2016年9月です。


[収録作品]

『プリマ・ベラドンナ』
『エスケープメント』
『集中都市』
『ヴィーナスはほほえむ』
『マンホール69』
『トラック12』
『待ち受ける場所』
『最後の秒読み』
『音響清掃』
『恐怖地帯』
『時間都市』
『時の声』
『ゴダードの最後の世界』
『スターズのスタジオ5号』
『深淵』


『プリマ・ベラドンナ』
――――
「ばか、わからんのか、あの女は詩的で、創発的で、原初の黙示の海からまっすぐにやってきた生物だ。おそらく女神かもしれん」
――――
単行本p.16

 テクノロジーと芸術と倦怠が支配する砂漠のリゾート、ヴァーミリオン・サンズを舞台としたシリーズの最初の作品。白昼夢のような魅惑的な女性、手を出してひどい目にあう語り手、歌う植物、暴走する芸術。最初からどうにもこうにもバラードとしかいいようのないデビュー短編。


『エスケープメント』
――――
「聞いてくれ! これまで二時間、同じ十五分が繰り返されるという事態が続いているんだ。時計は九時から九時十五分の間を行ったり来たりしている」
――――
単行本p.42

 TVのクソ番組を見ていた主人公は、同じシーンが何度も繰り返し放映されていることに気づく。最初は放送事故かと思ったが、ループしているのは時間そのものだった……。時間ループものの先駆的作品ですが、何しろループ間隔が極端に短いので、じたばたしてもすぐにまたTVの前に戻されて同じ番組を永遠に繰り返し観るはめになるという地獄。しかし、では現代の私たちの生活は、彼が陥った窮地とどこが異なるのでしょうか。


『集中都市』
――――
「この部屋を例にとろう。20×15×10フィートだ。その縦・横・高さを無限に拡張するんだ。なにができる?」
「再開発だ」
「無限にだよ!」
「機能しない空間だ」
「それで?」フランツが辛抱強く訊いた。
「その考え自体がばかげてる」
「なぜ?」
「存在できないからだ」
――――
単行本p.62

 何千階層もの巨大構造物の内部に存在する都市、それはありとあらゆる方向と高さに広がり、すべての空間を占めている。飛行を夢見る主人公は、この都市の「外」を目指して旅に出るが……。都市生活者の世界観を極端にした作品で、後の『ハイ・ライズ』の原点というか、『BLAME!』(弐瓶勉)のようなメガストラクチャーもの。


『ヴィーナスはほほえむ』
――――
成長率は加速度的だった。わたしたちは新芽が出るのを見まもった。筋交いの一つが丸く曲がるのといっしょに、小さい節こぶがクロームの鱗を破って顔をのぞかせた。一分たらずでそれは長さ一インチの若枝に育ち、太さを増し、曲がりはじめ、五分後には一人前の声量を持った十二インチの長さの音響コアに成長した。
――――
単行本p.85

 ヴァーミリオン・サンズを舞台としたシリーズの一編。例によって美人芸術家が創った音響彫刻が暴走して、音楽を撒き散らしながら加速度的に成長してゆく。ありがちなモンスター映画の筋立てにテクノロジーと芸術と美人をぶち込んでバラード化した作品。


『マンホール69』
――――
「人はどこまで自分自身に耐えられるのでしょうか? ひょっとすると、自分自身であるというショックを克服するために、人は一日八時間の休息を必要としているのかもしれません」
――――
単行本p.100

 脳の外科処置により睡眠を不要にする画期的な施術。その臨床実験に参加した被験者たちは、経過観察のために閉ざされた部屋で過ごしていたが……。人工不眠により人生を実質的に何十年も伸ばすというアイデアを扱った作品ですが、その副作用の主観描写(部屋の壁が四方から迫ってきて天井までの高さのマンホールに閉じ込められる、とか)が強迫的で神経症的で、強いインパクトがあります。


『トラック12』
――――
「三十秒間のリピート、四百マイクロセンス、増幅率は千倍。確かに、このトラックには少しばかり編集を加えてある。それは認めよう。だが、それでも、美しい音がこれほどまでに不快になりうるとは、何とも驚くべきことだ。これが何の音か、君には絶対に想像がつかないだろう」
――――
単行本p.130

