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『できたての地球 生命誕生の条件』(廣瀬敬) [読書(サイエンス)]

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これまでの生命の起源に関する研究には、初期地球の特殊な環境が十分考慮されていませんでした。初期地球環境を考える、たとえば環境中に用意された岩石や鉱物の触媒作用の解明にブレイクスルーがあるだろうと信じています。地球の起源や初期地球環境に関する研究も同じです。地質学でさかのぼれない初期の地球はこれまで想像の域を出ませんでした。しかし、生命の誕生を可能とした条件を考慮することにより、その具体像に迫ることができると考えているのです。
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単行本p.113


 できたての地球、つまり初期地球の環境はどのようなものだったのか。そして生命はどうやって誕生したのか。この二つの難問を合わせて研究することによりブレイクスルーを目指す地球生命研究所の研究活動を、一般向けに紹介してくれる一冊。単行本(岩波書店)出版は2015年5月、Kindle版配信は2017年9月です。

 生命がどのようにして誕生したのかを考えることは、それが可能になるような環境とはどのようなものかを考えること。「生命の誕生」という条件から初期地球の環境を推測し、検証する。東京工業大学地球生命研究所で行われている研究テーマを中心に、初期地球と生命誕生との関係を探る本です。全体は5つの章から構成されています。


「1 四六億年前に何が起きたのか」
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 このように、地球がいま1AUのところにあるからといって、できたときに1AUだったかどうかはわからないのです。そう断言することが、太陽系外惑星が見つかって修正を図られている、理論の見直しが迫られています。かたや中心星に飲み込まれないようにするためには、回転の各運動量を失わせないようにするのが必須ですが、それをどう理論的に説明するか、いま研究の最中にあります。
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単行本p.11

 地球の年齢は46億歳。しかし、その根拠は何だろうか。地球が誕生するまでの過程を探ります。


「2 地球の水はどこから来たのか」
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スノーラインの外側から飛ばされて来た小惑星はたっぷりの氷を含んでいたはずです。それが地球に取り込まれることで、地球の水成分になった、すなわち水は小惑星帯からもたらされたというのが多くの研究者の考えていることです。(中略)多くの水がマグマに溶け込んだおかげで、なんと地球の内部には、現在の海洋の何十倍もの水(正確にいえば、その成分である水素も含めた量)が含まれているようです。
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単行本p.17

 太陽からの距離2.7AUに位置する境界線、スノーライン。このラインの内側では、氷は生成されないことが明らかになっている。つまり、出来たばかりの地球には水はほとんど存在しなかった。では、生命誕生に不可欠な水は、いったいどこからやってきたのだろうか。地球を満たす水の起源に迫ります。


「3 地球コアが地球の起源を解くカギ」
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 地球にあとから運ばれてきたのは、水だけではありません。生命の起源との関係でいえば、炭素や窒素が重要です。スノーラインの向こうで、水蒸気が氷として凝縮したように、炭素も有機物として、また窒素もアンモニア氷などとして小惑星に取り込まれたと考えられます。できたての地球には、水のみならず、炭素や窒素ももたらされたはずです。
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単行本p.64

 生命を支える物質である炭素や窒素は、いつどのようにして地球にもたらされたのか。それらは、地球内部を含め、どのように取り込まれたのか。生命誕生の前提となる物質的環境がどのようにして出来上がっていったのかを探ります。


「4 生命が生まれる場とはなにか」
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 なにも証拠らしい証拠が残っていない初期地球でどんな代謝をしていたのかを考えるのは容易ではありません。しかし、地球生命研究所でいま取り組んでいるのは、代謝のなかでも、生化学で解糖系といわれるクエン酸回路の逆回しのようなものです。
(中略)
 なぜクエン酸回路の逆回しに注目しているかというと、面白いことに、その途中途中でできてくる産物が、生命に必須のパーツになるためです。たとえば脂質や、アミノ酸、ヌクレオチドなどの前駆物質ができてきます。(中略)つまり、このクエン酸回路の逆回しが、できて間もない地球上に反応システムとして存在していれば、生体必須分子をどんどん作ってくれるので、生命の誕生にはとても都合がいいのです。
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単行本p.76

