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『SFが読みたい! 2017年版』 [読書(SF)]

 今年もやってきました、昨年のベストSF発表。今回も、自分がどれだけ読んでいたか確認してみました。2016年におけるSF読書の結果です。ちなみに、今回から国内篇、海外篇とも上位30冊がリスト化されています。

 国内篇ベスト30のうち読んでいたのは6冊、海外篇ベスト30のうち読んでいたのは8冊。総計して、2016年のベストSF60冊のうち14冊しか読んでいませんでした。ヒット率23パーセント。これは過去最低の成果なので、今年はもう少し真面目にSFしたいと思います。いや、まじでやばい。

 ベストSFまわりの記事以外では、「上田早夕里全作品解題」(渡邉利道)が凄かった。文字通り上田早夕里さんの全作品についての紹介で、これから読もうと思っている方のための読書ガイドとして最適。他に、宮内悠介さんや伊藤典夫さんへのインタビュー記事など。

 恒例のサブジャンル別ベスト10&総括では「クラシックSF」が新設されており、昨年に出版された古典SFの新訳版などの総括が行われています。何しろ、昨年の新刊というのが、エリスン、ティプトリー、ヴァンス、スラデック、バラード、ケイト・ウィルヘルム、ヴァーリィ、コードウェイナー・スミス、ベイリー、ハーバート。『人類補完機構』に『デューン』ですからね。「今は一体何年だよって話ですね」(「SFが読みたい!の早川さん」より)

 あと、表紙の「好きなものに順位をつけるなんてくだらんと思います」にはインパクトがありました。SFマガジン2016年12月号表紙の「それを12月に教えられても!!」に続く自分ツッコミのネタですが、この路線はここまでにしておいた方がいいのではないか。

 参考までに、ベストSF2016のうち私が読んでいた作品について、読了後に書いた紹介をリストアップしておきます。これから読もうかと思っている方に参考になれば幸いです。


2016年10月06日の日記
『夢みる葦笛』(上田早夕里)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-10-06


2016年09月27日の日記
『スペース金融道』(宮内悠介)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-09-27


2016年06月13日の日記
『彼女がエスパーだったころ』(宮内悠介)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-06-13


2016年07月12日の日記
『アステロイド・ツリーの彼方へ 年刊日本SF傑作選』(大森望、日下三蔵:編集)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-07-12


2016年03月31日の日記
『アメリカ最後の実験』(宮内悠介)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-03-31


2017年01月23日の日記
『ヴィジョンズ』(大森望:編集)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-01-23


2016年12月05日の日記
『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』(ピーター・トライアス)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-12-05


2016年02月25日の日記
『叛逆航路』(アン・レッキー)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-02-25


2016年05月17日の日記
『あまたの星、宝冠のごとく』(ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-05-17


2016年02月10日の日記
『ガンメタル・ゴースト』(ガレス・L・パウエル)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-02-10


2016年09月08日の日記
『蒲公英王朝記 巻ノ一 諸王の誉れ』(ケン・リュウ)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-09-08


2016年09月12日の日記
『蒲公英王朝記 巻ノ二 囚われの王狼』(ケン・リュウ)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-09-12


2016年04月21日の日記
『ラグランジュ・ミッション』(ジェイムズ・L・キャンビアス)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-04-21


2016年04月26日の日記
『ロックイン -統合捜査-』(ジョン・スコルジー)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-04-26


2015年12月11日の日記
『世界の誕生日』(アーシュラ・K・ル=グィン)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-12-11



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『ヴィジョンズ』(宮内悠介、円城塔、神林長平、長谷敏司、他、大森望:編集) [読書(SF)]


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 題名の『ヴィジョンズ』は、(中略)ハーラン・エリスン編の伝説的なオリジナル・アンソロジー『危険なヴィジョン』に由来する。(中略)物量ではそれに及ばないものの、本書に作品を寄せてくれた2010年代日本SF代表の精鋭七人も、読者の常識を打ち破る革新的なヴィジョンを提出する。
――――
単行本p.322


