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『未確認動物UMAを科学する モンスターはなぜ目撃され続けるのか』(ダニエル・ロクストン、ドナルド・R・プロセロ、松浦俊輔:翻訳) [読書(オカルト)]


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ロクストンとプロセロの二人で、未確認動物学について、狭くは懐疑論の文献、広くは科学の文献の歴史にしかるべき位置を占めるような、これまでで最も重要な成果と言ってもいいものを書いている。本書は現代の未確認動物学に関する決定版となる本である。
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単行本p.9


 イエティとナチス、ネッシーと『キングコング』、シーサーペントの図像学、モケーレ・ムベムベと創造主義など、類書とは一味違った興味深い論点を織り込みながら、未確認動物UMAについて懐疑的に検証してゆく一冊。単行本(化学同人)出版は2016年5月です。


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子どもの頃の私には、答えは明らかに見えた。海の怪獣だ。そして私はそれを捕まえようと思った。
 何年もの間、そのことだけを夢に見ていた。怪獣狩りの道具のカタログをあさった。将来のキャドボロサウルス探索隊のロゴも考えた。地元の図書館で、ネス湖現象調査局へ手紙を書く手伝いもしてもらった。そして今日、奇妙なことに、実際に怪獣を調べる立場の仕事をしている(懐疑的にだが)。
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単行本p.256


 ビッグフットやネッシーなどの未確認動物、いわゆるUMAについての検証本です。対象動物についての伝承史、目撃証言、映像などの証拠について詳しく調べてゆくと共に、未確認動物学そのもの、その支持者、その社会的影響についても論じられます。個人的には、宗教運動、図像学、映画、サブカル社会学など、意外なものがUMAに深い関係を持っているという指摘に感銘を受けました。

 全体は7つの章から構成されています。


「1.未確認動物学 本物の科学か疑似科学か」
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 今なお毎年それほどの動物が発見されているのなら、なぜビッグフットやネッシーの研究が「境界(フリンジ)科学」扱いされるのだろう。科学に新しく知られた動物と未確認動物との間には、伝承的な要素を措いても、重要な違いがある」
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単行本p.42

 最初に、科学とは何か、科学的手法とは何かを概説し、未確認動物学がなぜ「まともな」科学として扱われないのかを説明します。さらに未確認動物学が抱えている一般的な課題(生物学、生態学、地質学、そして古生物学がすでに明らかにしている知見との深刻な矛盾)をまとめます。


「2.ビッグフット あるいは伝説のサスクワッチ」
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 支持派は死骸がないことがこの分野の問題の中心だということを承知している。この問題は日がたつごとに深刻になる。サスクワッチ時代が始まった頃なら、懐疑派にもうちょっと待ってくれと言っても通じた。(中略)しかし何十年も待ったが空しい(また何十万ドルという報奨が求められることもない)となると、ビッグフッターは、アラスカヒグマほどの大きさがあると考えられる種の動物の居場所をまだ特定できていない理由を説明しなければならない。
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単行本p.109、110

 ビッグフット(サスクワッチ)の主要な目撃談をとりあげ、また足跡や毛、写真や動画など、様々な「証拠」について、その信憑性を確かめてゆきます。見間違いや捏造といった未確認動物学につきものの問題についても、ここで詳しく解説されます。


「3.イエティ 「雪男」」
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 ほぼ10年にわたる中国によるチベットの閉鎖のせいで、イエティの証拠探しのためにこの地方へ行くのは難しかった。1960年以前におこなわれた様々な遠征は何も見つけていなかった。チベットの僧院にあった「イエティの頭皮」なるものはシーローの皮だったし、「イエティの手」は人間の手だった。「イエティの糞」や毛は、既知の動物のもので、「イエティの通った跡」はやはり説得力がなかった。
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単行本p.155

 イエティ(雪男)探索の歴史を追い、有名な足跡写真や頭皮などの「証拠」を検証してゆきます。


「4.ネッシー ネス湖の怪獣」
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 80年にわたり、まじめな研究者が資金、評判、長年の労力を、ネス湖の深みに投じてきた。しかしそれがいる徴候はまったくない。この結果はどうしようもない。注入された科学と技術のすべてをもってしても、ネッシーは魔法の産物だ――スコットランドのケルピー伝承とハリウッド映画の魔法による。
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単行本p.251

