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『恋人不死身説』(谷川電話) [読書(小説・詩)]

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合体だ! 線香花火のさきっぽが! わりと早めに落ちてしまった!
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冗談は冗談でした さようならワリカンで観覧車を買う日
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放置したカレーを覆うまっしろなカビがきれいだひとりだだめだ
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朝おきていきなり夜でさみしくておなかがすくのすごい 笑える(笑)
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野良猫に「ねこ」と呼びかけはじめたらとまらなくなりどうかしている
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もんでみた自分のおしりがかわいくて自分がかわいそうで吐きそう
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 恋愛トキメキ暴走と失恋落ち込みドライバー。読者の体調を崩すようなノロケと感傷を過剰摂取させてくる歌集。単行本(書肆侃侃房)出版は2017年5月、Kindle版配信は2017年5月です。


 こう、思わず歌集を取り落としてしまうようなリア充みせつけというか、ノロケあふれる作品が並びます。明らかに恋愛慣れしていない若い男が、初めて恋人とそうなって舞い上がっているという情景が目に浮かぶようです。浮かんでほしくない。


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ろうそくの火にきみがふく息をつい吸いこんじゃった 暗くてもラブ
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合体だ! 線香花火のさきっぽが! わりと早めに落ちてしまった!
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焼き鮭の皮を食べる派だったのかパリパリパリパリきみはパリパリ
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恋人は不死身だろうな目覚めたら必ず先に目覚めてるし
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「さみしい」と書いてあるのを期待して毎日開くきみのウェブ日記
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 体毛や体液や体臭へのこだわりが感じられる作品も多いのですが、それが性愛の喜びというよりも、どこか妙に不穏な気配を漂わせています。子供っぽいというか、かるくキモいというか。


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「~~~~←四本のうち一本は陰毛。どれが陰毛でしょう?」
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脱ぎたてのシャツのにおいをこんなにもだいじに嗅いでくれてありがとう
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なんとなくきみの抜け毛を保存するなんとなくただなんとなくだけど
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髪の毛が遺伝子情報載せたまま湯船の穴に吸われて消える
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二種類の唾液が溶けたエビアンのペットボトルが朝日を通す
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 読者の予想通り、あるいは期待通り、若い男は恋人にふられてしまいます。失恋をテーマにした短歌かずある中でも、かなりみっともなく感傷だだもれの作品が並びます。ふふ。


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冗談は冗談でした さようならワリカンで観覧車を買う日
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返された鍵はやたらと冷たいし泣きはじめたら泣きはじめるし
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たい焼き屋今日は休みだ 中野区はきみがいないと縮むみたいだ
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「お客様おひとりですか?」「ひとりですこの先ずっとそうかもしれない」
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薬局の入浴剤のコーナーで目からこぼれる0円の水
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 あまりのめめしさがイタくなってきて、まあ元気出せよ人は失恋を克服して成長するもんだぜ、などと心にもない慰めの声をかけたくなる(個人差があります)わけです。うすうす分かっていたことですが、克服も成長もしません。失恋の落ち込みが尾を引いて、ついには自嘲自慢の域に。


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光あれ 光のなかに日記あれ ぼくと復縁したいきみあれ
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放置したカレーを覆うまっしろなカビがきれいだひとりだだめだ
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朝おきていきなり夜でさみしくておなかがすくのすごい 笑える(笑)
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野良猫に「ねこ」と呼びかけはじめたらとまらなくなりどうかしている
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もんでみた自分のおしりがかわいくて自分がかわいそうで吐きそう
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 というわけで、初めて経験した性愛と失恋のジェットストリームを見せびらかすように過剰に盛り込んだ歌集です。インパクトあります。


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『メメント1993 34歳無職父さんの東大受験日記』(両角長彦) [読書(小説・詩)]