 認知や共感の拡張、物語が語られることの意味、人間性の起源、実在と情報の相互交換まで。不穏で刺激的な今日的ヴィジョンを引っさげ、エリスンの『危険なヴィジョン』に挑戦する書き下ろし日本SF短編アンソロジー。単行本(講談社)出版は2016年10月です。


[収録作品]

『星に願いを』(宮部みゆき)
『海の指』(飛浩隆)
『霧界』(木城ゆきと)
『アニマとエーファ』(宮内悠介)
『リアルタイムラジオ』(円城塔)
『あなたがわからない』(神林長平)
『震える犬』(長谷敏司)


『星に願いを』(宮部みゆき)
――――
まともに顔と顔が合う。人間だ。死んだ魚みたいな目玉だけど、人間だ。肩を掴まれ、じっとりと体温が伝わってくる。秋乃は全身を震わせて叫んだ。
「あたしに触らないで!」
 どうして怪物じゃないのよ。みんなみんな嫌な奴なのに、バカで性悪な人間たちばっかりなのに、どうしてそう視えないのよ。
――――
単行本p.43

 地球に不時着した異星生物との共生によって認知能力を拡張された少女。その視覚がとらえた、人間の本質を表したヴィジョンとは。SF極北に吹っ飛ばされる前の準備運動、現代の『20億の針』。


『海の指』(飛浩隆)
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〈海の指〉は、記憶していた過去の地球の建造物を、演奏によって描き出している。
 しかしそのとき、饗津の大地や建物、人々も変容を蒙ってしまうのだ。
〈霧〉の仕切りが取り払われ、饗津の町が灰洋に近い状態に陥り、そこに〈指〉が今まで見たこともないものを奏でる――描き出す。
 これが〈海の指〉だ。
――――
単行本p.73

 地球上のほとんどすべてが灰色の原形質の海「灰洋」に飲み込まれ、純粋な情報に変換され蓄積されてしまった時代。たち込める霧のなかで実在と情報の境界はあいまいになり、ときに情報に変換された古代の事物が実体化する。死んだ人間でさえも……。次々と繰り出される心ひかれる造語とともに驚異的なヴィジョンが繰り広げられる、現代の『ソラリス』。


『霧界』(木城ゆきと)
――――
この場所はあまりにも変だ
子供だってそれぐらいわかる
太陽も星も見えない灰色の空
僕とミカのほかにはなにも動くものがない退屈なところ
でも僕は意外とここが気に入っていた
――――
単行本p.105

 前述の『海の指』(飛浩隆)を原案としたコミック作品。といっても一部の名称やイメージが共通するだけで、ストーリーも登場人物も別。原案における陰惨なDVがほのぼのしたボーイ・ミーツ・ガールになっていたりして、それほど危険じゃないヴィジョン。


『アニマとエーファ』(宮内悠介)
――――
 彼女はなんらかの障害、あるいは業(カルマ)のようなものを抱えていた。
 だからこそ、エーファはぼくのような空っぽの人形を好み、ぼくのような人形の書く空っぽの話を好んだのかもしれない。
 でも、どうあれ――ぼくはなんのためにいるのか、なんの役に立つのかもわからない人形だ。そんなぼくを、十二歳の彼女は必要としてくれた。
 以来、ぼくは彼女のために物語を書くようになった。彼女を笑わせるために。あるいは、彼女の奥底の穴を埋めるために。
 こうして、ぼくたちは互いを映す鏡となった。
 誰よりも緊密で、何よりも空虚な一対の合わせ鏡に。
――――
単行本p.140

 消えゆく言語を守るために物語を書き続ける人形。心のない人形が紡ぎだす物語は、しかし人間の心を動かしてゆく。人が小説を読んで感動するのは、その背後にある心に共感するからなのだろうか。寓話を通して、人工知能が小説を生み出すことの意味を探求する作品。