 最初の生命はどのような場所、どのような環境で誕生したのか。初期地球の環境を使って機能する「生命の部品となる物質を持続的に供給する化学反応システム」という、生命誕生の前段階となる代謝を探る研究を紹介します。


「5 生命誕生の条件と初期地球」
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 これまで話してきたように、現在の地球にはほとんど証拠が残っていないと思われる初期地球のイメージが、少しずつ明らかになってきました。わたしたちは、地質学や惑星科学の観点だけでなく、地球に生命が誕生したという事実を踏まえて、そのためには、どういう初期地球でなければならなかったかという観点で考えようとしています。地球の起源を考慮して生命の起源を考える、また逆に、生命の誕生を可能にする地球の起源を考える、これこそ地球生命研究所の目指すところです。
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単行本p.104

 誕生から進化まで地球環境によってコントロールされてきた生命。逆に生命活動により影響を受けてきた地球環境。そのような相互作用の理解を目指す研究の最前線を紹介します。


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『せつない動物図鑑』(ブルック・バーカー、服部京子:翻訳) [読書(サイエンス)]

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 これは、世界でいちばん孤独なクジラの話。
 1989年、北太平洋でひとりぼっちで歌う、迷子のクジラの音声が観測されました。かれがひとりになった原因は、オンチだったこと。クジラは歌でなかまと会話をするのですが、かれの声は、ほかのクジラよりもずっと高かったのです。いくら歌っても、ほかのクジラは耳をかしません。
 おまけに、オンチのクジラはほかのクジラが通らないルートに迷いこんでおり、ぐうぜんなかまに出会うチャンスもないのです。かれの声はたびたび確認されているものの、そのすがたはまだ、だれも見たことがありません。
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単行本p.159


 味のある著者イラストと共に、様々な動物が持っている特性を「せつない」という観点から紹介する動物図鑑。単行本(ダイヤモンド社)出版は2017年7月、Kindle版配信は2017年7月です。

 著者はオランダ在住の作家、イラストレーター、コピーライター。デビュー作である本書"SAD ANIMAL FACTS"は世界的ベストセラーになったそうです。日本では"SAD ANIMAL FACTS"が出たのと同じ年に『ざんねんないきもの事典』という似たコンセプトの本が出ており、こちらは国内でベストセラーになりました。ちなみに単行本の紹介はこちら。

  2016年11月03日の日記
  『おもしろい!進化のふしぎ ざんねんないきもの事典』(今泉忠明:監修)
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-11-03

 本書は"SAD ANIMAL FACTS"の翻訳版で、ヘタウマ調の味わい深いイラストと共に、子供たちに動物の「せつなさ」を教えてくれる一冊。全体は9つの章から構成されています。

 「1.ちょっとした、せつない告白」では、「ファイアサラマンダはときどき家族を食べる」「アデリーペンギンは、がけからなかまをつき落とす」「チンチラは、一度ぬれたらかわかない」といった、ちょっとした豆知識を教えてくれます。

 「2.できなくて、せつない」では、「シマウマはひとりで寝られない」「エミューはうしろ向きに歩けない」「一匹狼は遠吠えをしない」といった、やりそうでやらない、出来そうでできない、そんな動物の行動について教えてくれます。

 「3.恋は、せつない」では、「カバは好きな子におしっこをかける」「クジャクのオスはモテてるふりをするために鳴く」「オスの子イヌは、メスとのけんかにわざと負ける」といった、動物たちの求愛行動に「せつなさ」を見つけます。

 「4.そのこだわりが、せつない」では、「ハクトウワシは巣を巨大化させすぎて木から落としてしまう」「カモノハシは目をつむって泳ぐ」といった、動物たちの特殊な行動を「こだわり」と見なして紹介します。

