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『三姉妹とその友達』(福永信) [読書(小説・詩)]

 得体の知れない不可思議な作品で小説の可能性を広げつつ多くの読者を困惑させてきた福永信さんの最新長篇。単行本(講談社)出版は、2013年02月です。

 印象的な登場人物が提示され、その人となりやら抱えている事情やら動機が説明され、読者の感情移入を促しつつ、結末に向けてそれなりに論理的にストーリーが展開してゆく、というような常識を、てんで無視した破天荒な小説、というかそもそも福永信さんが書くものを小説に分類してよいのか、まずそこからして悩んでしまいます。

 今作もかなり奇天烈。

 まずタイトルからして謎。というのも、本作には三姉妹が登場しないのです。その友達も登場しないようですが、もしかしたら登場人物の誰かが三姉妹の友達なのかも知れません。そうでないのかも知れません。何か文学的な仕掛けなのかも知れませんし、ただのいちびりかも知れません。

 気を取り直してページを開くと、まず『三姉妹』と題された全四幕の戯曲が始まります。第一幕は「長男」による語りで、たった一つの長い長いセリフだけで構成されます。第二幕は「次男」、第三幕は「三男」、第四幕は「四男」の語りで、それぞれ長い長いセリフ一つで構成されています。いわゆるト書きは皆無なので、舞台がどうなっているのかまったく分かりません。三姉妹も登場しません。それはさっき云った。

 どこが戯曲だ。

 「どうかその手にもっているものを投げすててくれ。どうか、ポケットに入っているものをいますぐ出しなされ。その背中にまわした手を、前へ出してください」(単行本p.11)

 いきなり出だしから「してくれ」、「しなされ」、「してください」の連打。この後も、ずっとこの調子で要請、というか懇願が続きます。そう、この戯曲?は、それを構成する文章のほぼすべてが読者?に対する懇願になっているのです。

 「どうか、同窓会に参加してくれ。同窓会に ・・・・・・まだ「失敗していない」自分と出会うことができる、またとない機会なのだからね。がんばろうじゃないか。そのころの自分しか知らない・・・・・・その後のきみのことを知らない仲間と会うことで、心の健康を保ってくれ。むろん・・・・・・もちろんかつての同級生との差を見せつけられて、より傷が深まるという可能性もあるが・・・・・・どうか、自分の選択をおそれないで」(単行本p.39)

 「人間の気持ちが・・・・・・何もしないというあきらめの心が、大事だったということかも。いや、もっと消極的に、物事をとらえるべきだと・・・・・・だめだ、だめだ、もうだめなんだ、という後ろ向きな気持ちが・・・・・・「人生のあきらめ交響曲」が聞こえてくるまで後ろ向きに物事を見る訓練をくりかえしていたことが、逆転の発想を生んで、自然治癒力を増進させたのかもしれぬ、とにかく・・・・・・とにかく、どうか、心配しないでくれ」(単行本p.59)

 懇願口調で腰が低い割に慇懃無礼で言いたい放題な気もしますが、とにかくこんなセリフが延々と続くのです。話の内容は・・・・・・、何だかよく分かりません。

 多機能携帯電話を撲滅し、代わりに貝がらを使って心と心をつなぐべし、と唱えた四兄弟がそのために他人から多機能携帯電話を奪ったり、生涯に出会ったすべての人に生死を問わず出席してもらう「人生同窓会」を開催したり、四段ベッドを崩壊させたり、なんかそういうことをやっているようです。

 続く作品は、『そのノベライズ』。

 つまりですね、ここまで続けてきた戯曲?を小説?にしたというものです。懇願口調は止めて、ごく普通の文章で語られます。話の内容は・・・・・・、何だかよく分かりません。

 多機能携帯電話を撲滅し、代わりに貝がらを使って心と心をつなぐべし、と唱えた四兄弟がそのために他人から多機能携帯電話を奪ったり、生涯に出会ったすべての人に生死を問わず出席してもらう「人生同窓会」を開催したり、四段ベッドを崩壊させたり、なんかそういうことをやっているようです。

 付録のように収録されている『この世の、ほとんどすべてのことを』は、ひらがなを多用した「小学校低学年向け」っぽく見せかけた短篇です。大人たちに代わって子供たちが仕事をしたら、実は世の中それでうまくいったという話。

 「この世の、ほとんどすべてのことを、こどもたちが、になうようになりました。おとなにならないと、できなかったしごとなんて、ほんとは、なかったんです」(単行本p.148、149)

 最後のオチもきれいにキマっていて、これは普通に面白い。良くできたショートショートだと思います。もしやこの作者、技巧に耽溺しないごく普通の小説を書けばもっと売れるのでは、などというてもせんないことを考えてしまったり。でも、次回作もまた読者を驚かせ困惑させる作品であることを期待してしまうのです。


タグ:福永信
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