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『風とマルス』(花山周子) [読書(小説・詩)]

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相聞歌、われを想いて詠いいる君のぶんまでわれがつくりぬ
――――
ミッキーマウスの顔の不気味な構造に描こうとしつつ驚いている
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「ありえない日本語力」という在り得ない日本語の帯を巻く『金閣寺』
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さすが神が集まっていないだけのことはある水無月出雲大社閑散
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鈴虫の半数ほどは死にたりしが鳴き声の量に変遷はなき
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 家族のこと、絵のこと、恋人のこと。歌人である母とはまた違った感性で生活の細部を見つめる若々しい歌集。単行本(青磁社)出版は2014年11月です。

 先日、花山多佳子さんの歌集『胡瓜草』を読んで感銘を受けたのですが、そこに登場する「娘」さんも歌人になったと知って、あわてて本書に目を通してみました。


  2017年08月21日の日記
  『胡瓜草』(花山多佳子)
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-08-21


 この『胡瓜草』に登場する「娘」、花山周子さんの第二歌集が本書です。

 家族を題材にした作品を見るとついつい『胡瓜草』収録作と読み比べ、その呼応っぷりに微笑んでしまいます。


母、花山多佳子さんの作品
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やうやくに起きし娘と諍へば戻りゆくなり昼の臥床へ
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娘、花山周子さんの作品
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母にとっては私が家に居ないほど私はいちにちよく眠りたり
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母、花山多佳子さんの作品
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抱かれて少しもうれしくないウサギ抱かれてまなこ迫り出してくる
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娘、花山周子さんの作品
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うさぎの目冬の日射しを吸いながら曇りガラスのようなる空ろ
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母、花山多佳子さんの作品
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就活をしてゐる息子 就活をせざりし娘に寛大ならず
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娘、花山周子さんの作品
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まだ朝は前髪のよう弟の起き来る気配して私は眠る
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母、花山多佳子さんの作品
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メンドクセエのレンゾクセイと唄ひつつまたも息子は着替へしてゐる
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娘、花山周子さんの作品
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ご機嫌な弟のハミング、スピッツから美空ひばりになりゆくあわれ
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母、花山多佳子さんの作品
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春になれば出てゆくならんこの家がアレルギー源と信じる息子
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娘、花山周子さんの作品
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弟が発ちたる朝に鼻紙の溢れて白い屑かご残る
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 姉弟の関係が見えるというか、そもそも母と姉がそろって歌人になりいいようにネタにされるという弟クン気の毒。

 どうやら姉さんは美大に通っていたようです。


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柏美術研究所とう予備校らしからぬ名の建物に二年通いき
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思い出の屋上は風あふれつつあふれつつあらん閉鎖の日まで
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石膏像マルスを奪え 思い出が消え去る前に抱えて走れ
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ミッキーマウスの顔の不気味な構造に描こうとしつつ驚いている
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 日々の生活で見かけたことを辛辣なユーモアを込めて描く作風は、母のそれにも似ているように感じられます。


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「ありえない日本語力」という在り得ない日本語の帯を巻く『金閣寺』
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さすが神が集まっていないだけのことはある水無月出雲大社閑散
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さくらんぼの原価についてあらゆる知識を動員して語りくれしタクシー運転手
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鈴虫の半数ほどは死にたりしが鳴き声の量に変遷はなき
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全体が傾いている家なりしが写真に写せば傾いていず
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伐採さるるときに最後の花粉をば吐きて倒るる杉を思えり
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 そして恋や歌を詠んだ作品の力強さには驚かされます。


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相聞歌、われを想いて詠いいる君のぶんまでわれがつくりぬ
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どうしても君に会いたい昼下がりしゃがんでわれの影ぶっ叩く
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ルパン三世はわれの恋人わがために歌人に今日は変装しおり
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「幌」という冊子をわれはつくるから歌を出したい人は集まれ
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 というわけで、単独で読んでむろん面白いのですが、母である花山多佳子さんの歌集と比べてみるとまた違った楽しみが見つかる歌集です。