 「5.へんてこでせつない」では、「ニュウドウカジカには筋肉がない」「ツチミミズには心臓が5つある」「キツツキは長~い舌が頭がい骨をぐるりとおおっている」といった、動物たちの身体構造の意外な特徴を紹介します。

 「6.すごいけど、せつない」では、「ヤギは正面を向いていても自分のおしりが見えている」「タランチュラは2年間何も食べなくても死なない」「アホウドリは19Km先にある死んだ魚のにおいがかげる」といった、普通なら「すごい」と評価されるような動物たちの能力を、あえて「必死な感じがしてなんかせつない」と見なします。

 「7.おとなになるのは、せつない」では、「ミーアキャットの赤ちゃんは、親から死んだサソリをプレゼントされる」「生まれた瞬間キリンは2m落ちる」「タテゴトアザラシの子どもは氷の上に置いてけぼりにされる」といった、動物たちの誕生や成長に関する豆知識を紹介。

 「8.さみしくて、せつない」では、「キツネは一生朝から晩までずーっとひとりぼっちで過ごす」「オンチなクジラは迷子になる」といった、群れを作らず孤立して生きている動物たちを紹介。

 「9.子育てだって、せつない」では、「フィッシャーのメスが妊娠してないのは1年で15日間だけ」「アブラツノザメは2年間妊娠しっぱなし」「カザノワシは子どもに命がけのけんかをさせる」といった、妊娠出産に関する豆知識を紹介。


 動物たちの特性を何でもかんでも「せつない」と見なしてしまう人間中心的な強引さは気になりますが、動物図鑑ではなく雑学豆知識集だと思えば楽しめます。ちなみに動物たちの絵は学術的に正確なものではなく、あくまで文章に添えられたゆるいイラスト。漢字にはすべてルビが振ってあり、小学生でも問題なく読めると思います。


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『海に沈んだ大陸の謎 最新科学が解き明かす激動の地球史』(佐野貴司) [読書(サイエンス)]

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海山や海洋島のような小規模な高まりとは違い、幅が1000kmを超える広大な海底の台地が西太平洋にはいくつか存在します。これらは「巨大海台」とよばれています。中には高さが3000mを超えるものもあります。
(中略)
 ヌル教授たちは、これら巨大海台の構造や性質が周囲の海洋底とは違うため、大陸の一部であると考えました。かつて南半球に存在した巨大な大陸が分裂し、太平洋に散らばって巨大海台となっていると主張したのです。
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新書版p.23、24


 かつて太平洋に存在し、天変地異により海に沈んだという幻の大陸。ムー大陸は、はたして実在したのだろうか。パシフィカ大陸、ジーランディア大陸など、解明されつつある「海に沈んだ大陸」研究の最新成果を一般向けに紹介するサイエンス本。新書版(講談社)出版は2017年7月、Kindle版配信は2017年7月です。

 太平洋の海底に存在する巨大海台、それはかつて存在した大陸の断片なのか。そもそも大陸とは何か、どのようにして出来たのか。最新の地球科学が明らかにしつつある大陸の姿を解説する一冊です。全体は6つの章から構成されています。


「第1章 ムー大陸は本当にあったのか?」
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 西太平洋の海底に散らばっている巨大海台は、かつて陸であったとしても、個々の面積に注目すると島とよぶしかなく、やはり幻のムー大陸に匹敵するとはいえません。世界最大の島であるグリーンランドよりも大きな巨大海台は存在しないのです。しかし、ヌル教授らが提案したように、太平洋の巨大海台が集合してひとつづきの陸を形成していたとしたら話は別です。すべての巨大海台を合わせた面積は約900万平方キロメートルもあり、これはオーストラリア大陸の面積(769万平方キロメートル)を超えます。
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新書版p.32

