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『人工知能の見る夢は AIショートショート集』(宮内悠介、林譲治、新井素子、井上雅彦、図子慧、矢崎存美、田中啓文、堀晃、高井信、かんべむさし、森下一仁、高野史緒、他) [読書(SF)]

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 この本に収められたショートショートは、人工知能学会の学会誌「人工知能」に掲載されたものです。人工知能学会では「未来を想像し、未来を創る」というテーマを掲げ、50周年を迎えた日本SF作家クラブ協力の下、2012年より様々なSF作家の方々に、学会誌に掲載するショートショートを依頼してきました。
(中略)
今回、学会の編纂とするにあたって、あえて小説の内容ではなく、小説に登場する人工知能の技術や使われ方に注目し、同じテーマを持つショートショートを3~4つずつ集め、8つの章を作りました。そして各章ごとに、その研究テーマを専門とする第一級の研究者に解説をいただき、現実サイドからの視点としています
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文庫版p.10、12


 人工知能学会の学会誌に掲載されたショートショートから選ばれた27編(+1編)をテーマ別に分類し、テーマごとにAI研究者による解説を追加した、AIテーマSFアンソロジー。文庫版(文藝春秋)出版は2017年5月です。

 SF作家によるAIテーマの短中編を集めそれに研究者の解説を付ける、という形式のアンソロジーとしては、『AIと人類は共存できるか?』が話題になりました。ちなみに単行本の紹介はこちら。

  2017年02月21日の日記
  『AIと人類は共存できるか?』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-02-21

 本書はいわばそのショートショート版。文庫版で300ページほどの分量に、小説27編、AI研究者の解説8編、さらに第4回星新一賞への応募作品(人工知能が書いた、というか、関与した小説)とその解説を詰め込んであります。

 ショートショートということでオチのある作品が多いのですが、正直いって類似パターンのオチが多すぎるように感じました。「ストーリーに関してはこちらから一切制限することはありませんでした」(文庫版p.11)とありますが、オチには何らかの制限をつけた方が良かったのではないでしょうか……。


[収録作品]

テーマ「対話システム」

『即答ツール』(若木未生)
『発話機能』(忍澤勉)
『夜間飛行』(宮内悠介)

 解説:稲葉通将

テーマ「自動運転」

『AUTO』(森深紅)
『抜け穴』(渡邊利道)
『姉さん』(森岡浩之)

 解説:加藤真平

テーマ「環境に在る知能」

『愛の生活』(林譲治)
『お片づけロボット』(新井素子)
『幻臭』(新井素子)

 解説:原田悦子

テーマ「ゲームAI」

『投了』(林譲治)
『シンギュラリティ』(山口優)
『魂のキャッチボール』(井上雅彦)
『A氏の特別な1日』(橋元淳一郎)

 解説:伊藤毅志

テーマ「神経科学」

『ダウンサイジング』(図子慧)
『僕は初めて夢を見た』(矢崎存美)
『バックアップの取り方』(江坂遊)
『みんな俺であれ』(田中啓文)

 解説:小林亮太

テーマ「人工知能と法律」

『当業者を命ず』(堀晃)
『アズ・ユー・ライク・イット』(山之口洋)
『アンドロイドJK』(高井信)

 解説:赤坂亮太

テーマ「人工知能と哲学」

『202X年のテスト』(かんべむさし)
『人工知能の心』(橋元淳一郎)
『ダッシュ』(森下一仁)
『あるゾンビ報告』(樺山三英)

 解説:久木田水生

テーマ「人工知能と創作」

『舟歌』(高野史緒)
『ペアチと太朗』(三島浩司)
『人工知能は闇の炎の幻を見るか』(神坂一)

 解説:佐藤理史


『即答ツール』(若木未生)
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「なかでも、このオススメの最高級機種には『あいまい数値化』機能がついてまして、迷っているときには『ペペロンチーノ気分が75パーセント、カツカレー気分が20パーセント、いっそ両方食べたい気分が5パーセント』という具合に、迷いの内訳が数値化されますー」
「まじすか。すごく便利だ。ならそのオススメのやつを買います」
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文庫版p.

