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『ドローンで迫る伊豆半島の衝突』(小山真人) [読書(サイエンス)]

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 近年注目を浴びているマルチコプター(いわゆる「ドローン」)は、GPSなどの衛星測位システムによる自動位置制御のおかげで操縦が簡単な上に、搭載した無線制御カメラを用いて上空のさまざまな方角から地表を撮影できる。このためヘリやセスナをチャーターしなくても自前の航空写真が安価に撮影可能となっただけでなく、有人航空機では不可能だった低空からの近接撮影という未開の領域への扉も開かれた。
 この本では、ドローンを用いてさまざまな地形・地質の特徴をとらえた画像を紹介・解説する。被写体として選んだのは、筆者の主要な研究フィールドである富士山と伊豆半島、ならびにその周辺地域である。
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 地表からはアクセス困難な地形も、手軽に、安価に、そして低空からの近接撮影すらも可能にしたドローン搭載カメラ。この新しい技術を用いて撮影された火山噴火や崩落地形などの臨場感あふれる航空写真を多数収録したサイエンス本。単行本(岩波書店)出版は2017年12月です。


 掲載されているのは富士山と伊豆半島をとらえた航空写真ですが、まず風景写真として美しく、迫力があります。さらに添えられた解説が、地学的に興味深い情報を伝えてくれます。全体は5つの章から構成されています。


[目次]
1 富士山の噴火と崩壊(活火山・富士/山麓に達した溶岩 ほか)
2 伊豆半島の成長と衝突(火山の野外博物館/隆起した海底火山 ほか)
3 荒ぶる火山帯(箱根火山と大涌谷/火山島・伊豆大島 ほか)
4 本州側の隆起と変容(揺れ上がる大地/大地震が起こす巨大崩壊 ほか)
5 ドローン撮影の威力(災害現場でのドローン撮影ー2016年熊本地震の例/海外でのドローン撮影ー英国形成の長い歴史)
付記 国内外でのドローン撮影のためのメモ


「1 富士山の噴火と崩壊」
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 富士山は、およそ10万年前の誕生以来、山頂や山腹の火口からおびただしい量の溶岩を流し続けてきた。それらの溶岩は、時には谷をせき止めて湖を誕生させたり、それまであった湖を埋め立てたりして、麓の地形を大きく変化させた。名瀑をつくり出したり、柱状節理などの美しい造形を生んだ溶岩流もある。
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単行本p.14

 火口、溶岩流の跡、大沢崩れなど、地表からの接近が困難な富士山のさまざまな地形を鮮やかにとらえます。


「2 伊豆半島の成長と衝突」
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 伊豆半島の地表には過去2000万年間の地層・岩石が分布し、本州と衝突する以前の、はるか南方にあった頃からの克明な地質学的記録をたどることができる。
 それらの下部を占める地層・岩石は、海底火山の噴出物とそれらの二次堆積物、ならびにマグマが火山の地下で冷え固まった貫入岩からなる。かつて海底下にあったこれらの地層・岩石は、本州への衝突による隆起と浸食によって、伊豆半島の陸上に広く露出している。
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単行本p.42

 フィリピン海プレートに乗って本州と衝突している伊豆半島。衝突によりつくり出された景観とその地学的意味について解説します。


「3 荒ぶる火山帯」
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 本書ではすでに富士山の2つの山体崩落を紹介したが、それよりもはるかに規模の大きい山体崩落を起こした火山をここで紹介する。八ヶ岳である。
 甲府盆地の北西端にある韮崎付近の台地は、20数万年前に八ヶ岳が起こした熱い岩屑なだれ(韮崎岩屑なだれ)の堆積物でできている。同じ堆積物が甲府盆地の南端でも見つかることから、50km以上の距離を流れて甲府盆地を埋め尽くしたことがわかる。その総体積は100億立方メートルという途方もないものである。
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単行本p.83

 噴火、山体崩落など激しい火山活動の跡が残された地形や風景とその成立過程を解説します。


「4 本州側の隆起と変容」
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 1707年宝永東海・南海地震(マグニチュード8.7)の際に安倍川源流の静岡・山梨県境にある大谷嶺(標高2000m)付近で起きた大谷崩は、1億立方メートルもの土石を流して長さ5kmに及ぶ土石流段丘を形成するとともに、安倍川本流と支流にせき止め湖を誕生させた。そのうちのひとつは明治初年まで残存していた。
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単行本p.101

