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『使い魔の日記(「群像」2016年10月号再掲)』(笙野頼子) [読書(小説・詩)]

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使い魔が使い魔である間、一切同情はされない。人間が持つような要求を持てば、ありうべからざる行為として危険視され、ひたすら凶兆のように扱われてしまう。飲み物は用事の間に自分の財布から買う。人間時代に持っていたものの殆どは神棚を祀っている家人に管理されているため、ポケットに隠し持った小銭だけが使い魔の人権を保証する事になる。「どこへも行くな」、「大きな金を持つな」、「全部報告しろ」という原則が使い魔にはあるが、そんな規則を全部守っていれば二月で死ぬ。
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群像2016年10月号p.478


 シリーズ“笙野頼子を読む!”第106回。

 文芸誌「群像」2016年10月号に、創刊70周年記念として永久保存版「群像短篇名作選」が載りました。三島由紀夫『岬にての物語』(1946年11月号)から川上弘美『形見』(2014年2月号)まで、「群像」に掲載された作品から54篇を選んで一挙に掲載するという豪華企画。掲載作品リストについては後述します。

 笙野頼子さんの作品からは、群像1997年1月号に掲載された『使い魔の日記』が再掲。この短編は後に単行本『笙野頼子窯変小説集 時ノアゲアシ取り』に収録されています。ちなみに、単行本Kindle版読了時の紹介はこちら。


  2013年06月11日の日記
  『笙野頼子窯変小説集 時ノアゲアシ取り(電子書籍版)』(笙野頼子)
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2013-06-11


 都会で独り暮らしをしていた語り手は、生まれ故郷に呼び戻され、土着蛇神の「使い魔」にされ、ひたすら酷使されることに。使い魔というか使いっぱしりというか。


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私は竜神以前にこのあたりに自然発生した、土着神が半分妖怪化した蛇神の下で、言われた事を、ただ泣き泣きやっているだけだ。百三日前、都会で普通に暮らしていたところへ、いきなり下ってきた指令に逆らえずに、こうして帰ってきた」
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群像2016年10月号p.480


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自分の命の火を、誰かが糸で外へ引っ張り出して操っていて、その糸の通りに動かないと殺されてしまう。こういう日は今までに何日もあった。こんな日を、「特に規制の強い日」と私は呼んでいる。
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群像2016年10月号p.477


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私が所属している神棚の本宮にあたるところからどんどん指令が来ていた。指令は頭の中にたちまち発生して、ひとつの用をしている後ろからすぐ別の用事が言い渡され、おまけに実際にしている動作のひとつひとつに釈明を求められ訂正を要求される。いくつもの用を一度にしていると一ヵ月先の仕事について段取りを言えと迫って来る。
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群像2016年10月号p.477


 人間としての尊厳などかるーく無視され、すごい抑圧を受けながら、細々とした雑用から、「道端に生えてくる生首を片付けておく」といったえぐい仕事まで何でもやらされ、小突き回される日々。部分的にはどこかユーモラスな印象も受けるものの、人が死んでゆく、あるいは人でないものに変容してゆく、そういうイメージがつきまとい、けっこうしんどい話です。

 なお、本作が発表されたのは1996年12月。この年に笙野頼子さんの母親が亡くなっています。年譜によると「五月、母が腺癌のため入院。帰郷して昼間看病し、夜に執筆する生活で10キロ近く痩せる。(中略)九月、母死去」(『幽界森娘異聞』講談社文芸文庫版p.326)とあり、このときの看病生活のハードさ、周囲からの抑圧のすごさと虐げられっぷりについては他作品に書かれていますが、まさにその渦中で執筆されたと思しき本作にも色濃く反映されているように思います。


「群像短篇名作選」収録作品リスト

三島由紀夫「岬にての物語」(1946年11月号)
太宰 治「トカトントン」(1947年1月号)
原民喜「鎮魂歌」(1949年8月号)
大岡昇平「ユー・アー・ヘヴィ」(1953年5月号)
安岡章太郎「悪い仲間」(1953年6月号)
庄野潤三「プールサイド小景」(1954年12月号)
吉行淳之介「焔の中」(1955年4月号)
圓地文子「家のいのち」(1956年9月号)
室生犀星「火の魚」(1959年10月号)
島尾敏雄「離脱」(1960年4月号)
倉橋由美子「囚人」(1960年9月号)
正宗白鳥「リー兄さん」(1961年10月号)
佐多稲子「水」(1962年5月号)
森茉莉「気違ひマリア」(1967年12月号)
深沢七郎「妖術的過去」(1968年3月号)
小沼丹「懐中時計」(1968年6月号)
河野多惠子「骨の肉」(1969年3月号)
瀬戸内晴美「蘭を焼く」(1969年6月号)
三浦哲郎「拳銃」(1975年1月号)
吉村昭「メロンと鳩」(1976年2月号)
富岡多恵子「立切れ」(1976年11月号)
林 京子「空罐」(1977年3月号)
藤枝静男「悲しいだけ」(1977年10月号)
小島信夫「返信」(1981年10月号)
大江健三郎「無垢の歌、経験の歌」(1982年7月号)
後藤明生「ピラミッドトーク」(1986年5月号)
大庭みな子「鮭苺の入江」(1986年10月号)
丸谷才一「樹影譚」(1987年4月号)
津島佑子「ジャッカ・ドフニ――夏の家」(1987年5月号)
色川武大「路上」(1987年6月号)
山田詠美「唇から蝶」(1993年1月号)
多和田葉子「ゴットハルト鉄道」(1995年11月号)
笙野頼子「使い魔の日記」(1997年1月号)
小川国夫「星月夜」(1998年1月号)
稲葉真弓「七千日」(1998年2月号)
保坂和志「生きる歓び」(1999年10月号)
辻原登「父、断章」(2001年7月号)
黒井千次「丸の内」(2003年1月号)
村田喜代子「鯉浄土」(2005年6月号)
角田光代「ロック母」(2005年12月号)
古井由吉「白暗淵」(2006年9月号)
小川洋子「ひよこトラック」(2006年10月号)
竹西寛子「五十鈴川の鴨」(2006年10月号)
堀江敏幸「方向指示」(2006年10月号)
町田康 「ホワイトハッピー・ご覧のスポン」(2006年10月号)
松浦寿輝「川」(2009年1月号)
本谷有希子「アウトサイド」(2012年3月号)
川上未映子「お花畑自身」(2012年4月号)
長野まゆみ「45°」(2012年5月号)
筒井康隆「大盗庶幾」(2012年12月号)
津村記久子「台所の停戦」(2012年12月号)
滝口悠生「かまち」(2013年4月号)
藤野可織「アイデンティティ」(2013年8月号)
川上弘美「形見」(2014年2月号)



タグ:笙野頼子
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