 恋人から「メールへの返事が遅い」と叱られた男が、自分の気分を読み取って代わりに即効で返信してくれるAIエージェント付きのスマホを購入するが……。便利機能に振り回される人間関係という身近なトピックを扱ったユーモラスな作品。


『夜間飛行』(宮内悠介)
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「……連続飛行が6時間をオーバーしてる。そろそろ戻れる?」
「ああ」
「あと、時間外労働が60時間を超えてる。もっと自分を愛してあげて」
「それは余計なお世話だ」
「まあね。でも、パイロットの状態管理はアシスタント・インテリジェンスの役目」
「見た目はまるっきりカーナビだけどな」
「で、なんだっけ。近くのコンビニ?」
「違うよ!」
「急激な情動の変化を検出」
「うるさいよ!」
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文庫版p.38

 戦闘機のパイロットと、アシスタントAI(美人ボイス)の軽妙な会話。ゲームなどでお馴染みの設定を使ったコメディ作品。


『姉さん』(森岡浩之)
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 トラックを運転するのは、AIだ。だから、決め手はAIの能力だ。人間のほうも犯罪歴や健康状態などをチェックされるが、高度な知識や技術は要求されない。整備や修理は専門業者に任せればいいからだ。人間に要求される最も重要な資質は、AIとの相性に他ならない。それが優れていたおかげで、ぼくは採用されたのだ。
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文庫版p.72

 運転はすべてAI任せ。住居も持たず、トラックを住処として放浪生活するトラック運転手(運転しないけど)は、今や誰もが憧れる時代の花形。自動運転技術の普及による社会の変化を扱った作品。


『愛の生活』(林譲治)
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 そんなことが続いて、俺もわかってきた。カロリーが高いものを注文したり、買おうとしたりすると、トラブルが起こる。あのチラシのメモ書きが嫌でも思い出される。あの部屋は、あの女に呪われている。そうとしか思えない。きっと彼女は死んだのだ。
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文庫版p.91

 いわく付きの事故物件を安く借りた肥満気味の男。引っ越したその夜から、次々と怪奇現象に襲われる。霊障を避けるためには、どうやら規則正しい睡眠と食事、適度な運動、きちんとしたカロリー制限などを守るしかない。あれ、意外と健康的だよね。収録作中、駄洒落をオチに持ってきた唯一の作品。


『投了』(林譲治)
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 譜面から可能な盤面を予測し、最適な盤面を判断する。そうした将棋プログラムはすぐに人間の能力を追い抜いた。
 しかし、棋士や人工知能研究者からすぐに疑問の声があがりはじめる。つまり、プログラムは本当の意味で将棋を行っているのか? と言う疑問だ。
「対局の神髄は、人と人との将棋盤を介した駆け引きにある!」
 そうした意見により、将棋プログラムの開発方針は180度変わった。人間との駆け引きの要素が加味されたのだ。
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文庫版p.122

 盤外戦、心理的な駆け引きまでも巧みに行ってくるまでに進化した将棋ソフト。対戦する棋士が打った秘策とは。試合に負けて勝負に勝つ、そんな「大局観」を獲得したAIと人間の共謀関係を扱った作品。


『魂のキャッチボール』(井上雅彦)
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「死後の世界の住人との対話こそが、実は、AI研究の究極の目標のひとつだと言えるのです……」
 凜とした声で、中央の被験者の席に座った彼が言う。「それを示唆していたのは、例の〈電王戦〉で話題を呼んだ、あのコンピュータ将棋なのです」
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文庫版p.136

 死んでしまった家族と会話するためにAI技術を活用する。そんな目標に取り組んでいた研究者がついに完成させた装置とは。AIを使った幽霊、という発想がいかにもというか『異形コレクション 心霊理論』あたりに収録されていてもおかしくない作品。人工知能の応用よりも何よりも、「ナノマシンでエクトプラズムを再現」とか「3Dプリンタで霊体を造形」とか、こだわりギミックが印象に残ります。


『ダウンサイジング』(図子慧)
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 つまり、ぼくは次の段階にきたということだ。ステップをおりる。エラーを起こした脳の可動メモリのひとつをブロックして、外部記憶装置からの出力に切り替える。
 バージョンダウンがはじまった。
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文庫版p.161

