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『超動く家にて 宮内悠介短編集』(宮内悠介) [読書(SF)]

『解説』(酉島伝法)より
――――
 そういった盆倉純度の高いものが短編小説としても書かれ、デビューから現在に到るまでの間に隙あらばと送り出されてきた。それらをまとめ、軌道上を漂っていた「星間野球」で蓋をしたのが、この『超動く家にて』――俗称、宮内悠介バカSF短編集である。本書担当編集者どうしで、どの作品が最もバカなのかが議論になったという。たぶん、あとがきじゃないだろうか。ともかく、ようやくこの短編集を手にとって読めるという喜びと共に、ほっとした気持ちがある。
――――
単行本p.325


 トラ技の圧縮大会から宇宙の野球盤まで、いい歳した大人が大真面目、真剣勝負。ジャンルのお約束事を突き詰めたらこうなった困惑小説。人気作家の文体パロディ。ジャンルをこえ多方面で注目されている作家による、脱力ミステリ馬鹿SF短篇集。単行本(東京創元社)出版は2018年2月、Kindle版配信は2018年2月です。


――――
 はじめての本である『盤上の夜』が、ほぼまとまった時期のことだ。『盤上の夜』はというと、著者がシリアスすぎて、なんか変なことになった短編集。このままでは、洒落や冗談の通じないやつだと思われてしまわないだろうか。
 いま振り返ると「なぜそんなことで」と思うけれど、とにかく当時のぼくには深刻な悩みだった。
 深刻に、ぼくはくだらない話を書く必要に迫られていた。
(中略)
 楽しんでいただけたなら嬉しいし、失望されたかたには、こればかりは申し訳ありませんと頭を下げるよりない。しかし馬鹿をやるというのはぼくにとって宿痾のようなもので、もはや自分でどうにかできるものでないことも確かなのだ。
――――
単行本p.313、322


 あまりにも不真面目なことを生真面目に書く。あちこちに紛れ込ませるように発表された笑わせ短編を16本収録した短篇集です。


[収録作品]

『トランジスタ技術の圧縮』
『文学部のこと』
『アニマとエーファ』
『今日泥棒』
『エターナル・レガシー』
『超動く家にて』
『夜間飛行』
『弥生の鯨』
『法則』
『ゲーマーズ・ゴースト』
『犬か猫か?』
『スモーク・オン・ザ・ウォーター』
『エラリー・クイーン数』
『かぎ括弧のようなもの』
『クローム再襲撃』
『星間野球』


『トランジスタ技術の圧縮』
――――
「弟子なら断わっている。……もう、すべては終わったのだ」
 にべもない対応だが、梶原とて二日がかりでこの場所に来たのだ。簡単にひきさがるわけにもいかない。梶原は訴えた。幼いころ、アイロンの魔力に魅入られたこと。
 伝統を守りたい気持ちから、真剣に弟子入りを考えていること。
「御主は、実際にトラ技を圧縮したことがあるのか」
「それは……」おのずと言葉に詰まった。
 ない。
 それが現実なのだ。
「『月刊アスキー』なら――」
「帰るがよい」
――――
単行本p.9

 あまりにも分厚く、しかも広告ページが多いため、買ってきたらとりあえずバラして広告を抜いて厚さを「圧縮」してから本棚に並べるという雑誌「トランジスタ技術」。そのトラ技圧縮技術を競う大会にすべてを賭けた男たちの熱き闘い。いや本当にそういう話なんだってば。


『エターナル・レガシー』
――――
 現役だと主張する男の目からは、けれども一抹の懐かしむような光が感じられた。だからだろうか、ぼくがこの胡散臭い親爺を部屋にまで入れてしまったのは。
 いや、胸の奥ではわかっていた。
 誇らしげに過去を語る男が、しかし本当は自分自身を“終わったもの”と見なしていること。そして、ぼくが男に自分を重ねあわせていることに。部屋に来てからも、男は自分のこれまでの実績をいやというほど並べ立てた。
 そして名を訊ねてみると、
「俺か。俺はZ80だ」
 どうだとばかりに、男は自分の胸を指さすのだった。
「こう見えて、宇宙にだって行ったことがあるんだぜ」
――――
単行本p.98

