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『SFが読みたい! 2018年版』 [読書(SF)]

 今年もやってきました、昨年のベストSF発表。自分がどれだけ読んでいたか確認してみました。2017年におけるSF読書の結果です。

 国内篇ベスト30のうち読んでいたのは7冊、海外篇ベスト30のうち読んでいたのは6冊。総計して、2017年のベストSF60冊のうち、13冊しか読んでいませんでした。ヒット率22パーセント、過去最低記録を着々と更新中。パトラッシュ、僕はもう疲れたよ……。

 参考までにベストSF2017のうち私が読んでいた作品について、読了後に書いた紹介をリストアップしておきます。これから読もうかと思っている方に参考になれば幸いです。


2017年11月06日の日記
『公正的戦闘規範』(藤井太洋)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-11-06


2017年06月06日の日記
『あとは野となれ大和撫子』(宮内悠介)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-06-06


2017年03月23日の日記
『裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル』(宮澤伊織)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-03-23


2017年10月26日の日記
『機龍警察 狼眼殺手』(月村了衛)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-10-26


2017年08月30日の日記
『行き先は特異点 年刊日本SF傑作選』(大森望、日下三蔵、藤井太洋、宮内悠介、上田早夕里)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-08-30


2017年02月21日の日記
『AIと人類は共存できるか?』(早瀬耕、藤井太洋、長谷敏司、吉上亮、倉田タカシ、人工知能学会:編集 )
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-02-21


2017年01月26日の日記
『カブールの園』(宮内悠介)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-01-26


2017年09月06日の日記
『母の記憶に』(ケン・リュウ、古沢嘉通・幹遙子・市田泉:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-09-06


2017年09月28日の日記
『時間のないホテル』(ウィル・ワイルズ、茂木健:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-09-28


2018年02月01日の日記
『猫は宇宙で丸くなる 猫SF傑作選』(中村融:編集・翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2018-02-01


2018年01月11日の日記
『J・G・バラード短編全集3 終着の浜辺』(J.G.バラード、柳下毅一郎:監修、浅倉久志他:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2018-01-11


2017年01月17日の日記
『伊藤典夫翻訳SF傑作選 ボロゴーヴはミムジイ』(ヘンリー・カットナー、フリッツ・ライバー、フレデリック・ポール、他、伊藤典夫:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-01-17


2017年07月26日の日記
『ピンポン』(パク・ミンギュ、斎藤真理子:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-07-26



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『猫は宇宙で丸くなる 猫SF傑作選』(中村融:編集・翻訳) [読書(SF)]

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 ここにお届けするのは、猫にまつわるSFとファンタジーを集めた日本オリジナル編集のアンソロジーである。とはいえ、「猫にまつわるSFとファンタジー傑作選」では長すぎるので、副題には「猫SF傑作選」と銘打った。
――――
文庫版p.432


 マシュマロを焼く猫、人語を話す猫、宇宙戦艦に猫パンチかます猫、人間を出し抜こうと画策する猫。地上で、宇宙で、それぞれに魅力的な猫が活躍するSFとファンタジーの海外短篇を10篇収録した傑作アンソロジー。文庫版(竹書房)出版は2017年9月です。


[収録作品]

『パフ』(ジェフリー・D・コイストラ)
『ピネロピへの贈りもの』(ロバート・F・ヤング)
『ベンジャミンの治癒』(デニス・ダンヴァーズ)
『化身』(ナンシー・スプリンガー)
『ヘリックス・ザ・キャット』(シオドア・スタージョン)
『宇宙に猫パンチ』(ジョディ・リン・ナイ)
『共謀者たち』(ジェイムス・ホワイト)
『チックタックとわたし』(ジェイムズ・H・シュミッツ)
『猫の世界は灰色』(アンドレ・ノートン)
『影の船』(フリッツ・ライバー)