 南太平洋に点在する巨大海台はかつて一つの大陸を構成していた、という衝撃的な仮説とその真偽をめぐる議論を紹介します。


「第2章 南太平洋の失われた大陸」
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今世紀に入ってからも、継続的な海洋調査により熱残留磁化データは蓄積され、過去のプレート運動が詳細に復元されつつあります。太平洋の多くの地域で詳細な海底地形の調査も進み、パシフィカ大陸の存在の検証を可能にする材料が集まってきました。
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新書版p.82

 かつて南太平洋に「パシフィカ大陸」が存在した。もしこの仮説が正しいとしたら、どうして大陸は散り散りになって巨大海台と化したのか。大陸移動メカニズム=プレートテクトニクスの基礎から最新情報までを解説します。


「第3章 そもそも大陸とはなにか? その材料と成り立ち」
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地学の世界では、大陸と海洋を区別する基準は海水の有無ではありません。(中略)大陸の一部は標高が0kmよりも低く、海水に覆われていますが、地学の世界では、この部分も大陸とみなします。海底に存在する「大陸棚」という地形をご存じかと思いますが、これが大陸のうちで海水に覆われた部分です。大陸棚も含めた大陸地殻の面積は地球表面の40%にもなり、これは陸の面積の割合である30%を10%も上まっています。
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新書版p.88

 そもそも大陸とは何か、その組成は海底とどのように異なるのか。「海に沈んだ大陸」の存在を検証するために必要な基礎知識を解説します。


「第4章 大陸形成の歴史」
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 それでは、年代とともに大陸がどのように成長していったのかを見てみましょう。図4-6に、著名な4人の研究者たちがそれぞれ提案した大陸の成長史を示しました。
(中略)
 一見しただけで、4つの成長史に大きな違いがあることに気がつきます。地質学の世界では、各研究者の主張がこれだけ大きく異なることはまれです。つまり、大陸の成長史は、地質学において最も解明が進んでいない問題の一つなのです。
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新書版p.146

 大陸はどのように形成されたのか。「地質学において最も解明が進んでいない問題の一つ」である大陸形成史に関する最新情報を解説します。


「第5章 第七の大陸は実在する!」
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 海に沈む複数の大陸の中で「第七の大陸」とよべそうなのは、ニュージーランドを含む「ジーランディア」です。(中略)このジーランディアの面積は、およそ400万平方キロメートルにもなり、世界最大の島であるグリーンランド(217万平方キロメートル)の2倍近い広さがあります。そのため、オーストラリア大陸(769万平方キロメートル)に次ぐ世界7番目の大陸だという地質学者もいます。そこで、今後は「ジーランディア大陸」とよぶことにしましょう。ただし大陸といっても、その大部分は海面下に存在しています。
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新書版p.175

 大部分が海面下にありながら、地質学的に「大陸」であるジーランディア。まさしく海に沈んだ大陸であるジーランディアに関する研究成果を解説します。


「第6章 大陸沈没を超える天変地異」
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 ムー大陸やアトランティス大陸の伝説が広く興味を持たれている理由は、大陸が沈んだという現象よりも、天変地異によって国や文明が滅んだという悲劇をはらんでいるからでしょう。その証拠に、ムー大陸伝説を紹介した本はいずれも、優れた文明が大洪水に襲われて壊滅したという悲劇を克明に記述しています。その一方で、大陸が海に沈むメカニズムについて説明・検証した本はありませんでした。ムー大陸が沈んだメカニズムを地質学的に検証したのは、おそらく本書が最初でしょう。
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新書版p.198

 大陸を沈めるほどの大規模な天変地異。しかし地球がこれまで経験してきた天変地異のスケールは、そんなものではありませんでした。超巨大火山噴火、巨大隕石衝突など、地質学が取り組んできた巨大天変地異に関する研究を解説します。


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『サボり上手な動物たち』(佐藤克文、森阪匡通) [読書(サイエンス)]

