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『ジャック・グラス伝 宇宙的殺人者』(アダム・ロバーツ、内田昌之:翻訳) [読書(SF)]

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 さて読者のみなさん、これよりわたしがドクター・ワトスン役として語るのは、この時代における最大の謎にまつわる物語です。もちろん、ここで言っているのは、マコーリイが“発見”したと主張する、光よりも速く移動する手段のことであり、その発見が引き起こした殺人と裏切りと暴力のことでもあります。当然でしょう。なにしろFTL(超光速)なのですから!
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単行本p.11


 伝説の殺人者ジャック・グラス、彼が現れるところ物理的に不可能な事件が起きる。謎を解く鍵はたった三文字、すなわち、FTL(超光速)。馬鹿SFと馬鹿ミステリを高い次元で融合させた傑作馬鹿SFミステリ。単行本(早川書房)出版は2017年8月、Kindle版配信は2017年8月です。


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 わたしは読者のみなさんに対して、最初からフェアに勝負を仕掛けるつもりです。さもなければ真のワトスンとは言えません。そこで、物語が動き出すまえに、まずここでなにもかも話しておくとしましょう。(中略)どの事件でも、殺人者は同一人物――言うまでもなく、ジャック・グラスその人です。それ以外考えられますか? いままでに彼よりも有名な殺人者がいましたか?
 どうです。これならフェアでしょう?
 みなさんの課題は、これらの物語を読み、数々の謎を解いて殺人者を特定することです。すでにわたしが答えを明かしてしまったにもかかわらず、その答えはみなさんを驚かせるでしょう。
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単行本p.11、12


 全体は三つの連作から構成されています。それぞれ謎めいた密室殺人がからみ、美少女探偵、陰謀、物理的に存在し得ないはずのFTL(超光速)テクノロジー、実際に観測された「質量が小さすぎる超新星」の謎、そして人類絶滅の危機が関わってきます。盛り込めばいいってもんじゃないだろう。


「第一部 箱の中」
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 7人全員が同じことを考えていた。11年もの歳月を、思いつくかぎりもっとも過酷な環境で過ごすというのに、頼りにできるのは手持ちの物資だけで、あらゆる方向に広がる何百万マイルもの真空でほかの人類から隔てられている。11年! 囚人たちとしては、何とか11年の刑期を耐え抜き、それが終わったときに公司(コンス)が彼らのことを忘れておらず、まだ商売を続けていて、内部がくりぬかれた球体を回収にくるだけの意欲があることを祈るしかない。
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単行本p.22

 刑罰として小惑星に送り込まれた7人の犯罪者たち。囚人船が戻ってくるのは、戻ってくるとして、11年後。生き延びるだけでも困難という過酷な状況のなかで、一人の男がこともあろうに脱獄を企てていた。誰あろう、ジャック・グラスその人である。だが、ここは小惑星の洞窟、周囲は真空の宇宙空間、助けの船がくる見込みはない。あまりにも完璧な牢獄から、いったいどうやって脱出するというのか。

 読み返すと、その丁寧な伏線の張り方に「このネタになぜそこまで」と読者を絶句させる超絶脱獄ミステリ。


「第二部 超光速殺人」
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「召使棟は厳重に監視されています――敷地全体も。事件が起きた時間帯には、だれもあの建物に出入りしていないんです。その悪名高いジャック・グラスは、どうやって倉庫に侵入して召使の頭を大きなハンマーで殴ったんですか?」
「そこはたしかに興味深いところよねえ?」ジョードは言った。「“だれが”の答が出たから、“どうやって”が残る」
「ほかのことはともかく、彼はどうやって島へ上陸したんですか? どうやってすべての保安チェックをすり抜けて地球へ降りたんですか? そもそも、どうやってわたしたちがここにいることを突き止めたんですか?」
「どれも良い質問ね」
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単行本p.186

 太陽系でもトップクラスの有力ファミリー、アージェント家の跡取りである美少女ダイアナ。バカンスで極秘に地球を訪れた彼女を待っていたのは、到着そうそう召使のひとりが殺されるという怪事件だった。現場は厳重に監視された建物のなか、記録されずに侵入することも脱出することも不可能な密室。ジャック・グラスは、いったいどうやって犯行を成し遂げたのか。そして、なぜそんなことをしたのか。

