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『シリーズ 超常読本へのいざない 第3回 『核の誘惑 ――戦前日本の科学文化と「原子力ユートピア」の出現』(中尾麻伊香)』(超常同人誌「UFO手帖2.0」掲載作品)を公開 [その他]

 馬場秀和アーカイブに、超常同人誌「UFO手帖2.0」(2017年11月刊行)に掲載された作品を追加しました。

  『シリーズ 超常読本へのいざない 第3回 
  『核の誘惑 ――戦前日本の科学文化と「原子力ユートピア」の出現』(中尾麻伊香)』
  http://www.aa.cyberhome.ne.jp/~babahide/bbarchive/SpBookInvitation03.html


 なお、「UFO手帖2.0」の紹介はこちら。

  2017年11月15日の日記
  『UFO手帖2.0』(Spファイル友の会)
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2017-11-15



タグ:同人誌
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『たどり着けない地平線』(池田行謙) [読書(小説・詩)]

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虹に触れし風は私に触れながら椰子に触れ南洋に去りゆく
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午後十時桟橋をゆくシロワニよ 失くしてはならない傘であったよ
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海亀の卵一玉百円で冷凍ケースに積まれていたり
――――
求人用掲示板にはザトウ派かマッコウ派かを問う掲示あり
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射殺され灼かれた崖を次々と滑落しゆく野山羊の親子
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 離島に移り住んだ研究者の日常を鮮やかに描く小笠原歌集。単行本(青磁社)出版は2016年4月です。


 前半は感傷的な作品が並びますが、後半に入って小笠原諸島が舞台になった途端、活き活きと鮮やかな印象を残す作品が並びます。まずは、本土を離れ、島へ。


――――
船室の窓を横切るカツオドリ 諸島は近い後二時間だ
――――
雲低く流れ去りゆく海原の千キロ先に本州がある
――――
トビウオを空中で捕食する鳥の背の灰色が朝日を弾く
――――


 島をぐるりと散策。


――――
午後十時桟橋をゆくシロワニよ 失くしてはならない傘であったよ
――――
白骨化した海亀を避けゆけばやがて形骸化という言葉
――――
海亀の卵一玉百円で冷凍ケースに積まれていたり
――――
熱しても固まらなくて海亀の卵白の食べ方が分からず
――――
見学客一人もおらず水槽の鮫は一尾も泳がずにいる
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小判鮫は鮫に食べられちゃいました飼育係の人つぶやけり
――――


 島での生活。


――――
虹に触れし風は私に触れながら椰子に触れ南洋に去りゆく
――――
看板を掲げていない店舗には美容師がいて理容師がいる
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一週間単位で売られている新聞今週は読売を選べり
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椰子の実の落果を待っている浜に夕日が速度を速めて沈む
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 職場にて。

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求人用掲示板にはザトウ派かマッコウ派かを問う掲示あり
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ベタ凪だねベッタベタですね異動した所属長との最後の会話
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放線菌密度を嗅いで知る人になりたくて土に鼻押しあてる
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固有種の植物の種子百粒の採取申請して日が終わる
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 島の貴重な固有種を守るために、外来種を駆除しなければなりません。


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野山羊駆除のことを伝えているのだろうこだましてくる防災放送
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射殺され灼かれた崖を次々と滑落しゆく野山羊の親子
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尾の白い猫が私をやり過ごす雨後の車道は鈍く光れり
――――
出社する時一瞥す捕獲猫頭数表示今日は七匹
――――


 捕獲した猫を(おそらく猫保護活動の人に渡すために)本土まで届ける。この一連の作品がドラマチックで素晴らしいのです。


――――
捕獲した猫を内地に連れてゆく船を幾度も乗り換えながら
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水平線に向けて出航してやがて背後に現れる水平線
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八時間おきに野猫に給餌する私はたった一人の船客
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波の高さ六メートルに酔う猫を短く励まして退室す
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同じ国の海水の色竹芝の海を見下ろしている人々
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七パーセント湿度が低い世界にはゆっくりなじんでゆかねばならぬ
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速やかに猫のケージを受け取って去りゆく人の名前は知らず
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『スロー・リバー』(川合大祐) [読書(小説・詩)]