『リアルタイムラジオ』(円城塔)
――――
僕たちとあなたの間に立っているのは語り手であり、その視点からすると、僕らは語り手という単一エージェントの設定パラメータと区別がつかない。こいつは多分、あなたたちがお話なるものを理解するとき、誰か一人の相手を語り手として想定してしまうという事情から生じる出来事だ。もしもあなたが、一斉に話しかけてくる十人を同時に相手できるのなら、お話と呼ばれるものは全く違った形をしていただろうし、僕もこんな姿をしていなかっただろうと思われる。
――――
単行本p.166

 クロックタイムが流れるこの世界の外側には、リアルタイムと呼ばれる認識不能な領域がある。そしてそこから流れてくるという「リアルタイムラジオ」。それは想像の力によって“データとしては存在してないもの”を感じることが出来る媒体、らしい。仮想空間に存在するデータ構造体を語り手に、様々なアイデアを惜しげもなくぶち込んで目眩を引き起こすしつつ最後は感傷的に泣かせるというこの名人芸、現代の『想像ラジオ』。


『あなたがわからない』(神林長平)
――――
 あなたは他人の心がわからない、とぼくに言うきみは、軽蔑したり非難していたわけではなかった。きみの研究目的は、まさしくぼくのそういう能力を――ぼくにすれば欠陥だったが――すべての人間に与えること、だったのだから、むしろぼくをうらやんで発した言葉だった。
――――
単行本p.194

 共感能力の欠如、他人の気持ちを読み取り適切に反応することが出来ない、つまり「場の空気」を読めない男と、脳神経系を操作することで共感能力を調整する研究を進めている女。二人の愛は、片方が急死したことで断ち切られてしまう。果たして人は他者を愛するのか、自分の心の中にある「他者のイメージ」を愛するのか、という問題に、巧妙なレトリックを駆使して迫ってゆく作品。


『震える犬』(長谷敏司)
――――
時間を過去に戻して原人の社会を取り戻すことはできない。だが、チンパンジーを人類のほうへ寄せてくることならできる。
 それは四百万年の間で何が起こったのか、化石資料では見えないものを探る試みだ。世界の二十もの拠点で、この総合知能研究プロジェクトが行われている。ステフたちコンゴ北東部を含めたアフリカ拠点では、チンパンジーにAR機器を移植し、乳児期にARで高度な知能トレーニングをさせている。チンプの知能を極限まで上げることによって、最初期の原人たちが知能の上昇に伴ってどう人間らしい行動を獲得していったかを探っているのだ。
――――
単行本p.231

 知能の向上が「人間らしい行動様式」を発達させた、という仮説を検証するための研究プロジェクトがコンゴ北東部で進められていた。AR(拡張現実)技術を用いて人為的に知能を向上させたチンパンジーたちの、群れにおける行動の変化を長期観察するのだ。だが現地の政治的な情勢によりプロジェクトは危機に陥る。チンパンジーと人間の行動、「暴力の連鎖と拡大」の起源と現状を対比しつつ、最後まで手に汗握る緊迫した展開が続き、ついにタイトルの意味が判明するラストシーンで泣かされる傑作。収録作品中で個人的に最も感銘を受けた中篇。



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『伊藤典夫翻訳SF傑作選 ボロゴーヴはミムジイ』(ヘンリー・カットナー、フリッツ・ライバー、フレデリック・ポール、他、伊藤典夫:翻訳) [読書(SF)]

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 本書は、そうした若き日の伊藤さんが〈S-Fマガジン〉のために選りすぐって訳した傑作中短篇から、時間・次元テーマを中心に精選したアンソロジーで、伊藤さんの輝かしき功績を顕彰する「伊藤典夫翻訳SF傑作選」の一巻として構想された。また、お気付きの方もいるだろうが、伊藤さん自身が厳選した『冷たい方程式』の続巻の性格も合わせ持つ。
――――
文庫版p.420