 「ミステリマニアの大富豪令嬢 vs 太陽系一の犯罪者」というミステリ読者大喜びの設定に、SF読者狂喜乱舞の馬鹿SFアイデア。大盛りつゆだく馬鹿SFミステリ。


「第三部 ありえない銃」
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「彼はありえない銃で撃たれたのです」
 老女は考え込んだ。「どういう意味だい、ジャック・グラス、そのありえない銃ってのは?」
「なにかを撃ち出すタイプの武器なの」ダイアナが言った。「ただ、その撃ち出されたものが消えてしまって。ありえないことに」
「というか、撃った者が消えたのです。(中略)バル=ル=デュックを殺した人物は、犯行のあともそこに残っていたにちがいありません。しかし、わたしたちが内部を徹底的に調べても、だれもいなかったのです。殺人犯が空中へ消え失せてしまったかのように」
「密室ミステリか」アイシュワリヤはうなずいた。
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単行本p.359

 太陽系中を逃走し続けるジャック・グラスもついに年貢の納め時か。宿敵たる捜査官(銭形警部みたいな人)に追い詰められたとき、一発の銃声が鳴り響く。捜査官の身体を粉砕し、バブル(球状の小型居住施設)の壁を貫き、バブルにドッキングしていた宇宙船に大穴をあけて、虚空の彼方へと消えた銃弾。しかし、いくら調べても発射した者はいない。一発の銃弾をめぐる謎は、人類の命運をめぐる壮大なSF展開へとつながってゆく。いや、たぶん。



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『スタートボタンを押してください ゲームSF傑作選』(桜坂洋、チャールズ・ユウ、アンディ・ウィアー、ケン・リュウ、他) [読書(SF)]

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 人気ゲームの設定を使ったファンノベルはたくさんあるが、本書に収められた短編たちはそういったタイプではない。登場するゲームは架空のもの。ゲームそのものをモチーフとしテーマとしている。
 だから、あなたがゲーマーもしくはゲームに興味がある人ならば、これは必読の書。というよりも、もはやゲームをプレイするしないにかかわらず、ゲーム的感覚は我々にとって必須の習得能力のひとつだから、誰もが読むと良いと思う。
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文庫版p.357


 激しく進化し続けるコンピュータゲームは、私たちの現実認識や生き方をどのように変えてゆくのか。原著に収録された16篇のうち、桜坂洋からケン・リュウまで傑作短篇12篇を厳選収録したゲームSFアンソロジー。文庫版(東京創元社)出版は2018年3月、Kindle版配信は2018年3月です。

 『レディ・プレイヤー1』『ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ジャングル』などコンピュータゲームをテーマにした映画が立て続けに公開されるタイミングを見計らって出版されたと思しきSFアンソロジーです。タイトルを眺めただけでも、リスポーン、1アップ、NPC、神モード、サバイバルホラー、キャラクター選択、といった具合にコンピュータゲーム用語が飛び交っています。


[収録作品]

『リスポーン』(桜坂洋)
『救助よろ』(デヴィッド・バー・カートリー)
『1アップ』(ホリー・ブラック)
『NPC』(チャールズ・ユウ)
『猫の王権』(チャーリー・ジェーン・アンダース)
『神モード』(ダニエル・H.ウィルソン)
『リコイル!』(ミッキー・ニールソン)
『サバイバルホラー』(ショーナン・マグワイア)
『キャラクター選択』(ヒュー・ハワイー)
『ツウォリア』(アンディ・ウィアー)
『アンダのゲーム』(コリイ・ドクロトウ)
『計仕掛けの兵隊』(ケン・リュウ)


『リスポーン』(桜坂洋)
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 おれの望みは、いまとなっては顔もぼやけはじめている「おれ」に戻ることだけだった。かつてのおれも、おれが送ることができなかった幸福な人生というやつを夢想したことはある。が、誰か他のやつになりたかったわけではないのだった。毎日同じことの繰り返しだった牛丼屋のバイトだっておれがおれとしてやっていたことであり、どこかからおれを操る別の誰かにやらされたことではなかった。そのおれの肉体は、とっくのむかしに火葬されて墓の下に眠っている。
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文庫版p.40

 牛丼屋の深夜バイトをしていた「おれ」は、強盗に殺されてしまう。気がつくと「おれ」は強盗になっており、目の前にはもと「おれ」の死体が……。死ぬたびに近くにいた人間としてリスポーンする能力を得た男の奇妙な冒険。ゲーム的な活劇からアイデンティティの危機まで、巧みなストーリーテリングによって不死の感覚をとらえた作品。ログアウト不可。