 認知症の「治療」として外部記憶によるサポートを受けることになった患者。脳神経系の異常が起きるたびに該当箇所を切り離して外部システムに切り替えてゆくうちに、どんどん脳全体が萎縮してゆく。脳の「バージョンダウン」に伴う主観体験、というテーマに挑んだ意欲作。


『僕は初めて夢を見た』(矢崎存美)
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“夢”とはどんなものなのか、この時をずっと楽しみにしていたのだ。
 でも、やっとわかった。こうして思い出すと、この八年がずっと夢のようだった、と。
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文庫版p.173

 少年が目覚めたとき、ベッドの脇に見たことのないお兄さんが立っていた。彼は言う。「僕は君なんだよ」と。イーガン風のばりばり脳科学ハードSFですが、そういう感触を与えず、感傷的ファンタジーとして読ませるところが巧み。
 余談ですが、事前に「人工知能を搭載したぬいぐるみ、その名は“メカぶたぶた”」というような話を期待していたのですが、もちろん違いました(当たり前だ)。


『あるゾンビ報告』(樺山三英)
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多くの人々がわたくしの存在に思いを馳せ、思索を巡らせ、言葉を尽くし、議論を闘わせてこられました。わたくしが哲学的ゾンビと呼ばれる所以です。そうした歴史を経て今日、わたくしは晴れてみなさまの前に姿を現わすようになった。まことに感謝の念にたえません。
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文庫版p.250

 外見や言動は人間とまったく同じで原理的に区別が出来ないのに、意識も心もなく何も感じない。そんな架空の存在である哲学的ゾンビ。それがついに学会発表に立った。やたらと感謝したり恐れたり恐縮したり「している」と饒舌に語るゾンビ。しかし、その妙に慇懃無礼な言葉づかいからは、確かに背後にあるべき心や意識の存在が感じられない。文章の力だけで読者を煙に巻いてしまう作品。


『舟歌』(高野史緒)
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 それは数日前、僕のある友人から突然持ちこまれた仕事だった。知り合いの偉い博士が前代未聞の画期的な音楽AIを発明したので、そのテストに参加してほしいということだ。しかしその友人もどうやら、それがどんなもので、何をする装置なのか、まるで分かっていないようだった。彼によればそれは「すごい発明で、音楽の在り方を根本から変えるかもしれない、とにかくすごい、ものすごい発明」なのだそうだ。
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文庫版p.266

 新たに開発された「すごい音楽AI」のテストを引き受けた音楽家。芸術も文学もAIの方が人間よりも優れた創作をする時代に、音楽AIに新たな可能性など残されているのだろうか。創造性でもAIに追い越されたとき人間は何をすればいいのか、というテーマを掘り下げた作品。シリアスな作品ですが、主人公がオチを色々と予想した挙句に「さてはSF者か? 君は?」と言い放たれるシーンにはちょっと笑いました。


『人工知能は闇の炎の幻を見るか』(神坂一)
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『無理に修正しようとすればどんな問題が起きるか予想だにつきません。幸い、中二病というのは大抵、時間が経てば自然となおるものです。待つしかないでしょう』
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文庫版p.284

 社会インフラを支えている高度AIが、ちょーっと高度になり過ぎて、中二病を発症。人々は大混乱に陥った。中二病にかかっちゃうほどの強い人工知能という、なにげに痛いテーマを扱った爆笑作品。シンギュラリティを描いた作品かずあるなかで、「中二病を発症する」というプロットの説得力たるや。


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『玉繭の間取り』(中家菜津子、装幀:カニエ・ナハ) [読書(小説・詩)]

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【緊急告知】文フリ F-1カニエ・ナハさんのブースで、昨年びーぐるに連載させていただいた「玉繭の間取り」をまとめた詩集を少数販売します。もちろん装幀はカニエさんです。立体的に飛び出す詩。隙間から覗くと一行だけが見えたり、見る方向を変えると短歌が消失したり。ぜひ遊びに来て下さいね
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これはもはや本なんだろうか。建築みたいでもあり、好きに間取りをつくれるドールハウスみたいだし、ピクニックセットとかレジャーシートみたいだし、アートピースみたいだ。
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中家菜津子氏による2017年5月6日付けツイートより
https://twitter.com/NakaieNatsuko/status/860826975337725953
https://twitter.com/NakaieNatsuko/status/860827757076291587