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 タカコは柴田をじっと見て言った。「無駄よ。いくら努力したって結果はわかってる。あなたは大学には入れない。作家にもなれない。奥さんからも子供からも見捨てられる。何ひとつあなたの思いどおりにはならない。この世界のどこにも、あなたの居場所はないのよ」
「そうかもしれない。すべての努力は無駄に終わるかもしれない。それでも、いまがんばらないと後悔することになる」
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単行本p.174


 作家を目指して努力するもデビューできないまま33歳になってしまった男が、一念発起。「俺は、東大に合格するぞ」意味不明な決意で受験勉強に邁進するが……。著者の自伝的要素も入った、滑稽で熱いおじさん受験物語。単行本(KADOKAWA)出版は2017年9月、Kindle版配信は2017年9月です。


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おれは成功が欲しかったんだ。失敗、失敗、失敗ばかりの人生の中、作家としての成功でなくてもいい、どんな形でもいいから成功がしたかった。成功者になりたかったんだ。しかし、今のおれに手の届く成功といったら何だろう。職歴も人生経験もないおれにとって、できることといったら大学受験くらいしかないじゃないか。だから――
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単行本p.14


 大学を中退し、作家を目指して頑張る柴田。だが、書いても書いても新人賞に落ち続けるうちに、ふと気が付けばもう33歳。このまま作家にはなれないのか。負け犬として生きるのか。嫌だ。自分は何かを成し得る人間だということを証明したい。

 というところまではよくある話ですが、そこで「よし、東大に合格するぞ」となるところが、視野が狭いというか、追い詰められている感というか。


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「これで目がさめたでしょ」ナミは、いくら腹立ちをぶつけてもぶつけたりないという表情で言った。「三十三にもなって大学受けるなんてみっともないまねは、もうやめるのよ」
「何が――」柴田はうなだれたまま、ぼそっと言った。
「えっ?」
「何がみっともないんだ」柴田は顔を上げて言った。「三十三で大学を受けるのが、どうしてみっともないんだ」
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単行本p.14


 33歳で大学を受けるのは、決してみっともないことではありません。でも、33歳にもなって「社会的成功=東大合格」という発想しか出来ないのは、それはどうなの。

 誰もが呆れるなか、本気で受験勉強を始める柴田。最初は激怒していたものの、やがてその熱意に何となくほだされてゆく妻。典型的です。


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 この一年が正念場よ。あなたが、たとえ小さなことでも何かをやりとげるか、何ひとつやりとげることのできないクズで終わるか。
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単行本p.38


 というわけで、これまでのサスペンスミステリーから大きく作風を変えてきた長篇。情けない中年男の一年間の受験生活を描いた、おじさん受験記というべき作品です。

 といっても勉強の進捗と模試の成績だけが書かれているわけではなく(そりゃそうだ)、十年前に起きた少女誘拐監禁事件がとんでもない形で絡んできたり、知人が人質立てこもり事件を起こしたりと、ドラマチックなプロットがいくつも並行して展開。先が気になって、するする読み進めてしまいます。

 全体的にユーモラスな雰囲気ですが、ダメ男がすべてに絶望しつつも最後のところで矜恃を守り抜く姿には思わず引き込まれて熱くなります。あちこちに1993年当時の新聞記事の見出しが散りばめられ、世相を浮かび上がらせるところも巧み。

 著者略歴を見ると、かなり自伝的な要素が入っていることが分かります。ちなみに著者がその後、作家としてデビューしたのは50歳になってから。それを知っていると、また味わいが深くなるように感じられます。


タグ:両角長彦
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『undefined』(伊藤浩子) [読書(小説・詩)]

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 あたしは向こう岸に渡り、すっかり石になってしまった子どものかもしかを叢に寝かす。辺りはシンとしていて、虫の声も聞こえない。かもしかに目をやると、石のまま見る見るうちに成長して、子どものかもしかを産み落とし、そしてそのまま死んでしまった。生まれたばかりのかもしかはとても小さくあたたかく、でもしっかりと息をしていた。
 後ろを振り返ると、あたしと同じような老人が、同じような小さなかもしかを抱きかかえて、群れをなして付いてきていた。あたしが先頭を歩いている。月明かりはいつまでも眩しくて、道は白く光っていた。
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『バースデイ・ケーキ』