『パフ』(ジェフリー・D・コイストラ)
――――
 夏がすぎ、娘は目に見えて成長をつづけたが、パフは違っていた。いつ見ても永遠の子猫のままで、四六時中跳ねまわり、なにを見ても大喜びで、それはいかにも子猫らしかった。
 生物工学的に加えられた差異以外にも、パフにはひどく特別な点がある、とわたしがはじめて気づいたのは、彼がマシュマロを焼いているところに出くわしたときである。
――――
文庫版p.15

 成猫にならないよう遺伝子操作された子猫。だが生涯で最も学習能力の高い年齢のまま何年も生きている子猫は、制約なしに学習を続け、ひたすら知能を向上させてゆく。子猫がマシュマロを焼いているのを見たとき、語り手はそれが意味する危険性に気づいたが……。人為的に知能を向上させられた猫による復讐譚。ややホラーテイストであるにも関わらず、賢い猫がすごく可愛い。


『ベンジャミンの治癒』(デニス・ダンヴァーズ)
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 なぜベンが生き返り、そして生きつづけているのか、ぼくは知らない。手掛かりひとつない。それに答えが得られるまでは、以上が結論だ。神にはなにか計画があるのかもしれず、その場合なんの明確な指示も受けていないぼくは、なにをしようとその計画を台無しにするだろう。だが、もし神になんの計画もないのなら、ぼくは現状以外のことを考えだす義務が自分にあるとは感じない。だれもが死ぬという現状以外のことを。それが世の常というものだ。ベンを例外として。
――――
文庫版p.79

 奇跡が起きた。死んでしまった猫が蘇ったのだ。それからずっと、歳をとらない猫と一緒に過ごしてきた語り手。やがて歳月は流れ、ついに誰とも家庭を持たないまま猫と二人だけで生きてきた語り手の命がまさに尽きようとしているとき、猫がとった行動とは。ぼろぼろに泣けるファンタジー作品。律儀な猫がすごく可愛い。


『ヘリックス・ザ・キャット』(シオドア・スタージョン)
――――
「ま、きみが愚かなのはしかたがないが、それ以上愚かになることはないよ、ピート。吾輩が変わったと思っているようだが、それは違うね。きみにとっては、そのことをはやく理解するにこしたことがない。それと、頼むから吾輩に対して感情的になるのはよしてくれないか。退屈だ」
「感情的?」ぼくは叫んだ。くそったれ、たまにちょっとくらい感情を表に出すのがなぜいけない? とにかくいったいどうなってるんだ? この家の主人はいったいだれだ? だれが家賃を払ってる?」
「そりゃあきみだよ」とヘリックスは穏やかに言った。「おかげでますますきみがバカに見えるがね。吾輩なら徹底的に楽しめることでないかぎり、なにひとつしないのに。さあ、もういいかげんにしたまえ、ピートくん。子どもじみたふるまいをする年じゃなかろう」
 ぼくは重い灰皿をひっつかみ、猫に向かって投げつけた。ヘリックスは優雅に身を伏せて灰皿をかわした。「おやおや! そこまでしてバカの実例を見せてくれなくても」
――――
文庫版p.160

 とある事情で人語を話すようになった猫。当然ながら一人称は「吾輩」で、飼い主のことは下僕あつかい、上から目線で馬鹿にしてくる。飼い主と猫とのカトゥーンめいた戦いをユーモラスに描く作品。生意気な猫がすごく可愛い。


『宇宙に猫パンチ』(ジョディ・リン・ナイ)
――――
戦闘態勢にあるケルヴィンの背中の毛が逆立ち、尻尾は瓶洗い用のブラシさながらに太くふくらんでいる。ちっぽけな生きものが自分の千倍も大きな敵を威嚇するために、せいいっぱい自分を大きくみせようとしている姿に、ジャーゲンフスキーは心を打たれた。
「ふんぎゃあぁぁぁぁぁ!」ケルヴィンはわめいた。その声は怒りの度合いを示すかのように高く低く響き渡った。目は巨大なメインスクリーン上の赤い、ヘビのような戦艦をしっかと見据え、ふくらんだ尻尾が前にうしろに揺れている。
――――
文庫版p.206