 親の理解をこえた存在へと成長してゆく子供たち、同じ一日を永遠に繰り返す街、世界全体の時間逆行、場所によって時間の流れが極端に異なる世界、露出度の高い美女vs緑色の巨大アメーバなど、40年代から60年代にかけて書かれ伊藤典夫さんが翻訳したSF短篇傑作選。文庫版(早川書房)出版は2016年11月、Kindle版配信は2017年3月です。


[収録作品]

『ボロゴーヴはミムジイ』(ルイス・パジェット)
『子どもの部屋』(レイモンド・F.ジョーンズ)
『虚影の街』(フレデリック・ポール)
『ハッピー・エンド』(ヘンリー・カットナー)
『若くならない男(フリッツ・ライバー)』
『旅人の憩い』(デイヴィッド・I.マッスン)
『思考の谺』(ジョン・ブラナー)


『ボロゴーヴはミムジイ』(ルイス・パジェット)
――――
 人間本位の見かたをすれば、パラダインのまちがいは、そのおもちゃを即座に捨ててしまわなかったことにあった。彼はその意味に気づかず、気づいたときには、状況はかなりのところまで進んでいた。
――――
文庫版p.30

 未来人がタイムマシンの実験でうっかり過去に送った知育玩具。それを拾った幼い兄妹は、遊んでいるうちに親の理解をこえた高次元認識力を持つ超人へと成長してゆく……。

 「子供が“大人には見えない友だち”に感化され、人間には入れない異世界へと連れ去られてしまう」というホラー作品によくあるプロットのSF版ですが、最後の最後にタイトルの意味が判明するあたりの仕掛けに感心させられます。著者はヘンリー・カットナーの別名義。


『子どもの部屋』(レイモンド・F.ジョーンズ)
――――
「これを、おまえはどう考える? 本筋のほかに象徴的な物語のあるのがわかるか?」
「うん。ぼくらが、普通の人とは違うといってるんだよ。この先を読めば、ほかの仲間がいるところへ行く方法がわかるんだ。そうじゃなかったら、読めないはずなんだ。パパが読めるとわかったときは嬉しかったよ。同じ仲間なんだもの」
――――
文庫版p.86

 たわいない子供向きの本に隠された情報に気づいた父親。特定の能力を持つ者だけが読み取れるその隠れメッセージによって、幼い息子は「仲間たち」からの連絡を受けとっていたのだ。やがて彼らから「人類の存亡をかけた戦いのために息子の力が必要」と告げられるのだが……。

 友だち少ないSF少年にとって「自分は選ばれた能力者で、いつか仲間に出会って大きな使命に目覚め、このつまらない世界から抜け出して活躍することになるんだ」というのは共通信念。それを親の視点から描いた作品で、『幼年期の終わり』(アーサー・C・クラーク)を連想させるところがあります。


『虚影の街』(フレデリック・ポール)
――――
「だろうとも。そして目を覚ましたときには、朝だった。きみは、おもしろいものを見せてやろうといいだした。そして、ぼくといっしょに外へ出ると、新聞を買ったんだ。日付は、六月十五日となっていた」
「六月十五日? だが、それは今日じゃないか! その、つまり――」
「そうだよ。いつも、今日なんだ!」
 呑みこむには時間がかかった。
――――
文庫版p.170

 たまたま地下室で眠り込んでしまい、翌朝目覚めた語り手は、今日も昨日と同じ日であることに気づく。この街の住人は、毎晩寝ている間に記憶を消去され、同じ六月十五日を毎日毎日くり返しているらしい。だが、誰が、何の目的で、こんな大掛かりな陰謀を進めているのか。

 いわゆる時間ループものですが、物理的な現象ではなく、人為的な記憶リセットによる社会的ループを扱っています。真相が分かったと思って油断していると、最後の最後にとんでもない設定が明かされ、堂々たる馬鹿SFであることが判明するという……。


