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『DNAの98%は謎 生命の鍵を握る「非コードDNA」とは何か』(小林武彦) [読書(サイエンス)]

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 もうひとつのヒトゲノムプロジェクトによる発見は、研究者たちにさらに大きな衝撃を与えました。ヒトゲノムプロジェクトで分かった30億塩基対の全ゲノムのうち、なんと98%がタンパク質をコードしていない「非コードDNA領域」だったのです。これは、多くの研究者の予想以上でした。なぜかというと、ヒトの体はタンパク質でできています。そのため、ゲノムはそのタンパク質を指定する情報(コードDNA)がメインだと考えられていたからです。実際、ヒトゲノムプロジェクトよりも前にゲノムが決定された細菌や酵母菌では、ゲノムの大半がコードDNA領域でした。
 では、この「非コードDNA領域」はいったい何なのでしょうか。
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新書版p.42


 遺伝子、すなわちタンパク質合成に使われる「コードDNA領域」がヒトゲノムに占める割合はわずか2%でしかない。では残りの98%である「非コードDNA領域」はいったい何をしているのだろうか。

 遺伝子の発現調節から進化の加速まで、かつてはジャンク(ゴミ)と見なされていた「非コードDNA領域」が果たしている驚くべき働きについて、最新の研究成果を教えてくれる興奮のサイエンス本。新書版(講談社)出版は2017年10月、Kindle版配信は2017年10月です。


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 ヒトのゲノムを大雑把にひとことで言うなら、「細胞の外から飛び込んできたトランスポゾンがゲノム中で勝手に増えまくり、加えてDNA合成酵素が空回りして同じ配列を何度も合成して繰り返し配列を増やし、その結果ゲノムの大部分は膨大な非コードDNAによって占領されてしまい、肝心のコード領域(エクソン)はぽつんぽつんと離れ小島のように浮かんでいる」といった状態なのです。(中略)ヒトのゲノムは、98%が非コードDNA領域であり、ここがゲノムの本体と言っても言い過ぎではないでしょう。ということは、非コードDNA領域がなんらかの機能を持っていると考えるのが普通です。では、その機能とはいったいなんなのでしょうか。
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新書版p.46、56


「内容が難しいというわけではなく、最新のデータとそれをもとにした著者の考えを織り交ぜて、非コードDNAの凄さを紹介します」(新書版p.110)とのことで、基礎から最新情報までを教科書的にまとめるだけでなく、そこから一歩踏み込んで、まだ分かってないことや、専門家としての著者の見解も、積極的に書いてくれる、どうにもワクワク感が止まらない一冊です。

 全体は4つの章から構成されています。


「第1章 非コードDNAの発見、そしてゴミ箱へ」
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 ヒトゲノムプロジェクトは完了したことになっていますが、じつは繰り返し配列が多い非コードDNA領域は正確には読めていません。それでも「ゲノムの解読は完了した」と言っているのは、「遺伝子領域は読めた。非コードDNA領域にはどうせ大した機能はないだろう」という見込みがあったからです。つまり、非コードDNA領域は意味のないものとして「ゴミ箱」に捨てられてしまったのです。
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新書版p.52

 まずは基礎のおさらいから。DNAの構造判明からヒトゲノム計画までの歴史を振り返り、非コードDNAの発見に至る経緯を再確認します。


「第2章 ゴミからの復権」
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 転写調節領域は遺伝子の発現の時期と量のみならず、遺伝子を転写し始める位置も変化させます。(中略)選択的スプライシングの情報も、非コード領域に存在します。以上のように遺伝子発現は非コードDNA領域によって制御されているのです。

 上で述べた遺伝子の発現の調節に関する非コードDNA領域の役割は、染色体の持つ「ソフトウェア」的な部分です。ゲノムを設計図にたとえれば、そこに書かれている内容に相当します。それ以外にも非コードDNA領域の「ハードウェア」的な、つまり設計図の複製、折りたたみ方、保存などに相当する役割も存在します。
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新書版p.80、81

 非コードDNAの短期的な仕事について。遺伝子の発現を調節する、DNAの折り畳みや展開を分子的に制御する、ゲノムの再編成を促す。ジャンク(ゴミ)と見なされていた非コードDNAが果たしている重要な役割の数々について、研究途上の最新情報も含めて詳しく解説します。