 人類の宇宙船が、敵性エイリアンの宇宙戦艦から攻撃を受ける。まず船内の乗組員をすべて麻痺させた敵は、次に船体を破壊すべくレーザー砲を向けてくる。だが、船内には麻痺していない獣が一匹残っていた。怒りのあまり飛び上がって、メインスクリーンに映る敵戦艦の鼻先に、猫パンチ、猫パンチ、猫パンチ。それを火器管制コンピュータは攻撃命令と解釈した……。船猫がたった一匹で宇宙戦艦と戦う痛快なスペースオペラ作品。獰猛な猫がすごく可愛い。


『共謀者たち』(ジェイムス・ホワイト)
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第三生物研究室――巨大な〈船〉の半分以上も離れたところにある――で〈大きな者たち〉や、中継任務についていない〈小さな者たち〉に囲まれているホワイティを思いうかべたとたん、フェリックスはしばし畏敬の念に襲われた。その全員が〈脱出〉のために働いているのだ。そして第三研究室を種子貯蔵庫、中央司令室、機関室のような場所とつなげている別のテレパシー中継役たち……。外の通廊にいる〈小さな者〉からのじれったげな思考を捉えて、フェリックスはあわてて心を報告にもどした。
――――
文庫版p.222

 恒星間宇宙船に積み込まれていた実験動物たちが、無重力環境に長くさらされたため、知能を発達させた。自分たちの運命に気づいた彼ら、すなわちネズミ、モルモット、そしてペットである鳥と猫は、宇宙船からの脱出計画を立てる。人間の乗組員に絶対に気づかれないよう準備を進めなければならない。だが、猫はその凶暴性ゆえに他の共謀者全員から不信感を持たれていた……。動物たちを主役にしたサスペンスフルな『大脱走』。悩める猫がすごく可愛い。



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『イヴのいないアダム』(アルフレッド・ベスター、中村融:編) [読書(SF)]

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「そうですね、その新鮮な題材に飽くなき飢えをいだいているという点ですが、なぜほかの作家のように自分の知っている題材で作品を書くことに満足しないのですか? なぜ狂ったようにユニークな題材を――まったくの未踏の分野を求めるんです? なぜわずかな目新しさに法外な代価を喜んで払おうとするんです?」
「なぜかって?」ブラウは煙を吸いこみ、食いしばった歯の隙間から吹きだした。「きみが人間ならわかる。その、人間じゃないんだろう……?」
「その質問には答えられません」
「それなら理由を教えよう。生まれてからずっとぼくを苦しめてきたもののせいだ。人間は生まれつき想像力をそなえている」
――――
文庫版p.302


 長篇『分解された男』『虎よ、虎よ!』で名高い米国SF界の鬼才、アルフレッド・ベスターの日本オリジナル短篇傑作選。文庫版(東京創元社)出版は2017年11月です。


――――
先にあげた二長篇は、いずれも大胆なタイポグラフィの実験をまじえて、超能力者の心理を迫真的に描きだした傑作であり、華麗な未来社会の描写とあいまって、後世のSFにおよぼした影響には絶大なものがある。おそらくこの二作がなかったら、サミュアル・R・ディレイニーやマイケル・ムアコック、あるいはウィリアム・ギブスンやブルース・スターリングの諸作もなかっただろう。
 だが、二大長篇の陰に隠れて、その短篇群が見過ごされているとなったら、黙ってはいられなくなる。ベスターの短篇は、長篇とは趣がちがうものの、これはこれで珍重すべき逸品ぞろいなのだ。
――――
文庫版p.391


 2004年に河出書房新社より刊行された単行本『願い星、叶い星』収録の8篇に新訳2篇を増補し、改題文庫化。これだけでベスターの短篇代表作を網羅できるという充実した一冊です。


[収録作品]

『ごきげん目盛り』
『ジェットコースター』
『願い星、叶い星』
『イヴのいないアダム』
『選り好みなし』
『昔を今になすよしもがな』
『時と三番街と』
『地獄は永遠に』
『旅の日記』
『くたばりぞこない』