 散文詩なのか、幻想小説なのか。カテゴリにおさまらない美しくもおそろしい15篇を収録した短篇集。単行本(思潮社)出版は2014年10月です。


[収録作品]

『鐘の音』
『早贄』
『クレプトマニア』
『刺青』
『呪い』
『ヒット・ガール』
『バースデイ・ケーキ』
『プレゼント』
『展覧会』
『バースデイ・パーティ』
『アイホー』
『古だぬきの手紙、一人息子のメール』
『電話、砂嵐、穴』
『思い出のクリスマス』
『歩く人』


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「昔、ノルマン人の国で不貞を働いた女性に刑罰として、どんなことをさせたか、知っている?」
「知らない、どんなことなの?」
「その著者によるとね、監禁する代わりに女性にわざと窃盗をさせたんだ、隣人たちから食料やら衣類やら、場合によっては子どもまで盗ませた。そしてそれをバルト海に棄てさせたんだよ。それがもっとも重い刑罰だったんだ。どうしてか、わかる?」
 彼女には答えられなかった。
「そうすれば、罪はどんどん重くなっていくし、誰からも相手にされなくなるからね。そこでは女性の不貞は、償いさえすれば許されるなどという罪ではなかったんだ。罪によって罪を贖う、著者はそう書いていた。発狂してしまう女性が大半だったらしいよ。
 でも中には、ほんのひとにぎりだけど、窃盗し続ける女性もいた。窃盗には、大きな性的快楽が伴う場合が多いからね、そうなったらなったで、それはいい見せしめになった。広場で首を刎ねるよりもずっと効果的だったんだ。それでも女性の不貞はなくならなかった。
 大きな性的快楽のために、むしろ女性の不貞が増えてしまった時期もあった。それが窃盗症の最初の記録だよ」
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『クレプトマニア』


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あたしはその人をずっと待っていた。すごく長いこと、ずっとずっと、永遠かと思うほど、ちょっと大げさかもしれないけれど、でも永遠。ほんものの永遠。どんなふうに待っていたかというと、例えば、その人の書いたものが何かの雑誌に載ったとき、あたしはそのページだけを破って家に持ち帰った。ごめんなさい、出版社の編集部さま、そして、そのページを胸に抱いてオナニーする。「そういうものだ」と思っていたから。
 ちなみにあたしはファッキンな雑誌は買わない。定期購読とか、考えると頭が痛くなる。だって、あたしは文字を見ると、そこに色が浮かぶから。アが赤、イが黄色、ウが水色、エがオレンジ、オが青、はっきり見えるから、そういうふうに覚えてきた。だからファッキンな雑誌は買わない。ファッキンな雑誌ほど、色がめちゃくちゃなものはない。できるだけ、同じ人が書いた本を買う。書いている人はきっと、できるだけ色がめちゃくちゃな文章にしたいと思っているだろう、そういうのって、若い人ほど傾向が強い、だってあたしにも覚えがあるから、ごめんね、悪口じゃないんだよ、でも何となくそんな気がする。だけど同一の人が書いたものなら、その人がどんなに努力したって、どうしたって同じ色の文字で統一されがちになる。だから、頭が痛くならない。
 何を言っているか、分からない? だってしょうがないよ、意識が朦朧としているんだから。
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『ヒット・ガール』


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 私は今でもときどき思うことがあるの、もうひとりの私がいて、私がこうしている間に、あるいは私が眠っている間に、何か別のことをやっていて、それが私の生活に入り込んでくる。私はそれに気づかずに生活していて、そのことでもうひとりの私の精神を根底から傷つけている。もうひとりの私は眠りながら私をいつも注察していて、夢の中で傷つくのね。
 私はそのことを夫に知って欲しいの。どうしてもどうしても知ってほしいの
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『プレゼント』より