 目撃談とその姿の変遷、主要な映像証拠、大規模な科学調査プロジェクトの結果など、ネッシー探査の歴史を明らかにしてゆきます。ネッシー伝説は、映画『キングコング』の恐竜登場シーンから直接生まれた可能性が高い、という興味深い指摘も。


「5.シーサーペントの進化 海馬からキャドボロサウルスへ」
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この二つの主なシーサーペントがどれほど劇的に異なっていても、世界中の海と怪獣のいる湖全体で互いに簡単に入れ替わる。目撃者はその場その場で、自由に文化的に使えるひな形を好きなように利用する。その結果、報告と再構成がきりなく入り交じった怪獣をもたらす。(中略)プレシオサウルスが優勢になるニッチもあれば(ネス湖の怪獣の場合のように)、海馬型のサーペントが突出する怪獣として現れることもある(キャディがそう)。しかし真相は、シーサーペントは形を変えるということだ。どうしてそうなれないことがあろうか。シーサーペントは要するに、自然の産物ではなく、文化の産物なのだ。
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単行本p.319、361

 海の怪物はどのように描かれてきたのか、その図像学が詳しく紹介されます。海馬のイメージと古生物学が明らかにしたプレシオサウルス(首長竜)の復元図が、文化的に混淆してシーサーペント(大海蛇)を形作ってきた歴史、そして誤認と捏造といういつもの問題が、詳しく解説されます。


「6.モケーレ・ムベムベ コンゴの恐竜」
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その存在には、思想的あるいは教義的に重要な結果があるということだ。何らかの理由で、創造主義者はアフリカで恐竜が発見されれば、進化論がすべて成り立たなくなると信じている。(中略)つまり、モケーレ・ムベムベ探しはただ未確認動物を探すことではなく、創造主義者が進化論を覆し、科学の教えを可能などんな手段によっても崩そうとする試みの一部である。
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単行本p.408

 アフリカ大陸、コンゴの湖に棲息するというモケーレ・ムベムベ。その探査活動の実態と、背後にある創造主義者による進化論否定の試みについて論じます。


「7.人はなぜモンスターを信じるのか 未確認動物学の複雑さ」
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 本書の著者二人は、未確認動物を信じること、その熱意の正味の影響の評価については立場が分かれている。ダニエル・ロクストンは未確認動物学に対してかなり共感しており、ドナルド・プロセロはそれよりずっと批判的だ。(中略)
 未確認動物学はロクストンが信じるように「ほとんどは無害」だろうか。この点について、プロセロは確信できない。モンスターの謎にどんなロマンチックな魅力があろうと、現実に存在する未確認動物学は、疑問の余地なく疑似科学である。(中略)未確認動物が実在すると広く受け入れるのは、単に時間と資源を無駄にするというより、無知、疑似科学、反科学という一般的な文化の火に油を注ぐことになるかもしれない。
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単行本p.459、463

 未確認動物学の支持者はどのような人々なのか。未確認動物学は社会にどのような影響を与えているか。そして科学者は未確認動物学に対してどのような立場をとるべきなのか。様々な観点から、未確認動物学そのものを評価してゆきます。



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『日本ふしぎ大発見! ミステリー探険』(山口直樹:監修) [読書(オカルト)]

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 私は長い間、日本中のふしぎなもの、なかでもつちのこや妖怪といった、幻の生物や化け物を追いかけてきた。そこで思い出されるのは、出会った多くの人たちがよく知らないにもかかわらず、つちのこや妖怪の存在を、かんたんに否定してしまうことだ。
 ところが、私がさまざまなミステリーについて話し始めると、みな、すぐにおもしろがって質問をするようになる。物事の結果ばかりが重要視されるなかで、はっきりとした答えがない“ふしぎ”は、人の心をひきつけ、夢やロマンをかきたてるのだろう。
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単行本p.8