『ごきげん目盛り』
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「じゃあ、なんであの子を殺したんだ?」ヴァンデルアーがわめいた。「刺激のためでなかったら、なんで――」
「念のため申しあげますが」とアンドロイド。この手の二等船室は防音ではありませんよ」
 ヴァンデルアーは革紐を落とし、荒い息をつきながら、所有する生きものをじっと見つめた。
「なんでやったんだ? なんであの子を殺したんだ?」とわたしは訊いた。
「わかりません」とわたしは答えた。
――――
文庫版p.15

 普段は正常に機能しているのに、何かのきっかけで突然おそるべき殺人マシンと化してしまうアンドロイド。そんなアンドロイドと共に星から星へと逃亡の旅を続ける男。やがて警察に追い詰められた二人は……。凶悪犯罪、逃亡劇、盛り上がるサスペンスと並行して、一人称の混乱が読者の心に引っ掛かりを残しつつ、最後のクライマックスへとなだれ込んでゆく。ストーリー展開と文体上の実験を見事に融合させた傑作。


『願い星、叶い星』
――――
「例の少年には武器がある。自分で発明したなにか。ほかの連中のようにばかげたなにかだ。(中略)その子は天才だ。危険きわまりない。どうすればいいんだ?」
――――
文庫版p.92

 少年は人類をはるかに超越する天才だった。その行方を追う教師は、犯罪のプロと手を組んで彼を探し出そうとする。だが、次々と返り討ちにあって姿を消してゆく一味のメンバー。少年が持っている能力とは何か。ミュータントテーマの定番的展開をうまくひねった作品。


『イヴのいないアダム』
――――
 それが海であることはわかっていた――古い海のなごり、さもなければ、できかけの新しい海だと。しかし、それはいつの日か、乾いた生命のない岸に打ち寄せる、空っぽで生命のない海になるだろう。この星は石と塵、金属と雪と氷と水の惑星になるだろう。だが、それですべてなのだ。もはや生命はない。彼ひとりではどうしようもない。彼はアダムだが、イヴはどこにもいないのだ。
――――
文庫版p.118

 無謀な実験のせいで破滅した地球。荒涼とした終末風景のなかをひたすら這い続ける男。目指すは海。だが、もはや人類は彼一人しか残されておらず、生物の絶滅は確定しているというのに、なぜ海を目指すのか。それは彼自身にも分からなかった……。地球最後の人間テーマですが、その迫力に驚かされます。


『昔を今になすよしもがな』
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日付――1981年6月20日。氏名――リンダ・ニールセン。住所――セントラル・パーク模型船用池。職業または勤め先――地球最後の男。
「職業または勤め先」については、はじめて図書館に押しいったときから、しっくりこないものを感じていた。厳密にいえば、彼女は地球最後の女だが、そう書いたら、女性優位主義的なきらいがあるような気がするし、「地球最後の人物(パーソン)」と書いたら、酒をアルコール飲料と呼ぶみたいにばかげて聞こえる。
――――
文庫版p.151

 何らかの異変により人類は消滅。生き延びた最後の男女が出会う。同じく地球最後の人間テーマですが、無人の街で好き勝手する気の狂った男女、という設定だけでぐいぐい読ませるパワーが凄い。


『時と三番街と』
――――
「インチキして、ゲームに勝って楽しいですか?」
「ふつうは楽しくない」
「ディスニーなんでしょう? 退屈だ。飽きあきする。意味がない。非調和的です。あなたは正直なやりかたで勝ちたかったと思う」
「だろうな」
「それなら、この本を見たあともそう思うでしょう。あなたの行きあたりばったりの人生を通じて、あなたは人生というゲームを正直にプレイしたかったと思うでしょう。その本を見たことをヴァーダッシュされる。後悔される。われわれの偉大な詩人・哲学者、トリンビルの名言を身にしみて思いだすことになる。彼は明晰でスカゾンな一行にそれを要約しました。『未来は勝ちテコンされるものである』とトリンビルはいったのです。ミスター・ナイト、インチキをしてはいけません。お願いですから、その年鑑をわたしにください」
――――
文庫版p.224