『救助よろ』(デヴィッド・バー・カートリー)
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 デボンにはこんなふうに言ったことがある。
「わたしは現実が好きなのよ」
 そのときゲーム中だったデボンは、モニターの光でシルエットになった顔で言った。
「現実は偶然しかない。魅力的にデザインされてないじゃないか」画面をしめして、「でもファンタジー世界は、そのようにデザインされてる。(中略)驚異と冒険に満ちた、かくあるべき世界だ。現実を現実だからというだけで特別視するのは、狭量な精神のあらわれだ」
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文庫版p.50

 オンラインゲームにハマって戻れなくなってしまった恋人を救え。彼を現実世界に引き戻すために、彼女は旅立った。ノームから渡されたレアアイテムを手に、巨大グモやゴブリンを剣で倒しながら。ゲームは現実逃避に過ぎない、という議論をひねった作品。こつこつレベルアップ。


『NPC』(チャールズ・ユウ)
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 最初はとらわれの身だった。なにも考えないイリジウム収集作業員としてゾンビのように歩きまわっていた。かわりに自由に考えられた。それからあのプラズマ嵐に襲われ、いろいろなことが起きた。自由に体を動かせ、行きたいところへ行けた。しかし思考はとらわれていた。なにかに縛られていた。この仕事に、あるいはこの人生に。
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文庫版p.118

 小惑星でイリジウム収集をひたすら続けていた男が、ある事故に巻き込まれ、突然PCになってしまう。これまではNPCだったのだ。男は次々と提示されるミッションをひたすらクリアするが、奇妙なことに、それまでよりもむしろ不自由な人生を送っているという感覚から逃れられない。意外な設定で「自由とは何か」というテーマを扱った作品。乱入上等。


『猫の王権』(チャーリー・ジェーン・アンダース)
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「これは一つの閉じた生態系ではないかと仮説を立てているんです」ジュディは言った。「レプトスピラX菌と、人間と、ゲームの猫たちの三者による生態系。現実の猫が飼い主をトキソプラズマに感染させて、さらに猫好きにするようなものではないかって」
「なるほど」
 わたしは大広間のパーティションの隙間から、猫のマスクの人々がずらりと並んだ列を見た。まるで雨だれのようにぽつぽつとゲーム機を叩いて操作している。性別も年齢層も体格もさまざま。服装もトラックスーツからビジネスカジュアルまで。猫のマスクだけがほぼいっせいに上下に動く。目を見開いてまばたきせずに統治する機械の群れ。
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文庫版p.138

 伝染病が引き起こす脳障害に苦しむパートナーに、プレイすることで認知機能のリハビリになるというゲームを与えた語り手。介護している語り手のことも忘れてしまったように、患者はゲームにのめり込んでゆく。分解されつつあった脳機能がゲーム世界に適応し、再構成されてゆくのだ。ゲームと介護という現実的なテーマを扱った作品。上位ランキング。


『キャラクター選択』(ヒュー・ハワイー)
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「わたしは生きてお店にたどり着きたいだけなの」
 わたしがそう言っても、夫は耳にはいらないらしい。
「――まだ1ポイントも稼いでないじゃないか。そんなの……ばかげてる。このまま市街を出たらゲームオーバーだぞ。敵前逃亡で捕まる。いるべき場所は市街の反対側だ。空爆を待つんだ。でないとこのステージをクリアできない。一度でもこのステージをクリアしたことがあるのか?」
「いいえ」
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文庫版p.234

 いつもより早く職場から帰宅した夫が、育児の合間に彼のゲームをプレイしている妻を見つける。どんな風にプレイしているのか見せてくれと頼む夫。妻は、驚くべきスキルで、一人も敵を殺さず、獲得ポイント0のまま戦場を駆け抜け、市街戦から離れた平和な場所で花を育てているのだった。ハイスコアを目指すプレイを当然と考える夫との意識のずれ。ゲームのプレイスタイルを通じて、多様性というテーマを扱った作品。俺様プレイスタイル。


『計仕掛けの兵隊』(ケン・リュウ)
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「信念は自己認識の言い換えに過ぎない。あんたは成功したよ、シェヘラザード。自分の物語を語って、命を長らえた。こんどは、あたしが自分にいい話をする番さ。自分自身についての話を」
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文庫版p.314