 伊豆半島と本州の衝突により、大きく隆起している地形が本州側にも生じている。地面の隆起と浸食、大地震による崩落などの痕跡を解説します。


「5 ドローン撮影の威力」
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 ここでは熊本地震を例として、災害現場におけるドローン撮影の威力を紹介する。
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単行本p.118

 2016年熊本地震や英国の例をもとに、高所や地表からの撮影では十分に判別できない地形やその変化の詳細を、超低空から撮影することで明らかにできるドローン撮影の威力を示します。



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『魚だって考える キンギョの好奇心、ハゼの空間認知』(吉田将之) [読書(サイエンス)]

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 手足に測定用の押しボタンを装着し、身動きがとれなくなるとか。サカナに音楽を聞かせているようにしか見えないとか。細胞の数を数えすぎて、水玉模様を見るとついつい数を数えそうになってしまったり(もう治ったようです)せっかくとった卵が全滅してしまったり。
 研究の現場は、常に汗と涙にまみれている。
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単行本p.6


 「サカナが何かを考えるしくみ」について調べている広島大学「こころの生物学」研究室。学生たちの奮闘努力を中心に、魚類を対象とした生物心理学の研究成果について語るサイエンス本。単行本(築地書館)出版は2017年9月です。


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 サカナの声なき声を聞くために、幾多の学生たちとともに格闘してきた。
 たいてい、研究についての報道は、成果のみである。
「これこれについての研究により、このような発見がなされました。以上」
 いやいや、べつに、わたしたちの研究はハデに報道されるようなものでもないし……とひがんでいるのではない。このようなことに興味をもって、日々奮闘している若者たち(もちろんわたしも含む)もいることを、ちょっとだけ知ってもらいたいのだ。
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単行本p.5


 全体は11の章から構成されています。


「1 サカナの脳は小さいか」
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 ハトの脳とラットの脳の大きさは同じぐらい(どちらも約2グラム)だ。しかも、最近の研究によれば、鳥の大脳のニューロン密度は、哺乳類のそれよりもずっと大きいことがわかっている。だから、鳥類のハトのほうが哺乳類のラットよりも良い成績をおさめてもいいぐらいなのだ。
 それに比べて、キンギョの脳の重さはわずか0.1グラム。ハトの20分の1だ。これでハトと同じぐらいの成績をおさめるなんて、すごいじゃないか、キンギョ。
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単行本p.17

 キンギョの学習能力はハトに匹敵する。なのに、脳の重さはハトの20分の1しかない。では、ニューロン数で比較すると、どうなるのだろうか。そのためには「キンギョの脳を構成しているニューロンを数える」という気の遠くなるような仕事が必要となる。さあ、学生がんばれ。


「2 サカナは臆病だけど好奇心もある」
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 サカナにも好奇心はある。ダイビングや釣りなどで、サカナをよく見る機会がある人たちはそれを疑わない。でも、「サカナにだって好奇心はあるんです!」と声高に叫んだところで、「気のせいでしょ」といわれればそれまでである。
 それじゃあちゃんと測ってやろうじゃないの。ということで、N君の卒論テーマになった。
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単行本p.30

 サカナにも好奇心がある。それを客観的に証明するためにはどうすればいいだろうか。というわけで、キーをそれぞれのサカナの行動に割り当てた鍵盤を前に、サカナの行動を観察してはキーを叩いて記録する実験が始まった。


「3 ゼブラフィッシュは寂しがり」
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 新しい水槽に入れられたときのゼブラフィッシュの不安は、たぶんわたしたちが知らない場所に立った時に感じる不安と基本的に同じだろう。なぜかというと、人間に効く抗不安薬は、先に書いたようなゼブラフィッシュの「不安行動」を抑える効果があるからである。
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単行本p.46

 ゼブラフィッシュの不安行動には、人間用の抗不安薬や、さらにはアルコールが効く。ならばサカナは人間と似たようなメカニズムで不安を感じているのではないだろうか。ゼブラフィッシュの不安行動を研究する。