 書店で統計年鑑を購入した男。だが謎めいた相手が現れて、その年鑑はずっと未来の版であり、手違いでこの時代に紛れ込んだものだと告げる。これからの世界の趨勢があらかじめ分かってしまう本。うまく活用すれば富も名声も思いのまま。それを無償で自主的に返してほしいと説得する相手に、男は迷うが……。タイムパトロールテーマですが、会話に混入する未来語(たぶん)がよい味を出しています。オチもクール。


『地獄は永遠に』
――――
「あなたがたひとりひとりが、好きなようにこしらえていい現実を。あなたがたご自身が作る世界を提供しましょう。そのなかでミセス・ピールは喜んで自分のご主人を殺せる――それなのに、ミスター・ピールは自分の奥方を手放さずにいられるのです。ミスター・ブラウには作家の夢である世界を提供し、ミスター・フィンチリーには芸術家の創造力を――」
――――
文庫版p.255

 放蕩のかぎりを尽くしていた数名の悪徳グループの前に現れた悪魔(たぶん)が「皆さんそれぞれの望んでいる世界を創り、永遠にその理想現実の中で生きられるようにしてあげましょう」と提案してくる。しかも無償で。
 自分が望んだ世界(内世界?)に転移したメンバーがそれぞれに辿る皮肉な運命を描く作品。メンバーのなかに作者自身をモデルにしたと思しき人物(生年月日がベスターと一致する作家)がいて、饒舌に自分語りするのが興味深い。



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『J・G・バラード短編全集3 終着の浜辺』(J.G.バラード、柳下毅一郎:監修、浅倉久志他:翻訳) [読書(SF)]

――――
「終着の浜辺」はわたしが「内宇宙」と呼んだもののもっとも極端な表現だ――外部の現実世界と内なる心理が出会い、融合する場所。この領域でのみ、成熟したサイエンス・フィクションの真のテーマは見出せるのだ。
――――
単行本p.400


――――
カタストロフの頂点となる中間地帯、休戦、空位期間には特別な力があるように思える――川に降りていく階段、なかば水没した飛行機機体の水による屈曲、夜と昼との境となる休止時間。わたしはそんな領域で永遠に生きていきたいと思うし、ひょっとしたらすでにそこにいながら自分でも気づいていないだけなのかもしれない。それこそが我々の心の中で夢と郷愁が永遠に立ち上がる場所なのである。
――――
単行本p.405


 ニュー・ウェーブ運動を牽引し、SF界に革命を起こした鬼才、J.G.バラードの全短編を執筆順に収録する全5巻の全集、その第3巻。単行本(東京創元社)は2017年5月です。


 第1巻と第2巻の紹介はこちら。

  2017年10月12日の日記
  『J・G・バラード短編全集2 歌う彫刻』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-10-12

  2017年05月16日の日記
  『J・G・バラード短編全集1 時の声』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-05-16


 第3巻には、60年代中頃(1963年から1966年まで)に発表された19編が収録されています。


[収録作品]

『ヴィーナスの狩人』
『エンドゲーム』
『マイナス1』
『突然の午後』
『スクリーン・ゲーム』
『うつろいの時』
『深珊瑚層の囚人』
『消えたダ・ヴィンチ』
『終着の浜辺』
『光り輝く男』
『たそがれのデルタ』
『溺れた巨人』
『薄明の真昼のジョコンダ』
『火山は踊る』
『浜辺の惨劇』
『永遠の一日』
『ありえない人間』
『あらしの鳥、あらしの夢』
『夢の海、時の風


『ヴィーナスの狩人』
――――
「ほとんどの人はチャールズ・カンディンスキーのことを狂人だと思っている。だけど実際には、今日の世界においてもっとも重要な役割を果たしているんだ、来るべき危機を人々に警告する予言者の役割をね。彼の幻想の本当の重要性が見いだされるのは、原水爆反対運動同様、あくまでも意識とは別の次元、うわべの合理的生活の下でたぎっている膨大な精神パワーの表現なんだ」
――――
単行本p.32