「第3章 非コードDNAと進化」
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 オートファジーのような一時的な転写誘導に加えて、長期的な変化というのもあります。その多くは、ゲノムの配列の変化によるものです。長期的な転写量の変化では、長期間にわたり特定のタンパク質の量が少なかったり、逆に多かったりするので、形態や生活習慣に変化をもたらす、いわゆる進化の選択因子になることがあります。
(中略)
 非コードDNAは、遺伝子の発現バランスを変化させることで、ヒトとサルの違いを生み出すきっかけを作りました。やがて遺伝子そのものが変化して進化が進行したと考えられます。ここではさらに踏み込んで、具体的に非コードDNAがいかに進化を加速してきたか考えてみます。
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新書版p.111、117

 非コードDNAの長期的な仕事について。非コードDNAが遺伝子発現を調節し、それにより加わる淘汰圧に応じて、遺伝子構成が長期的に変化してゆく。進化を先導、加速するメカニズムとしての非コードDNA、という驚くべき発見について解説します。


「第4章 非コードDNAの未来」
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Y染色体の進化速度から計算した今後の運命予測では、500万年後にはY染色体は消滅するという説もあります。オーストラリアの女性研究者ジェニファー・グレイヴスが主張している仮説です。テレビの番組で彼女が、なぜか嬉しそうに「500万年後には男性は地球上からいなくなるのよ」と言っていたのが印象的でした。
 いずれにせよ、Y染色体の運命としては悲観的な見方が多いようです。
(中略)
 Y染色体がなくなると予想される500万年後というのは、ゲノムが約1%変化するのに十分な時間です。ヒトとチンパンジーのゲノムの違いが約1%ということを考えれば、Y染色体消失以上のもっとショッキングな変化が人類に起こっていても不思議ではありません。
(中略)
 非コードDNA領域はコード領域を守りつつも、少しずつ変化しコード領域に影響を与えて進化を促します。すなわち非コードDNA領域は人類の行く末を決める重要な領域なのです。
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新書版p.186、196

 深刻なダメージからゲノムを保護しつつ、進化を加速する非コードDNA。ゲノムに占める割合がひたすら増え続けてきた非コードDNAが導く人類の未来とはどのようなものか。Y染色体消滅など大胆な仮説も含めた、自然進化によるポストヒューマンというテーマについて論じます。



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『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(川端裕人、海部陽介:監修) [読書(サイエンス)]

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 アジアと向き合ってきた海部さんのガイドのおかげで、ぼくたちが今、暮らしているこの地域には、わずか数万年前、数十万年前に、目がくらむほど多様で、ときに予想外の人類たちが、その時代なりのやり方で暮らしていたのだとわかった。
(中略)
 その一方で、今、ぼくたちが生きるこの時代、人類は均質だ。
 ホモ・サピエンスしかいない。
 これはいったいどう捉えればいいのだろう。
 多様な人類がいた時代と、「今」の間に、いったい何が起きたのだろうか。
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新書版p.244、


 かつてアジア地域に生きていたホモ・サピエンス以外の人類は、ジャワ原人、北京原人だけではなかった。衝撃的なほど小柄なフローレス原人、台湾の海底から発見された澎湖人、シベリアで発見されたデニソワ人など、今世紀になって新たな発見が相次いでおり、アジアにおける人類史は大きく塗り替えられつつある。
 アジア地域における人類の多様な進化を見渡すと共に、その多様性が失われたのはなぜかという難問に挑み、新たなビジョンを切り拓くサイエンス本。新書版(講談社)出版は2017年12月、Kindle版配信は2017年12月です。


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 つくづく、人類の起源についての議論は、単に知的好奇心を満たすだけでなく、我々のアイデンティティや人間観の問題に直結している。グローバル(全地球的)につながった世界が、まさにユニバーサル(宇宙的)になろうとしている今だからこそ、ぼくたちの過去に何があったのか、どんな人類がいたのか、そして、ぼくたちの中には誰がいるのかを知りたい。
 本書で描出したような人類学研究の営みは、まさにそういった思索にしっかりした基礎を与え、未来に向かう力を与えてくれるとすら感じる。
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新書版p.272


 全体は終章を含めて7つの章から構成されています。


「第1章 人類進化を俯瞰する」
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「興味深いのは、ホモ・サピエンスがアフリカを出た時点では、人類って、まだすごく多様だったってことなんですよね。各地にネアンデルタール人をはじめとする旧人がいましたし、東南アジアの島嶼部にはまだ原人もいたわけです」
(中略)
実はホモ・サピエンスが現れ、出アフリカした時代にはまだ、旧人のみならず、原人も存続しており、ホモ属の多様性は高かった。それなのに、今この瞬間、「我々」はホモ・サピエンスのみ。どうやら、現生人類が世界に広がりかけたあとに、それまであった人類の多様性が失われたようなのである。
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新書版p.39