 父親からの依頼で賞金稼ぎがつかまえた少年。宇宙船で護送してゆく最中に、少年は与えられたコンピュータを使ってテキストアドベンチャーゲームを作り出す。ひまにまかせてプレイした賞金稼ぎは、そこで語られている少年自身の物語に感銘を受ける。小説と違って読者が能動的に考えないとストーリーが進行しない、というテキストアドベンチャーの特性を活かした「語り」のパワーを描いた作品。そのコマンドは無効です。



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『超動く家にて 宮内悠介短編集』(宮内悠介) [読書(SF)]

『解説』(酉島伝法)より
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 そういった盆倉純度の高いものが短編小説としても書かれ、デビューから現在に到るまでの間に隙あらばと送り出されてきた。それらをまとめ、軌道上を漂っていた「星間野球」で蓋をしたのが、この『超動く家にて』――俗称、宮内悠介バカSF短編集である。本書担当編集者どうしで、どの作品が最もバカなのかが議論になったという。たぶん、あとがきじゃないだろうか。ともかく、ようやくこの短編集を手にとって読めるという喜びと共に、ほっとした気持ちがある。
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単行本p.325


 トラ技の圧縮大会から宇宙の野球盤まで、いい歳した大人が大真面目、真剣勝負。ジャンルのお約束事を突き詰めたらこうなった困惑小説。人気作家の文体パロディ。ジャンルをこえ多方面で注目されている作家による、脱力ミステリ馬鹿SF短篇集。単行本(東京創元社)出版は2018年2月、Kindle版配信は2018年2月です。


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 はじめての本である『盤上の夜』が、ほぼまとまった時期のことだ。『盤上の夜』はというと、著者がシリアスすぎて、なんか変なことになった短編集。このままでは、洒落や冗談の通じないやつだと思われてしまわないだろうか。
 いま振り返ると「なぜそんなことで」と思うけれど、とにかく当時のぼくには深刻な悩みだった。
 深刻に、ぼくはくだらない話を書く必要に迫られていた。
(中略)
 楽しんでいただけたなら嬉しいし、失望されたかたには、こればかりは申し訳ありませんと頭を下げるよりない。しかし馬鹿をやるというのはぼくにとって宿痾のようなもので、もはや自分でどうにかできるものでないことも確かなのだ。
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単行本p.313、322


 あまりにも不真面目なことを生真面目に書く。あちこちに紛れ込ませるように発表された笑わせ短編を16本収録した短篇集です。


[収録作品]

『トランジスタ技術の圧縮』
『文学部のこと』
『アニマとエーファ』
『今日泥棒』
『エターナル・レガシー』
『超動く家にて』
『夜間飛行』
『弥生の鯨』
『法則』
『ゲーマーズ・ゴースト』
『犬か猫か?』
『スモーク・オン・ザ・ウォーター』
『エラリー・クイーン数』
『かぎ括弧のようなもの』
『クローム再襲撃』
『星間野球』


『トランジスタ技術の圧縮』
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「弟子なら断わっている。……もう、すべては終わったのだ」
 にべもない対応だが、梶原とて二日がかりでこの場所に来たのだ。簡単にひきさがるわけにもいかない。梶原は訴えた。幼いころ、アイロンの魔力に魅入られたこと。
 伝統を守りたい気持ちから、真剣に弟子入りを考えていること。
「御主は、実際にトラ技を圧縮したことがあるのか」
「それは……」おのずと言葉に詰まった。
 ない。
 それが現実なのだ。
「『月刊アスキー』なら――」
「帰るがよい」
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単行本p.9

 あまりにも分厚く、しかも広告ページが多いため、買ってきたらとりあえずバラして広告を抜いて厚さを「圧縮」してから本棚に並べるという雑誌「トランジスタ技術」。そのトラ技圧縮技術を競う大会にすべてを賭けた男たちの熱き闘い。いや本当にそういう話なんだってば。


『エターナル・レガシー』
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 現役だと主張する男の目からは、けれども一抹の懐かしむような光が感じられた。だからだろうか、ぼくがこの胡散臭い親爺を部屋にまで入れてしまったのは。
 いや、胸の奥ではわかっていた。
 誇らしげに過去を語る男が、しかし本当は自分自身を“終わったもの”と見なしていること。そして、ぼくが男に自分を重ねあわせていることに。部屋に来てからも、男は自分のこれまでの実績をいやというほど並べ立てた。
 そして名を訊ねてみると、
「俺か。俺はZ80だ」
 どうだとばかりに、男は自分の胸を指さすのだった。
「こう見えて、宇宙にだって行ったことがあるんだぜ」
――――
単行本p.98