 細胞分裂の音、空中を落下する針の空気摩擦音など、極端に微少な音を録音して拡大する「音の顕微鏡」、マイクロソニック。この技術を研究している科学者のもとを訪問した主人公は、実は科学者の妻と不倫関係にあった。「さえない理系男が、妻を寝取った相手に自分の研究分野の最新テクノロジーを用いた復讐を企てる」というミステリにありがちなプロットですが、マイクロソニックの描写が官能的で、生理的にぞわぞわする感覚を味わえます。


『待ち受ける場所』
――――
一万年、十万年、数え切れない千年紀がわたしの目の前をかすむ光となって通り過ぎてゆき、星々と銀河が玉虫色の瀑布となり、飛行と探査のきらめく軌道と絡みあった。
 わたしは深層時間に入っていった。
――――
単行本p.161

 荒涼とした辺境惑星で発見された異星人のモニュメント。その謎に挑む主人公は、「深層時間」と呼ばれる幻想の宇宙論的タイムスケールに放り出される。太陽系外の惑星を舞台にした宇宙SFですが、終焉を待ち受ける奇妙な場所と白昼夢的時間、というバラードらしいイメージにあふれた作品。


『最後の秒読み』
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そんなばかなことがあるわけない――日記とふたつの死とのあいだに関連など存在するはずがない。紙に記された鉛筆の跡は、気まぐれに引かれた黒鉛の曲線であって、それが表している観念は、わたしの心のなかにだけ存在するのだ。
 しかし、疑いと推論を検証する方法が目の前にぶらさがっているとあっては、避けるわけにはいかなかった。
――――
単行本p.174

 ターゲットの名前をノートに記入すれば、その人物は描写した通りに死ぬ。完全無欠な暗殺能力を手に入れた主人公は、保身のために次々と遠隔殺人を繰り返すが……。時間ループ、メガストラクチャー、人工不眠など、今でも人気のある題材の先駆的作品を書いていた初期バラードですが、50年代に『デスノート』を書いていたというのは初めて知りました。


『音響清掃』
――――
少なくとも、悪夢を見るということは、マダム・ジョコンダがまだ正気を失っていない証拠だ。彼女を崇拝しきっているマンゴンは、彼女に幻滅するとは思えない。毎晩、その日の仕事がすむと、彼はウェスト・サイドからさびれたF街のはずれにあるガード式交差点の下の打ち捨てられた放送局まではるばる音響トラックを運転してくるのだった。そして無料で、第二スタジオにしつらえられているマダム・ジョコンダの部屋を掃除するふりをしつづける。
――――
単行本p.186

 今や打ち捨てられた放送局に住みつきドラッグと妄想に溺れている往年の名歌手マダム・ジョコンダ。彼女の崇拝者である男は、建物に「染みついた」残響を消去するソノヴァック(音響真空掃除機)を使って、彼女の頭の中にしかない「音」を清掃してやる毎日を送っていたが……。

 かつての栄光を忘れられない元セレブの妄執と共犯者となる崇拝者。『サンセット大通り』のバリエーションですが、超音波音楽(耳には聴こえないが音楽を聴いた感動だけを圧縮して伝える技術)、音響清掃(壁や天井に染みついた音響断片を吸い込んで除去する掃除機)、音響処理場(音響清掃された音屑を集めて無害化する処理施設)などの異形の音響テクノロジーによる悪夢的サウンドスケープが何とも印象的な作品。


『恐怖地帯』
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 催眠術にかかったように、ラーセンも男の顔をじっとみつめた。まちがいなく見覚えがある。丸い顔、神経質そうな目、濃すぎる口ひげ。ついに男の顔をはっきり見ることができて、この世のだれよりも、知りすぎるほど知っている男だと気がついた。
 男は彼自身だったのだ。
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単行本p.238

 ドッペルゲンガーを見てしまう男。精神科医に相談するが、症状は悪化してゆき、ついに何人もの分身を同時に目撃するようになる。精神科医は荒治療を提案するが……。典型的な分身ホラー。