 2017年5月7日に開催された第二十四回文学フリマ東京にて入手した中家菜津子さんのポップアップ詩集。発行は2017年5月4日。装幀(というか製作)はカニエ・ナハさん。

 「季刊びーぐる」第31号から第34号に連載された詩作を、いわゆる飛び出す絵本、ポップアップブック仕立てにしたものです。折り畳まれた台紙を開くと、詩の書かれた紙パーツが立体的に飛び出してくるという仕掛け。これを何部も手作りした労力を考えると頭が下がります。

 各台紙はそれぞれ居間、台所、書斎、玄関という部屋を模していて、全体でタイトル通り「間取り」になっている、というこだわり。目次と表紙を合わせたようなページが一枚付いていて、こちらは裏面が銀色の反射鏡。姿見でしょうか。

 それぞれの部屋に対応する詩作がポップアップ部分に印刷されているのですが、分割されていて同時に全体を見ることが出来なかったり、隙間から覗き込むようにして読むしかなかったり、全体をひっくり返しつつ様々な角度から見ないと読めなかったりと、これまたびっくりするほどのこだわりデザインを感じさせます。


「Living Room」
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 雨上がり、死んでしまった人に裸を見つめられる。遺影の中の微笑みは、くだらない善悪から解き放たれているのに、抱きあったあとのわたしたちは、後ろの正面あたりがうしろめたい。れんめん、れんめん、連綿と遺伝子を交歓してここが、終点なのですか。
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 ポップアップしたパーツが合わさってドアも窓もない部屋が立体的に構成されます。詩は部屋の内側に書かれているので、上からこう、覗き込むようにして読むことに。他人の部屋や心を盗視しているような後ろめたさ。


「Dining Kitchen」
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 「蚕を飼ってみたいの、豚や牛と同じで家畜として殺す運命にあるもの」
君はそう言ったのに、「翼の退化した天使みたい」なんて言って愛玩している。愛を捧げたら飼われているのは君の方で。繭から羽化した白兎と昆虫のキメラみたいな生きものは、飛べないけれど翅を持ち、食べられないから口はない。
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 台紙を90度開くと細いパーツが三つ、テーブルのように、あるいは食器棚や食洗機の仕切りのように、立ち上がります。そのパーツに印刷された三行だけが、詩の中から、文字通り浮き上がって見えるのです。


「Library」
――――
 ひらけごま。薄暗い書斎のドアを開けよう。チェリーの床、オークの机、楢の書棚、そしてその棚に収められた本のページは樅や松やユーカリやポプラ、それに桑のパルプからできていて。加工された針葉の、広葉の木々が、今も森閑と立っていることに、君は気づく。言葉の葉擦れの音がざわめき出し、そのざわめきが君の耳と相似の葉を探した。
――――

 波形のパーツが貼り付けられており、書棚に見えます。台紙を開いている途中だと空っぽの白い書棚、十分に開いて別角度から見ると、一つ一つの「本背」に短歌が印刷されていることに気づきます。台紙の反対側には二つに折られた紙片が貼り付けられており、本を開くようにして紙片を開いて中身を読むことに。


「門出」
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玉繭の一頭孵り
   残された
 鱗粉まみれの
  蛹きらめく
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 ポップアップするパーツが三つ、玄関から外門までの石畳と塀でしょうか。詩と短歌が様々な方向に印刷されており、上から読んで、手前から読んで、ひっくり返してまた読むことに。



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『時の渦 Vortex Temporum』(アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル振付、ローザス、アンサンブル・イクトゥス) [ダンス]

 2017年5月6日は、夫婦で東京芸術劇場プレイハウスに行ってローザスの公演を鑑賞しました。先日の『Fase』がローザスの原点だとすれば、こちらは現時点における到達点ともいえる『時の渦』、日本初演です。ローザスとイクトゥスによって「演奏」される60分。


[キャスト他]

振付: アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル
作曲: ジェラール・グリゼー
演奏: アンサンブル・イクトゥス