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『胡瓜草』(花山多佳子) [読書(小説・詩)]

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「軽井沢に跳梁跋扈する悪質な猿の特定が急がれます」とぞ
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初めて見たアメリカン・チェリーの色のごと
思ひ出してゐる鳥山明を
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抱かれて少しもうれしくないウサギ抱かれてまなこ迫り出してくる
――――
メンドクセエのレンゾクセイと唄ひつつまたも息子は着替へしてゐる
――――
やうやくに起きし娘と諍へば戻りゆくなり昼の臥床へ
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 家族や動物や生活の細部を、ユーモアをこめて活写する歌集。単行本(砂子屋書房)出版は2011年4月です。

 日々の生活のなかで、ふと気になったことを書き留めたような作品が印象に残ります。それも、辛辣なユーモアというか、ツッコミが素晴らしい。


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姿煮と表示され居るゐる真空パックの小さな魚
これは姿か
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「軽井沢に跳梁跋扈する悪質な猿の特定が急がれます」とぞ
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高熱にとつぜん襲ひかかられて「これから心入れ替へるよ」と言ふ
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眉間に蜂迫りきて背ける目は見たり「蜂に注意」といふ看板を
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孤高の人を容れざる世なればすべからく孤低の人の増えゆくばかり
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 特にツッコミがなくても、淡々とした描写のなかに巧みにユーモアが織り込まれていたり。


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ケータイをひらけば数字またたきてけふがきのふになつてしまへり
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サイレント・モードで呻きケータイが机の端よりころげ落ちたり
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初めて見たアメリカン・チェリーの色のごと
思ひ出してゐる鳥山明を
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上滑りする感じが嫌 フライパンに半透明のたまごの白身
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 動物を詠んだ作品からは観察眼の鋭さが感じ取れます。


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植立てのパンジーを抜く楽しみを鴉はいかに鴉に伝ふ
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いつせいに鳴くことあらばおそろしき上野公園に群がれる鳩
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はじめから思ひ出のやうに鳴いてゐるこの年の蝉 梅雨長かりき
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抱かれて少しもうれしくないウサギ抱かれてまなこ迫り出してくる
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一丁前にのけぞつてゐる小さきものロボロフスキーは尻尾みじかし
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 しかし、何といっても多いのは、息子と娘を題材にした作品。どれも若者あるあるという臨場感にあふれています。


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ダ・サーイと伸ばして言ふは女の子 ダセエとつぶやくやうに男の子は
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就活をしてゐる息子 就活をせざりし娘に寛大ならず
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ストーヴの三メートル以内に三人がゐてそれぞれに没頭しをり
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 「就活をしてゐる息子」の様子はこうです。


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相手の言ふ「ふつう」を互ひに罵りて息子とわれの夜が更けゆく
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ごはんつくるおかあさんのために一曲とギターはげしく鳴らして唄ふ
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メンドクセエのレンゾクセイと唄ひつつまたも息子は着替へしてゐる
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就活の日々の間にすこしづつ息子は太つていくやうに見ゆ
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履歴書にかならず不備ある迂闊さを言ひ出でて息子は怯ゆるごとし
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新卒者内定二人で上司らは四十代とぞ息子危ふし
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春になれば出てゆくならんこの家がアレルギー源と信じる息子
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この家にゐるとだめになる、と言つてアパートに帰つてゆきたり
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 息子さんは何とか就職して家を出て行ったようです。一方、「就活をせざりし娘」との生活は、こうです。


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やうやくに起きし娘と諍へば戻りゆくなり昼の臥床へ
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歌つくるわれの背後に他人の歌読み上げてゐる娘なりけり
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描いた絵を見せむと寄りくる表情にすでに不機嫌のいろが濃厚
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 そういうわけで、娘さんは母親と同居したまま絵を描いたりしているようです。読了後に調べて驚いたのですが、この娘さんは歌人の花山周子さんなんですね。そういうわけで、続いて娘さんの歌集も読んでみることにします。


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『せかいいちのねこ』(ヒグチユウコ) [読書(小説・詩)]