 天文台に赴任してきた天文学者が、奇妙な男と出会う。彼は砂漠で金星人とコンタクトしたと主張しており、そのとき撮影した「空飛ぶ円盤」の写真を含む彼の著書は、地元で大きな話題となっていた。トンデモを論破してやろうと思って近づくうちに、天文学者は次第に相手の精神世界へと引き込まれてゆく……。いわゆるアダムスキー事件を題材に、オカルトがもたらす影響を生々しく描いた印象的な作品。


『スクリーン・ゲーム』
――――
 光点の数がふえた。一瞬後には、テラスぜんたいが宝石の反射で輝きわたった。急いで数をかぞえると、二十ぴき近かった――トルコ玉の蠍、大王冠のようにトパーズをいただいた紫かまきり、そして一ダースあまりの蜘蛛――その頭からは、エメラルドとサファイアの鋭い光が、槍の穂先のように放たれている。
 彼らの真上では、バルコニーのブーゲンヴィリアの陰にかくれて、青いガウンを着た背の高い女の白い顔が、こちらを見まもっていた。
――――
単行本p.112

 テクノロジーと芸術と倦怠が支配する砂漠のリゾート、ヴァーミリオン・サンズを舞台としたシリーズの一篇。映画の撮影のために大量の背景スクリーンを製作する仕事を受けた画家の前に、白昼夢のような美女が現れる。十二宮を描いたスクリーンの配置が作り出す砂漠の迷宮、宝石を象嵌された輝く虫たち、そして幻の美女。現実と幻想の区別がなくなってゆく、ヴァーミリオン・サンズらしい作品。


『消えたダ・ヴィンチ』
――――
 パリのルーヴル美術館からレオナルド・ダ・ヴィンチ作の『磔刑図』が消え失せた――いや、もっとありていにいえば――盗まれたのが明らかになったのは、1965年4月19日の朝だった。これは史上空前のスキャンダルを引き起こした。(中略)ルーヴルの不運な館長は、ブラジリアで開かれていたユネスコの会議から呼びもどされ、いまはエリゼー宮の絨毯を踏んで、大統領にみずから報告しているところだし、第二局は非常態勢にはいっており、すくなくとも三人の無任所大臣が任命されていた。彼らの政治生命は、その絵を回収できるかどうかにかかっていた。
――――
単行本p.157

 ルーヴル美術館から盗まれた名画の行方を追う語り手は、知人からとてつもない仮説を聞かされる。今回の美術品盗難は、数百年にも渡って途切れることなく続いているパターンの最新事例に過ぎないというのだ。ストレートな美術ミステリかと思わせて、次第にオカルト的世界観に踏み込んでゆく巧みな作品。


『終着の浜辺』
――――
「この島は心の状態なのだ」古い潜水艦ドックで働いている科学者のひとりであるオズボーンが、のちにトレイヴンに語ることになる。このことばが真実であることは、到着して二、三週間もしないうちに、トレイヴンには明白なものとなった。砂とわずかなみすぼらしい椰子をのぞけば、島の風景のすべてがつくりものであり、遺棄された広大なコンクリートの高速道路網とあらゆる点で共通する人工物であった。核実験の一時停止(モラトリアム)以来、この島は原子力委員会によって放棄され、兵器と通路とカメラタワーと管制建造物(ブロックハウス)の雑然とした集合体は、それを自然状態にもどそうとするいかなる試みも受けつけなかった。
――――
単行本p.182

 遺棄された核実験場である無人の孤島に到着した男が、死んだ妻子を幻視しながら、ただひとりコンクリート製の終末風景のなかをさまよう。内宇宙を探索し続けたバラード作品の特徴を決定づけるような、代表作の一つ。