 アンサンブル・イクトゥスの七名と、ローザスのダンサー七名が、フランスの作曲家ジェラール・グリゼーの『時の渦 Vortex Temporum』を演奏します。

 『ドライアップシート』や『レイン』でのローザスとの共演を観たせいで、個人的にはローザスとセットで印象づけられているアンサンブル・イクトゥス。そのメンバーが、ピアノ、フルート、クラリネット、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロを演奏します。

 第一楽章が終了すると、ローザスのメンバー六名が登場。各ダンサーがそれぞれ一つの楽器パートを担当し、それまで演奏されていた楽器のパートを、身体の動きにより「変奏」してゆきます。

 第二楽章以降はイクトゥスもローザスも一名追加されてそれぞれ七名になり、全員で舞台上をゆっくりと渦巻きのように動いてゆきます。歩きながら演奏するイクトゥスも凄い。グランドピアノすら渦に巻き込まれるようにして舞台上をゆっくりと移動します。

 先日の『Fase』では音楽の構造そのものをダンスで表現していましたが、今や楽譜を身体で「演奏」するところまで到達した振付には驚かされます。楽器による演奏と身体による演奏が合わさって、視聴する音楽が形成されてゆく様には大興奮。

 渦を巻く最終楽章のうねりもかっこいいのですが、個人的に最も印象深かったのは、第二楽章のあたりで照明が次第に暗くなり、風の音(というか、いびき音に聞こえた)が静かに響く場面。これから何かが起こるという予感のような期待と怖さに感情が昂ります。


タグ:ローザス
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『ファーズ Fase』(アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル振付、ローザス) [ダンス]

 2017年5月3日は、夫婦で東京芸術劇場プレイハウスに行ってローザスの公演を鑑賞しました。ローザスの原点ともいわれる『Fase』、15年ぶりの来日公演です。しかもケースマイケル自身が出演、ほぼノンストップで踊るという、貴重な70分。


[キャスト他]

振付: アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル
出演: アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル、ターレ・ドルヴェン


 スティーヴ・ライヒの初期作品より『ピアノ・フェイズ』『カム・アウト』『ヴァイオリン・フェイズ』『クラッピング・ミュージック』という四つの作品を用いて、音楽に合わせて踊る、というより音楽の構造を分析しそれを身体の動きで表現してみせる、という驚異の作品です。

 同じフレーズが無限に繰り返されるなか、それまで同期していた複数のフレーズが次第にずれて「うなり」を生じたり、再同期したり、自由自在に聴衆を翻弄するライヒの音楽。それを二人のダンサーが見事に視覚化してゆきます。

 市販DVDで何度も観て“知ってる”つもりになっていた作品ですが、実際の舞台は今回がはじめて。冒頭、白いワンピースを着た二人のダンサーがすっと立ち、背後の白い壁に三つの影が投影されている光景だけで、臨場感の違いにのけぞりました。二人の動きが少しずつずれて、重なる影に視覚的「うなり」が生じるシーンなども想像以上の迫力で、ライヒの音楽とも相まって目眩が誘発されます。

 映像との印象の違いが最も大きかったのは、ケースマイケルがソロで踊る『ヴァイオリン・フェイズ』。映像は森の中で踊っているせいかふわふわした印象も受けるのですが、無機的な背景で踊られると、その幾何学的に精微な反復運動に何ともいえない凄みを感じます。


タグ:ローザス
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『宇宙に「終わり」はあるのか 最新宇宙論が描く、誕生から「10の100乗年」後まで』(吉田伸夫) [読書(サイエンス)]

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 宇宙はやがて終わる。この宇宙は遠い遠い未来に静かな終焉を迎えることが、始まりの瞬間から運命づけられている。そのような宇宙で、ビッグバンから138億年後という、“宇宙誕生直後”の時代に、われわれという構造は形成され、生きているのである。
(中略)
 こうした構造形成が可能なのは、ビッグバン以降の数千億年程度にすぎない。特に活発な構造形成は、ビッグバンから百数十億年という短い期間に集中して起きる。この時期を過ぎると、大量の光を放出する恒星は次々と燃え尽き、天体システムは崩壊して生命の存続は危うくなる。
 われわれ人類は、長期にわたって安定している宇宙に次々と登場する無数の知的生命の一つではなく、混沌から静寂へと向かう宇宙史の中で、凝集と拡散が拮抗し複雑な構造の形成が可能になった刹那に生まれた、儚い命にすぎない。
――――
新書版p.6、8