 人間が囲碁ソフトに負ける時代、自分はレガシーに過ぎないのだろうか。悩める囲碁棋士が出会った不思議な男は「俺はZ80」と名乗る。念のため云っておきますが往年の8ビットマイコンの名前です。レガシー同士の奇妙な連帯感。だが語り手の恋人は、男に向かって「身の程をわきまえること。だいたい何、Z80って。乗算もできない分際で」などと辛辣なことを言うのだった。気の毒なZ80。MSXだって現役で頑張ってるのに……。


『超動く家にて』
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もっとも「犯人当て」として見るなら、別に玄関がなくても困りはしない道理で、むしろないほうが好都合だともいえる。
 それより確認したいことは別にある。
「この家なんだけど」
「何か?」
「回ったりしないような?」
「いや、回るけど」
 ルルウが当然と言わんばかりに答えた。
――――
単行本p.113

 まず建物には出入り口がない。あとトリックを成立させるために回転している。
「一ページに一つ叙述トリックを仕込むことを目標とし、本文はすぐに仕上がったものの、図を作るのに数日かかり、後悔した」(単行本p.317)という、とにかくありがちな叙述トリックを詰め込んで新本格をおちょくる脱力ミステリ馬鹿SFの代表作。


『夜間飛行』
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「……連続飛行が四時間をオーバーしてる。そろそろ戻れる?」
「ああ」
「あと、時間外労働が六十時間を超えてる。もっと自分を愛してあげて」
「それは余計なお世話だ」
「まあね。でも、パイロットの状態管理はアシスタント・インテリジェンスの役目」
「見た目はまるっきりカーナビだけどな」
「で、なんだっけ、近くのコンビニ?」
「違うよ!」
「急激な情動の変化を検出」
「うるさいよ!」
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単行本p.137

 戦闘機のパイロットとアシスタントAI(美人ボイス)の漫才のような会話。ゲームなどでお馴染みの設定を使ったコメディ作品。意外にきちんとしたショートショートになっていて、その生真面目さに驚かされます。


『ゲーマーズ・ゴースト』
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 思うに人間、企画力とか営業力とかがあるように、駆け落ち力というやつがあるのだ。外部からの圧力にもめげず、わが道を通し、駆け落ちをなしとげる力。ね。これだよ。そこんところを、俺とナナさんは端から欠いているのだ。たぶん、愛があればいいとかそういうことではない。俺は俺で、ついつい、もったいないとか、行き先で足があったら便利だろうなとか、そんな浅知恵でもってライトバンなどを選択してしまう。そこにナナさんが、まるで犬猫でも拾うみたいにおかしな連中を拾ってくる。俺とナナさんは、こう、駆け落ちという目前のターゲットに専念できるタイプではなかったんだ。
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単行本p.181

 駆け落ちして追われる二人。そこに何やらヤバい事件に巻き込まれて逃亡中の変な外国人や高価な楽器を盗んで逃亡中の演奏家が合流。それぞれの事情で追われる四人は、よく分からないまま逃走を続ける。俺たちに明日はない。軽妙な会話でぐいぐい読ませるロードムービー調の作品。


『星間野球』
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 ふう、とマイケルがため息をつくとレバーから手を放した。
「いいのかい。こんなゲームに、おれたちの命運を賭けちまって」
「そっちが言い出したんだ。それに、どのみちここまで来ちまったんだ」
「いいんだな」
 立ち通しで、二人の体力も限界に近づいていた。しかし一瞬のタイミングが勝敗を分けるゲームである。二人とも椅子にはつかず、真剣な面持ちで中腰に盤面を見下ろしていた。
「投げてくれ」
 杉村の返答を受けて、マイケルがふたたびレバーに手をあてた。もう遊び球は投げないだろう。全力で投げるだけ。杉村も、全力でスイングするだけだ。
――――
単行本p.281

 地球を周回する宇宙ステーションの中で、いい歳したおっさん二人がムキになって野球盤で真剣勝負。カーブだ、シュートだ、消える魔球だ。イカサマは騙された方が悪い。もともとデビュー短篇集『盤上の夜』の最後を飾る予定だったという(マジか)、抱腹絶倒ながら意外にもプロットがしっかりしていて楽しめる作品。