『光り輝く男』
――――
 昼には幻想的な鳥たちが石化した森を飛びまわり、宝石で飾られたアリゲーターが結晶化した川の土手に紋章のサラマンダーのようにきらめいた。夜には光り輝く男が木々のあいだを走っていったが、その腕は黄金の車輪のようで、顔は幽霊の王冠のようだった……
――――
単行本p.207

 あらゆるものが結晶化して宝石のように輝いている森。異変が起きた森の奥地へと迷い込んだ語り手は、そこで光り輝く男、そして死につつある女と出会う。時間そのものが凝縮して結晶化しつつある、時の流れが失われた森。そこでは人の愛憎も宝石と化して永遠のものになるのだった。SFオールタイムベスト長篇『結晶世界』の原型となる作品。


『溺れた巨人』
――――
 嵐の去った朝、市の西北八キロの海岸に、巨人の水死体が打ちあがった。この第一報は近在の農夫の一人がもたらしたもので、つづいて地方紙の記者や警察官が、それを確認した。(中略)両腕を体の脇にのばして、仰向けに横たわった安らかな姿勢は、まるで濡れ砂の鏡の上に眠りこけているようで、波がひくにつれて、水面に映った真白な肌の色がしだいに薄れていく。澄みきった日ざしの下で、その肉体は、海鳥の白い羽毛のように、きらきらと光っている。
――――
単行本p.263

 鯨に匹敵するほどの巨大な水死体が海岸に打ち上げられる。物珍しさで集まってくる見物人。最初は威厳に満ちていた巨人の死体は、やがてありふれた景色となり、少しずつ解体されて肥料や見せ物やトロフィーとなり、ありふれた日常へと還元されてゆく。


『永遠の一日』
――――
そして、はじめてほんとうの夢を見た。真夜中の空の下に古典的な廃墟が広がり、その死者の都の中に、月光に照らされた人影が行き来する夢を。
 この夢は、その後ハリデイが眠るたびにくりかえされた。夜の迫った砂漠を見おろす窓ぎわの、長椅子の上で目ざめると、彼はいつも自分の内的世界と外的世界の境界が、溶け去りつつあるのをさとった。マントルピースの鏡の下にある時計の中で、すでに二つがとまっていた。それらの死とともに、彼ははじめて、古い時間の観念から解放されるのだ。
――――
単行本p.322

 自転が止まり、すべての都市がそれぞれ一日の特定時刻に固定された世界。明暗境界線上に位置する都市にやってきた語り手は、永遠の黄昏のなかで、時間という観念から解放されてゆく。


『あらしの鳥、あらしの夢』
――――
 翌年の秋には、第二世代のいっそう大きな鳥たちが現れた――鷲のように猛々しい雀、コンドルなみの翼長を持つ鰹鳥や鷗。人間の胴回りほどもあるたくましい体を備えた、これらの巨大な生き物は、嵐をものともせず海岸ぞいを飛び交い、牧場の家畜を殺し、農夫やその家族をおそった。この猛烈な成長の拍車となった汚染作物のもとへ、なにゆえか舞いもどってきた彼らは、やがて全国の空を覆いつくした数百万羽の空中艦隊の先遣隊だった。飢えにかられて、彼らは唯一の食料源である人間をおそいはじめたのだ。
――――
単行本p.364

 環境汚染によって巨大化した鳥の群れ。狂暴になった彼らは人間を次々に襲って殺戮してゆく。たった一人で巨大鳥の群れと戦い、彼らを殲滅した男が、地面に降り積もった鳥の死体の真っ白な山にわけいっては羽を集めてゆく狂った女と出会う。ヒッチコックの名画へのオマージュながら、どこまでもバラードらしい作品。



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『SFマガジン2018年2月号 オールタイム・ベストSF映画総解説 PART3』 [読書(SF)]

 隔月刊SFマガジン2018年2月号の特集は、「オールタイム・ベストSF映画総解説 PART3」、「「ガールズ&パンツァー」と戦車SF」、「アーサー・C・クラーク生誕100年記念特集」、の三本立てでした。また、澤村伊智さんの読み切り短篇が掲載されました。