 未確認動物、妖怪、宇宙人、さらにはキリストの墓から埋蔵金伝説まで。子供のための国産ミステリー入門書。単行本(小学館)出版は2013年12月です。

 いかがわしいオカルト文化を次世代に継承させるために、親戚の小学生男子にプレゼントする予定の子供向けオカルト入門書です。様々な分野への子供向け入門書シリーズ「入門百科+」(小学館)の一冊で、日本におけるミステリーについて紹介してくれます。

 扱われているミステリーは有名なものばかりですが、ケンムン、フゴッペ洞窟の壁画、聖徳太子の地球儀、豊臣秀吉の埋蔵金、など一部しぶいラインナップが光ります。


[もくじ]

第1章 未確認生物を追う!
  ヘビのようななぞの生物 つちのこ
  ネッシーの仲間!? イッシー・クッシー 
  南の島のなぞの怪物!? ケンムン
  日本の獣人 ヒバゴン

第2章 本当にいた? 伝説の化け物
  水辺にすむまぼろしの生物 カッパ
  人間と魚が合体!? 人魚
  昔から語りつがれる怪物 オニ
  家にすみつくなぞの子ども!? ざしきわらし

第3章 宇宙からの来訪者
  地球外からやってくる!? UFOと宇宙人
  なぜかよく目撃される!? UFOの町
  古代に作られたなぞの人形 遮光器土偶
  翼のある人!? フゴッペどうくつの壁画

第4章 おどろきの遺跡・遺物
  日本にもあった!? ピラミッド
  なぜ日本にある!? キリストの墓
  1400年前に作られた!? 聖徳太子の地球儀
  海底にある石の神殿!? 与那国島の海底遺跡

第5章 言い伝えのなぞを解け!
  お宝、大金がざっくざく! 埋蔵金伝説
  1000年前にあった日本一高い建物!? 空中神殿
  死後1000年経ってもまだ恐ろしい!? 将門の呪い
  最新ミステリーレポート 首相の家にお化けが出る? 首相公邸の幽霊


 子ども向けなので記述はあっさりしていますが、ときどき変に詳しいところを紹介してくるのが個人的にツボ。例えば、全国の「つちのこ懸賞金」リストとか。カッパ捕獲許可証の写真とか。石川県羽咋市のあちこちにあるUFOオブジェを「街灯にUFO!」「時計にUFO!」などと写真入りで紹介したり。

 埋蔵金の項目では、徳川埋蔵金、豊臣秀吉の埋蔵金、武田信玄の埋蔵金、源義経の埋蔵金、天草四郎の秘宝、キャプテン・キッドが鹿児島県に隠した秘宝、と並べてみたり。なぜか日本に墓のある世界の偉人ということで、シャカの墓、モーゼの墓、楊貴妃の墓、徐福の墓、ソロモン王の墓、と写真を並べてみせたり。寂れたテーマパーク感がすごい。

 ちなみに小学館の入門シリーズなので教育的配慮はきちんとしています。例えば、巻末には「ミステリー“真相”ファイル」として否定的・懐疑的な主張がまとめられており、子供が鵜呑みにしすぎないよう気を配っていたり。謎や不思議について考えたり調べたりすることで「動物と自然への興味はより広がり、深まってゆくのだ」(単行本p.165)と、教育効果を強調したり。

 というわけで、学研のひみつシリーズと共に、子供に安心して与えることができます。両方セットにしてプレゼントするとよいでしょう。ちなみに学研のひみつシリーズ読了時の紹介はこちら。


  2014年07月28日の日記
  『いる?いない?のひみつ(学研まんが新ひみつシリーズ39)』(並木伸一郎:監修、こざきゆう:構成、おがたたかはる:まんが)
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2014-07-28




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『「超」怖い話 丙(ひのえ)』(松村進吉) [読書(オカルト)]