『ハッピー・エンド』(ヘンリー・カットナー)
――――
 おれがほしいのは、と彼は思った。健康と名声と富だ。それが手にはいったら身を固め、気苦労も心配も忘れて、一生を幸福に暮らすんだ。ハッピー・エンドさ。
――――
文庫版p.222

 未来からやってきたロボット(猫型ではありません)から渡された「解決ボタン」。それは、何かトラブルに巻き込まれたときに押すと、未来人の心を読み取って解決策を知ることが出来るという便利なひみつ道具。しかしそのために、未来から送り込まれてきた刺客アンドロイドに追いかけ回されることに。

 冒頭に「語り手は大金を手に入れて一生を幸福に暮らしました」というハッピー・エンドを明示してしまうという大胆な構成。それじゃあサスペンスが台無しだろう、と思いつつ最後まで読んで、この仕掛けによって思考誘導されていたことに気づくという、読者をひっかける手口が冴えた作品。またもやヘンリー・カットナー。


『若くならない男(フリッツ・ライバー)』
――――
 わたしたちの人生はすべて忘却と収束から成っている。子どもが母親に吸いこまれるように、偉大な思想も天才の心にのみこまれてゆく。はじめ、それはいたるところにある。空気のようにわたしたちを包んでいる。つぎに、それは狭まりはじめる。知る人の数が減る。やがて、ひとりの大人物が現われ、それを自分の中にとりこみ、秘密にしてしまう。あとには、なにか価値あるものが失われたという、いらだたしい確信が残るだけ。
(中略)
 わたしたちのすることも、みなこれと同じだ。住まいは新しくなり、わたしたちはそれを解体し、材料を石切り場や鉱山に、森や畑にこっそりしまいこむ。衣服は新しくなり、わたしたちはそれを脱ぎ捨てる。わたしたち自身も若くなり、忘れ、盲いた目で母をさがし求める。
――――
文庫版p.244

 時間は巻き戻り、歴史は反転し、文明は次々と消えてゆく。人々は、墓から掘り起こされることで生まれ、どんどん若くなり、やがて赤ん坊に戻って母親に吸収されて一生を終える。だが、語り手だけは例外。若くならないまま、何千年も生き続け、文明の痕跡が消えてゆく歴史を目撃し続けるのだった。

 時間反転ものの嚆矢とされる短篇だそうで、ストレートな表現が素朴な感動を呼びます。個人的に、『旅人の憩い』(デイヴィッド・I・マッスン)の次に気に入った作品。


『旅人の憩い』(デイヴィッド・I・マッスン)
――――
〈敵〉を見たものはいない。〈戦争〉が、いつ、どのように始まったか知るものもない。情報や通信は、意味をなさないほど困難なのだ。〈境界〉附近とそのかなたで、〈時間〉がどうなっているのか、だれひとり知るものはない。
――――
文庫版p.280

 〈境界〉に近づくほど時間集束が激しくなり、離れれば時間の流れがゆるやかになる世界。〈境界〉をはさんで激しい戦争が続いており、銃後の土地で数十年も生活している間に、前線ではわずか数分しか時間が経過しないのだ。敵の総攻撃が迫るなか、突如退役させられた語り手は、時間傾斜を下って麓の町で民間人として暮らすことになったが……。

 「場所によって時間が流れる速度が極端に異なる世界」というSFアイデアを軸に、前線と銃後の意識乖離を重ねた作品。文章そのものの密度や緊迫感に差をつけることで時間集束の効果を表現してのけるなど非常にスタイリッシュ。ラストの風刺にも強烈なものがあり、本書収録作品中で個人的に最もお気に入り。