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少しずつ見えてきた野生動物の本当の姿は、私たちが抱いている「常に全力投球、ど根性」というイメージに比べると明らかに「サボって」いる。手は抜くし、利用できるものはとことん利用する。そして当然、休むし、寝る。でもそれは効率を上げ、または死ぬ確率を下げるための、やむにやまれぬ選択である。
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単行本p.117


 動物に小型カメラや行動記録計を取りつけて、野生環境における行動を観測するバイオロギング。音響解析によるクジラ類の行動研究。それらが明らかにしたのは、野生動物が周囲の環境を利用して労力を節約する、つまり巧みに「サボる」姿だった。様々な野生動物の生態イメージを刷新するサイエンス本。単行本(岩波書店)出版は2013年2月、Kindle版配信は2017年8月です。


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 動物を調べるための基本的手段は観察だ。一見、観察可能に思える海の中は、実はほとんど見えていなかった。そんな海で暮らしている動物を調べる場合、バイオロギングや音響という特殊なやり方がとても役に立つ。海の動物の暮らしぶりや、驚くべき能力が判明する一方で、「野生動物はいつでも一生懸命」といった、人間の一方的な期待を裏切る結果がいくつも得られた。常に最大能力を発揮しないどころか、同種他個体や他種、あるいは人間に大きく依存して暮らしていたのである。
 そんな野生動物たちの姿は、サボっているようにも見える。しかし、よくよく考えてみれば、このやり方こそ厳しい自然環境で生き抜いていく動物たちの本気の姿なのだ。
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単行本p.109


 バイオロギングとクジラ類の音響分析、それぞれの専門家が一般向けに研究成果を紹介してくれる本。様々な野生動物たちの生態が取り上げられていますが、特に「手を抜くことで効率を上げる」という行動パターンに注目するところが特徴です。全体は5つの章から構成されています。


「1 実は見えない海の中」
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 バイオロギングや音響という新たな手段を得て、これまで「チラ見」しかできなかった海の大型動物を研究対象にできるようになった。そして、バイオロギングや音響という手段は、観察に準ずる隔靴掻痒な手段ではなく、観察を主たる方法として進める研究とは異なる視点をもたらしてくれることもまたわかってきた。
 例えば、バイオロギングによって得られるパラメータとして、加速度がある。観察できない動物の動きを、加速度センサーによって捉え、一秒間に数十データという細かさで記録する。これによって、例えば、泳いでいるときのペンギンやアザラシが、どれだけ一生懸命に翼やひれを動かしているのかがわかる。しかし「動かしていない」こともまたわかるのは「想定外」だった。
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単行本p.17

 通常の方法では観察できない野生動物の海中における行動。それを研究するために開発されてきた技術とその歴史を概説します。そして「観察しようと思っていなかったこともひっくるめて記録してしまう」というバイオロギングの特性から、思わぬ発見が得られることを示します。


「2 他者に依存する海鳥――動物カメラで調べる」
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不思議なのは、深いところに生息している魚種も頻繁に胃の内容物に見つかる点だ。マユグロアホウドリは、その他のアホウドリと同様に細長い翼を持ち、長距離飛翔に特化した形態を持っている。そのため、水中に潜るのはあまり得意ではない。(中略)アホウドリが、どうやって深いところに生息する餌を食べているのかという疑問に対し、得られた映像データから「シャチのおこぼれを頂戴する」のがわかった。
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単行本p.29

 アザラシ、ペンギン、海鳥など様々な動物に対するバイオロギングから分かってきた、彼らの潜水行動、採餌行動、子育て行動などを解説します。


「3 盗み聞きするイルカ――音で調べる」
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ある一頭のイルカに、見ることはできないが音は通過するスクリーンの向こう側に物体を提示し、それをエコーロケーションで調べさせた。別のイルカがすぐ横で頭部を水上に出させた状態(=自分ではエコーロケーションできない)でスクリーンの向こうにある物体が何であったかを報告させるという実験を行った。その結果、自分ではエコーロケーションできないイルカも物体をきちんと当てることができたので、他のイルカのクリックスを聞いて、前方の情報を知る能力を持っていることがわかった。
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単行本p.54