 ビッグバンによる誕生から「10の100乗年」の後、この宇宙は「ビッグウィンパー」と呼ばれる終焉を迎えることになる。長大な宇宙史のなかで生命のような複雑な構造が存在できるのはごく短い期間に過ぎない。現代宇宙論が明らかにした宇宙のはじまりから終わりまでの全宇宙史を解説するサイエンス本。新書版(講談社)出版は2017年2月、Kindle版配信は2017年2月です。


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 宇宙史の到達点を求めるならば、われわれ人類がたまたま生きているという恣意的な出来事に着目した“ビッグバンから138億年後の現在”ではなく、むしろ、宇宙が「ビッグウィンパー」と呼ばれる終焉に達した時点――本書では、ビッグバンから「10の100乗年」後を一つの目安とする――が、よりふさわしいだろう。
 宇宙カレンダーの例にならって10の100乗年を365日に置き換えると、ビッグバンから現在に至る138億年は、大晦日どころか、元日の午前0時0分0.000…004秒頃である(「…」では、0が77個ほど省略されている)。宇宙が終焉に至るまでの長久の歳月に比較すれば、ビッグバンから138億年後の現在は、宇宙が誕生した“直後”にすぎない。
――――
新書版p.4


 「宇宙」というと、「銀河や恒星が果てしなく広がる空間」「誕生から138億年を経てついに知的生命を生みだすに至った悠久の時間」といったイメージがぱぱっと脳裏に浮かぶのですが、これはたまたま現在の宇宙の姿、私たちの存在、といったものにとらわれた偏狭な発想であり、宇宙史全体を見渡せば、恒星も生命もすべて「宇宙誕生直後の限られた期間に生じる一時的事象」に過ぎないわけです。

 こうした、ビッグバンからビッグウィンパーに至る宇宙史全体というものを広く見渡す視点を与えてくれるのが本書です。宇宙史を11個の時代に区分し、それぞれの時代について特徴的な現象をざっくり解説してくれます。

 通して読むことで宇宙史のイメージを把握できる(あるいは把握できないほどのスケールだと認識できる)と共に、「私たちが存在できる期間」の特殊性とその宇宙史全体と比べた短さが分かります。

 さらに凄いのは、インフレーションとビッグバン、加速膨張、素粒子論の基礎、背景放射、銀河形成、恒星の一生、陽子崩壊、ブラックホールなど、天文学まわりのトピックを網羅的に学べるようになっているということ。300ページに満たない新書でこれだけの内容をごく自然にカバーする構成は驚きです。現代宇宙論入門書として強くお勧めします。


「第1章 不自然で奇妙なビッグバン ――始まりの瞬間」
――――
 ビッグバンは、巨大な爆発などではない。異常な高温状態にある一様な空間が整然と膨張を始めたものである。整然とした膨張だからこそ、その後に続く宇宙の進化が可能になったのである。
「高度な一様性」「異常な高温」「膨張の開始」――この三つの性質は、宇宙に多くの天体が形成され生命が誕生するために欠かせない。
――――
新書版p.37

 インフレーションを続けるマザーユニバースの一部でインフラトン場が変化し、それに伴ってポテンシャルエネルギーが解放された。それがビッグバンである。高度な一様性、異常な高温、膨張の開始、という「私たちの存在にとって必須だったとはいえ、いかにも不自然に感じられる」ビッグバンの三つの特質がどのようにして生じたのかを解説します。


「第2章 広大な空間、わずかな物質 ――宇宙暦10分まで」
――――
この宇宙が誕生したのは、インフラトン場がポテンシャルエネルギーを解放した結果だと考えられる(少なくとも、そういう説がかなり有力である)。このとき、解放されたエネルギーによって物質の場が激しく振動し始めたため、膨大な数の素粒子が生まれてきたのである。
(中略)
 大量のエネルギーを獲得した場の振動から生じたビッグバンの混沌状態は、空間膨張によるエネルギー密度の低下と対消滅を通じての粒子数の減少が起きたため、しだいに終息していく。こうして、現在のように、何もない広大な空間の中にわずかに天体が点在する宇宙が実現されたのである。
――――
新書版p.51、55