『思考の谺』(ジョン・ブラナー)
――――
 ほかに雑誌が一冊、首をかしげながら、彼女はそれをとりあげ、眉根を寄せてそのけばけばしい表紙を見つめた。SF雑誌だ。だから、目をさましたとき、不死鳥反応のことを思いだしたのだ――その現象の解説がなかにのっている。
 いったい、どうしてこんなものに金をつかったのだろう? 二シリングもの大金を!
――――
文庫版p.292

 スラム街の安アパートで記憶の混乱に苦しむ女。なぜか自分のものではないはずの記憶がフラッシュバックしてくるのだ。しかもその記憶は、どう考えても地球ではない惑星で人間ではない生物が体験したものとしか考えられない。なぜそんな記憶が自分の中にあるのか。理由が分からないまま、彼女は謎の追手から逃げることになるが……。

 露出度が高い美女と緑色の巨大アメーバが出てくる古めかしいパルプSFプロット、その伝統に忠実な中篇。パロディ? 風刺? いや本気です。



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『SFマガジン2017年2月号 ディストピアSF特集』 [読書(SF)]

 隔月刊SFマガジン2017年2月号には、ディストピアSF特集として、監視社会、排外主義、ブラック企業など現代的テーマを扱った翻訳短編が掲載されました。また17年ぶりの「博物館惑星」新シリーズ第一話、「製造人間ウトセラ」と「裏世界ピクニック」それぞれの最新作も掲載されました。


『セキュリティ・チェック』(韓松、幹遙子:翻訳)
――――
この国はいまだに安心できないのだ。安心と不安――このふたつの概念は異なる場合も多々あるが、まったく同じである場合もしばしばだ。
 これは恐怖と恐怖が戦っているのだと、ホフマンはわたしに言う。セキュリティ・チェックシステムによって生み出された恐怖のほうがはるかに恐ろしく、ほかの恐怖をすべて打ち砕くほど強力だ。そしてわれわれは自由という対価を支払う。
――――
SFマガジン2017年2月号p.60

 テロへの恐怖にとりつかれパラノイアに陥った米国。安心を求め自己分解再構成を繰り返しつつ消滅してゆく米国と、それを冷やかに観測する中国。監視社会の息苦しさを描く、いかにもなディストピア小説から、途方もない方向に飛躍してゆく中華SF。


『力の経済』(セス・ディキンスン、金子浩:翻訳)
――――
「ひどいもんだ」レイドは草に唾を吐いた。「無差別処刑なんて言語道断だよ」
「無差別じゃないわ」アポナはつぶやいた。「ただ……複雑なのよ。分散型なの」
「市場みたいにか」レイドはそう言って、モノリスを積み重ねたような立会場を、理解しているふりをしていた確率論的ベクター染色体予想機を思いだした。だれにも市場をコントロールできないのは、だれにも市場を理解できないからだ。
――――
SFマガジン2017年2月号p.74

 自律型ドローンの人工知能ネットワークは、独自の判断で異質な者を殲滅する。誰にも理解も予想もできない分散型アルゴリズムが人を殺し続ける、「公平」で「安心」な社会。複雑すぎて理解できないまま自動運転している市場、金融、安全保証に対する不安をえぐる短編。


『新入りは定時に帰れない』(デイヴィッド・エリック・ネルスン、鈴木潤:翻訳)
――――
「この世で最低の仕事だ」ディークはうなるような声で言うと、両手を組んで顔をうずめた。
「どうかな」ぼくは嘘をついた。「もっと最低の仕事に就いたこともあるから」その日までは本当のことだった
――――
SFマガジン2017年2月号p.100

 タイムマシンで過去の時代から労働者を連れてして搾取する、この画期的なイノベーションで人件費を削減している工場。そこで働いている新人受け入れ担当者。だがあるとき、強制収容所から痩せ衰えたユダヤ人の子供たちが送り込まれてきたことで、彼は自分の仕事に疑問を持つ。児童労働ってまずいんじゃなかったっけか。いや、そもそもまずいのはそこじゃないだろ。強烈なブラックユーモア短編。