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「おまえの不安なきもちは
 おれもほかのねこも
 みんなもっているんだよ」
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 猫のぬいぐるみの「ニャンコ」は、本当の猫、それも「せかいいちのねこ」になるために、友だちのアノマロカリスと一緒に旅に出ます。いろんな猫との出会いを通して、ニャンコは「せかいいちのねこ」になれるでしょうか。実際の猫をモデルに描かれた個性豊かな猫たちが登場する絵本。単行本(白泉社)出版は2015年11月です。


 持ち主である男の子が成長して大人になれば、自分は捨てられてしまうかも知れない。そう心配するぬいぐるみのニャンコは、本物の猫になればずっと一緒にいられると考えます。でも、どうすれば猫になれるのでしょうか。


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「そうか! ヒゲだ!
 ほんもののピカピカのヒゲを手にいれよう!
 ぼくはもっと愛されて
 せかいいちのねこになって
 男の子が大きくなっても
 いっしょにいるんだ!!」
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 読者の多くは「いやいや、せかいちのねこ、は、うちにいるから」と思うでしょうが、ニャンコは真剣です。友だちであるアノマロカリスのアノマロと一緒に、猫のヒゲを集める旅に出るのでした。

 旅先では、様々な猫との出会いが待っています。どの猫もモデルがいるそうで、顔つきがリアルというか、ちょっと怖い無愛想な「初対面猫」の顔をしているところがツボ。実は彼らとは何度か再会することになるのですが、再会したときには「馴染み猫」の厚かましい顔つきになっているのが、とても、猫。

 ちなみに、最後のページに、モデルとなった猫の写真と絵本に登場した猫の絵が並べられています。顔かたちや模様はもちろんのこと、とにかく雰囲気がそっくりなんで、思わず笑ってしまいます。


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ニャンコは いじわるねこも いままで会ったねこも
みんながせかいいちのねこだと思いました。
――――


 ねこはみんな、せかいいちのねこ。せかいいちのねこは、うちのねこ。
 誰もが知っている猫真理にようやく到達するニャンコ。

 ぬいぐるみの成長物語というより、はじめて猫を飼おうと決めた人が猫飼いになってゆく過程を描いた物語のような気もしますが、いずれにせよ、猫好きの読者の心にぐっとくる絵本です。


タグ:絵本
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『双花町についてあなたが知り得るいくつかのことがら paper version 1』(川口晴美:テキスト、芦田みゆき:写真、小宮山裕:デザイン) [読書(小説・詩)]

 『双花町についてあなたが知り得るいくつかのことがら』のスピンオフ作品、その第1作目です。発行は2014年11月24日。

 まず『双花町』というのは、電子書籍リーダーKindleで配信されている全6篇から構成された長編ホラーミステリ詩。不穏な言葉と、不穏な写真を、不穏な構成で組み合わせた、不穏な作品です。紹介はこちら。


  2014年10月08日の日記
  『双花町についてあなたが知り得るいくつかのことがら vol.1』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2014-10-08

  2014年10月21日の日記
  『双花町についてあなたが知り得るいくつかのことがら vol.2』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2014-10-21

  2015年01月27日の日記
  『双花町についてあなたが知り得るいくつかのことがら vol.3』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-01-27

  2015年06月09日の日記
  『双花町についてあなたが知り得るいくつかのことがら vol.4』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-06-09

  2015年07月27日の日記
  『双花町についてあなたが知り得るいくつかのことがら vol.5』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-07-27

  2015年09月03日の日記
  『双花町についてあなたが知り得るいくつかのことがら vol.6』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-09-03


 この、最初から電子書籍としてのみ配信された『双花町』の、"paper version"という謎めいた存在。といっても電子書籍を紙に印刷したものではなく、『双花町』を構成しているテキストと写真を、『双花町』とは異なる方法で再構成したもので、デザイン担当の小宮山裕さんのこだわりが形になっちゃったという作品。

 現在までに"paper version 4"まで刊行されています。紹介はこちら。


  2015年07月06日の日記
  『双花町についてあなたが知り得るいくつかのことがら paper version 2』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-07-06