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 やせ細った黒猫は書斎のケージの隅で力なくうずくまり、それでも私が腕を入れると、骨ばった顔をこすりつけて最後の時を惜しんでいた。
 そのまま三日、四日と猫はケージの中にいた。私は本書の原稿がひとつ書きあがるたびに腕を突っ込み、硬い顔を撫でた。
 そして五日目、あと何話かで原稿が仕上がるという頃。私が台所でコーヒーを淹れようと書斎を出た。そのたった数分の間に、黒猫はケージの中で息を引き取っていた。
 私は愕然として骨と皮だけになった身体を抱いた。
 こいつは臨終を見せまいとしたのだ、としか思えなかった。
 私が茶虎の死で、あんなに悲しんだから。
 もう人間の涙を見たくなかったのだ。
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文庫版p.5


 松村進吉さんによる実話怪談シリーズ最新作。文庫版(竹書房)出版は2016年8月です。
 『セメント怪談稼業』を読んで大いに感銘を受け、個人的に苦手な(だって怖いから)実話怪談本も、この人が書いたものだけは読むようにしています。ちなみに『セメント怪談稼業』単行本読了時の紹介はこちら。


  2015年04月09日の日記
  『セメント怪談稼業』(松村進吉)
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-04-09


 最新作である本書の「まえがき」では、飼い猫のうち茶虎と黒猫が死んだときのことが書かれており、『セメント怪談稼業』の読者として涙を禁じ得ません。


 さて、本書には、まだ名前のついていない、キャラクター化される前の「妖怪」に遭遇した話がいくつも収録されているのが印象的です。

 まずは、背後から追いかけられる系。追いかけてくるのは、服とかトイレットペーパーとか。


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 さっきまでぱたぱたぱたぱた、とずっと近くで聞こえていた音は、もうしてない。
 つまりあの音は――あの、ワンピースの音だったのではないか。
 町内に入って以降、ずっとあの服が。
 私の頭上のすぐ後ろを飛んで、ついて来ていたということでは。
 怯えるあまり、池田さんは涙を滲ませながら真っ黒な住宅地を走り抜けた。
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文庫版p.172


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 その後、数分でそのトイレットペーパーは芯まで転がり切り、そこで突然命を失ったようになってハラリと風に巻かれ、民家のブロック塀にまとわりついた。
 混乱していた永瀬さんはとりあえずひと安心した。
 これが、マンションまで届く長さでなくて良かった。
 シングルロールではなく、ダブルだったのかも知れない。
 永瀬さんもダブル派である。
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文庫版p.139


 空飛ぶワンピース。転がるトイレットペーパー。妖怪に追いかけられるという恐怖体験なのに、意外におちゃめな雰囲気も。特に、ほどけきって息絶えるトイレットペーパーには愛嬌のようなものさえ感じます。「永瀬さんもダブル派である」という、怪談としてうっかり踏み外してしまったような一文も魅力的。

 続いて、天井から降りてくる妖怪。これは怖いです。


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「怖かったですよ、こっちは本当に命懸けなんですから。大体そんな、物心ついたばっかりの子供が生きるか死ぬかのやり取りなんて、普通しないじゃないですか」(中略)
 それは一体何の話か、と訊くと「じゃんけんですよ」とのこと。
「当時住んでいた借家にはね、夜、布団に入ると――僕とじゃんけんをしに、天上から降りてくる奴がいたんです」
――――
文庫版p.55


――――
 当たり前だが、天井に人が出入りできる穴などない。
 そもそもその男は、垂直に二メートル以上もジャンプして姿を消している。
 住み続けられる訳がなかった。
 数ギガバイトにおよぶ長い動画は、「持っていると新しい部屋にも追いかけてくる気がして」即座に、削除してしまったという。
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文庫版p.115


 前者は、子供の頃、天井からぶら下がって降りてきたやつと命がけのジャンケン勝負をしていたという話。後者は、留守中に小物が紛失するのを不審に思って室内に監視カメラを仕掛けて録画したところ、天井から黒いやつが落ちてくるシーンがはっきり映っていたという話。現代でもやっぱり天井からさがってくる妖怪は健在なんだ。