「4 サカナの逃げ足」
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 いくつかのビデオから、アオサギの捕食スピードを計ってみた。「構え」の姿勢から動き始めて約0.1秒後にくちばしが水中に突き入った。その鋭い形状と速度からして、くちばしが水中に入ってからサカナに達するまでの時間は極めて短いだろう。くちばしが水面についてから反応したのでは、サカナもさすがに逃げきれまい。
 でもアオサギも結構失敗しているよな。実際にはサカナはどうしているのだろう。
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単行本p.70

 アオサギの電光石火の捕食行動に対して、しばしば逃げきるサカナ。どうもその逃走反応は、鳥のくちばしが水面に達するより前に開始されているようだ。というわけで、ひたすら水中に棒を突っ込んでサカナを脅かす実験が始まった。


「5 恐怖するサカナ」
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 高等学校の生物の教科書には、小脳のはたらきは「運動の調節と身体の平衡を保つ」ことだと書いてある。実のところを申せば、小脳にはもっといろいろな役割がある。最近では、感情に関わる機能が注目されている。
 わたしたちが得た結果は、「キンギョの古典的恐怖条件付けには小脳が必要です」のひとことで済んでしまうわけだが、これは10年ちかくにわたる苦難に満ちた研究の成果なのである。
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単行本p.87

 サカナの恐怖反応には小脳が関与している。それを証明する実験に必要な「小脳の局所麻酔」という無茶な難題に、ひたすら練習して挑む学生。がんばれ。


「6 サカナも麻酔で意識不明?」
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 わたしは、サカナにもサカナなりの意識があると考えている。もちろん、われわれ人間がもつ意識とはだいぶ違うだろう。
 ひょっとして、麻酔が効く様子を詳しく調べれば、サカナ的意識の理解に役立つのではないだろうか。こう考えて、キンギョの脳波を記録しながら麻酔をかける実験を行った。
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単行本p.104

 サカナは意識を持っているのだろうか。この問題にアプローチするため、キンギョに麻酔をかけたとき脳波がどのように変化するかを調べる実験を行った。


「7 各方面に気を配るトビハゼ」
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 とにかく、トビハゼは、何かをよく見る時には眼の向きをちゃんと調節していることがわかった。この時、その対象物とレンズの中心を通る延長線上の網膜に像が投影されることになる。したがって、網膜のその部分が、最も高い空間解像度で光情報を脳に送っているはずである。
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単行本p.119

 捕食行動の前に、エサに「注目」しているように見えるトビハゼ。本当にそちらに「視線」を向けて注視しているのだろうか。トビハゼの網膜の「神経節細胞の数を数える」という苦行の果て、視界から水玉模様が消えなくなり、小さな丸いものを見るとひたすら数を数えてしまうようになった学生。がんばれ。


「8 眼を見て誰かを当てるの術」
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「ん? なんだか1尾ずつ目つきが違うような気がするぞ」
 はっきりとどこが違うとは言えないのだが、何となく違う。そこで、数尾のキンギョを水槽からすくって、眼をアップで撮影して比べてみた。
 すると、虹彩の部分に何本かのスジが入っていて、このスジの入り方が1尾ずつ違っている。このせいで、何となく目つきが違っているように見えたのだ。スジの入り方は右目と左目でも違っている。
「もしかして、これは使えるかもしれない」
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単行本p.129

 大量に飼っているキンギョをそれぞれ傷つけることなく個体識別するために、虹彩の模様が使えるのではないか。というわけで、ひたすらキンギョの眼を撮影しては個体識別してみるという地味でしんどい研究が始まった。


「9 サカナいろいろ、脳いろいろ」
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 というわけで、脳の形を見れば、そのサカナが何が得意で、どんな生活をしているかだいたい想像できる。
 わざわざ脳を取り出して見なくたって、サカナの体を見ればわかるじゃないかと言われるかもしれない。もちろん、体やヒレの形、眼や鼻の具合なんかを見ればかなりのことがわかる。
 でも、脳を見ると、よりサカナの気持ちに近づけたり、別の角度からサカナの生活に思いを馳せることができるのだ。
 そんな理由から、わたしの研究室ではいろんなサカナの脳コレクションを作っている。
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単行本p.147