 まず、ざっと700万年くらいの人類進化の歴史について、現在までに分かっていることを俯瞰。初期猿人、猿人、原人、旧人、新人という各段階はどのように特徴づけられるのか、その進化と地理的分布はどのように関係しているのか。知ってそうで意外に知らない基礎をまとめます。


「第2章 ジャワ原人をめぐる冒険」
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 発見の地、トリニール。
 海部さんたちのフィールドであるサンブンマチャン。
 最大の産出数を誇る初期人類遺跡サンギラン。ここは1996年、ユネスコの世界遺産に登録された。
 新しめの化石が出るガンドン。
 最低、この4ヶ所を押さえておけば、「ジャワ原人地図」の基礎ができたことになる。
 さらに欲を言えば、トリニールに近いンガウィで見つかった頭骨、飛び地的にスラバヤの近くのモジョケルトで見つかった子どもの頭骨も重要な化石だ。
 この「4大聖地+2産地」をそらんじれば、マニアと呼んでもらえるかもしれない。骨は出ないけれど石器が出てくるパチタンまで覚えるとさらによし。
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新書版p.63

 ジャワ原人の化石発掘現場を訪れてレポート。臨場感あふれる情景描写と手堅い解説、さすがベテラン作家の書いた文章だと感心させられます。


「第3章 ジャワ原人を科学する現場」
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 ジャワ島のサンギランやサンブンマチャンやトリニールといった、主要な化石産地を訪れるのは素晴らしい体験で、たくさん言葉を費やして描写するに値する。現地に赴いて、往時に思いを馳せる時間は格別だ。それらは、ときに現在進行形の発掘の現場でもあり、血沸き肉躍る側面がある。
 その一方で、産地から離れた研究室は、もっと物事を俯瞰して考えるための場所だ。多くの標本を比較検討しながら、過去に実際あった事実、つまり、本当の人類の歴史に肉薄しようと努力する。可能なかぎり客観的に、慎重に、議論を重ね、深め、展開し、やがては科学論文として練りあげて世界に問う。そういう意味では、発掘が行われている場所とは別の意味で「人類史の現場」だ。ひたひたと打ち寄せる知的興奮が、ここにはある。
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新書版p.90

 発掘の現場から研究室へ。国立科学博物館人類研究所を訪れて、ジャワ原人に関する研究の最前線をレポートします。


「第4章 フローレス原人の衝撃」
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「一番大事な点は、本当に人類がこんなに縮んでしまっていいのか。そんなことが本当に起こったのかってことです。僕が思うように初期のジャワ原人が進化したのか、アフリカのホモ・ハビリスがアジアまで来たのか、それとも、まだ知られていない原始的な人類がいたのか。アジアの人類進化って、本当にまだよくわかっていないんだと再認識させられます。そして、ことフローレス原人の議論は、このあと、どう転んだとしても面白い。どれが真実だったとしても、教科書を書き換えなければならないレベルの凄い発見なんです」
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新書版p.182

 インドネシアのフローレス島で発見された「人類進化の基本認識に変更を迫る」人類化石。身長わずか1メートルあまり。あまりにも小さなフローレス原人と、その発見がもたらした衝撃を、活き活きとした筆致で解説します。


「第5章 ソア盆地での大発見」
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 実は、そのとき、調査隊はとっくに「大発見」を済ませ、論文もできあがり、あとは掲載を待つだけという状態だったのである。
 海部さんが言っていた「動きがありますよ」という発言は、そういうことだ。「もうすぐ出るものだし、掲載までは口外しないでくれるなら、ちらっと見ていいよ」と調査隊から見せてもらった論文は衝撃的だった。
 要するに、ソア盆地の石器を作っていた古い人類の化石が、とうとう見つかったのである。
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新書版p.196

 フローレス原人の化石が見つかったインドネシアのフローレス島。そこにあるソア盆地で新たな発見があった。2016年に論文発表された最新情報を紹介しつつ、アジア地域における人類進化の「目がくらむような多様性」に迫ります。


「第6章 台湾の海底から」
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 しかし、わからないことだらけのアジアの人類進化は、何か新たな知見が加わるたびに、新たな謎が加わる。事実、澎湖人・和県人は、まさにその間の地域から発見されたわけだが、北京原人ともジャワ原人とも異なる、独特の原始的な特徴を持っていたのだ。
「澎湖人や和県人の原人集団が、新種だったかどうかという議論とは別に、そもそも、ゆるやかな地域間変異でつながるホモ・エレクトス集団がアジア全体にいたというこれまでの予測が崩れてしまいました。これまで北京原人とジャワ原人をひっくるめてホモ・エレクトスと言ってきましたが、そもそもホモ・エレクトスという種はいったい何なんだ、いつどこで進化し、そしてどのようにして、今わかってきた複雑なアジアの集団構造ができてきたんだ、という新たな疑問を突きつけられたんです」
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新書版p.237