 さらには、こっそり室内に入ってくる妖怪。


――――
 羽根のあるガンダムと、銃器を抱えた青いガンダムの間。
 そこに、見慣れない人形があった。
 明らかにプラモデルではない。まるで紙粘土を適当にこねてつくったような、雑な体型の人形である。
(中略)
 出し抜けに人形がバッ、と彼女の視線から逃げるように走り出した。
 「ひッ、ひいッ……?」
 仰天して身を引くと、人形は棚の上からポンと飛び、ボテッと音を立てて床に落ちた。
 まるで発狂した猫のように、ガッガッガッガッ、と恐ろしい勢いで部屋の引き戸を押し広げたかと思うと、その僅かに出来た隙間に体を捩じ込む。
 そしてそのまま――トタタタタタタッ、と廊下を走って行ってしまった。
――――
文庫版p.84


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(いやだ、いやだ……! 怖い! 怖い!)
 続いて彼女が思ったのは、「恐怖」からの連想で、常日頃お姉さんによって頭に刷り込まれた、「一九九九年、ノストラダムスの大予言」であった。(中略)
(いやだ……。お願いです。どうか人類を滅ぼさないでください。一九九九年になっても、何もしないでください)(中略)
 とんでもない発想のようだが彼女は至って真剣、命がけの祈りだった。
 額にはびっしりと玉の汗が浮き、瞬きもせずにカマキリ人間を注視する。
 すると――その、赤く小さな逆三角形の顔がコクリ、と小さく頷いたように、彼女には見えた。

「……で、そのあとすぐにクルッて反対を向いて、また網戸から出て行ったんです」
 あのようなものを見たのは後にも先にも、あの夏の日だけだったと小林さんは云う。
 あなたはそうやってこの話を笑うが、自分は本当に怖ろしかったのだ、と。

 大方の予想どおり、人類は滅びることなく世紀を跨いだ。
――――
文庫版p.162


 こっそりガンプラに混じって立っていて、見つかると必死で逃げる生き人形も変に可愛いのですが、何といっても本書のハイライトは「ノストラダムスの大予言を外して下さいと子供から真剣にお願いされ、仕方なく頷いて、ちゃんと約束を守ったカマキリ型宇宙人」ではないでしょうか。カマキリ型宇宙人(インセクトイド、あるいはマンティスマン)は目撃例も多く、凶暴だとされていますが、意外と義理堅いというか、押しに弱いタイプなのかも知れません。それにしても「あなたはそうやってこの話を笑うが」というライブ感あふれる一言に思わず吹き出してしまいました。

 他にも、ニンゲンからポケモンまで、今も妖怪は跳梁跋扈しているようです。


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 腕だけしかないそれは、肘のところで樹木のように枝分かれし、ふたつの手へと続いている。丁度、アルファベットのYの形である。
 それらの都合十本の指が、スクリュー基部の太い鉄の筒をがっしりつかんでいる。
 根本は、浜に晒された古い水死体のように、血の気のない肉と骨の断面。
 なんだこれは。本当に死体なのか。
 いや、本当に「人間の」死体なのか。
――――
文庫版p.97


――――
「……タッちゃんはポケモン見たことある?」
 ふいに、それまでのはしゃいだ様子とは違った神妙な口調で訊ねる甥。
 その視線は少し離れたところに座る、自分の両親達の様子を窺っている。
「ポケモン? ああ、そりゃあ何回かは、お前と一緒に見たじゃないか。映画も連れてってやったろ」
「ううん、テレビとかじゃなくて――ここで」
「……ここで?」
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文庫版p.156


 後者は「神社の境内にポケモンがいた」という話なんですが、書かれた時点では怪談だったろうに、ポケモンGOが大ヒットした今となってはごくありふれた会話にしか思えないという、世の変化がいちばん怖い。



タグ:松村進吉
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『怪獣記』(高野秀行) [読書(オカルト)]