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 すべての人に。この句集を捧げる。うな丼のタレが余ったら送ってね。
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「たとえばだ三十一文字の定型をこれは川柳ですと言い張る」
定型的な文章表現をいじくってみると、そこから生まれてくる変なもの。言葉の面白さを追求する素敵句集。単行本(あざみエージェント )出版は2016年8月です。


 まずは、川柳そのものを題材にした、いわばメタ川柳が面白い。


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たとえばだ三十一文字の定型をこれは川柳ですと言い張る
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我思う「これは川柳ではない」と
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道は暮れここで破調にする理由
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だからこの句のメタファーに気付いてよ
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川柳は何と無力だ河馬の前
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 文章の形式が何というか自己言及してしまうときの変な気恥ずかしさ。


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図書館が燃え崩れゆく「失われ
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こうやって宇宙をひとつ閉じてゆく」
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よく耐えた屋台だったが接続詞
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僕の比喩たとえば君は東大寺
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 文脈に合わない固有名詞を無造作に放り込む手口。


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バルタンに進駐されてまた夏か
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この列は島耕作の社葬だな
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攻めて来る一万人のゴレンジャー
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啄木がカラシニコフを掘り当てる
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 よく見かける定型的な表現もこんな感じに。


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「その熊は炉心くわえている模様」
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気をつけろ奴は単なる意味だった
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回顧録蠅の少ない夏だった
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永劫が7~11時だったころ
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確率で言えばあなたは死んでいる
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室内で呼吸ソビエト航空史
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千年も続く家系にオチがない
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『怪談稼業 侵蝕』(松村進吉) [読書(オカルト)]

――――
 取材はしたけれど「地味すぎる」「どこかで聞いたことがある」といった理由で使えなかった体験談が、手帖の中に次々と、はち切れんばかりに溜まってゆく。
 これが全部本当のことだとするなら、ただごとではない。
 この世界はどうかしている。
 異常である。
(中略)
 そして、あえて云うなら――そんな異常な話がごろごろ転がっているこの現実そのものは、確かに存在している。
 体験談の中身の解釈はともかく、それを語る人自体は実在する。次から次へと、まるで誰かに派遣された刺客のように、尽きることなく私の前に立ち現れる。
 もしかすると私が書かなければならないのはそういった、私を変容させようと目論むこの世界、そのものなのかも知れない――。
――――
文庫版p.8


 怪異を体験した人に取材して、怪談実話を書く。世界観が汚染されてゆく。自分の身の回りでも当然のように「そういったこと」が起きるようになる。日常が浸食される。怖くて怖くて書けなくなる。あり得ないような体験談を「実話」として発表することに対する不安と罪悪感。取材相手とのトラブル。うさん臭い霊能力者との腐れ縁。

 「――これは、まともな稼業ではない」

 日本のジョン・A・キールこと松村進吉さんが開拓した怪談実話私小説シリーズ『怪談稼業』その第二弾。文庫版(KADOKAWA)出版は2018年7月、Kindle版配信は2018年7月です。


 まったく新しい怪談実話を創り出せ。師匠より厳命を受けて七転八倒する自身の姿を赤裸々に描いた、恐怖と笑いと感動の怪談実話私小説『セメント怪談稼業』の続編です。ちなみに前作の紹介はこちら。

  2015年04月09日の日記
  『セメント怪談稼業』(松村進吉)
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2015-04-09

 続編である本作では、12年も続けてきた怪談稼業の〈過酷さ〉がひしひしと伝わってくる(別の意味で)怖い話が大盛り。


――――
 怪談を集めれば集めるほど、恐怖に弱くなっていった。
 折角取材をしても、怖くて筆が進まないのだ。
 誰かの体験談を文章に起こすためには、それを頭の中で、いわば再現ドラマのように組み立て直して再生する必要がある。その話のどこが一番恐ろしく、肝になる部分なのかを見極めて、強調しなければならない。
 それが、怖くてできない。
 つまり、聞くだけ聞いておきながらもう思い出したくはないという有様で、お前は一体何がしたいんだと自問自答し、呆れ、苛立っては頭を搔きむしる毎日――。
――――
文庫版p.5