タグ:宮内悠介
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『SFマガジン2018年4月号 ベスト・オブ・ベスト2017、「BEATLESS」&長谷敏司特集』 [読書(SF)]

 隔月刊SFマガジン2018年4月号の特集は、『SFが読みたい! 2018年版』の「ベストSF2017」上位に選ばれた作家たちの作品特集「ベスト・オブ・ベスト2017」、そして「「BEATLESS」&長谷敏司特集」でした。



『9と11のあいだ』(アダム・ロバーツ、内田昌之)
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「ETが転進中」モーディが声をあげた。「スクープの収穫物を燃料にして本艦へむかってくるわ。ワープを再起動できなかった場合、接触するまでの残り時間は……」彼女はふいに口をつぐみ、困惑をあらわにした。「計算によれば時間は……」
 それはわれわれが生きていられる時間と等しいので、わたしはどうしても数値を知りたかった。
「まあ、9分かな」モーディは言った。「9と11のあいだ」
――――
SFマガジン2018年4月号p.27

 敵性エイリアン戦艦から受けた謎の攻撃。コンピュータは誤動作し、人間もAIもおかしくなる。はたして攻撃により“破壊”されたのは何だったのか。軽快なスペースオペラ、と思わせておいて、いきなり馬鹿SFへの鮮やかな転進。


『魔術師』(小川哲)
――――
「竹村理道は天才だよ。マジシャン史上、最大の天才。こんな仕掛けを思いついて、かつそれを実行するなんて、天才かつ狂ってないと無理。もし彼が天才じゃないのなら……」
「のなら?」
 その次の姉の言葉を、僕は死ぬまで忘れないだろう。
「タイムマシンが本物だった。ただそれだけ」
――――
SFマガジン2018年4月号p.41

 落ちぶれた天才マジシャンが仕掛けた最後のステージ。それは、タイムマシンの実演だった。時間遡及、それは何らかのトリックなのか、それとも本物なのか。


『邪魔にもならない』(赤野工作)
――――
 RTAでは、現実の全てがゲームプレイの一部とみなされる。「競技」と名のつくおおよその行為に、自己都合による中断が許されていないのと同様に。ゲームの最中に体調が悪くなれば、無論、それはプレイヤーの責任となる。RTAでは、ゲーム中の体調管理もゲームプレイの一部だからだ。(中略)
 RTAは命懸けの行為である。少なくとも、それに真剣に臨んでいる人間たちからすれば。
――――
SFマガジン2018年4月号p.49

 ファミンコンソフト『スペランカー』のクリア時間短縮に命がけで挑み続ける老人。その姿、僕たちの未来としか思えない。


『宇宙ラーメン重油味』(柞刈湯葉)
――――
 どうやら彼は課長に話しかけているのではなく、心の叫びが内蔵袋につながった神経系に漏れ出しているようだった。その証拠に最後のほうで、
「ふん、地球人にしては食えるものを出すじゃないか」
 という明瞭な声が聞こえてきた。
「まさかこんなところで地球特産の重油が飲めるなんて」
 と、課長も心から満足そうにしていた。
――――
SFマガジン2018年4月号p.67

 太陽系外縁天体群の小惑星「ヤタイ」、そこに「ラーメン青星」が出店。ポリシーは「消化管があるやつは全員客」。あそこはどんな異星人にもそれぞれの代謝に合わせて美味しいラーメンを出す、という評判を聞きつけた客が集まってくるのだった。脱力のB級グルメSF。


『1カップの世界』(長谷敏司)
――――
「わたしが狂っているのではないわ。きっとね、……正気というものが、ほんの少しだけズレてしまったのよ。だから、わたしは、この世界をしあわせにはしない」
 笑ってしまった。涙ににじむ視界が揺れた。どうしようもない孤独が、自分が今生きていることを激しく感じさせていた。
 AIたちの能力は人類を超えている。だから、アナログハックで、いつかエリカのことも誘導できるようになるかもしれない。
 それでも、痛快だった。
――――
SFマガジン2018年4月号p.91

 『BEATLESS』スピンオフ短篇。高度AI、アナログハック、そして冷凍睡眠から覚醒してたった一人で22世紀に放り出されたエリカ・バロウズの物語。
 ちなみに『BEATLESS』単行本の紹介はこちら。

  2012年12月21日の日記
  『BEATLESS』(長谷敏司)
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2012-12-21