  2016年08月02日の日記
  『双花町についてあなたが知り得るいくつかのことがら paper version 3』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-08-02

  2017年07月10日の日記
  『双花町についてあなたが知り得るいくつかのことがら paper version 4』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-07-10


 後に作成される"paper version"では、「紙片詰め合わせ」とか「カードデッキ」といった本からはかけ離れた形式も採用されるのですが、本作はさすがに第1作というべきか、一見してごく普通の冊子という形をとっています。

 しかしながら、開いてみると、折り込みページはあるし、写真そのものがページの間に挟み込まれていたり、写真がページに物理的に貼りつけられていたり、小さな封筒がクリップでとめられていたり。手作り感がすごい。

 封筒を開けてみると、ノートの切れ端をやぶって手書きの文字を書きつけた「手紙」(本編に登場したもの)が折り畳まれて入っています。

 写真とテキストの組み合わせから生ずる不穏さは最初から全開。帯の「画像と言葉が不穏に絡まり合い、どこかにあってどこにもない町が立ち現れる」というアオリ文がぴったりです。


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『Down Beat 10号』(柴田千晶:発行者代表) [読書(小説・詩)]

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再放送の二時間ドラマをみながら父ちゃんは「お前犯人
わかるか?父ちゃん知っとんで。こいつや」言ってから
                      寝る。
檻のなかの薄い布団の下でタヌキはカッパに変身したの
です。引っ張ってもちぎれない手首のバーコードが証拠
です。
レンタルの病衣には橙の細いライン。サイドテーブルの
乾いた蜜柑の色より濃く、山下公園の救命浮輪の色より
                      薄い。
長身の看護士さんは、父ちゃんの毛のない手首と点滴棒
にぶら下げた薄茶の袋のバーコードをスキャン「夕食っ
す」
四角い座面の三辺からはみでていた尻しびれてかゆい。
――――
『307』(谷口鳥子)より


 詩誌『Down Beat』の10号を紹介いたします。お問い合わせは、次のフェイスブックページまで。

  詩誌Down Beat
  https://www.facebook.com/DBPoets


Down Beat 10号
[目次]

『電気も音を立ててなくことがある』(今鹿仙)
『港』(小川三郎)
『反町公園』『もし』(金井雄二)
『シミ』(柴田千晶)
『307』『867』(谷口鳥子)
『へちま』『朝比奈越え』(廿楽順治)
『円應寺』(徳広康代)
『暖海』『再会』(中島悦子)


――――
遠い記憶を
たぐろうとするときはたいてい
魚の名前を思い出すような気持ちになる。
波の合間を覗き込めばたいてい
死んだ人の気配がする。

港の周辺に立っている
ただ四角いだけの白い建物。
その中身にひどく愛着を感じる。
なくてはならない
大事なものがそこにはあると
わかっているくせに私はまだ
釣り糸を垂らしている。

またおじさんがやってきて
魚の名前を告げていった。
釣れた魚は
籠からいなくなっていた。
沖合では
船が何隻も停泊している。
一生そこにいるつもりでいる。
――――
『港』(小川三郎)より


――――
玄関脇の
小さな台所の窓に
蛇の影が映っていて
蛇は
磨りガラスを
ゆるゆると這い上がり
二階へ上ってゆくようで
蛇は
男の化身
などとは思わなかったけれど
蛇は
なぜ空っぽの二階へ
登っていったのだろうか
如月荘202号室の
畳に残る
人のかたちをした
黒いシミ
あたしもいつか
黒いシミになって
小さな台所の窓から
覗かれて
発見されたい
――――
『シミ』(柴田千晶)より


――――
長い間空家だったから、縁側には砂が溜まっている。掃除が行き届いていないと父が不機嫌になるからと言いながら、姉と雑巾がけをしていた。調理台には、鱈のぶつ切りとだだみ、板こんにゃく。母が夕飯にしようと、もう用意していたのかと思う。でも、まだ障子の破れや玄関の鍵がないことが気になっている。
――――
『再会』(中島悦子)より全文引用


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