 イルカは、自分は手を抜いて音を出さず、他の個体が出した探査音の反響を聞いてエコーロケーションすることが出来る。また天敵であるシャチに探査音を盗み聞きされ居場所を特定されないよう周波数をずらすなどの工夫をしている。視覚より聴覚が大切な海中環境における音響探知の駆け引きを解説します。


「4 らせん状に沈むアザラシ――加速度で調べる」
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意外なことに、ドリフト中のアザラシは腹を上に向け、足ひれを動かさずに、まるで木の葉が落ちるように、くるくると旋回しながらゆっくりと沈んでいた。キタゾウアザラシが二か月半の採餌旅行中に延々と潜水を繰り返すという発見がなされて以来、彼らはいつ休み、いつ寝るのかという疑問を皆が抱いていた。くるくると旋回しながらドリフトするアザラシの動きは、この間に休息ないし睡眠していることを示唆している。アザラシのなかには、ドリフトした後、そのままコツンと海底にぶつかり、そのまま五分間仰向けになってじっとしている者もいるそうで、その情景を思い浮かべるとなんだか笑えてくる。
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単行本p.76

 翼を動かさずに浮上してくるペンギン、らせん状に潜水しながら寝るアザラシ、垂直に立った姿勢で眠るクジラ。動物に取りつけた加速度センサーから得られるデータが明らかにした彼らの意外な行動を紹介します。


「5 野生動物はサボりの達人だった!」
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 魚類から哺乳類に至る水生動物に、共通の装置を取り付けてその動きを調べてみると、本当はもっと深く長く潜ることができるのに、浅く短い潜水が主であったり、最大速度よりもずっと遅い速度を通常の移動に用いているといった日々の暮らしぶりが見えてきた。
(中略)
 我々人間は、ついつい動物の最大能力に目を奪われがちだが、動物の真の能力は最大値ではなく平均値にこそ現れる。ごくまれにしか行われない最大限の動きより、日々の暮らしぶりに着目することで、彼らの生き様を正しく理解できる。
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単行本p.109

 深く長く潜ったりしないペンギン、なるべくゆっくり泳ぐアザラシやウミガメ、消費エネルギーを節約して飛ぶオオミズナギドリ。動物たちの「最大能力」に注目しがちな癖を改め、普段の「手抜き節約モード」で発揮している能力に注目することで彼らの姿が見えてくる。バイオロギングや音響解析によって次第に分かってきた動物の生態について解説します。



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『「香り」の科学 匂いの正体からその効能まで』(平山令明) [読書(サイエンス)]

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視覚や聴覚に関する研究に比較して、嗅覚に関する科学的研究は大きく立ち遅れているのが現状です。もっと合理的で明快な説明を期待された読者は少し落胆されたかもしれません。科学の進歩はあらゆる分野で歩調を合わせて進むものではありませんが、嗅覚に関する研究はただ単に疎かにされてきたのではなく、実は研究を非常に難しくしている原因があることを読者は気づかれたと思います。
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新書p.250


 他の感覚に比べて研究が遅れている嗅覚。しかし、化合物の分子構造と匂いとの関係、香りが心と身体に及ぼす作用の生理メカニズムなど、少しずつ解明は進んでいる。嗅覚に関する最新知見を一般向けに解説するサイエンス本。新書(講談社)出版は2017年6月、Kindle版配信は2017年6月です。


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一体私達は何種類の匂いを識別できるのでしょうか? 実は、この質問に対する明確な答えはまだ見つかっていません。2014年までは、大体1万種類の匂いを嗅ぎ分けられるというのが通説でした。ロックフェラー大学とハワード・ヒューズ医学研究所の研究者が、2014年3月21日の『サイエンス』誌に衝撃的な論文を発表しました。私達はなんと1兆種類以上の匂いを嗅ぎ分けられるというのです。匂いの研究や仕事に従事している人達は、この数字に非常に驚きました。しかし、この学説には反論も多く、アリゾナ大学の研究者達は、せいぜい5000種類の匂いしか、嗅ぎ分けることはできないと、2015年に主張しています。この数字は2014年までの通説の数字より、逆に少なくなっています。
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新書p.66


