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『耳ふたひら』(松村由利子) [読書(小説・詩)]

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行儀よく方解石が割れるごと予定調和のニュース解説
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時に応じて断ち落とされるパンの耳沖縄という耳の焦げ色
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「ヤフー」への嫌悪あふれて救いなき暗さに終わるガリヴァー渡航記
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全天を震わせ雷雨来るときに怒髪というものわたくしにある
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それは小さな祈りにも似てほの暗き森に灯れる発光キノコ
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耳ふたひら海へ流しにゆく月夜 鯨のうたを聞かせんとして
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 沖縄の自然、そして日本社会の理不尽さ。石垣島に移り住んだ歌人が刻みつける離島歌集。単行本(書肆侃侃房)出版は2015年4月、Kindle版配信は2016年2月です。


 まずは南国の美しい自然をうたった作品のまぶしさに心惹かれます。


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明け方のスコール上がり大空に二重の虹をかける太陽
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転調ののちの明るさスコールが上がれば島は光を放つ
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不意打ちの雨も必ず上がるから島の娘は傘を持たない
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子どもらは青き夏野を駆けてゆく積乱雲の育つ速さに
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海洋性気候という名の簡潔よ風が変われば季節も変わる
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ハイナップル・ピパーツ・パパイヤ南島に半濁音の明るさは満つ
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島時間甘やかに過ぎマンゴーの熟す速度にわれもたゆたう
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 激しい恋の歌も、いかにも躍動感に満ちています。


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てのひらのその先にある急カーブ曲がり切るにはアクセルを踏め
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握手したのちのぬくもり頬に当て違うんだなあとつぶやいている
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告げられぬ愛あるときにてのひらは遠い草原行き着けぬ場所
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巡り来る季節をいくつ重ねても飼い馴らされぬもの潜む森
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しなやかな獣いきなり抜け出して咆哮せし夜 月も見ていた
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 自然は分け隔てなしにしても、人間はそうではありません。島で生まれたわけでなく、あくまで余所者として扱われることへの屈託もたまってゆきます。


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南島の陽差し鋭く刺すようにヤマトと呼ばれ頬が強張る
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夜明け前の最も暗き夢の中おまえは来るなと山に言われる
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寄留者であった会社のわたくしも離島へ移り住んだわたしも
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面倒な外来種だと思われているのだろうかクジャクもわれも
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導火線と思ういくつか避けながら会話しており家族も他人
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言えぬこと呑みこむ夜に育ちゆくわが洞窟の石筍いくつ
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 やがて沖縄をめぐる情勢、日本国において沖縄がどのように扱われているのか、観光客には見えないその姿が次第に見えてきます。


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手つかずの自然という嘘 除草剤撒かねば道が塞がれる島
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来ては去る観光客に消費されどこか痩せゆく島の風景
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長き夏長き戦後を耐えてきて楽園なぞと呼ばれたくなし
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英霊と呼ばれることを喜ばぬ母の数など統計になく
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ソメイヨシノの咲かない島の老若に散華教えし国ありしこと
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ハイビスカスくくと笑いぬ東京と米国ばかり見ているメディア
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行儀よく方解石が割れるごと予定調和のニュース解説
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時に応じて断ち落とされるパンの耳沖縄という耳の焦げ色
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縦と横きっちり測り男らは世界の耳をまた切り落とす
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 沖縄と日本の現実がクローズアップされ、怒りをこめて書き綴られてゆきます。


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春の夜の夢ばかりなる愚かしさ きれいな海が埋め立てられる
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みなテロと断じる時代かつてそれは抵抗(レジスタンス)と呼ばれしものを
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息詰めて腐臭を放ち開き行く花と見ており秘密保護法
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知らぬ間に桜は咲いて武器輸出三原則もあっさり消える
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棋士を負かす人工知能つくる知も停止させ得ぬ原子炉あまた
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年々歳々世界は縮みゆくばかり私の足を踏む足がある
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新聞が輝いていた日々思う1クリックでニュースを読めば
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「ヤフー」への嫌悪あふれて救いなき暗さに終わるガリヴァー渡航記
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あめりかの映画を観ればあめりかの女の人はまだ頑張っている
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全天を震わせ雷雨来るときに怒髪というものわたくしにある
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 絶望感とともに、遠い未来を幻視するような作品が並びます。


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人類史のページ繰りゆく電子化され残り何ページか分からぬが
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もはや発芽させることなき硬き土おやすみおやすみ私のからだ
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冬の卵ひとつ湖底に沈めたり千年のちの春に目覚めよ
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憲法改正そののちの闇思うときはつか明るき種子の方舟
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人類が死滅したのち一斉に芽吹く春あれ永久凍土に
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 そして再び沖縄の自然、ただし人がいない自然の姿がうたわれ、その透明な悲しみが胸を打ちます。


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月のない夜にむりりとガジュマルの押し広げたる粘性の闇
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それは小さな祈りにも似てほの暗き森に灯れる発光キノコ
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海に降る雨の静けさ描かれる無数の円に全きものなし
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耳ふたひら海へ流しにゆく月夜 鯨のうたを聞かせんとして
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 様々なトーンの言葉を注意深くバランスよく配置することで、沖縄の美しい自然と日本社会の理不尽さを掃き寄せたような状況を、深く岩に刻み込むような強い印象を受ける歌集です。



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