 サカナの心に迫るために、その脳を手にとってじっくり眺めてみたい。そんな願いをかなえるために「実物脳のさわれる標本」を作る研究が始まった。


「10 ハゼもワクワクするか」
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 水位が上がり始めると活動が活発になり、水面近くを泳ぐようになる。レンガはまだ水没しておらず、エサの匂いもしていないのにだ。水位が上がることで、レンガの上にあるエサ場に行けることを予期し、一刻も早く(でないと誰かに先を越されてしまうかもしれない)これにありつこうとしているのだ。すごくワクワクしているに違いない。
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単行本p.162

 潮の満ち引きを手掛かりとしたハゼの学習実験。はたしてサカナはわくわく何かを期待することがあるのか。


「11 飼育は楽し」
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 頭以外の体の部分はもちろん食べる(麻酔薬を使ったサカナは別として)。わたしの研究室には、調理設備一式が備えられている。
 サカナ好きのくせに、そんなことをしてかわいそうだと思わないんですか。などと言わないでほしい。身の部分は、いつも金欠の学生の貴重な栄養となる。そして、ふつうは食べられることのない頭(脳)は、標本としていろいろな場面で活躍する。
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単行本p.182

 自分たちで釣ってきて、自分たちで飼育し、実験終了後には自分たちでおいしくいただく。サカナの行動研究に欠かせない捕獲や飼育などの活動について紹介します。


「12 スズキだって癒やされたい」
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 わたしが疑問に思うのは、彼/彼女らは傷を負って「しんどい」と感じているのだろうか、ということである。そして薄まった海水に浸ると「気分が良い」のだろうか。
 サカナも痛みを感じることは、多分間違いない。もちろんこれには異論もある。と言うより、サカナに痛みがあると考えている人のほうが少ないだろう。
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単行本p.191

 傷ついたスズキが適度な塩分濃度の場所を求めて移動する行動をとるとき、彼/彼女たちは何を「感じて」いるのだろうか。行動の背後に意図や気持ちがあるのだろうか。生物心理学が目指す究極の問いについて語ります。



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『すごい進化 「一見すると不合理」の謎を解く』(鈴木紀之) [読書(サイエンス)]

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 地球上の生物の多様性を生み出した進化はそもそも驚嘆に値するもので、私がくり返して強調するまでもありません。ただそうは言っても、すごくないように見える生き物の形や振る舞いがあるのも事実です。しかしながら、そこであきらめずにつぶさに観察していくと、一見すると不合理に見える形質ほど、実は「すごい進化」の秘密が隠されているのだと、私は考えています。
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新書版p.v


 不完全な擬態、まずい餌に特化した食性、壊滅的なまでに非効率な生殖システム。自然界にあふれる「すごくない」性質は、何らかの制約により進化が途中で止まってしまった結果なのか、それとも隠された理由まで考慮すると実は最適化されているのか。制約と適応のせめぎ合いから見えてくる意外に「すごい進化」の興味深い実例を通して、進化生態学の考え方を紹介するサイエンス本。新書版(中央公論新社)出版は2017年5月、Kindle版配信は2018年3月です。


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 生物の形質は常に適応と制約のせめぎ合いによって、完璧とはいえない状態にとどまっていると考えることができます。特に、機能的にあまりうまくいっていないように見える形質については、最適化されていない疑いが強く、制約の重要性の根拠とされてきました。
 ところがよくよく調べてみると、これまで制約だと片付けられていた現象の中には、実は制約がそれほど効いていないようなものも含まれていました。そこで、「適応をあきらめない」という姿勢を貫くことで、より合理的な仮説を立てることができました。自然界には不合理に見える現象があふれていますが、実はなんだかんだうまくできている――これが、本書全体を通じて伝えてきたメッセージでした。
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新書版p.224


 全体は4つの章から構成されています。


第一章 進化の捉え方
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 現在生き残っている生物は、すなわち自然淘汰を経てきたわけですから、「生物の形質は適応的である」という仮定は一定の正しさを含んでいます。ただし前に述べたように、生物の形質は必ずしも完璧ではありません。(中略)それでも、最適化を仮定して新たな仮説に取り組むほうが、「制約のせいで現在の形質には適応的な機能がない」という見方よりも実り多い研究プログラムなのです。予測が外れたときの適応主義による対応をグールドは批判しましたが、その対応こそが最適化アプローチの最大の強みだったといえるでしょう。
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新書版p.21、26