 台湾沖の海底から引き上げられた原人化石。それはジャワ原人、フローレス原人、北京原人とは異なる特徴を持つ「第四の原人」だった。澎湖人の発見とその研究状況について解説します。


「終章 我々はなぜ我々だけなのか 」
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 とはいえ、やはり気になるのは、サピエンスの到来と原人の消滅が、ざっくりとはいえ近い時期に起きたことに違いはないということだ。個人的には、ぼくたちの祖先(サピエンス)が、直接的に原人を駆逐したのかどうかが心に引っかかってならない。もしも戦って追いやったというシナリオが本当だったとしたら、考えるだけで胸が痛い。サピエンスが拡散しなければ、今のぼくたちの姿はないのかもしれないのだが、それ以前の多様な世界を終わらせてしまったのがぼくたちの祖先だったなら、本当に申し訳ない……。たぶん、そんな「原罪」的な意識に駆られて、「交代劇」に関心を持つ人は多いのではないかと思う。
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新書版p.251

 これほどまでに多様に進化してきたアジア地域の人類たち。だが、私たちホモ・サピエンス以外はすべて絶滅し、多様性は失われてしまった。なぜだろうか。

 ジャワ原人と現生人類が混血した可能性というビッグニュースから始まり、私たちの遺伝子の中に残されている人類多様性、さらには私たちの生息域が宇宙へと拡大していこうとしていることの人類学的意義に至るまで、大きくビジョンを広げます。SF作家でもある著者の面目躍如というべき終章。



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『重力で宇宙を見る 重力波と重力レンズが明かす、宇宙はじまりの謎』(二間瀬敏史) [読書(サイエンス)]

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1979年に初めて重力レンズ現象が見つかって以来、発見される重力レンズ現象の数は増え続けています。銀河による強い重力レンズ現象に限っても、すでに100を大きく超えていて、今後もその数はどんどん増え続けるでしょう。銀河団の強い重力レンズにいたっては、1つの銀河団中に100を超える強い重力レンズでできたイメージが発見され、銀河団の詳細な質量分布を知ることができます。
 強い重力レンズに限らず、重力レンズは大小様々な天体の質量分布を直接観測できます。そのため、X線、可視光、赤外線、電波などの観測と組み合わせることで、これまで経験的にしかわからなかった天体の質量と明るさの関係など、天体の性質をより正確に、より詳細に解明することができるのです。現在では重力レンズ現象は珍しい現象でも何でもなく、天文学に不可欠な研究手段であり、「重力レンズ天文学」という分野になったといえます。
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単行本p.203


 ついに直接検出に成功した重力波、そして重力により光の進路が曲がることを利用した重力レンズ。暗黒物質やインフレーションの痕跡を観測できる重力天文学の基本原理を解説してくれるサイエンス本。単行本(河出書房新社)出版は2017年10月です。


 本書でも大きく取り上げられている重力波検出、その詳細については次の本がお勧めです。

  2016年07月21日の日記
  『重力波は歌う アインシュタイン最後の宿題に挑んだ科学者たち』
  (ジャンナ ・レヴィン:著、田沢恭子・松井信彦:翻訳)
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2016-07-21


 重力波の直接検出、その後の展開、重力レンズの発見、重力レンズ望遠鏡とその目標など、「重力で宇宙を見る」重力天文学の基礎を解説してくれるのが本書です。全体は十個の章から構成されています。


「第1章 物理学の金字塔・重力波初検出のすごさ」
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合体する前の2つのブラックホールの質量は太陽質量の36倍と29倍でした。それらを足すと65倍になります。一方、合体してできたブラックホールの質量は太陽質量の62倍です。このことは、太陽3個分の質量が「消えた」ことを意味しています。衝突から合体、そして一つのブラックホールに落ち着くまでの時間が0.2秒、その間に太陽3個分の質量が消えたのです。消えた質量は、いったいどこへ行ったのでしょうか。
 実は消えた質量こそが、1000億個分の銀河が出すエネルギーになったのであり、そのエネルギーを伝えたのが重力波でした。
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単行本p.23