『時間都市』
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これほど多くの時計が存在するとは想像もしていなかった。いたるところにびっしりと設置された時計の数はあまりに多く、互いに重なり合って見分けるのも難しい個所さえある。盤面は赤や青、黄、緑など様々な色に塗られていた。大半に四本か五本の針がついていて、メインの針はすべて十二時一分で止まっているが、それ以外の針は様々な位置にある。位置はどうやら色によって決まっているようだ。
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単行本p.266

 計時行為および時計所持が違法となった時代。密かに時計を手に入れた少年がその魅力にとりつかれ、時計と時間省がすべてを支配していた時代の「時間都市」の廃墟に足を踏み入れる。そこには、時計修理人である老人がいた。

 時間に追われ、それこそ時計の歯車のように生きる、強迫神経症めいた都市生活を神話的に扱った作品。六年後にハーラン・エリスンが書く『「悔い改めよ、ハーレクィン!」とチクタクマンはいった』と比べると、その印象の違いに驚かされます。


『時の声』
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コルドレンは椅子に戻ると、募集品の列を眺めながら、物音一つたてずにすわっていた。半分眠りながらも、定期的に体を起してシャッターからさしこむ光を調節し、これから何カ月か考えることになる、さまざまなことを考えた。パワーズと彼の奇怪な曼陀羅のことを、マーキュリイ・セヴンとその乗員たちの月の白い庭園への旅行のことを、そしてオリオンから来た青い人々のこと、彼らが話したという遠い島宇宙の――今では大宇宙の無数の死の中で永遠に消え去ってしまった遠い島宇宙の、黄金の太陽の下にある古い美しい世界のことを。
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単行本p.314

 今や遺伝子そのものの寿命が尽きつつあった。異様な突然変異を続ける動植物たち。昏睡状態から覚めない患者の多発。宇宙からは終焉までの秒読みと推測される信号が送られ続け、水のないプールの底には謎めいた曼陀羅が描かれる。

 迫り来る終焉の気配。残された空白時間を白昼夢のように過ごす人々。筋の通った説明もなく、終末に抗うどころか対処するという発想すらなく、病的に充足したような静かな破滅の風景。まったくのバラードとしか言いようのない初期代表作。


『ゴダードの最後の世界』
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このミクロの世界は完璧で、絶対的な現実感にあふれ、まさに現実の街そのものといえる。
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単行本p.329

 平凡な都市生活者である男が金庫の中に隠してある箱。その中には男が住んでいる街そのもののジオラマがある。そこでは極微の住民たちが現実の街と同じように生活しているのだ。次第にジオラマと現実との区別は曖昧になり、シンクロしてゆくが……。ミクロコスモスと現実世界との同期、反転を扱った作品。


『スターズのスタジオ5号』
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 ヴァーミリオン・サンズでの一夏のあいだ、毎晩のように、美しい隣人の作る奇怪な詩が、スターズのスタジオ5号から砂漠を渡ってわたしのところへ漂ってきた。ちぎれた色テープの綛が、ばらばらになった蜘蛛の巣のように、砂の上でほどけていく。夜通し、それらのテープはバルコニーの下にある控え壁のまわりではためき、バルコニーの手摺にからみつき、そして朝になってわたしに掃き捨てられる頃には、別荘の南面へ鮮やかな桜桃色のブーゲンヴィリアのように垂れさがるのだった。
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単行本p.345

 魅惑的な美人詩人が書いた詩の断片が、大量の色テープに印刷され砂漠の上を舞い飛ぶ。自動的に詩を作りだす機械は打ち壊され、詩的霊感は増殖してゆく。テクノロジーにより暴走する芸術というこれまでの路線から、逆方向へ暴走する文学を描いたヴァーミリオン・サンズのシリーズの一編。


『深淵』
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「海はわれわれの共通記憶だ」と彼はしばしばホリデイにいった。「海を干上がらせることで、われわれは故意に自分たちの過去を抹消し、かなりの程度まで自分らしさを消し去ったのだ。それも、きみが立ち去るべき理由だよ。海がなければ、生命は維持できない。われわれは記憶の亡霊と変わらなくなってしまう」
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単行本p.395

 環境破壊により干上がってしまった海。人々が宇宙へと脱出してゆくなか、地球に留まることを選んだ男。彼は地球最後の魚を見つけるが……。海を人類の集合的無意識に見立て、その枯渇による内世界の変容を描くという、いかにもバラードらしい作品。



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