『博物館惑星2・ルーキー 第一話「黒い四角形」』(菅浩江)
――――
 芸術の楽園において、人々の安全を守るというのはとても簡単でとてもむつかしい。
――――
SFマガジン2017年2月号p.236

 既知宇宙のあらゆる芸術と美を集めた小惑星、地球-月のラグランジュ5ポイントに置かれた博物館惑星〈アフロディーテ〉。新たに赴任してきた若き警備担当者が遭遇した最初の事件は、ここで守るべきものが何であるのかを教えてくれた。『永遠の森』から17年、次世代の職員たちの仕事をえがく新シリーズ開幕。


『裏世界ピクニック ステーション・フェブラリー』(宮澤伊織)
――――
 正直に言うと、私はちょっと感動していた。そんな場合じゃないことはわかってるんだけど、ある種の聖地巡礼みたいな感覚というか……。くねくねや八尺様との遭遇とはわけが違う。あれらは確かにネットロアで語られる怪異に酷似してはいたものの、向こうから名乗ってきたわけじゃない。でもこれは違う。なんと言ってもちゃんと「きさらぎ」って書かれてる。存在しないはずの駅が、ほんとにあったんだ! という感慨に襲われてしまうのも無理はないだろう。
――――
SFマガジン2017年2月号p.322

 東京から歩いてゆける「ゾーン」こと裏世界。2ちゃん発ネットロア妖怪「くねくね」と「八尺様」を倒し、〈見る〉力と〈触れる〉力を手に入れた〈第四種接触者〉の二人は、今度は夜の裏世界に迷い込んでしまう。化け物に襲われて線路沿いに逃げる二人の前に現れた謎の無人駅、それは……。海兵隊の激しい戦闘シーンなども登場し、『神々の歩法』に近づいてゆくような気がしてならない第三話。連載はこれで終了し、書き下ろしエピソードを加えて2017年2月下旬に単行本化されるそうです。ラスボスはやはり「ニンゲン」なのかなあ。



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『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』(ピーター・トライアス、中原尚哉:翻訳) [読書(SF)]


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「だれでもだれかを失ってるよ。でも戦争が終わってアメリカが負けたという事実に変わりはないんだ」
「戦争ははじまったばかりさ。黙って死を受けいれるつもりはない」
(中略)
「時間が解決するわ。凶暴な殺し屋だって、平和が続けばきっと変わる」
「どんなふうに?」
――――
新書版p.32、33


 枢軸側の勝利による第二次世界大戦の終結から40年後。日本合衆国「USJ」となった旧アメリカは、国民に天皇崇拝を強制し過酷な言論弾圧を行っていた。悪名たかい特別高等警察(特高)の職員である昭子は、「アメリカが第二次世界大戦に勝利した世界」という設定の国賊的ゲームを取り締まるべく、検閲局員のベンと共に、開発者の行方を追っていたが……。21世紀の『高い城の男』(P.K.ディック)として書かれた歴史改変SF。文庫版(上下巻)および新書版(早川書房)出版は2016年10月、Kindle版配信は2016年10月です。


――――
 本書『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』は、改変歴史SFとしても、巨大ロボットアクションとしても、スリリングな謀略サスペンスとしても、ジャパネスク風味のポストサイバーパンクSFとしても、『一九八四年』的な監視社会を描くディストピア小説としても、極限状況を浮き彫りにする戦争文学としても、胸を打つ人間ドラマとしてもすばらしい。年間ベスト級どころか、このさき長く読み継がれる小説になるだろう。
――――
新書版p.367


 カバーイラストを見て「インチキ日本を舞台にした巨大ロボット戦闘アクション小説」を期待して読むと、肩すかしを食らうでしょう。どちらかと言えば、グロテスクな悪夢的ディストピアを舞台に展開するバディもの、という側面が強い作品です。