 世界中を駆けめぐった「重力波の直接検出に成功」というニュース。その意義と、重力波の発生源について解説します。


「第2章 そもそも重力とは何か」
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3次元空間が曲がるというイメージは、その中に物質を置くと周囲の空間(時空)が「動く」ということです。
 したがって物質がなくても、時空が運動する可能性が出てきます。時空の運動というのは、たとえば空間が伸びたり縮んだりすることです。
 1915年に一般相対性理論を完成させたアインシュタインは、翌年すぐにそのことに気がつきました。そして時空の曲がり、すなわち重力が波として空間を伝わることを発見しました。これが重力波です。
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単行本p.46

 一般相対性理論からその存在が予言される重力波。その理論的基礎を解説します。


「第3章 すでに「発見」されていた重力波」
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 ハルスとテイラーは重力波そのものを観測したわけではなく、重力波の放出によって連星パルサー(中性子星連星)の公転軌道が短くなっていることを見つけました。ですが、それが理論予言と一致しているのであれば、重力波の存在はもはや疑う余地のないものであり、間接的にではありますが、重力波を「発見」したことになるのです。
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単行本p.63

 直接検出よりもずっと前に「間接的」に発見されていた重力波。研究者たちが重力波の存在を確信していた理由について解説します。


「第4章 重力波の観測の歴史」
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改善後の本格的な観測を再開しようとしていた直前、テスト観測の最中だった9月14日に、重力波GW150914が検出されたのです。1965年頃のウェーバーから約50年、1984年頃のLIGOプロジェクトの立ち上げから約30年という歳月が流れていました。この間、LIGOプロジェクトに参加した研究者は、なんと1000人を超えています。
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単行本p.82

 重力波を直接検出しようとする試みの歴史を紹介します。日本のプロジェクトKAGRAについても解説されます。


「第5章 これからの重力波観測」
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 O2の終了後、レーザーのパワーを120ワット以上に上げるなど干渉計の大幅なグレードアップをおこなう予定で、感度はさらに上がり、3×10のマイナス24乗の達成が目指されています。これによって、ブラックホール連星は年に100個程度検出でき、中性子星連星系の場合は5億光年まで検出できると考えられています。
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単行本p.99

 その後の重力波観測への挑戦が解説されます。各地で進められている重力波望遠鏡プロジェクト、それらをつないだ国際ネットワークの構築、次世代重力波望遠鏡の計画など。


「第6章 重力波が答える宇宙の謎」
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 こうした問題を解決するためにも、インフレーション膨張時に生成される原始重力波を検出することが重要です。原始重力波のエネルギーがわかれば、インフレーションがいつ起こったのかがわかります。さらに、重力波のスペクトル(波長ごとの強度)を測定することで、インフレーションがどんなメカニズムによって起こったかの情報が得られます。それによって、数十以上あるインフレーション理論のモデルのどれが正しいのかを絞り込んでいけるのです。
 つまり原始重力波を検出することは、インフレーション膨張の様子を「見る」てとであり、ビッグバン以前の宇宙を「見る」ことになります。
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単行本p.129

 一般相対性理論の検証、原始重力波と呼ばれる「インフレーション膨張の痕跡」を観測することによる理論モデルの絞り込みなど、重力波観測によって何が分かると期待されているのかを解説します。


「第7章 重力レンズとは何か」
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重力によって光の速度が遅くなるのです。すると、光学レンズと同じように、重力が像を拡大したり、ゆがめたりする現象を引き起こすのではないか、という予想が当然出てきます。
 しかし、重力による光の曲がりはごくわずかなので、実際に重力によるレンズで遠くの天体を拡大するためには、莫大な質量と気の遠くなるような長い距離が必要でしょう。実際にそんなことは起こるのか、天文学者は長い間確信が持てませんでした。
 そころが1979年、重力によるレンズ現象が発見されたのです。
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単行本p.138

 重力レンズが引き起こす現象の発見など、重力レンズの基礎を解説します。


「第8章 重力レンズ研究の歴史」
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 のちに『サイエンス』の編集長に「この論文はマンドル氏をなだめるために書いたものです。ほとんど科学的価値はありませんが、少なくともあの哀れな男は喜んでいるでしょう」と手紙を送っていることからもわかるように、アインシュタインはこれを重要な研究とはまったく思っていませんでした。しかしアインシュタインが書いた論文ということで、それ以来、重力レンズによってつくられたリング状のイメージはアインシュタイン・リングと呼ばれるようになったのです。
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単行本p.166