 人間が囲碁ソフトに負ける時代、自分はレガシーに過ぎないのだろうか。悩める囲碁棋士が出会った不思議な男は「俺はZ80」と名乗る。念のため云っておきますが往年の8ビットマイコンの名前です。レガシー同士の奇妙な連帯感。だが語り手の恋人は、男に向かって「身の程をわきまえること。だいたい何、Z80って。乗算もできない分際で」などと辛辣なことを言うのだった。気の毒なZ80。MSXだって現役で頑張ってるのに……。


『超動く家にて』
――――
もっとも「犯人当て」として見るなら、別に玄関がなくても困りはしない道理で、むしろないほうが好都合だともいえる。
 それより確認したいことは別にある。
「この家なんだけど」
「何か?」
「回ったりしないような?」
「いや、回るけど」
 ルルウが当然と言わんばかりに答えた。
――――
単行本p.113

 まず建物には出入り口がない。あとトリックを成立させるために回転している。
「一ページに一つ叙述トリックを仕込むことを目標とし、本文はすぐに仕上がったものの、図を作るのに数日かかり、後悔した」(単行本p.317)という、とにかくありがちな叙述トリックを詰め込んで新本格をおちょくる脱力ミステリ馬鹿SFの代表作。


『夜間飛行』
――――
「……連続飛行が四時間をオーバーしてる。そろそろ戻れる?」
「ああ」
「あと、時間外労働が六十時間を超えてる。もっと自分を愛してあげて」
「それは余計なお世話だ」
「まあね。でも、パイロットの状態管理はアシスタント・インテリジェンスの役目」
「見た目はまるっきりカーナビだけどな」
「で、なんだっけ、近くのコンビニ?」
「違うよ!」
「急激な情動の変化を検出」
「うるさいよ!」
――――
単行本p.137

 戦闘機のパイロットとアシスタントAI(美人ボイス)の漫才のような会話。ゲームなどでお馴染みの設定を使ったコメディ作品。意外にきちんとしたショートショートになっていて、その生真面目さに驚かされます。


『ゲーマーズ・ゴースト』
――――
 思うに人間、企画力とか営業力とかがあるように、駆け落ち力というやつがあるのだ。外部からの圧力にもめげず、わが道を通し、駆け落ちをなしとげる力。ね。これだよ。そこんところを、俺とナナさんは端から欠いているのだ。たぶん、愛があればいいとかそういうことではない。俺は俺で、ついつい、もったいないとか、行き先で足があったら便利だろうなとか、そんな浅知恵でもってライトバンなどを選択してしまう。そこにナナさんが、まるで犬猫でも拾うみたいにおかしな連中を拾ってくる。俺とナナさんは、こう、駆け落ちという目前のターゲットに専念できるタイプではなかったんだ。
――――
単行本p.181

 駆け落ちして追われる二人。そこに何やらヤバい事件に巻き込まれて逃亡中の変な外国人や高価な楽器を盗んで逃亡中の演奏家が合流。それぞれの事情で追われる四人は、よく分からないまま逃走を続ける。俺たちに明日はない。軽妙な会話でぐいぐい読ませるロードムービー調の作品。


『星間野球』
――――
 ふう、とマイケルがため息をつくとレバーから手を放した。
「いいのかい。こんなゲームに、おれたちの命運を賭けちまって」
「そっちが言い出したんだ。それに、どのみちここまで来ちまったんだ」
「いいんだな」
 立ち通しで、二人の体力も限界に近づいていた。しかし一瞬のタイミングが勝敗を分けるゲームである。二人とも椅子にはつかず、真剣な面持ちで中腰に盤面を見下ろしていた。
「投げてくれ」
 杉村の返答を受けて、マイケルがふたたびレバーに手をあてた。もう遊び球は投げないだろう。全力で投げるだけ。杉村も、全力でスイングするだけだ。
――――
単行本p.281