『骨のカンテレを抱いて』(エンミ・イタランタ、古市真由美訳)
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 夜深く、眠りの蜘蛛の網に沈み込んでいきながら、わたしは時折、体の中に谺を聞く。この世ならざる世界の音色、互いに結びあわされた旋律が、ありえたかもしれない光景を目の前に描きだす。けれど映像は曙の光に掻き消される。朝はこの現実のため、ペンと五線紙のためのもの。物語のためのもの、ある物語は生きながらえるべく、ある物語は消える運命のもとに生みだされる。
――――
SFマガジン2018年4月号p.115

 音楽によって魔物を退治する仕事をしているヨハン・Sのもとに、隣人の奇行に悩まされている依頼人がやって来る。フィンランドの作曲家シベリウスとフィンランドの民族楽器カンテレが活躍する、いかにもフィンランドの作家らしい作品。


『博物館惑星2・ルーキー 第二話「お開きはまだ」』(菅浩江)
――――
 触覚、圧覚、温覚、冷覚、痛覚。メルケル触板、マイスナー小体、ルフィニ小体、パチーニ小体、自由神経終末。どんなものが、どんなところに、どんな色で、どんな動きで。それこそ産毛だけを撫でられるかのような言語化できない気配まで、アイリスは腕が受け止める感覚を脳内で画像として再構築する。
――――
SFマガジン2018年4月号p.329

 既知宇宙のあらゆる芸術と美を集めた小惑星、地球-月のラグランジュ5ポイントに置かれた博物館惑星〈アフロディーテ〉で、新作ミュージカルが公開されることになった。そこに出席する予定のミュージカル評論家に脅迫状が届く。視覚情報をすべて触覚に変換して細部まで子細に「視る」ことが出来る盲目の評論家は、その辛口評論ゆえに敵も多い。若き警備担当者である主人公は、彼女の警備という任務に就いたが……。『永遠の森』の次世代をえがく新シリーズ第二話。



タグ:SFマガジン
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『SFが読みたい! 2018年版』 [読書(SF)]

 今年もやってきました、昨年のベストSF発表。自分がどれだけ読んでいたか確認してみました。2017年におけるSF読書の結果です。

 国内篇ベスト30のうち読んでいたのは7冊、海外篇ベスト30のうち読んでいたのは6冊。総計して、2017年のベストSF60冊のうち、13冊しか読んでいませんでした。ヒット率22パーセント、過去最低記録を着々と更新中。パトラッシュ、僕はもう疲れたよ……。

 参考までにベストSF2017のうち私が読んでいた作品について、読了後に書いた紹介をリストアップしておきます。これから読もうかと思っている方に参考になれば幸いです。


2017年11月06日の日記
『公正的戦闘規範』(藤井太洋)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-11-06


2017年06月06日の日記
『あとは野となれ大和撫子』(宮内悠介)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-06-06


2017年03月23日の日記
『裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル』(宮澤伊織)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-03-23


2017年10月26日の日記
『機龍警察 狼眼殺手』(月村了衛)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-10-26


2017年08月30日の日記
『行き先は特異点 年刊日本SF傑作選』(大森望、日下三蔵、藤井太洋、宮内悠介、上田早夕里)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-08-30


2017年02月21日の日記
『AIと人類は共存できるか?』(早瀬耕、藤井太洋、長谷敏司、吉上亮、倉田タカシ、人工知能学会:編集 )
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-02-21


2017年01月26日の日記
『カブールの園』(宮内悠介)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-01-26


2017年09月06日の日記
『母の記憶に』(ケン・リュウ、古沢嘉通・幹遙子・市田泉:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-09-06


2017年09月28日の日記
『時間のないホテル』(ウィル・ワイルズ、茂木健:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-09-28


2018年02月01日の日記
『猫は宇宙で丸くなる 猫SF傑作選』(中村融:編集・翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2018-02-01


2018年01月11日の日記
『J・G・バラード短編全集3 終着の浜辺』(J.G.バラード、柳下毅一郎:監修、浅倉久志他:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2018-01-11


2017年01月17日の日記
『伊藤典夫翻訳SF傑作選 ボロゴーヴはミムジイ』(ヘンリー・カットナー、フリッツ・ライバー、フレデリック・ポール、他、伊藤典夫:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-01-17


2017年07月26日の日記
『ピンポン』(パク・ミンギュ、斎藤真理子:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-07-26



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