 ビッグバンの直後、場のエネルギーが無数の素粒子に変換された。この宇宙を特徴づける「物質の存在」に至るプロセスを解説します。


「第3章 残光が宇宙に満ちる ――宇宙暦100万年まで」
――――
温度が4000度以上で電子が自由に動き回っているときには、光は電子に散乱されてまっすぐには進めない(電子の2000倍近く重い陽子は光の振動に追随できないため、影響は小さい)。ところが、宇宙空間が膨張して温度が下がり、電子と陽子が結合して電気的に中性な水素原子に変化し始めると、光はしだいに散乱されにくくなる。宇宙暦38万年頃、温度が3000度付近まで低下すると、宇宙空間はほぼ透明になって、光はまっすぐ進むようになる。
 こうした変化は、ちょうど、霧がかかって見通しの利かない状態から、光を散乱していた微小な水滴が蒸発し霧が晴れた状態へと変わる過程に似ているので、「宇宙の晴れ上がり」と呼ばれる。
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新書版p.73

 空間膨張に伴う温度低下により光が電子に散乱されず真っ直ぐに進むようになった。それが今も宇宙背景放射として検出され、誕生から38万年後の宇宙のスナップショットを私たちに届けてくれる。「宇宙の晴れ上がり」と背景放射について解説します。


「第4章 星たちの謎めいた誕生 ――宇宙暦10億年まで」
――――
 ビッグバンから100万年も過ぎると、かつては熱放射によってギラギラと輝いていた空間も冷えて可視光線をほとんど放射しなくなり、宇宙全体は暗闇に包まれる。暗黒時代の訪れである。しかし、可視光線がなく真っ暗だからと言って、何も起きないわけではない。暗黒時代のさなかにも、宇宙史のハイライトとも言える最初の星の誕生に向けて、物質の凝集が着々と進行していた。
――――
新書版p.89

 フィラメント状に凝集してゆく暗黒物質(ダークマター)。フィラメントの交差点に集まった太陽質量の10万倍から100万倍の暗黒物質ハローがその重力により水素原子を引き寄せてゆき、そして暗黒時代の終わりを告げる輝きが生まれる。最初の恒星、ファーストスターが核融合を起こすまでのプロセスを解説します。


「第5章 そして「現在」へ ――宇宙暦138億年まで」
――――
あと数百億年も経つと、恒星の多くは暗い赤色矮星が占めるようになり、銀河も、星形成をあまり行わない楕円銀河が主流となる(銀河と恒星の進化に関しては、それぞれ第6章と第7章で解説する)。宇宙のステージが華やかなのは、宇宙暦数十億年から百数十億年、せいぜい数百億年の間という、宇宙史全体からするとごく短い期間にすぎない。
――――
新書版p.107

 銀河の形成、惑星の誕生、化学反応の進展、そして生命の誕生へ。現在のような宇宙がどのようにして出来上がったのかを解説し、それがわずか数百億年しか続かない、宇宙史全体から見るとごく短期事象だということを解説します。


「第6章 銀河壮年期の終わり ――宇宙暦数百億年まで」
――――
銀河は100億年程度で老化の徴候を見せ、星形成率が低下していく。巨大銀河同士が衝突・合体すると、あっと言う間に星をほとんど生み出さない楕円銀河となってしまう。ビッグバンから100億年少々という現在は、星形成率がピークとなった時期(宇宙暦40億年~60億年)から生命進化に必要な期間を経た時期に当たり、宇宙における第1世代の生命が最も繁栄している頃だと推測される。だからこそ、そうした生命の一つである人類も、この瞬間を生きているのだろう。
――――
新書版p.152

 銀河の分類と特徴、成長と進化、そして老衰。銀河に関する基礎知識と共に、私たちが存在している「今」が宇宙誕生から百数十億年後であることの必然性について解説します。


「第7章 消えゆく星、残る生命 ――宇宙暦1兆年まで」
――――
銀河はしだいに恒星を生み出さなくなり、太陽のように明るく輝く星は次々に寿命を終えて死んでいく。1000億年も経つと、生き残っているのは赤く暗い星ばかりとなり、その周囲に生命がどれほど繁栄しているか、おぼつかない。
 そして、宇宙暦1兆年に達する頃には、最も長い寿命を持つ暗い星たちでさえも、徐々にその灯を消していく。宇宙の黄昏とも言うべき時代である。
――――
新書版p.155