 地球を周回する宇宙ステーションの中で、いい歳したおっさん二人がムキになって野球盤で真剣勝負。カーブだ、シュートだ、消える魔球だ。イカサマは騙された方が悪い。もともとデビュー短篇集『盤上の夜』の最後を飾る予定だったという(マジか)、抱腹絶倒ながら意外にもプロットがしっかりしていて楽しめる作品。



タグ:宮内悠介
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『SFマガジン2018年4月号 ベスト・オブ・ベスト2017、「BEATLESS」&長谷敏司特集』 [読書(SF)]

 隔月刊SFマガジン2018年4月号の特集は、『SFが読みたい! 2018年版』の「ベストSF2017」上位に選ばれた作家たちの作品特集「ベスト・オブ・ベスト2017」、そして「「BEATLESS」&長谷敏司特集」でした。



『9と11のあいだ』(アダム・ロバーツ、内田昌之)
――――
「ETが転進中」モーディが声をあげた。「スクープの収穫物を燃料にして本艦へむかってくるわ。ワープを再起動できなかった場合、接触するまでの残り時間は……」彼女はふいに口をつぐみ、困惑をあらわにした。「計算によれば時間は……」
 それはわれわれが生きていられる時間と等しいので、わたしはどうしても数値を知りたかった。
「まあ、9分かな」モーディは言った。「9と11のあいだ」
――――
SFマガジン2018年4月号p.27

 敵性エイリアン戦艦から受けた謎の攻撃。コンピュータは誤動作し、人間もAIもおかしくなる。はたして攻撃により“破壊”されたのは何だったのか。軽快なスペースオペラ、と思わせておいて、いきなり馬鹿SFへの鮮やかな転進。


『魔術師』(小川哲)
――――
「竹村理道は天才だよ。マジシャン史上、最大の天才。こんな仕掛けを思いついて、かつそれを実行するなんて、天才かつ狂ってないと無理。もし彼が天才じゃないのなら……」
「のなら?」
 その次の姉の言葉を、僕は死ぬまで忘れないだろう。
「タイムマシンが本物だった。ただそれだけ」
――――
SFマガジン2018年4月号p.41

 落ちぶれた天才マジシャンが仕掛けた最後のステージ。それは、タイムマシンの実演だった。時間遡及、それは何らかのトリックなのか、それとも本物なのか。


『邪魔にもならない』(赤野工作)
――――
 RTAでは、現実の全てがゲームプレイの一部とみなされる。「競技」と名のつくおおよその行為に、自己都合による中断が許されていないのと同様に。ゲームの最中に体調が悪くなれば、無論、それはプレイヤーの責任となる。RTAでは、ゲーム中の体調管理もゲームプレイの一部だからだ。(中略)
 RTAは命懸けの行為である。少なくとも、それに真剣に臨んでいる人間たちからすれば。
――――
SFマガジン2018年4月号p.49

 ファミンコンソフト『スペランカー』のクリア時間短縮に命がけで挑み続ける老人。その姿、僕たちの未来としか思えない。


『宇宙ラーメン重油味』(柞刈湯葉)
――――
 どうやら彼は課長に話しかけているのではなく、心の叫びが内蔵袋につながった神経系に漏れ出しているようだった。その証拠に最後のほうで、
「ふん、地球人にしては食えるものを出すじゃないか」
 という明瞭な声が聞こえてきた。
「まさかこんなところで地球特産の重油が飲めるなんて」
 と、課長も心から満足そうにしていた。
――――
SFマガジン2018年4月号p.67

 太陽系外縁天体群の小惑星「ヤタイ」、そこに「ラーメン青星」が出店。ポリシーは「消化管があるやつは全員客」。あそこはどんな異星人にもそれぞれの代謝に合わせて美味しいラーメンを出す、という評判を聞きつけた客が集まってくるのだった。脱力のB級グルメSF。