――――
 何もそこまで、大げさな、などと苦笑されるかも知れないが私に云わせればそれは結局、怪異を他人事だと思っているからだ。自分の身に降りかかった場合のことを、現実的に突き詰めては考えないからだ。
 勿論私だって、こんな因果な商売に腰まで浸かってしまう前は、怖い怖いと云いながらも怪談話を読んだり聞いたりするのを愉しみにしており、何なら一度くらい幽霊とやらを見てみたいものだとすら思っていた。
(中略)
 私もそこでやめておけば、今でもみんなと一緒に、楽しく怖がっていられたのだ。
 無用な危機感や焦燥に駆られることなく、障りや祟りに怯える必要もなくいられたのだ。一時の原稿料に眼が眩んだばかりに、私は。
――――
文庫版p.7、12


 ただ怖いだけでなく、危険な稼業。どのように危険か、「素人」である配偶者にこんこんと諭すものの、てんで分かってもらえない……。


――――
「お前達は迂闊にも今日、UFOだの宇宙人だのという異常現象の実在を確信している人物に会い、その人の世界観に汚染されて帰って来た――大変な失態ですよこれは。(中略)とにかくそういう、別のレイヤーに住んでる人間と接触すると、自分もそちら側に引っ張り込まれてしまう危険が生じるんだ。わかるか。つまり彼らの世界観に蝕まれると、自分の周りでも当然のように、そういったことが起きるようになるんだよ。これは真剣な話。向こう側の人間というのは、俺達にとってはもう、現実改変能力を持っているに等しい存在と云っていい。自分に近づく人の現実を、認識を、解釈を、自らの世界観で上書きしてしまう……」
(中略)
「イイバさんは俺達にとって、現実改変者だ。ならば俺は、それを文章化することで再改変し、その力に抵抗するしかないじゃないか。発表した作品は現実に跳ね返り、俺達を守ってくれる。〈実話〉にはその力がある、わかるだろう」
 私の熱弁に、家内はゆっくりと首を振った。
「……わからない。ごめん、正直さっきからあなたが何を云ってるのか、私には全然わからない」
――――
文庫版p.148、149


 まっとうで健全な配偶者。怪異など関心のない十匹の飼猫。家族のおかげで正気が保たれているという安心感があります。それから、怪談業界に対するぶっちゃけも多くて。


――――
 毎月毎月新しい怪談本が各社から出版され、この国はもう怪談まみれだ。
 活字離れが進む中、それでも「実話」とさえ銘打っておけば一定数の読者は買ってくれるものだから、それに甘えてどんどん「実話」が量産され、書き手も増える。
 私もそんな風潮の中で生み出された人間のひとりに他ならない。
 くだらない――。
 この世に「実話」などあるものか。
(中略)
 やはりこれは欺瞞だ。
 私は読者を騙して金を得ている。
 書くのが苦しい理由は、おそらくそこだろう。
 本当にこれを「実話」として発表してよいのかという、不安――その裏側にあるのは結局、怪異への怯え、幽霊だの何だのの実在を感じることに、怯えているから。
 書けば書くほど外堀を埋められ、追い詰められてゆくように感じるから。
 諦念めいた無気力が筋肉の合間に溶け込み、私の指先を動かなくさせる。
――――
文庫版p.247


 一方で、霊感少女の人生を狂わせてしまった悔悟のエピソード、映画を撮ろうとして次々と災難が降りかかるエピソードなど、著者の誠実さというかモラリストぶりも印象的。こういう自分を律する力の強さも、怪談稼業を続けてゆくための大切な資質なんだろうな、と思います。


 全体としては私小説なのですが、作中作のように怪異譚が埋め込まれていて、そちらも興味深く読むことが出来ます。個人的に最も気に入ったのは、「さまよえる電柱の件」。


――――
 私がこの数年来、個人的に追い続けているのはもっと不可解で、説明不能な、文字通り夜の闇に「現れては消える」謎。
 知る人ぞ知る正体不明の怪現象。
 私はそれを、「さまよえる電柱」と呼んでいる。
(中略)
 現在までに伝わる限り都合六件の、奇妙な電柱の話がこの市にはある。
 そして何を隠そうこの私自身、今から二十年近くも前になるが、それを目撃している。
――――
文庫版p.158