 銀河の星形成率の低下、星の老衰と死。宇宙から光が消えてゆく。恒星がどのように最後を迎えるのかを解説します。


「第8章 第二の「暗黒時代」 ――宇宙暦100兆年まで」
――――
局所銀河群から見て、他の銀河団が遠ざかる速度はしだいに加速され、ある時点で光速を超えて、もはや光すらやって来ない“地平線の彼方”に去ってしまう。840億年後には、地平線の手前に残っている銀河団はおとめ座銀河団だけとなり、それも880億年後には地平線の彼方に去って、決して見ることができなくなる。こうして、アンドロメダ銀河と天の川銀河が合体して誕生した巨大な楕円銀河以外には、観測可能な宇宙空間にはほとんど何もないという空虚な宇宙が実現される。
――――
新書版p.184

 宇宙の加速膨張によって他の銀河団がすべて観測不可能となり、さらにビッグバンの痕跡もすべて失われてしまう。最後まで残っていた赤色矮星も燃え尽きてゆき、宇宙は再び闇に包まれる。宇宙の第二次暗黒時代について解説します。


「第9章 怪物と漂流者の宇宙 ――宇宙暦1垓(10の20乗)年まで」
――――
銀河を構成する天体は、周辺から少しずつ“蒸発”して、広大な宇宙空間を漂流するようになる。残された天体は、しだいに中心部へと凝集し、そこに存在するブラックホールに呑み込まれていく。こうして、天体集団としての銀河は終わりの時を迎え、巨大なブラックホールと、バラバラに散らばった漂流天体へと解体される。
(中略)
 宇宙暦1垓年の宇宙は、空間が加速膨張を続けた結果としてほとんど何もない虚空が果てしなく拡がっており、ごく稀に漂流天体と超巨大ブラックホールが存在するだけの世界となる。
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新書版p.193、214

 銀河の解体。中心部の巨大ブラックホールとわずかな漂流天体だけが残される。ブラックホールの生成過程と物理的特性、銀河とブラックホールの共進化について解説します。


「第10章 虚空へ飛び立つ素粒子 ――宇宙暦1正(10の40乗)年まで」
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ほぼ絶対零度まで冷え切った天体は、何も起こさない物質の塊として、そのまま永遠に宇宙空間を彷徨い続けるようにも思われる。しかし、陽子や中性子が崩壊するとなると、そうもいかない。こうした漂流天体は、長い時間を掛けて壊れていき、いつかは天体の形を保てなくなって消滅する。
(中略)
 こうして、宇宙暦1正年(10の40乗年)頃には、陽子や中性子は宇宙空間から完全に姿を消し、電子、陽電子、ニュートリノ、光子が薄く漂うだけとなる。
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新書版p.228

 陽子と中性子が崩壊してゆき、ついに物体は消滅する。電子や光子など崩壊しない素粒子が薄く漂う空間には、今や巨大ブラックホールが点在するのみ。反物質、陽子崩壊など素粒子論のトピックを解説します。


「第11章 ビッグウィンパーとともに ――宇宙暦10の100乗年、それ以降」
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凝集の到達点とも言えるこの天体も、永遠ではない。巨大なものでは10の100乗年という気の遠くなるほどの長い時間だが、それでも有限な時間のうちに蒸発してしまう。
(中略)
 すでに第8章で、ビッグリップ、ビッグクランチなどを紹介したが、全てのブラックホールが蒸発し、物理現象がほとんど何も起きなくなった熱死に近い状態を迎えるという最後は、「ビッグウィンパー」と呼ばれることがある。
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新書版p.250

 ホーキング放射によるブラックホール蒸発メカニズムと共に、全ての陽子と中性子が崩壊しブラックホールが蒸発してしまった後の、物理現象の終わり(すなわち宇宙の終焉)である「ビッグウィンパー」を解説します。

 さらに終章、補遺という形で補足説明があり、最後に1ページの年表「宇宙「10の100乗年」全史」が付いています。


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