 生物の形質や振る舞いは適応的である・あるはずだ。いや、様々な制約により生物の特性は必ずしも適応的とは限らない。進化生物学で長年続いてきた適応主義をめぐる論争を整理して、「適応主義を仮定した研究アプローチは、実り多い成果をもたらすことが多い」という本書の立場を説明します。


第二章 見せかけの制約
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 しかしここで主張したいのは、形態的制約という暗黙の前提を取り除くことで、適応にもとづいた新たな仮説を提示するきっかけになったということです。栄養卵の進化に関しては、形態的制約という一応の説明があったせいで、「大きい卵で対処しない理由」について進化生態学者の思考が停滞していました。
(中略)
 ウラナミジャノメとテントウムシの研究で見たように、一見すると制約が効いていそうな形質も、調べてみると生存や繁殖に大した影響がないことがあります。このような「見せかけの制約」は、進化生態学の研究でしばしば登場します。制約が見せかけかどうかを判別するには丹念な観察と実験が必要ですが、そこにこそ進化生態学の醍醐味があるといっていいかもしれません。
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新書版p.58、59

 わざわざ孵化しない卵を産むテントウムシ、特定の植物しか食べない昆虫、共進化仮説。一見すると不合理な形質を発見したときに、「制約」の存在を前提に納得するか、それともあくまで「適応を信じて」仮説を探求するか。興味深い実例を通じて、適応主義的なアプローチの有効性を解説します。


第三章 合理的な不合理――あるテントウムシの不思議
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マツオオアブラムシはテントウムシにとって「まずい」「少ない」「捕まえにくい」という三拍子そろってひどいエサであるといえそうです。私たちの経済感覚でいうならば、まずくて食べづらくて高価なものにわざわざお金を払って毎日食べているようなものです。(中略)こんな罰ゲームのような生活は自然淘汰の結果なのでしょうか。
 まわりにおいしいエサがたくさんあるのに、なぜあえてまずいエサを食べるのか。クリサキテントウの不合理な選択を理解するためには、共進化や競争といったこれまで生態学で試されてきた正攻法ではうまくいきません。だからこそ、不合理な行動とみなされているのです。そこで私が取り組んだのは、異種への誤った求愛という「不合理な選択」を解明するところから、不合理なエサ選びを理解するというアプローチです。
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新書版p.101、110

 実験室では平気で他のエサを食べるのに、自然界ではわざわざまずいエサを選んで食べるテントウムシの謎。その理由は、他種のメスにも誤って求愛するオスの存在にあった……。意外な結末に驚愕する、まるでミステリー小説のような研究成果を紹介します。


第四章 適応の真価――非効率で不完全な進化
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有性生殖は二倍のコストという明らかな欠点を含んでいるにもかかわらず、自然界の生殖システムとして卓越しています。この矛盾が、進化学最大の問題という称号を与えられた所以です。ここからは、二倍のコストを克服していく生物学者の挑戦と限界を見ていきましょう。
(中略)
遺伝的多様性も赤の女王も、二倍のコストを覆すには十分ではありません。そこで最後に、生物学の教科書に載っていないばかりか、専門家の間ですらいまだほとんど知られていない、とっておきの仮説を紹介します。この仮説は、既存の仮説の問題点をクリアし、二倍のコストの問題に異なるアプローチから迫るものです。ひょっとしたら、真実に最も近い合理的なアイデアとして、今後世界に広まっていくかもしれません。
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新書版p.180


 無駄な形質や行動の進化を説明するハンディキャップ理論。あまりにも非効率な「性」という生殖システム。不完全でいいかげんな擬態。様々な実例を通じて、自然界にあふれる無駄と非効率こそ実は「すごい進化」であることを解明する研究を紹介してゆきます。なかでも、有性生殖がいかにして進化してきたのかという謎に対する(従来の、遺伝的多様性仮説や「赤の女王」仮説とは根本的に異なる)新しい仮説の紹介は必読です。



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『サイバー攻撃 ネット世界の裏側で起きていること』(中島明日香) [読書(サイエンス)]

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Cyber Grand Challengeを通じて、プログラムが自動的に脆弱性の発見から攻撃までをおこなえることが、大々的に実証されました。つまりこれは、今まで技術者がおこなってきた武器(攻撃コード)づくりを、完全に自動化できるようになったということです。もっと言えば、武器を自動的に大量生産することが可能になったのです。これは、セキュリティの歴史的転換点となる出来事だと言えます。
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新書版p.233