 物語の中心となるのは、検閲局に勤めるベン(紅巧)と特高課員である昭子。二人はある捜査のために手を組みます。しかし、かたくなな態度を崩さない昭子と、マイペースなベンとでは、どうにも相性が悪くて。


――――
「ねえ、こうしようよ。お昼休みは仕事を忘れる」
「なぜだ」
「しばしの休息はだれだって必要さ」
「皇国の敵は休まない。われわれにも休息はない」
(中略)
「僕が非協力的だったらきみは撃つだろう」
「国賊であればすべて撃つ」
――――
新書版p.78、97


――――
「陛下を裏切るくらいなら潔く死ぬ」
「きみが死んでも皇国の利益にはならないよ」
「貴様は生きていてすら皇国の利益にならん」
「僕は皇国一の忠士だ」
(中略)
 昭子は憤慨した。
「貴様は上司から厄介者とみなされているんだぞ。仕事に無頓着だと。同僚からも多くの指摘が寄せられている。仕事が遅い、欠勤が多い、勤務態度が不適切」
「職業倫理に欠けることは否定しないよ。遊ぶほうが好きだということも」
「無能力は極刑に値する罪だ」
――――
新書版p.144、145


 読んでいて声が聞こえてくる、声優の見当さえつく、ような感じです。

 まあバディものなので、何者かに命を狙われたり、当局から反逆の疑いをかけられて追われるはめになったりするうちに、次第に互いの力量を認めあってゆく二人。

 そしてUSJが持つ非人道的でおぞましい側面を目の当たりにして、それまで狂信的愛国者として振る舞っていた昭子の言動も少しずつ変化してゆきます。


――――
「なぜそんなことをするんだ」
「世の中の厄介事はすべて退屈が原因なんだよ」
「根絶すべき皇国の敵は多いな。あたしは退屈など理解できん」
「だれもが強い大義を持って生きているわけじゃないんだよ」
「落胆しないのか?」
「僕が?」
「貴様たち軍人はサンディエゴで多くの血を流したのに、生き残った者たちがつくった世界はこれだぞ」
「そんなふうに考えたことはなかったな」
「USJをもっといい国にしなくてはならん」
 皮肉かと思ってベンは曖昧に笑ったが、昭子の表情は真剣だった。
――――
新書版p.240、


 しかし、特高、反乱組織、ヤクザ、もう誰も彼もが敵に回って、二人はさんざん酷い目に合うはめになります。ばんばん拷問されるし。全体的に猟奇的悪夢感が強く、残虐で非道な場面も多いので、苦手な方は注意した方がよいかも知れません。

 「メカ」と呼ばれる巨大ロボット兵器が登場しますが、活躍するシーンは少なめ。ただ、「ナチスのバイオメカ戦車との肉弾戦」とか、「皇国軍のエースパイロット率いる八機の精鋭メカ部隊に包囲され、たった一機で大立ち回り」とか、燃えるシチュエーションを狙ってくるのが憎いところ。


――――
「どないしてほしい、おっさん?」久地樂は口のなかをいっぱいにしたまま訊いた。
「第十五というと、たしか小笠原知事の直属大隊だね」ベンは言った。
「伊東の名は聞いたことがある。最強の一人といわれる女性メカパイロットだ」昭子が言った。
「その看板に偽りがないか、もうすぐわかるで」久地樂は言った。
「どんな選択肢がある?」ベンは久地樂に訊いた。
「戦うか、逃げるか。まあ実質、選択肢はないな。逃げようてしてもやられる」
「しかしメカ八機を相手にはできないだろう」
「ベルト締めとき」
――――
新書版p.307


 戦前戦中の暗い世相、そこに混入されたトンデモニッポンやアニメニッポン、いやますディストピア感。ディックの『高い城の男』とはかなり雰囲気が違う、というかまったく別の作品という印象なので、“原典”を未読の方が読んでも大丈夫です。



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