『1カップの世界』(長谷敏司)
――――
「わたしが狂っているのではないわ。きっとね、……正気というものが、ほんの少しだけズレてしまったのよ。だから、わたしは、この世界をしあわせにはしない」
 笑ってしまった。涙ににじむ視界が揺れた。どうしようもない孤独が、自分が今生きていることを激しく感じさせていた。
 AIたちの能力は人類を超えている。だから、アナログハックで、いつかエリカのことも誘導できるようになるかもしれない。
 それでも、痛快だった。
――――
SFマガジン2018年4月号p.91

 『BEATLESS』スピンオフ短篇。高度AI、アナログハック、そして冷凍睡眠から覚醒してたった一人で22世紀に放り出されたエリカ・バロウズの物語。
 ちなみに『BEATLESS』単行本の紹介はこちら。

  2012年12月21日の日記
  『BEATLESS』(長谷敏司)
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2012-12-21


『骨のカンテレを抱いて』(エンミ・イタランタ、古市真由美訳)
――――
 夜深く、眠りの蜘蛛の網に沈み込んでいきながら、わたしは時折、体の中に谺を聞く。この世ならざる世界の音色、互いに結びあわされた旋律が、ありえたかもしれない光景を目の前に描きだす。けれど映像は曙の光に掻き消される。朝はこの現実のため、ペンと五線紙のためのもの。物語のためのもの、ある物語は生きながらえるべく、ある物語は消える運命のもとに生みだされる。
――――
SFマガジン2018年4月号p.115

 音楽によって魔物を退治する仕事をしているヨハン・Sのもとに、隣人の奇行に悩まされている依頼人がやって来る。フィンランドの作曲家シベリウスとフィンランドの民族楽器カンテレが活躍する、いかにもフィンランドの作家らしい作品。


『博物館惑星2・ルーキー 第二話「お開きはまだ」』(菅浩江)
――――
 触覚、圧覚、温覚、冷覚、痛覚。メルケル触板、マイスナー小体、ルフィニ小体、パチーニ小体、自由神経終末。どんなものが、どんなところに、どんな色で、どんな動きで。それこそ産毛だけを撫でられるかのような言語化できない気配まで、アイリスは腕が受け止める感覚を脳内で画像として再構築する。
――――
SFマガジン2018年4月号p.329

 既知宇宙のあらゆる芸術と美を集めた小惑星、地球-月のラグランジュ5ポイントに置かれた博物館惑星〈アフロディーテ〉で、新作ミュージカルが公開されることになった。そこに出席する予定のミュージカル評論家に脅迫状が届く。視覚情報をすべて触覚に変換して細部まで子細に「視る」ことが出来る盲目の評論家は、その辛口評論ゆえに敵も多い。若き警備担当者である主人公は、彼女の警備という任務に就いたが……。『永遠の森』の次世代をえがく新シリーズ第二話。



タグ:SFマガジン
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『SFが読みたい! 2018年版』 [読書(SF)]

 今年もやってきました、昨年のベストSF発表。自分がどれだけ読んでいたか確認してみました。2017年におけるSF読書の結果です。

 国内篇ベスト30のうち読んでいたのは7冊、海外篇ベスト30のうち読んでいたのは6冊。総計して、2017年のベストSF60冊のうち、13冊しか読んでいませんでした。ヒット率22パーセント、過去最低記録を着々と更新中。パトラッシュ、僕はもう疲れたよ……。

 参考までにベストSF2017のうち私が読んでいた作品について、読了後に書いた紹介をリストアップしておきます。これから読もうかと思っている方に参考になれば幸いです。


2017年11月06日の日記
『公正的戦闘規範』(藤井太洋)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-11-06


2017年06月06日の日記
『あとは野となれ大和撫子』(宮内悠介)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-06-06


2017年03月23日の日記
『裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル』(宮澤伊織)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-03-23


2017年10月26日の日記
『機龍警察 狼眼殺手』(月村了衛)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-10-26


2017年08月30日の日記
『行き先は特異点 年刊日本SF傑作選』(大森望、日下三蔵、藤井太洋、宮内悠介、上田早夕里)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-08-30


2017年02月21日の日記
『AIと人類は共存できるか?』(早瀬耕、藤井太洋、長谷敏司、吉上亮、倉田タカシ、人工知能学会:編集 )
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-02-21