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 十八年前のコンゴの怪獣探査以来、これまでいろんな未知動物を探してきたが、自分が“目撃者”になったのは初めてであった。
「何だろう?」
「何でしょうね」
 私は笑いながら今度は末澤と同じ会話を繰り返した。末澤もやっぱりへらへらと笑っている。
「何だろう」という以外に言葉がない。そして、なんだか妙におかしくて笑ってしまう。
 あー、これが当事者の感覚なのかと私は口元が緩んだまま思った。
(中略)
 どうしてこう目撃証言が曖昧なんだろうとよく思っていたが、実際に今自分が目の前にしているもの、それを言葉で表現することができない。曲がりなりにも言語表現で飯を食っている人間なのにだ。
(中略)
 今私たちが見ているものは、巨大UMAかどうかは別として、ジャナワールの「正体」である可能性が高いなと私は思った。
――――
Kindle版No.2194、2201、2211


 トルコのワン湖に棲息するとされる謎の怪獣、ジャナワール(ジャノ)。その真実を求めて現地に向かった辺境作家を待っていた驚愕の事件。UMA探しの顛末を詳細に描いた興奮のノンフィクション。単行本(講談社)出版は2007年7月、文庫版出版は2010年8月、Kindle版配信は2016年5月です。


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 UMAというのは一種の病気であり、感染力は強い。近くに強力な症状を発症している患者がいると、「そんなもんにかかってなるものか」という自分の意志とは関係なく、罹患することがある。
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Kindle版No.87


 UMA好きの知人から、トルコの湖に謎の巨大怪獣「ジャナワール」が棲んでいる、映像もある、と聞いた高野秀行氏。どうせインチキだろうと思いつつ、念のため調査しているうちに出くわした一冊の本。これがヤバかった。


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 仰天である。今までいろいろなUMA関係の資料にあたってきたが、目撃者の顔写真と氏名・年齢・住所・職業・電話番号まで掲載されたものなんて見たことがない。
 未知動物業界は曖昧さのうえにかろうじて成り立っているので、他の人間がそれを調べようとしてもできないように仕組まれている場合が多い。映像資料も写真も目撃談も、目撃者の身元はもちろんのこと、参考文献や出典すら明記されておらず、「~らしい」「~だという」の連発。それが「ヤラセ」を横行させる温床となっている。
 しかし、この本はフェイクじゃないと私は確信した。その証言内容はまだわからないが、この本とそれを書いた人は真剣であり、純粋な人であることは疑いようがない。
 だとすると……。
 私の心臓は今はじめて動き出したかのようにバクンバクンと音を立てた。
――――
Kindle版No.213


 「未知動物業界は曖昧さのうえにかろうじて成り立っている」などと斜に構えたようなことを口にしながら、いきなり「この本はフェイクじゃない。疑いようがない」などと口走って、心臓バクンバクンさせながら、そのままトルコに飛んでいってしまう。さすがは高野さん。

 しかし、現地でのジャナワールの扱いはこうでした。


――――
 イスタンブールに着いてから、「ジャナワールを探しに来た」というと、ホテルでも旅行代理店でも、どこでも大笑いされている。ジャナが本場トルコではお笑いのネタにすぎないというのが悲しい
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Kindle版No.724


 ひるまずに探索を続ける高野さんは、ついにジャノを撮影したという有名な「コザック・ビデオ」の真相に迫ります。それは、……どうしようもなくしょぼい真相でした。


――――
 我ながら意外なことに、有名なコザック・ビデオのフェイクを確認した時点で、私は日本にいたときより、俄然ジャナに関心を持ち始めていた。
 政治やヤラセという何重もの覆いをすべて排除したらジャナはどんな姿を見せるのか。それとも残りは何もないのか。
 今、ちゃんとした情報を握り、客観的にジャナを調査できる人間は世界でたったひとりしかいない。
 もちろん私だ。やっと出番が来たという気すらする。
 ジャナは今まさに既知の未知動物から未知の未知動物になったのだ。
――――
Kindle版No.973


 ほぼ唯一の証拠といえるビデオがフェイクだと判明した時点で肩を落として帰国するのが普通だと思うのですが、そこでなぜか発奮して「ジャナは今まさに既知の未知動物から未知の未知動物になったのだ」と、意味はいまひとつよく分からないものの力強く宣言して、さあ、そこから精力的に聞き取り調査を開始しますよ。何日もかけて湖を一周しながら目撃証言を集めるのです。ここからが本領発揮だ!