 重力レンズの予想から実際の発見に至るまでの紆余曲折を解説します。


「第9章 暗黒物質と暗黒エネルギーが支配する宇宙」
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現代天文学における最大の謎が、正体不明の物質とエネルギーである暗黒物質と暗黒エネルギーです。その正体に迫る上で、重力レンズを使った観測に注目が集まっているのです。
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単行本p.170

 重力天文学の活躍が期待されている二つの課題、暗黒物質と暗黒エネルギーについて基礎を解説します。


「第10章 重力レンズで見る「宇宙のダークサイド」」
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 望遠鏡の口径は、大きければ大きいほど光を集める能力が大きく、また分解能も高まります。しかし、地球上の望遠鏡で大きさを追求するのは、もう限界でしょう。遠い将来には、月面に望遠鏡を設置することも考えられています。しかし、そんなことを待つまでもなく、もっともっと大きな望遠鏡を使うことが私たちにはできます。
 それは、自然がつくってくれる望遠鏡、すなわち銀河団による「重力レンズ望遠鏡」です。銀河団の質量分布が正確にわかっていれば、それによる重力レンズの性能や性質がわかり、光学レンズと同じように望遠鏡として使うことができるのです。
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単行本p.195

 重力レンズ望遠鏡による暗黒物質と暗黒エネルギーの観測について、その意義と概要、そして今後の展望を解説します。



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『したたかな寄生 脳と体を乗っ取る恐ろしくも美しい生き様』(成田聡子) [読書(サイエンス)]

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 本書では、それらの共生関係の中でも、小さく弱そうに見える寄生者たちが自分の何倍から何千倍も大きな体を持つ宿主の脳も体も乗っ取り、自己の都合の良いように巧みに操る、恐ろしくも美しい生き様を紹介します。
 まるで犬の散歩のようにハチの意のままに付いていくゴキブリ、生きながら自分の体内を食われ続けるイモムシたち、さらに食われた後にも自分の体を食べた憎き寄生者の子どもたちを守ろうとするテントウムシ、泳げるわけもないのに体内の寄生者に操られて入水自殺するカマキリ、本来オスであったにもかかわらずメスに変えられ寄生者の卵を一心不乱に抱くカニ、そして私たち人間でさえ体内に存在する小さな別の生き物に操られているかもしれないという研究例などがあります。生物たちのそれぞれの生きる戦略がせめぎ合う共生の世界にようこそ。
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新書版p.13


 自分の都合の良いように宿主の行動をコントロールする寄生者たち。寄生生物の思わずぞっとするような巧みな生態を紹介してくれるサイエンス本。単行本(幻冬舎)出版は2017年9月、Kindle版配信は2017年9月です。


「1 自然界に存在するさまざまな共生・寄生関係」
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 ロイコクロリディウムに寄生され、脳を操られたカタツムリは、なぜか昼間に動き出し、ふらふらと鳥に見つかりやすい木に登っていき、明るく目立つ葉っぱの表面へ移動します。それだけでも、鳥に捕食される確率は上がりますが、寄生者ロイコクロリディウムはさらにあと一工夫加えます。ロイコクロリディウムはカタツムリの触角をまるで鳥の大好物のイモムシのように見せかけるのです。
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新書版p.17

 カタツムリを操って自殺させる吸虫。様々な共生関係・寄生関係を紹介します。


「2 ゴキブリを奴隷化する恐ろしいエメラルドゴキブリバチ」
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脳手術をされたゴキブリは、麻酔から覚めると何事もなかったようにすっくと自分の脚で立ち上がります。元気に生きてはいますが、逃避反射をする細胞に毒を送り込まれているので、もうハチから逃げようと暴れたりはしません。いわゆるハチの言いなりの奴隷になっているのです。ゴキブリは自分の脚で歩くこともできますし、毛繕いなど自分の身の回りの世話をすることもできます。ただし動きが明らかに鈍くなり、自らの意思では動かなくなります。
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新書版p.43

 ゴキブリに精密な脳手術を施して意のままに動く奴隷にする寄生ハチ。その驚異的とも言えるあくどい生態を紹介します。


「3 体を食い破られても護衛をするイモムシ」
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 80個もの卵を産み付けられ体の中身を食い荒らされ、そのうえ体の表面の皮のあらゆる場所が破られているのですから、さすがにそろそろ死んでしまいそうですが、寄生されたイモムシはどういうわけか死んではいません。その姿がまるでゾンビのようなのです。
 そして、寄生されていたイモムシはただ生ける屍になっているのではありません。驚くべきことに、自分の体内を食いつくしたブードゥー・ワスプの蛹を全力で守る行動をし始めるのです。
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新書版p.54、56