2017年01月26日の日記
『カブールの園』(宮内悠介)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-01-26


2017年09月06日の日記
『母の記憶に』(ケン・リュウ、古沢嘉通・幹遙子・市田泉:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-09-06


2017年09月28日の日記
『時間のないホテル』(ウィル・ワイルズ、茂木健:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-09-28


2018年02月01日の日記
『猫は宇宙で丸くなる 猫SF傑作選』(中村融:編集・翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2018-02-01


2018年01月11日の日記
『J・G・バラード短編全集3 終着の浜辺』(J.G.バラード、柳下毅一郎:監修、浅倉久志他:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2018-01-11


2017年01月17日の日記
『伊藤典夫翻訳SF傑作選 ボロゴーヴはミムジイ』(ヘンリー・カットナー、フリッツ・ライバー、フレデリック・ポール、他、伊藤典夫:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-01-17


2017年07月26日の日記
『ピンポン』(パク・ミンギュ、斎藤真理子:翻訳)
http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-07-26



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『猫は宇宙で丸くなる 猫SF傑作選』(中村融:編集・翻訳) [読書(SF)]

――――
 ここにお届けするのは、猫にまつわるSFとファンタジーを集めた日本オリジナル編集のアンソロジーである。とはいえ、「猫にまつわるSFとファンタジー傑作選」では長すぎるので、副題には「猫SF傑作選」と銘打った。
――――
文庫版p.432


 マシュマロを焼く猫、人語を話す猫、宇宙戦艦に猫パンチかます猫、人間を出し抜こうと画策する猫。地上で、宇宙で、それぞれに魅力的な猫が活躍するSFとファンタジーの海外短篇を10篇収録した傑作アンソロジー。文庫版(竹書房)出版は2017年9月です。


[収録作品]

『パフ』(ジェフリー・D・コイストラ)
『ピネロピへの贈りもの』(ロバート・F・ヤング)
『ベンジャミンの治癒』(デニス・ダンヴァーズ)
『化身』(ナンシー・スプリンガー)
『ヘリックス・ザ・キャット』(シオドア・スタージョン)
『宇宙に猫パンチ』(ジョディ・リン・ナイ)
『共謀者たち』(ジェイムス・ホワイト)
『チックタックとわたし』(ジェイムズ・H・シュミッツ)
『猫の世界は灰色』(アンドレ・ノートン)
『影の船』(フリッツ・ライバー)


『パフ』(ジェフリー・D・コイストラ)
――――
 夏がすぎ、娘は目に見えて成長をつづけたが、パフは違っていた。いつ見ても永遠の子猫のままで、四六時中跳ねまわり、なにを見ても大喜びで、それはいかにも子猫らしかった。
 生物工学的に加えられた差異以外にも、パフにはひどく特別な点がある、とわたしがはじめて気づいたのは、彼がマシュマロを焼いているところに出くわしたときである。
――――
文庫版p.15

 成猫にならないよう遺伝子操作された子猫。だが生涯で最も学習能力の高い年齢のまま何年も生きている子猫は、制約なしに学習を続け、ひたすら知能を向上させてゆく。子猫がマシュマロを焼いているのを見たとき、語り手はそれが意味する危険性に気づいたが……。人為的に知能を向上させられた猫による復讐譚。ややホラーテイストであるにも関わらず、賢い猫がすごく可愛い。


『ベンジャミンの治癒』(デニス・ダンヴァーズ)
――――
 なぜベンが生き返り、そして生きつづけているのか、ぼくは知らない。手掛かりひとつない。それに答えが得られるまでは、以上が結論だ。神にはなにか計画があるのかもしれず、その場合なんの明確な指示も受けていないぼくは、なにをしようとその計画を台無しにするだろう。だが、もし神になんの計画もないのなら、ぼくは現状以外のことを考えだす義務が自分にあるとは感じない。だれもが死ぬという現状以外のことを。それが世の常というものだ。ベンを例外として。
――――
文庫版p.79