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 丸い質素なテーブルにつき、私はさまざまなことに思いをめぐらす。
 例えば、街中に、歩く人のおだやかな心があふれて、夜の深さにその細い影が伸びていくことを。
 濃紺色のキャップと、夏色の空に光るスニーカーを。そこに重なる夏の思い出を。
 そして七分後に出会う人々のことを。
 彼らの心と、彼らの心によみがえる、いくつもの思い出を。その哀しみや喜びを。
 それから、風になって消えていった少年や少女たちの姿を。
 そのときに感じる、小さな傷の痛みを。
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『歩く人』より


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『たべるのがおそい vol.4』(町田康、宮内悠介、他、西崎憲:編集) [読書(小説・詩)]

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 編集という仕事の歓びのなかで最大のものは何といっても原稿を受けとって目を通した際のそれであると思うのだが、世界で最初に読む者が自分であるというのはそれだけで心が動くことであって、しかもそれが面白いもの、興味深いものであれば、歓びの大きさは容易に想像されるかと思う。しかし、今回はそれにもうひとつの要素が加わったようである。原稿を受けとった時に著者の「野心」のようなものを明瞭に感じたのである。そしてその野心のなんという重さ、大きさ。メールで届いたそれは、あるものは日本の小説の限界を打破するアナーキーさを胚胎し、あるものは自身のこれまでの作品を凌駕しようという熱意の籠ったものだった。
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 シリーズ“町田康を読む!”第60回。

 町田康の小説と随筆を出版順に読んでゆくシリーズ。今回は、小説、翻訳、エッセイ、短歌など、様々な文芸ジャンルにおける新鮮ですごいとこだけざざっと集めた文学ムック「たべるのがおそい」その第4号に掲載された短編です。単行本(書肆侃侃房)出版は2017年10月。


[掲載作品]

巻頭エッセイ 文と場所
  『主さん 強おして』(皆川博子)

特集 わたしのガイドブック
  『ガイドブックのための(または出発できなかった旅のために)』(谷崎由依)
  『ストリート書道に逢いたくて』(山田航)
  『1985年の初夏に完璧な女の子になる方法』(山崎まどか)
  『駅』(澤田瞳子)

創作
  『ディレイ・エフェクト』(宮内悠介)
  『橙子』(古谷田奈月)
  『人には住めぬ地球になるまで』(木下古栗)
  『狭虫と芳信』(町田康)

翻訳
  『マルレーン・ハウスホーファー集』(マルレーン・ハウスホーファー、松永美穂:翻訳)
  『フランス古典小説集』(アルフォンス・アレー、マルセル・ベアリュ、マルセル・シュオッブ、西崎憲:翻訳)

短歌
  『IN IN in』(伊舎堂仁)
  『ポーラスコンクリートの眠り』(國森晴野)
  『挽歌』(染野太郎)
  『皐月』(野口あや子)

エッセイ 本がなければ生きていけない
  『本屋の蔵書』(辻山良雄)
  『読んでいて涙が出る本』(都甲幸治)




『ディレイ・エフェクト』(宮内悠介)
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「それで、今回の件をディレイになぞらえるなら、どのようなことがいえる?」
「科学的でなくともかまいませんか」
「どのみち非科学的なことが起きている」
「……わたしたちの世界を、神の奏でる音楽だと仮定してみましょう。その神様が、わたしたちには知るべくもないなんらかの深遠な意図をもってか、あるいは単に足を滑らせてか、ディレイのスイッチを踏んでしまった」
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単行本p.20

 現代の東京に重なるようにして「再生」される太平洋戦争当時の東京。まるで立体映像のように「現実」と二重写しになった1944年の町並みと人々。やがてくると分かっている東京大空襲を前に、人々はそれぞれに対応を決めなければならなくなった。
 SF的な設定のもと、二つの時代の響きあいと夫婦の心境変化を描いた感動的な短編。