 全身を食い荒らされながらも、すぐには死なずにゾンビとなって寄生ハチの幼虫を守り抜くイモムシ。寄生バチが宿主をぼろぼろになるまで利用し尽くす無情な生態を見てゆきます。


「4 テントウムシをゾンビボディーガードにする寄生バチ」
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 そうして、体中を食い荒らされながらも生き続け、意思を奪われ、ボディーガードをしていたテントウムシは、最終的にどうなるのでしょうか。死を迎えて当然だと思われるでしょうが、寄生されたテントウムシの4分の1が回復し、元の生活に戻ります。しかし、せっかくゾンビボディーガードから奇跡の生還を果たしたにもかかわらず、その生還したテントウムシの一部は、再び同じ種類のハチに寄生されてしまうのです。
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新書版p.62

 寄生バチから脳に感染するウイルスを打ち込まれ、ゾンビボディーガードにされるテントウムシ。しかも一部は殺さず生還させ、何度も「再利用」するという寄生バチのえげつない生態を紹介します。


「5 入水自殺するカマキリ」
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川の渓流魚が得る総エネルギーの60パーセント程度が、寄生され川に飛び込んでいたカマドウマであることがわかったのです。(中略)カマドウマが飛び込めないようにした区画では、渓流魚は水に飛び込む大量のカマドウマを食することができないので、他の水生昆虫類をたくさん捕食していました。そして魚のエサとなったこれら水生昆虫類のエサは藻類や落葉だったため、河川の藻類の現存量が2倍に増大し、川の虫の落葉分解速度は約30パーセント減少したことがわかったのです。
 このように、小さな寄生者であるハリガネムシが、昆虫を操り、入水させることは、河川の群衆構造や生態系に、大きな影響をもたらすことが実証されました。
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新書版p.70、71

 ハリガネムシに寄生され入水自殺させられるカマキリなどの昆虫の総量は、何と河川にすむ渓流魚が得る総エネルギーの60パーセントに達するという。河川の生態系を支えるほど大量の昆虫を自殺させるハリガネムシの驚くべき生態を紹介します。


 きりがないのでこのくらいにしておきますが、他にも

「アリを操り死の行進をさせる菌類や吸虫」

「アリを薬物中毒にして自分が分泌する蜜しか消化できないように改造する樹」

「カニを奴隷化してひたすら自分の卵を育てさせるフジツボ」

「エビに群れを作らせるサナダムシ」

「カエルの手足を増やして奇形化させる寄生虫」

などのびっくりするような寄生のやり方が次から次へと紹介され、最後は私たち人類も寄生者に操られて性格や行動をコントロールされているかも知れないというトピックに至ります。

 知らなかったことも多く、また知っていた寄生行動についても最近の研究により明らかになった新しい情報が追加されていたりして、最後まで飽きさせません。


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『時間とはなんだろう 最新物理学で探る「時」の正体』(松浦壮) [読書(サイエンス)]

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 自然界のより深い領域が姿を現し、それに基づいて運動法則が更新される度に、時間の認識もまた確実に進化・深化してきたのです。
 特に20世紀に入ってからの進展は飛躍的で、私たちが素朴に描いていた自然観を大きく塗り替えるような発見がいくつもありました。そして21世紀を迎えた今、最先端の物理学は、人類史上初めて、時間の真の正体を捉えつつあるという静かな興奮の中にいます。このワクワク感を多くの人たちと共有したくて、私もこの本を書きはじめたという訳です。
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新書版p.8


 時間とはなんだろう。この素朴な疑問を軸にして、古典物理から相対性理論へ、量子力学から量子場理論へ、さらに量子重力理論へと、物質と運動に対する理解が深まる度に起きてきた時間観の変遷を一般向けに解説してくれるサイエンス本。新書版(講談社)出版は2017年9月、Kindle版配信は2017年9月です。


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 この本のお話は、「時間」と刻まれた小さな石を手がかりに、そこに連なる建物を掘り起こす発掘の旅路です。小さな石だと思っていた「時間」は、「時空」「重力」「量子場」と刻まれた建造物を絶妙に繋ぐ要石でした。これらの建物はそれ自体美しく壮麗ですが、どうやらこれらは、さらに深く埋もれた巨大な構造物の一部のようです。「量子重力」と刻まれていると伝えられるその巨大で荘厳な建物は、今まさに地中から姿を現そうとしており、そこには間違いなく、宇宙開闢の物語が壁画として刻まれているはずです。
 非常に近い将来、その物語を皆さんにお伝えできる日が間違いなく来ることでしょう。
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新書版p.229