 奇跡が起きた。死んでしまった猫が蘇ったのだ。それからずっと、歳をとらない猫と一緒に過ごしてきた語り手。やがて歳月は流れ、ついに誰とも家庭を持たないまま猫と二人だけで生きてきた語り手の命がまさに尽きようとしているとき、猫がとった行動とは。ぼろぼろに泣けるファンタジー作品。律儀な猫がすごく可愛い。


『ヘリックス・ザ・キャット』(シオドア・スタージョン)
――――
「ま、きみが愚かなのはしかたがないが、それ以上愚かになることはないよ、ピート。吾輩が変わったと思っているようだが、それは違うね。きみにとっては、そのことをはやく理解するにこしたことがない。それと、頼むから吾輩に対して感情的になるのはよしてくれないか。退屈だ」
「感情的?」ぼくは叫んだ。くそったれ、たまにちょっとくらい感情を表に出すのがなぜいけない? とにかくいったいどうなってるんだ? この家の主人はいったいだれだ? だれが家賃を払ってる?」
「そりゃあきみだよ」とヘリックスは穏やかに言った。「おかげでますますきみがバカに見えるがね。吾輩なら徹底的に楽しめることでないかぎり、なにひとつしないのに。さあ、もういいかげんにしたまえ、ピートくん。子どもじみたふるまいをする年じゃなかろう」
 ぼくは重い灰皿をひっつかみ、猫に向かって投げつけた。ヘリックスは優雅に身を伏せて灰皿をかわした。「おやおや! そこまでしてバカの実例を見せてくれなくても」
――――
文庫版p.160

 とある事情で人語を話すようになった猫。当然ながら一人称は「吾輩」で、飼い主のことは下僕あつかい、上から目線で馬鹿にしてくる。飼い主と猫とのカトゥーンめいた戦いをユーモラスに描く作品。生意気な猫がすごく可愛い。


『宇宙に猫パンチ』(ジョディ・リン・ナイ)
――――
戦闘態勢にあるケルヴィンの背中の毛が逆立ち、尻尾は瓶洗い用のブラシさながらに太くふくらんでいる。ちっぽけな生きものが自分の千倍も大きな敵を威嚇するために、せいいっぱい自分を大きくみせようとしている姿に、ジャーゲンフスキーは心を打たれた。
「ふんぎゃあぁぁぁぁぁ!」ケルヴィンはわめいた。その声は怒りの度合いを示すかのように高く低く響き渡った。目は巨大なメインスクリーン上の赤い、ヘビのような戦艦をしっかと見据え、ふくらんだ尻尾が前にうしろに揺れている。
――――
文庫版p.206

 人類の宇宙船が、敵性エイリアンの宇宙戦艦から攻撃を受ける。まず船内の乗組員をすべて麻痺させた敵は、次に船体を破壊すべくレーザー砲を向けてくる。だが、船内には麻痺していない獣が一匹残っていた。怒りのあまり飛び上がって、メインスクリーンに映る敵戦艦の鼻先に、猫パンチ、猫パンチ、猫パンチ。それを火器管制コンピュータは攻撃命令と解釈した……。船猫がたった一匹で宇宙戦艦と戦う痛快なスペースオペラ作品。獰猛な猫がすごく可愛い。


『共謀者たち』(ジェイムス・ホワイト)
――――
第三生物研究室――巨大な〈船〉の半分以上も離れたところにある――で〈大きな者たち〉や、中継任務についていない〈小さな者たち〉に囲まれているホワイティを思いうかべたとたん、フェリックスはしばし畏敬の念に襲われた。その全員が〈脱出〉のために働いているのだ。そして第三研究室を種子貯蔵庫、中央司令室、機関室のような場所とつなげている別のテレパシー中継役たち……。外の通廊にいる〈小さな者〉からのじれったげな思考を捉えて、フェリックスはあわてて心を報告にもどした。
――――
文庫版p.222