タグ:松村進吉
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『ノッキンオン・ロックドドア』(青崎有吾) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]

――――
「どちらが探偵さん?」
「残念ながら両方です」と僕。「うちは共同経営でしてね」
「俺が不可能専門、御殿場倒理」
「僕が不可解専門、片無氷雨」
 順に自己紹介したが、マダムにはいまいち伝わらなかったらしい。
「不可能……不可解?」
「得意分野だよ」相棒――倒理が答えた。「謎に合わせて担当を分けてるんだ」
――――
単行本p.10


 犯人の足跡が残っていない雪上殺人、衆人監視下での不可能毒殺、なぜ犯人は絵を赤く塗ったのか、なぜ犯人は被害者の髪を切ったのか。不可能専門探偵と不可解専門探偵、相棒にしてライバルの二人が組んで謎を解くバディ探偵もの連作ミステリ短篇集。単行本(徳間書店)出版は2016年4月、Kindle版配信は2016年4月です。


 犯行方法を推理するのが得意な倒理、犯人の不可解な行動の動機を見破るのが得意な氷雨。それぞれ一人では解けない謎も、互いに分担し協力すれば解決する。というわけで二人の探偵が分担して事件に挑みます。


――――
 僕ら二人の関係は、まるでファミコンの横スクロールアクションだ。プレイヤーが扱えるキャラクターは二人。片方のキャラは攻撃力が高く、もう片方のキャラはジャンプ力が強い。倒理じゃないと倒せない敵もいるし、僕じゃないと届かない足場もある。目前の敵や地形に合わせて、僕らは目まぐるしく入れ替わる。そうやって少しずつステージのゴールを目指す。補い合う。協力する。共闘する。
 共謀する。
――――
単行本p.238


 なぜこういう面倒くさい探偵に仕事が来るかというと刑事の知り合いがいるからで、どうして不可能犯罪やら不可解犯行やらに出くわす率が異様に多いのかというと実行犯の背後にトリックを考案してやる教唆者がいるから。そしてさらに面倒なことに、この四人は旧友でありライバルなのです。


――――
 僕らの関係は複雑だが、難解ではない。
 大学時代、僕ら四人は同じゼミに在籍していた。文学部社会学科・第十八期天川ゼミ「観察と推論学」。教授が採り上げる数多の犯罪を相手に、毎週四人で机を囲み、議論し、学び、ほどほどにサボり、卒業して社会に出た。
 四人のうち、一人は犯罪者を捕らえる仕事に就き、
 二人は犯罪を暴く仕事に就き、
 もう一人は犯罪を作る仕事に就いた。
 まあ、それだけのことである。
――――
単行本p.145


 それだけのことである、っていうか、四人の暗黙の協力によって流れ作業的に殺人事件が量産されているような気がしてならないんですけど……。


[収録作品]

『ノッキンオン・ロックドドア』
『髪の短くなった死体』
『ダイヤルWを廻せ!』
『チープ・トリック』
『いわゆる一つの雪密室』
『十円玉が少なすぎる』
『限りなく確実な毒殺』


『ノッキンオン・ロックドドア』
――――
 アトリエの天窓ははめ殺しであり、ドア以外現場に出入口はなかった。そしてドアには、内側から鍵がかかっていた――つまりは密室殺人である。
 しかしその不可能状況の他に、現場にはもう一つ不可解なものが。
 アトリエの壁には霞蛾作の風景画が六枚飾られていたのだが、そのすべてが額縁から出されて床に放られており、しかも一枚は、真っ赤に塗りつぶされていたというのだ。
――――
単行本p.14

 密室内で殺されていた画家。なぜ犯人はわざわざ絵を赤く塗ったのか。不可能犯罪と不可解犯行が見事に融合された事件に、二人の探偵が挑みます。


『髪の短くなった死体』
――――
「このとおり、善田さんは髪を長く伸ばしていました。コンビニの防犯カメラの映像でも髪は長いままでした――ところが死体発見時は、髪が短くなっていたんです。うなじあたりの長さまでばっさりと」
「……それってつまり」
「ええ。犯人は死体の髪を切り、それを現場から持ち去っているんです」
 神保は首を60度近く傾け、「不可解でしょ?」としたり顔で言った。
――――
単行本p.45