 全体は8つの章から構成されています。


「第1章 時を数えるということ」
「第2章 古典的時間観 ――ガリレオとニュートンが生み出したもの」
「第3章 時間の方向を決めるもの ――「時間の矢」の問題」
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 私たちが思い込んでいる「時間」という存在は、物体の運動が持つ性質を説明するために導入された仮説だった、というのが事の真相です。
 おそらく、人類が周期運動の便利さに気付くのと時を同じくして、この「時間仮説」は人々の間に自然発生したはずです。実際、身の周りにはこの仮説と矛盾するような現象はひとつもありません。そんな訳で、この仮説はごく当然のように「真実」として私たちの世界観の中に組み込まれ、今日では時間ありきで世界を眺めるのが当たり前になってしまっている、という訳です。
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新書版p.31

 時間とはなにかを考える第一歩として、「時間」という概念がもともと「物体の運動が持つ性質」を理解するための作業仮説であったことを確認し、古典力学が到達した「絶対時間」の概念を解説します。


「第4章 光が導く新しい時間観の夜明け ―― 特殊相対性理論」
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 時間経過と空間の移動は見方の違いに過ぎないことになります。時間経過とは、比喩ではなく、本当に時空内の運動なのです。時間とは本来、時間と空間が一緒になった「時空」という枠組みの中で捉える必要があることがはっきりと分かります。
(中略)
 特に、空間方向の移動も時間経過の一部とみなせるというのはニュートンの時代には考えられない価値観です。相対性原理はこうした革命的な時間観に私たちを導くガイドラインの役割を果たしてくれました。
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新書版p.108、112

 特殊相対性理論から導き出された「ミンコフスキー時空」の概念を示し、「時間と空間は別々のものではなく、一つの枠組み(時空)を構成している交換可能な要素である」という、現代物理学に基づく時間観を解説します。


「第5章 揺れ動く時空と重力の正体 ―― 一般相対性理論」
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 観測者が勝手に決めた「時間方向」が、物体にとっての自然な時間方向(時空の最短ルート)からずれていると、その物体の時間経過は加速運動に見えて、重力が働いていると解釈されます。重力は時間経過の別名なのです。
(中略)
 このように、重力は、観測者の基準と慣性系の間の歪み(ずれ)に反応して発生する力です。その意味で、観測者の立場から見た時空の歪みは「重力場」と呼ばれます。
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新書版p.136

 加速によって時間経過に生ずる歪み、それを私たちは「重力」と呼んでいる。一般相対性理論によって明らかにされた時空と重力の関係を示し、「重力とは時間経過の別名である」という新しい時間観を解説します。


「第6章 時空を満たす「場」の働き ―― マクスウェルの理論と量子としての光」
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 光子は「波でも粒子でもある」というよりは、「波でも粒子でもないけれど、どちらの側面も併せ持つ何か」と言うべきなのでしょう。この二重性をどのように理解したら良いかは次の章で改めてお話ししますが、このような存在を一般に「量子」と呼びます。
 光は量子である。これが、20世紀初頭に人類が到達したひとつの理解です。
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新書版p.170

 光子は「波でも粒子でもないけれど、どちらの側面も併せ持つ何か」である。初期量子力学の概要を示し、「量子」の概念を導入します。


「第7章 ミクロ世界の力と物質 ―― 全ては量子場でできている」
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 このように、時空はその各点各点に動的な内部空間である場を構えていて、その量子的な振動状態が素粒子の正体です。物質を作る量子場と、力を伝える量子場であるゲージ場が調和し、(広い意味で)共振し合いながら運動する。これがミクロ領域における物質世界の姿です。
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新書版p.204

 「物質」も「力」も量子場の振動状態であり、これらの共振が「運動」を形作る。量子力学から量子場理論へと理解を広げ、量子重力理論の紹介に向けた準備を整えます。


「第8章 量子重力という名の大統一 ―― 時間とはなんだろう?」
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 一般相対性理論は時空の理論です。この理論が小さい領域で姿を変えるということは、今私たちが想像している「時間」は、図8-1の泥団子のようなもので、もっと小さい領域では全く違った姿をしていることを物語っています。この小さい領域を支配している重力理論を「量子重力理論」と呼びます。そして、量子重力理論が描き出す超ミクロ世界での時空の姿こそが、私たちが求めていた「時間とはなんだろう?」という問いへの答えに他なりません。
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新書版p.214

 量子場理論と一般相対性理論を統合した「量子重力理論」の完成に向けた歩みを解説し、そこから「時間とはなんだろう」という問いに対する究極の答えが見つかると考えられる根拠を示します。


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