 あらゆるものがインターネットでつながる現在、サイバー攻撃による損害はますます深刻化している。金銭目的のマルウェア攻撃から国家間のサイバー戦争まで、サイバー攻撃の基礎知識とサイバー犯罪市場の現状を一般向けに分かりやすく解説してくれる一冊。新書版(講談社)出版は2018年1月、Kindle版配信は2018年1月です。


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 現在、ありとあらゆる機器に情報技術が組み込まれ、かつインターネットにつながるようになり、私たちの暮らしは便利に、そして豊かになりました。しかしその反面、あらゆるものがサイバー攻撃の対象となっています。今や人間の命にも密接に関係する、自動車、電気・水道なとの社会インフラも攻撃の対象です。本書中では過去の実例を出して、いかに現代社会がサイバー攻撃の脅威にさらされているかを紹介しました。
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新書版p.243


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金銭目的のサイバー犯罪はせいぜいコンピュータとインターネット環境、そして銀行口座があれば始められます。また、インターネットを利用すれば、世界中のどこからでも、国境を越えた犯罪活動が可能で、匿名性も簡単に確保できます。また、犯罪の証拠や痕跡を隠すことも容易です。取り締まる側にとっては非常にやりにくい相手と言えます。一説によると、サイバー犯罪者が逮捕される割合は5%程度と言われています。
 このように、サイバー犯罪は犯罪者にとって“おいしい”ビジネスなのです。
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新書版p.195


 攻撃プログラムのソースコード例を使った技術的解説から、サイバー犯罪ビジネスの競争とイノベーション、そしてサイバー戦争。全体は7つの章から構成されています。


「第1章 サイバー攻撃で悪用される「脆弱性」とは何か」
「第2章 サイバー攻撃は防げるか 脆弱性の発見・管理・修正」
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脆弱性データベースができた1999年当時は、脆弱性の報告数は年間1000件以下でした。しかし、2005年以降は年間4000件以上の報告がなされています。脆弱性情報の報告のペースが、6年で4倍以上に伸びたということです。2014年にいたっては1年間で8000件近い脆弱性が報告されており、これはなんと1日に平均約22件報告された計算になります。
 このデータから、脆弱性がいかに日常的に発見・報告されているかがわかります。さらに言えば、これらはあくまでも報告された脆弱性の数であり、報告されずに開発者が人知れず修正した脆弱性は含まれません。そのため、実際にはもっと大量に見つかっているものと考えられます。
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新書版p.53

 サイバー攻撃の現状から始まって、ソフトウェアの「脆弱性」に関する基礎知識を解説します。


「第3章 プログラムの制御はいかにして乗っ取られるか バッファオーバーフローの脆弱性」
「第4章 文字列の整形機能はいかにして攻撃に悪用されるか 書式指定文字列の脆弱性」
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本節では、ソフトウェア(実行ファイル形式)の実装の不備によってできる各種の脆弱性を紹介します。本節では7種類の脆弱性を取り上げますが、これまでのおさらいも兼ねて、バッファオーバーフローと書式指定文字列の脆弱性も再度簡単に説明します。
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新書版p.129

 ソフトウェア脆弱性の例として「バッファオーバーフロー」と「書式指定文字列の脆弱性」を取り上げ、攻撃の仕組みを解説します。さらに、代表的な脆弱性として以下の7つを紹介します。また、防御技術として「脆弱性緩和技術」「サンドボックス技術」を解説します。

・バッファオーバーフロー (Buffer Overflow)
・整数オーバーフロー (Integer Overflow)
・書式指定文字列の脆弱性 (Format String Bug)
・解放済みメモリ使用 (Use-After-Free)
・二重解放 (Double Free)
・ヌルポインタ参照 (Null Pointer Dereference)
・競合状態 (Race Condition)


「第5章 いかにしてWebサイトに悪意あるコードが埋め込まれるか クロスサイト・スクリプティングの脆弱性」
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Web関連の脆弱性は多様ですが、とくに大きな割合を占めるのが、クロスサイト・スクリプティングという攻撃が可能な脆弱性です。過去に日本の脆弱性報告窓口(IPA)に報告されたWebの脆弱性のうち、なんと半数以上がクロスサイト・スクリプティングの脆弱性だった、という報告もあります。(中略)クロスサイト・スクリプティングの手法は、大きく3種類に分けられます。すなわち、「反射型XSS」と「持続型XSS」と「DOM Based XSS」です。本節では、これら3種類のXSSを説明していきます。
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新書版p.156、159