 なぜ犯人は被害者の長い髪を切って持ち去ったのか。一見して不必要な犯人の行動、その背後にある動機は、事件の構図をひっくり返すだけのものだった。


『ダイヤルWを廻せ!』
――――
 この人何か勘違いしてるんじゃないか? と疑念を抱き始めた僕らをよそに、長野崎仁志は立ち上がらんばかりの勢いで熱く断じたのだった。
「つまり祖父は、遺書に暗号を残したんですよ!」
(中略)
 この人何か勘違いしてるんじゃないか? と今日二度目の疑念を抱き始めた僕らをよそに、奈津子女史はその細い瞳に炎を燃やして言い張ったのだった。
「きっと父は、誰かに殺されたのよ!」
――――
単行本p.77、79

 不可解な状況で亡くなった老人。遺書に書かれている番号通りにダイヤルを回しても開かない金庫。二つの事件にそれぞれ分担して取り組んだ倒理と氷雨は、現場で鉢合わせすることに。


『チープ・トリック』
――――
 心臓を撃たれ、死体となり、窓際に倒れていた湯橋甚太郎。被害者が立っていたのは窓からわずか50センチしか離れていない場所だ。しかし彼は事前に狙撃を警戒しており、何があってもカーテンを開けようとせず、それどころか窓際に近づこうとさえしなかった。
 ――だとしたら、どうやって彼は窓際で狙撃を?
「不可解だ」
「それに不可能」
――――
単行本p.122

 分厚いカーテンに隠された部屋、しかも窓際には決して近づかない被害者を、狙撃犯はどうやって仕留めたのか。狙撃現場に残された大胆不敵な挑戦状。倒理と氷雨には、このトリックを考え出した黒幕に心当たりがあった……。


『いわゆる一つの雪密室』
――――
「ところが、誰がどうやって空き地の真ん中にいる男を殺したのか、それがわからないってわけで。つまりこれは、いわゆる一つの」
「雪の密室!」
 口元がほころんだ。これぞ“不可能専門”探偵・御殿場倒理が待ち望んでいた絶好のシチュエーション! 俺はご馳走にありつく前みたく、手袋をつけた両手をすり合わせる。
 対照的にテンション下がりまくりの“不可解専門”が、背後で「温泉入りたい」とぼやくのが聞こえた。
――――
単行本p.150

 雪に覆われた空き地の真ん中で刺し殺されていた男。残されていた足跡は被害者のものだけ。いわゆる雪密室に二人が挑む。


『十円玉が少なすぎる』
――――
「『十円玉が少なすぎる。あと五枚は必要だ』」
 ゆっくりはっきり、言いました。
 倒理さんと氷雨さんはまばたきを二度繰り返し、仲よく首をかしげました。
「今朝学校に行くとき、そういう言葉を耳にしたんです。スマホで通話してる男の人とすれ違って、その人が通話相手に話しかけてるのが一部分だけ聞こえて」
――――
単行本p.184

 『十円玉が少なすぎる。あと五枚は必要だ』
 探偵事務所のバイトである高校生が聞き取った何気ない言葉。そこからどんな推理が可能だろうか。言うまでもなく『九マイルは遠すぎる』(ハリイ・ケメルマン)の本歌取りで、「原典」と同じ着地点を目指して二人の推理は進んでゆきます。


『限りなく確実な毒殺』
――――
「男が衆人環境下で毒殺された」と、倒理。「奴が飲んだシャンパンから毒物が。だがグラスに最初から毒が入っていたはずはない」
「でも、男がグラスを取ったあとに毒が混入したとも考えられない」
「本当にそうだとしたら奴は死なない。何か見落としてるんだ。盲点を。シャンパンに毒を混ぜる方法を……」
――――
単行本p.239

 衆人監視下での毒殺。被害者が飲んだグラスから検出された毒物。しかし、最初から毒が入っていたはずはなく、後から入れることも不可能。そして現場に残された挑戦状。再び奴の考案したトリックが使われたのだ。倒理と氷雨は旧友からの「出題」に立ち向かう。



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