 恒星間宇宙船に積み込まれていた実験動物たちが、無重力環境に長くさらされたため、知能を発達させた。自分たちの運命に気づいた彼ら、すなわちネズミ、モルモット、そしてペットである鳥と猫は、宇宙船からの脱出計画を立てる。人間の乗組員に絶対に気づかれないよう準備を進めなければならない。だが、猫はその凶暴性ゆえに他の共謀者全員から不信感を持たれていた……。動物たちを主役にしたサスペンスフルな『大脱走』。悩める猫がすごく可愛い。



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『イヴのいないアダム』(アルフレッド・ベスター、中村融:編) [読書(SF)]

――――
「そうですね、その新鮮な題材に飽くなき飢えをいだいているという点ですが、なぜほかの作家のように自分の知っている題材で作品を書くことに満足しないのですか? なぜ狂ったようにユニークな題材を――まったくの未踏の分野を求めるんです? なぜわずかな目新しさに法外な代価を喜んで払おうとするんです?」
「なぜかって?」ブラウは煙を吸いこみ、食いしばった歯の隙間から吹きだした。「きみが人間ならわかる。その、人間じゃないんだろう……?」
「その質問には答えられません」
「それなら理由を教えよう。生まれてからずっとぼくを苦しめてきたもののせいだ。人間は生まれつき想像力をそなえている」
――――
文庫版p.302


 長篇『分解された男』『虎よ、虎よ!』で名高い米国SF界の鬼才、アルフレッド・ベスターの日本オリジナル短篇傑作選。文庫版(東京創元社)出版は2017年11月です。


――――
先にあげた二長篇は、いずれも大胆なタイポグラフィの実験をまじえて、超能力者の心理を迫真的に描きだした傑作であり、華麗な未来社会の描写とあいまって、後世のSFにおよぼした影響には絶大なものがある。おそらくこの二作がなかったら、サミュアル・R・ディレイニーやマイケル・ムアコック、あるいはウィリアム・ギブスンやブルース・スターリングの諸作もなかっただろう。
 だが、二大長篇の陰に隠れて、その短篇群が見過ごされているとなったら、黙ってはいられなくなる。ベスターの短篇は、長篇とは趣がちがうものの、これはこれで珍重すべき逸品ぞろいなのだ。
――――
文庫版p.391


 2004年に河出書房新社より刊行された単行本『願い星、叶い星』収録の8篇に新訳2篇を増補し、改題文庫化。これだけでベスターの短篇代表作を網羅できるという充実した一冊です。


[収録作品]

『ごきげん目盛り』
『ジェットコースター』
『願い星、叶い星』
『イヴのいないアダム』
『選り好みなし』
『昔を今になすよしもがな』
『時と三番街と』
『地獄は永遠に』
『旅の日記』
『くたばりぞこない』


『ごきげん目盛り』
――――
「じゃあ、なんであの子を殺したんだ?」ヴァンデルアーがわめいた。「刺激のためでなかったら、なんで――」
「念のため申しあげますが」とアンドロイド。この手の二等船室は防音ではありませんよ」
 ヴァンデルアーは革紐を落とし、荒い息をつきながら、所有する生きものをじっと見つめた。
「なんでやったんだ? なんであの子を殺したんだ?」とわたしは訊いた。
「わかりません」とわたしは答えた。
――――
文庫版p.15

 普段は正常に機能しているのに、何かのきっかけで突然おそるべき殺人マシンと化してしまうアンドロイド。そんなアンドロイドと共に星から星へと逃亡の旅を続ける男。やがて警察に追い詰められた二人は……。凶悪犯罪、逃亡劇、盛り上がるサスペンスと並行して、一人称の混乱が読者の心に引っ掛かりを残しつつ、最後のクライマックスへとなだれ込んでゆく。ストーリー展開と文体上の実験を見事に融合させた傑作。


『願い星、叶い星』
――――
「例の少年には武器がある。自分で発明したなにか。ほかの連中のようにばかげたなにかだ。(中略)その子は天才だ。危険きわまりない。どうすればいいんだ?」
――――
文庫版p.92

 少年は人類をはるかに超越する天才だった。その行方を追う教師は、犯罪のプロと手を組んで彼を探し出そうとする。だが、次々と返り討ちにあって姿を消してゆく一味のメンバー。少年が持っている能力とは何か。ミュータントテーマの定番的展開をうまくひねった作品。