 Webページに対する攻撃の例として「クロスサイト・スクリプティング (XSS) 」を取り上げ、その仕組みを解説します。


「第6章 機密情報はいかにして盗まれるか SQLインジェクションの脆弱性」
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「サイバー攻撃によって、X社から個人情報がXX万件流出しました」という報道を目にしたことがあると思います。このような事件の裏では、SQLインジェクションがおこなわれています。
 本章では、最初にデータベースの基礎を説明した後、SQLインジェクションの脆弱性の原理と具体的な攻撃手法を紹介します。
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新書版p.172

 データベースに対する攻撃の例として「SQLインジェクション」を取り上げ、その仕組みを解説します。


「第7章 脆弱性と社会 脆弱性市場からサイバー戦争まで」
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 現在のサイバー犯罪市場では、高度な技術をもたない攻撃者でも使える、サイバー攻撃のためのツールキット「Exploit Kit」が流通しているのです。これを使えば、特定のソフトウェアの一般ユーザに対して、金銭の窃取を目的としたマルウェアを巧妙に感染させられます。
(中略)
 Exploit Kitは値段も手頃で、執筆時点では、日本円にして数万~数十万円で購入できるようです。これを「高い」と感じる方もいるかもしれませんが、将来的に何十万~何百万円も稼げると思えば、「安上がり」と言っていいでしょう。
(中略)
 サイバー犯罪ビジネスにおいて、SaaSのExploit Kit版ともいうべきビジネスモデル、Exploit as a Service (EaaS) が現れました。これは、構築済みの悪性Webサイトを貸し出すサービスです。
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新書版p.196、200、202


 いまや大規模ビジネスとして発展しているサイバー犯罪市場の現状を解説します。サイバー犯罪市場における苛烈なビジネス競争、新しいビジネスモデルの台頭などのイノベーション。さらには、それにビジネスの手法を応用して対抗する「脆弱性報奨金制度」「バグハンター」などの話題も紹介します。



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『笑う数学』(日本お笑い数学協会) [読書(サイエンス)]

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 じつは、学校で学ぶ数学はごくわずかな範囲で、ほかにもまだまだユニークな切り口で数学に触れる方法があるのです。この本はそのユニークな切り口のひとつ、「笑い」という要素をふんだんに盛り込んだ「数学」の本です。
 なんと、100個の数学ネタがこの本にまとめられています。おそらくこの本のなかには、はじめてみた内容がたくさん含まれていると思います。
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 ちょっと面白い数学ネタから、役立つ計算法や解法、さらには数学用語による駄洒落まで、数学の「笑える」話題を100個集めた一冊。単行本(KADOKAWA)出版は2018年1月、Kindle版配信は2018年1月です。


 ざっと並んでいる項目は、だいたいこんな感じです。

・意外に知られていない定理、図形や数の特殊な性質
・結果や見た目が美しく気持ちよい計算式
・ちょっと面白い問題、意外な答えになる問題
・鶴亀算、三角関数、頻出図形問題などを、一瞬で解く裏技
・覚えておくと意外に役立つかも知れない数学のあれこれ語呂合わせ暗記法
・西暦0年がない理由、イスラエルでは足し算の記号が+でない理由など、数学に関連した歴史や社会の豆知識

 ジョークみたいな項目も多数。

・数式やグラフで"I LOVE YOU"などの文字や絵を描く
・数式を無理やり「ことわざ」として読み解く
・四字熟語を無理やり数式として解く
・単なる駄洒落を数学的に証明する


 というわけで、いくつかピックアップして紹介してみます。


 まずは、真面目な問題に見せかけて、実は「とんち」で解決するというネタ。

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 xが8に近づくとき、答えは∞になりました。8を倒すと、∞になります。つまり、xが3に近づくとき、答えは3を横に倒したωになります。
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「18 数学小咄と数学とんち」より