――――
私たちに対するこの辺の人たちの温かさは素晴らしいものがある。顔をあわせれば必ず声をかけてくれるし、お茶屋に行けば、勘定をとらない。いい年して酔狂なことに邁進している私たちを、バカにもしない。いや、しているのかもしれないが、態度には出さない。にこやかに見守っている。
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Kindle版No.1476


 現地の人々の温かさ、風景の美しさ、料理の美味しさ。クルド問題とトルコの政治状況。様々な話題が次から次へと書かれ、旅行記としても大満足の出来栄え。しかしながらジャナワールに関する決定的な証言は得られないまま湖を一周。こうしてUMA探しの旅も終わりが近づきます。


――――
 小一時間して私たちは立ち上がり、彼らと握手した。最初とは見違えるほどにこやかで「また調査に来ていただきたい」と言われた。
 また、はないだろう。これで「調査」は終了なのだから。
 ワン湖のジャナワール、それは伝説だった。世界でも稀なこの特殊な湖が生み出した幻だった。
 そう結論づけた私は、何かやり遂げた充足感と心地よい疲労を感じながら、村をあとにした。
 まさかその数十分後に大騒動が勃発するとは夢にも思わずに。
――――
Kindle版No.2124


 突然、湖を指差して叫ぶカメラマン。

「あ、何か黒いものがいる! あれ、なんだ!?」(Kindle版No.2151)

 なにその典型的なセリフ。いや、え、マジですか?


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 正体不明なものを見ると興奮せずに困ってしまう。これは発見だった。
 困惑しているから、みんなでへらへらするしかないのだ。
 正体が巨大UMAだと確信しているイヒサンだけが興奮していたのも、それを逆の意味で証明している。
 物体が遠くに、しかも水のなかにいるというのも困惑の要因だ。とりあえず向こうがこちらに害を与えることもないし、私たちが向こうを追いかけたり捕まえたりできるわけでもない。
 そんな思考を巡らせている私をあざ笑うかのように、いくつものバカでかいものが浮いたり沈んだりを繰り返している。
 なにか、「陽気な無力感」というものを感じる。「これをあとで人に訊かれても困るな……」と私はぼんやり思った。
 今まで目撃談が切迫してないとか情熱がないとか言いたい放題だったが、今になって「そりゃそうだ」とわかる。なにしろ、目の前で見ているときですら困惑しているのだ。それをあとで他人に説明したらますます困惑するに決まっている。ただ不思議なものというのは、切迫とか情熱という感情とは無縁なのである。
 私たちはこうして二十分ほど目撃を続けるというか眺めていた。
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Kindle版No.2228


 そして、ここが凄いのですが、高野さんは現場に行って潜ってみるのです。巨大な何かを目撃した、まさにその場所で、ただ一人、おもちゃのボートに乗って。


――――
私は沖合をどんどん進んでいく。
 風景も変わってきた。雑音が消え、静けさが増す。両側には反射で銀色にみえる岩山。前はただただ水。それが西日を受けて、黄金色に輝いていた。ときどきすーっと一陣の風が吹き、止む。
 なんだか「もっていかれそうな」気分だ。
 そのなかをひとり、ほとんどすっ裸の私は幼児用ボートでただひたすら前進していく。
 何の因果かわからないが、こんなところでこんなことをやっている自分がいる。それは奇妙な幸福感に満ちていた。自分はなんと自由なんだろうと思った。
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Kindle版No.2598


 幸福とは、自由とは、こういうことだ。ちょっとだけうらやましいけど、真似できそうにありません。というか潜るシーンなど読んでるだけで怖い。

 というわけで、UMA探しの旅で本当に何か目撃してビデオ撮影までしちゃったという希有な体験。UMA好きの夢をまんまかなえてしまったようなノンフィクションです。異色のトルコ旅行記として読んでも素晴らしい。