『イヴのいないアダム』
――――
 それが海であることはわかっていた――古い海のなごり、さもなければ、できかけの新しい海だと。しかし、それはいつの日か、乾いた生命のない岸に打ち寄せる、空っぽで生命のない海になるだろう。この星は石と塵、金属と雪と氷と水の惑星になるだろう。だが、それですべてなのだ。もはや生命はない。彼ひとりではどうしようもない。彼はアダムだが、イヴはどこにもいないのだ。
――――
文庫版p.118

 無謀な実験のせいで破滅した地球。荒涼とした終末風景のなかをひたすら這い続ける男。目指すは海。だが、もはや人類は彼一人しか残されておらず、生物の絶滅は確定しているというのに、なぜ海を目指すのか。それは彼自身にも分からなかった……。地球最後の人間テーマですが、その迫力に驚かされます。


『昔を今になすよしもがな』
――――
日付――1981年6月20日。氏名――リンダ・ニールセン。住所――セントラル・パーク模型船用池。職業または勤め先――地球最後の男。
「職業または勤め先」については、はじめて図書館に押しいったときから、しっくりこないものを感じていた。厳密にいえば、彼女は地球最後の女だが、そう書いたら、女性優位主義的なきらいがあるような気がするし、「地球最後の人物(パーソン)」と書いたら、酒をアルコール飲料と呼ぶみたいにばかげて聞こえる。
――――
文庫版p.151

 何らかの異変により人類は消滅。生き延びた最後の男女が出会う。同じく地球最後の人間テーマですが、無人の街で好き勝手する気の狂った男女、という設定だけでぐいぐい読ませるパワーが凄い。


『時と三番街と』
――――
「インチキして、ゲームに勝って楽しいですか?」
「ふつうは楽しくない」
「ディスニーなんでしょう? 退屈だ。飽きあきする。意味がない。非調和的です。あなたは正直なやりかたで勝ちたかったと思う」
「だろうな」
「それなら、この本を見たあともそう思うでしょう。あなたの行きあたりばったりの人生を通じて、あなたは人生というゲームを正直にプレイしたかったと思うでしょう。その本を見たことをヴァーダッシュされる。後悔される。われわれの偉大な詩人・哲学者、トリンビルの名言を身にしみて思いだすことになる。彼は明晰でスカゾンな一行にそれを要約しました。『未来は勝ちテコンされるものである』とトリンビルはいったのです。ミスター・ナイト、インチキをしてはいけません。お願いですから、その年鑑をわたしにください」
――――
文庫版p.224

 書店で統計年鑑を購入した男。だが謎めいた相手が現れて、その年鑑はずっと未来の版であり、手違いでこの時代に紛れ込んだものだと告げる。これからの世界の趨勢があらかじめ分かってしまう本。うまく活用すれば富も名声も思いのまま。それを無償で自主的に返してほしいと説得する相手に、男は迷うが……。タイムパトロールテーマですが、会話に混入する未来語(たぶん)がよい味を出しています。オチもクール。


『地獄は永遠に』
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「あなたがたひとりひとりが、好きなようにこしらえていい現実を。あなたがたご自身が作る世界を提供しましょう。そのなかでミセス・ピールは喜んで自分のご主人を殺せる――それなのに、ミスター・ピールは自分の奥方を手放さずにいられるのです。ミスター・ブラウには作家の夢である世界を提供し、ミスター・フィンチリーには芸術家の創造力を――」
――――
文庫版p.255

 放蕩のかぎりを尽くしていた数名の悪徳グループの前に現れた悪魔(たぶん)が「皆さんそれぞれの望んでいる世界を創り、永遠にその理想現実の中で生きられるようにしてあげましょう」と提案してくる。しかも無償で。
 自分が望んだ世界(内世界?)に転移したメンバーがそれぞれに辿る皮肉な運命を描く作品。メンバーのなかに作者自身をモデルにしたと思しき人物(生年月日がベスターと一致する作家)がいて、饒舌に自分語りするのが興味深い。



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