『橙子』(古谷田奈月)
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 そうして、みんないなくなる。運転手に急かされる前に降りたいと思うけれど、橙子は涙を止められない。父も動かない。
 やがて、父は体を橙子のほうに向け、何度かためらったのち、「なあ橙子、あのな――」と囁いた。そして、これを聞けばせめて立ち上がる元気は出るだろうと、そう信じている声で言うのだった。「お前の高校のバス停だけどな。あれ、夜になると光るぞ」
 橙子はハンカチを目に押し当てた。もう泣くまいと思う。決して許すまいと思う。
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単行本p.55

 中学時代の親友と離れ離れになり、高校に進学する橙子。思春期の心の揺れを巧みに表現した傑作。父親の(イタい)人物造形の見事さが印象的です。


『狭虫と芳信』(町田康)
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「僕はなにも悪を気取ってるんじゃない。僕はねぇ、生きたいんだよ。どうしても生きたいんだよ。それもただ生きたいんじゃない。楽して生きたいんだよ。そのために泥棒してます。申し訳ないけど」
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単行本p.147

 知人が家にやってくるたびに物が盗まれる。しかし不思議なことに、そいつに物が盗まれた後には必ず大きな幸運がやってくることに気づいた。じゃ、トータルでは得をしてるじゃん。
 ところが最近、その知人はわが家に来ても窃盗をしなくなった。困った困った。そこで僕の代わりに知人をもてなして、そこらの物を盗むよう仕向けてくれないか。
 わけのわからない依頼を受けた語り手は、何とかして相手に窃盗させようと四苦八苦するが……。小咄のようなユーモラスな展開を素敵文体でつづった名人芸の短編。


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『NNNからの使者 猫だけが知っている』(矢崎存美) [読書(小説・詩)]

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 弓絵が引っ越したと聞いたので、ついに猫を飼うのかな、と思っていたのに、なんと飼えないとは!
 そんなバカな。猫好きが家を建てたら、猫を飼うのが当然だろ、とコマは思う。確か、ミケさんはそれを見越して予定を立てていたはず。三毛猫のミケさんに頼めば、猫を飼いたい人の家に最適の猫を送りこんでくれるのだ。
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文庫版p.186


 猫、飼いたい、でも、色々と事情もあって。そんな悩みを察知されるや、たちまち舞い込んでくる猫との良縁。そんな猫飼いあるある現象の背後では、NNNなる謎の猫組織が暗躍しているのでした。飼い主と飼い猫の出会いを描く五つの物語を収録した短篇集。文庫版(角川春樹事務所)出版は2017年10月です。


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猫好きや猫を飼いたいと思っている人、あるいはNNNが優良飼い主と認めた人のところへ猫(一匹、ないしは複数)を派遣し、一生世話をさせ猫の下僕として生きるよう画策する、と言われている秘密組織――らしいです。秘密というか、謎の組織。実在するかもわからない。
「猫が飼いたいなあ」などと口にすると、即座にロックオンされ、子猫等が送り込まれてくる――とのことですよ。冒頭でも書きましたけれど、私の創作ではないですよ!
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文庫版p.217


 というわけで、猫好きのあいだで話題にのぼる謎の組織NNN(ねこねこネットワーク)の暗躍を扱った国際謀略サスペンスシリーズ、ではなくて、猫を飼いたいと思っている人のところに猫がやってくる連作です。人の視点、猫の視点、ときどき切り替えながら語られてゆく五つの物語。猫飼いの読者はもちろん魅了されますが、それほど猫に興味がない方でも、読めばきっと猫を飼いたいと思うはず。

[収録作品]

『第一話 猫だけが知っている』
『第二話 かぎしっぽの幸せ』
『第三話 カフェ・キャットニップ』
『第四話 猫は行方不明』
『第五話 猫運のない女』


『第一話 猫だけが知っている』
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 そうなると、ひたすら縁を待つしかないのだろうか。「公園に捨てられていたので拾いました」とか「近所で生まれたのでもらいました」なんてネットでは読むが、そんなこと自分の周辺に起こったことも聞いたこともない。人の家の猫がどのようにしてやってきたかなんて、興味もなかったからなあ。
 俺には、猫縁がないのだろうか。
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文庫版p.40