 予想外の答えにあっと驚く確率問題。

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 あなたはアイドルを夢見る女子高生です。街で、自称天才アイドルプロデューサーにスカウトされ、「俺、これまで色々な女の子を見てきて、その子がアイドルとして成功するか失敗するかを99%の確率で当てることができるんだよね! その俺が言うんだから間違いない。君はアイドルとして成功する!」と言われました。
 このプロデューサーの予想が本当に99%の確率で当たるとして、実際にあなたがアイドルとして成功する確率は何%か求めよ。ただし、一般的にアイドルとして成功するのは1万人に1人とする。
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「19 アイドルが売れる確率」より


 数学でも何でもないものを、無理やり数学とみなして「解決」してしまう。

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 アントニオ猪木さんは「1」と「2」と「3」と「ダー」の4つを使って「1・2・3・ダー」と叫びます。「ダー=0」と考えれば、猪木さんが4進法を使っていることに気付きます。
 では、108を猪木流4進法で表すと、どうなると思いますか?
(数式省略)
 な、な、なんと、「1・2・3・ダー」となるのです!
 つまり、猪木さんは「1・2・3・ダー」と叫ぶことで、我々の煩悩を吹き飛ばしてくれていたのです!
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「23 煩悩を吹き飛ばす方法」より


 面白い性質を持った数や意外性のある定理。

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 373393は素数です。37339も素数です。3733も素数です。373も素数です。37も素数です。3も素数です。さて、いま並べた数値を見て、何かに気付きませんか。これらは、373393を一の位から消していった数値を並べています。一の位から消していって、ずっと素数が残るとき、元の数値を「素な素数(そなそすう)」といいます。
 素な素数のグループの中で最大のものは、「生成数」と呼ばれ(例えば、冒頭の373393)、有限個であることがわかっています。
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「25 素な素数」より


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 作図に必要な道具といえば「定規」と「コンパス」。
 彼らは最強のコンビ! その絆は固い!
 そんな二人の関係を脅かす定理が存在する。
 その名も「モール・マスケローニの定理」。
 その内容は聞いて驚くなかれ! 「定規とコンパスで可能な作図は、全てコンパスのみでも作図可能である」。(中略)
 この定理を知った時の、定規のショックを想像して欲しい。
 「俺は……必要ない存在だったのか……」
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「53 作図に定規は必要なかった!?」より


 子どもに数学を教えるときに使える便利なネタ。

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「負×負がなぜ世になるのか?」を説明するのは意外と難しい。僕はいつも「正=本当、負=ウソ」と変換して説明をする。

 正×正=「本当」っていうのは本当=本当
 正×負=「本当」っていうのはウソ=ウソ
 負×正=「ウソ」っていうのは本当=ウソ
 負×負=「ウソ」っていうのはウソ=本当

 厳密な説明にはなってないが、直感的に納得してもらえることは多い。
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「61 正負の掛け算」より


 しかし何といっても圧巻なのは、何としてでも「数学でモテる」という情熱に突き動かされたネタの数々でしょう。

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 合コンなどで初めて会った人の年齢を聞いたときに、その年齢の数にまつわる性質が言えたら間違いなく相手に印象を残すことができるはずです。そこで、20歳から39歳までの数の性質をご紹介します。

 20は1桁の偶数の和(2+4+6+8)
 21はサイコロの目の和の合計
 22は九九で登場しない最小の合成数
 23は3つの連続した素数の和(5+7+11)で表せる最小の素数
 24は1から4までの数の積
 25は5の2乗
 26は2乗すると回分数になる数
 27は立方数
 28は完全数
 29は素数
 30は1から10までの偶数の和
 31は自身もひっくり返した13も素数
 32は2の5乗
 33は1から4の階乗の和
 34はフィボナッチ数のひとつ
 35は1から5までの奇数の平方和
 36は平方数
 37は31と同様で、自身もひっくり返しても素数
 38は1から5までの素数の平方和
 39は3の1乗と3の2乗と3の3乗の和
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「26 年列別年齢の褒め方」より


 上のネタで相手に好印象を与えたら、さらに「声に出したい数学用語」の話題をさり気なく持ち出せば、もうこれは数学でモテること間違いなしですね。頑張りましょう。


「コラム 声に出したい数学用語」より

 「病的な関数」
 「ドラゴン曲線」
 「悪魔の階段」
 「スリッパの法則」
 「アーネシの魔女」
 「大二重変形二重斜方十二面体」



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