 いまだに「人間は何種類の匂いを識別できるのか」という単純素朴な疑問にすら満足に回答できないほど難しい嗅覚の研究。本書はその最新成果を紹介してくれます。

 第1章から第4章は基礎編で、身の回りにある香料、植物からエッセンシャルオイルを抽出する技術、嗅覚の基本的な仕組み、香水の分類、香りを表現するための語彙やフレグランス・ホイールなど香りの分類方法、といった話題が扱われます。


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嗅覚以外の視覚、聴覚、味覚および触覚の情報はまず視床に届き、そこで中継され、その後に大脳皮質の感覚中枢に入り、感覚として認識されます。つまり大脳新皮質で情報処理がされて、感覚が生じます。ところが嗅覚神経は2つのルートで脳に伝わります。
 1つのルートは、他の感覚情報と同じように、視床で中継されそこから大脳新皮質で処理されるルートです。もう1つのルートは、嗅覚神経が一番距離的に近い大脳辺縁系という領域に、ダイレクトに情報を伝えるルートです。大脳辺縁系は大脳古皮質とも呼ばれる領域で、記憶、学習、そして喜怒哀楽などを管理しています。この領域にある海馬は記憶の形成に、扁桃体は情動行動に深く関与しています。さらにその情報はその付近に位置する視床下部さらに下垂体にまで届きます。視床下部は自律神経系や免疫系に、下垂体はホルモン系に関与します。
 すなわち、嗅覚情報は大脳でその情報の解析を行う前に、原始的な脳の部分で感知され、私達の意識に関係なく、それに対処する活動がすでに体の中で起こるということです。したがって、匂いを嗅いだ瞬間、その匂いが何かを思い出す前に、ある種の感情がどっと湧いてくるという、嗅覚独特の反応が起こるのです。
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新書p.62、63


 「香り」が記憶や情緒、心理状態、そして免疫などに影響を与える生理メカニズムがある程度解明されているというのは驚きでした。

 第5章から第7章は、匂いの化学です。アロマ精油に含まれる各種分子を分離するための技術、香り化合物の分子構造、位置異性体による香りの違い、そして匂いの強さや質を客観的定量的に測定するための技術、といった話題が扱われます。


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 芳香族化合物と脂肪族化合物では、匂いの質に明らかな違いがあります。それが、これらの化学構造によることは明らかですが、現在のところ、なぜ匂いの質に差があるのか、その理由はよく分かっていません。
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新書p.116


 第8章から第11章は、匂いや香りの応用について解説します。主な天然の香り化合物のリスト(香水に使われる化合物の構造や性質をまとめた小事典)、さらに人工的に作られた香り化合物のリスト、香りが身体に及ぼす影響(有毒を含む)、などの話題が取り上げられます。


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各々の香りの分子の機能についての研究はまだまだ少ないのが現状です。アロマテラピーに携わっている人の中には、「アロマ精油は混合物であるから体に良い」と無条件に信じている人が少なくありません。彼らの多くは、各々の香り分子の効果を取り出して科学的に調べることに消極的のようです。しかし、これは誤った考え方であると著者は思います。私達は各成分分子の効果を純粋な形で明確に捉え、それらの総合的な効果を定量的に評価すべきだと思います。
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新書p.220


 というわけで、匂い化合物の分子構造特定など研究が進んでいるにも関わらず、なぜそれが人間にとっての「香り」の違いとして感じられるのか、「香り」を感じることでなぜ生理的な影響が現れるのか、という部分が意外に分かってない、それでも研究者は頑張っている、という状況がよく分かる一冊です。


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