『サイバータンク vs メガジラス』(ティモシー・J・ゴーン、酒井昭伸:翻訳)
――――
「銀河系の既知の星域に、ほかにどれだけ、核反応エネルギーで動く巨大トカゲが棲息していると思うんだ? ものごとというものは、本質を見なくてはいかんな」
〔わかったよ。助言を容れよう。指定目標の新名称は“メガジラス”でいく〕
――――
SFマガジン2018年2月号p.104

 人類が創り出した銀河最強の戦闘機械、サイバータンク。その前に立ちはだかったのは、咆哮と共にプラズマブレスを吐く巨大トカゲ型放射能怪獣「メガジラス」だった。両雄激突のさなか、上空から現れたのは宇宙最凶のエイリアン。巨大メカ、巨大怪獣、巨大エイリアン、三つ巴の死闘の行方は。って、男の子ってこういうのが好きなんでしょ。


『からっぽの贈りもの』(スティーヴ・ベンスン、中村融:翻訳)
――――
 ティモシーの喉がやり場のない怒りで小刻みに震えた。彼は叫びたかった。「いいや、サンタクロースはいない、クリスマス・イヴはない。プレゼントはない……あるのは痛みとゆっくりした死だけ、寒さと空腹だけなんだ」と。彼は目をぎゅっと閉じて、両膝をついた。涙が頬を流れおち、アンジーが困惑して眉間にしわを寄せた。
――――
SFマガジン2018年2月号p.113

 核戦争を生き延びた子どもたち。だが大人は死に絶え、食料も燃料も乏しく、このままでは冬を越せないことは明らかだった。しかし、絶望のなかで、誰かが言い出す。もうすぐクリスマスだからきっとサンタさんが助けに来てくれると。それが本当ならどんなにいいだろう。だがもう12歳のティモシーは知っていた。サンタクロースはいないのだ。

 核戦争後の世界、ロボット戦車、心温まるクリスマス・ストーリー、という無理やりな三題噺をうまくまとめた短篇。


『タイムをお願いします、紳士諸君』(アーサー・C・クラーク&スティーヴン・バクスター、中村融:翻訳)
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「きみはその線で話をでっちあげなかったっけ、チャールズ? 美術品泥棒が時間を遅くするって話を? 題名は――『愛に時間を』だったっけ?」
「そいつはハインラインだ」とデイヴィッド・カイル。
「『時は乱れて』?」
「ディックだ!」とデイヴィッドが叫んだ。
「元はシェイクスピアだ!」とジョン・クリストファー。
「H・G・ウエルズの短篇」とハリーがもったいをつけていった。
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SFマガジン2018年2月号p.241

 半世紀ぶりに白鹿亭に集まったぼくたち。もう百歳に近いハリーが、あの頃のように語り始める。かつて原子炉で事故が起きて反重力バリアが発生した話をしたが(もちろん読者も覚えている)、今度は核融合炉で事故がおきて時間加速フィールドが発生した話だ。

 バクスターによる『白鹿亭綺譚』(クラーク)の続篇。老齢SFファンたちの同窓会と化したSFコンベンション、みたいなノリになっています。


『マリッジ・サバイバー』(澤村伊智)
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 慣れるしかないらしい。タブレットの使い方を覚え、皆が登録しているSNSに自分も登録し、ネットの話題を必死で追った中学生の頃のように、俺はまた頑張らなければならない。だが可能だろうか。四十を間近に控えた今になって、そこまで順応できるだろうか。
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SFマガジン2018年2月号p.209

 指輪型ウェアブルデバイスにより、夫婦で互いの居場所や体調を常に確認しあう。それは今どき当たり前の習慣となっていた。だが語り手は、妻から常に監視されていることに強いストレスを覚える。時代から取り残されている自分がおかしいのか、それともこの24時間監視社会が狂っているのか。

 SFマガジン2017年6月号掲載の『コンピューターお義母さん』、SFマガジン2017年10月号掲載の『翼の折れた金魚』と同じく、技術の進展により社会問題が露骨に可視化されてゆく不安を描いた作品。


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