 ちなみに、ウィキペディアで「ジャノ」を調べると、本件についてちゃんと書かれていました。


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2006年、日本の作家・UMA研究家の高野秀行が、コザックの発見を追跡調査中にヴァン湖でジャノの撮影に成功、上記諸事情を含めた一部始終を著書「怪獣記」で公表した。
高野の撮影したジャノは生物と言うには大きすぎ、かつ「潮を噴きながら浮き沈みするだけ」という生物らしからぬもので、映像を鑑定した専門家は「湖底から噴出するガスが湖底の泥を膨張させて泡状に押し上げる時、泥泡から漏れ出すガスが「潮噴き」に見えているのではないか」という意見を述べている。
――――
ウィキペディア日本語版「ジャノ」より(2016年7月20日時点)



タグ:高野秀行
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『映画で読み解く「都市伝説」』(ASIOS) [読書(オカルト)]


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 映画と超常現象――すぐには結びつかないかもしれません。ですが、ちょっと考えてみますと映画の題材として使われている事件や人物などには、オカルトの世界で昔から有名なものや流行になったものなどが使われている場合がけっこうあります。(中略)そこで映画を入口に、題材となった超常現象事例を解説していく本書がつくられることになりました。
――――
単行本p.2


 「実話を基にした」あのホラー映画、このオカルト映画。その“実話”って、実際どうなの? ASIOS (Association for Skeptical Investigation of Supernatural : 超常現象の懐疑的調査のための会)が映画にまつわる都市伝説や元ネタ、怪しい噂など徹底検証。映画ファンもトリビア集として楽しめる一冊が、何と映画秘宝COLLECTIONから登場。「映画秘宝」が推すのは、デップーやハーレイだけではなかった!
 単行本(洋泉社)出版は、2016年6月です。


 おなじみASIOSの謎解き本、その最新刊は「映画」にまつわるあれこれ。あまりオカルトや超常現象などに詳しくない映画ファンを読者として想定しているらしく、これまでのASIOS本でも何度か扱われた定番のような話題も再登場します。もちろん随所に新しいネタも織り込んでありますし、映画に詳しくない読者にとっては「変な映画」入門として楽しめるでしょう。

 個人的に印象深かったのは、「ディアトロフ峠事件」や「貞子のモデルとなった高橋貞子の生涯」を紹介してくれる本城達也さん、「謎の怪光を見て、ついでにエイリアンに誘拐されてみようと、実際にブラウン山に行ってみた」という加門正一さん、いつまでもUFOロア大好き秋月朗芳さん、そして宇宙開発の専門家の立場から宇宙映画にツッコミを入れる寺薗淳也さん、などです。


[目次]

第1章 本当にあった「怖い事件」

  『ディアトロ・インシデント』
  『悪魔の棲む家』
  『エクソシスト』
  コラム「EVP」
  コラム「「キリスト教」の多大なる影響下にあるアメリカ社会」

第2章 「超能力」と「古代文明」

  『ヤギと男と男と壁と』
  『リング』
  『エリア0』
  『ノア 約束の舟』
  『ピラミッド 5000年の嘘』

第3章 「呪い」と「心霊現象」

  出演者やスタッフたちに襲いかかる呪い
    『スーパーマン』
    『ポルターガイスト1・2・3』
    『プロフェシー』
    『アトゥック』
  場面に映りこんだ心霊現象
    『the EYE』
    『青木ヶ原』
    『感染』
    『着信アリ』
    『サスペリア』

第4章 妖しき「陰謀」の世界

  『エージェント・ウルトラ』
  『ジェイコブズ・ラダー』
  『カプリコン・1』
  『アポロ18』
  『ダ・ヴィンチ・コード』
  『人類資金』
  コラム「空を見ろ! アリだ! カマキリだ!」

第5章 「UFO」と「宇宙人」

  『インデペンデンス・デイ』
  『V』
  『アイアン・スカイ』
  『MIB』
  『コンタクト』
  『フォース・カインド』
  『2001年宇宙の旅』
  コラム「宇宙人“グレイ”がついに脱ぐまで」

第6章 遙かなる宇宙

  『ディープ・インパクト』
  『アルマゲドン』
  『ゼロ・グラビティ』
  『オデッセイ』



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