 家族を失い、寂しい思いをしている青年。一人住まいの部屋でふと「寂しいな」と声を出してしまう。それを見逃すことなくチェックしていた三毛猫。まずは素行調査から。


『第二話 かぎしっぽの幸せ』
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 あたしと唯斗は、もう会えないのかもしれない。きっと唯斗は、大きくなったあたしを見ても、気づかないだろう。たまに抱っこしただけの猫なんて、人間はすぐに忘れる。だって、猫はみんなかわいいから。どの子だってかわいいんだから。そんなこと、猫ならみんな知ってる。
――――
文庫版p.91

 人間に飼われたい。そう思ったかぎしっぽの「あたし」は、世話役である三毛猫に相談する。だが彼女が気に入った相手は、事情があって猫を飼うどころではない様子。やっぱり縁がないのだろうか。三毛猫は色々と手配をしてくれるのだが……。ロマンス小説きました。


『第三話 カフェ・キャットニップ』
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このカフェに通うようになって、何匹か引き取られていった報告を猫部屋やショップコーナーで目にしたが、みんな子猫だった。子猫を欲しがる人の方が圧倒的に多いのだ。
 引き取られていく子猫たちを見て、あのソマリたちはどう思っているんだろうか。すでに仕事も引退し、隠居生活をしている自分が、時折なんとなく取り残されたような、申し訳ないような気分になることと、似ているんだろうか……。
――――
文庫版p.121

 もう老齢なので猫を飼うのは無理、でもせめて見たい。そう思って保護猫カフェに通う高齢女性。そこで見つけた仲のよい二匹の老猫ペアを引き取りたいと思うが、最後まで責任を持って飼えるかどうか分からない。けっこう深刻な悩みに、猫カフェの親切なマスター(山崎さんではありません)が相談に乗ってくれる。猫カフェを舞台に、猫の保護活動を行う人間と、猫の保護活動を行う猫の、暗黙の連携プレーが描かれます。


『第四話 猫は行方不明』
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「朝早く起こされるし、一緒に寝たがるから、夜もちゃんと寝るようになって……。ヒマだから、ゴミを片づけて……毛がたくさん抜けるから、掃除もしたんです」
 ポツポツと莉緒は続ける。
「そしたら、あたし、今まで何してたんだろう、と思って」
――――
文庫版p.174

 謎めいた三毛猫に導かれて辿り着いた家には、部屋に引きこもっている娘がいるようだった。しかし、いったい、どうしろというのか、この三毛猫は。いつもは強引に子猫を送り込んでくる三毛猫が、今回は子猫の救出作戦。そのためなら猫だけじゃなくて人間もばしばし使いますよ。


『第五話 猫運のない女』
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 その時まで弓絵は、自分に「猫運」がないのだと思っていた。ペット可の賃貸に入れる余裕も、もちろんペットショップで猫を買う余裕もなく、それを打破するような出来事、たとえば猫を拾ってしまうとか、知り合いからどうしてももらってほしいと言われるとか、そういうこともなく、猫と自分の人生は交わらないくらい縁のないことなんだな、と考えていた。
――――
文庫版p.183

 猫を飼いたいと思ってから40年。ようやく念願の持ち家を建てて、さあ猫を飼うぞと思ったところ、なぜか夫が反対。猫好きのはずなのになんで? さすがの三毛猫も、この事態は予想していなかった。猫運も、猫縁も、作るもの。三毛猫は各方面に依頼して聞き込み調査を開始したが……。


 ちなみに第四話などに登場する保護シェルター兼猫カフェや、高齢者向け猫飼い支援サービスなどは、実際にあります。例えば、東京キャットガーディアンの取り組みを扱った本の紹介はこちら。

  2015年12月21日の日記
  『猫を助ける仕事 保護猫カフェ、猫付きシェアハウス』(山本葉子、松村徹)
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-12-21


タグ:矢崎存美
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