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『スタートボタンを押してください ゲームSF傑作選』(桜坂洋、チャールズ・ユウ、アンディ・ウィアー、ケン・リュウ、他) [読書(SF)]

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 人気ゲームの設定を使ったファンノベルはたくさんあるが、本書に収められた短編たちはそういったタイプではない。登場するゲームは架空のもの。ゲームそのものをモチーフとしテーマとしている。
 だから、あなたがゲーマーもしくはゲームに興味がある人ならば、これは必読の書。というよりも、もはやゲームをプレイするしないにかかわらず、ゲーム的感覚は我々にとって必須の習得能力のひとつだから、誰もが読むと良いと思う。
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文庫版p.357


 激しく進化し続けるコンピュータゲームは、私たちの現実認識や生き方をどのように変えてゆくのか。原著に収録された16篇のうち、桜坂洋からケン・リュウまで傑作短篇12篇を厳選収録したゲームSFアンソロジー。文庫版(東京創元社)出版は2018年3月、Kindle版配信は2018年3月です。

 『レディ・プレイヤー1』『ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ジャングル』などコンピュータゲームをテーマにした映画が立て続けに公開されるタイミングを見計らって出版されたと思しきSFアンソロジーです。タイトルを眺めただけでも、リスポーン、1アップ、NPC、神モード、サバイバルホラー、キャラクター選択、といった具合にコンピュータゲーム用語が飛び交っています。


[収録作品]

『リスポーン』(桜坂洋)
『救助よろ』(デヴィッド・バー・カートリー)
『1アップ』(ホリー・ブラック)
『NPC』(チャールズ・ユウ)
『猫の王権』(チャーリー・ジェーン・アンダース)
『神モード』(ダニエル・H.ウィルソン)
『リコイル!』(ミッキー・ニールソン)
『サバイバルホラー』(ショーナン・マグワイア)
『キャラクター選択』(ヒュー・ハワイー)
『ツウォリア』(アンディ・ウィアー)
『アンダのゲーム』(コリイ・ドクロトウ)
『計仕掛けの兵隊』(ケン・リュウ)


『リスポーン』(桜坂洋)
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 おれの望みは、いまとなっては顔もぼやけはじめている「おれ」に戻ることだけだった。かつてのおれも、おれが送ることができなかった幸福な人生というやつを夢想したことはある。が、誰か他のやつになりたかったわけではないのだった。毎日同じことの繰り返しだった牛丼屋のバイトだっておれがおれとしてやっていたことであり、どこかからおれを操る別の誰かにやらされたことではなかった。そのおれの肉体は、とっくのむかしに火葬されて墓の下に眠っている。
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文庫版p.40

 牛丼屋の深夜バイトをしていた「おれ」は、強盗に殺されてしまう。気がつくと「おれ」は強盗になっており、目の前にはもと「おれ」の死体が……。死ぬたびに近くにいた人間としてリスポーンする能力を得た男の奇妙な冒険。ゲーム的な活劇からアイデンティティの危機まで、巧みなストーリーテリングによって不死の感覚をとらえた作品。ログアウト不可。


『救助よろ』(デヴィッド・バー・カートリー)
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 デボンにはこんなふうに言ったことがある。
「わたしは現実が好きなのよ」
 そのときゲーム中だったデボンは、モニターの光でシルエットになった顔で言った。
「現実は偶然しかない。魅力的にデザインされてないじゃないか」画面をしめして、「でもファンタジー世界は、そのようにデザインされてる。(中略)驚異と冒険に満ちた、かくあるべき世界だ。現実を現実だからというだけで特別視するのは、狭量な精神のあらわれだ」
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文庫版p.50

 オンラインゲームにハマって戻れなくなってしまった恋人を救え。彼を現実世界に引き戻すために、彼女は旅立った。ノームから渡されたレアアイテムを手に、巨大グモやゴブリンを剣で倒しながら。ゲームは現実逃避に過ぎない、という議論をひねった作品。こつこつレベルアップ。


『NPC』(チャールズ・ユウ)
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 最初はとらわれの身だった。なにも考えないイリジウム収集作業員としてゾンビのように歩きまわっていた。かわりに自由に考えられた。それからあのプラズマ嵐に襲われ、いろいろなことが起きた。自由に体を動かせ、行きたいところへ行けた。しかし思考はとらわれていた。なにかに縛られていた。この仕事に、あるいはこの人生に。
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文庫版p.118

 小惑星でイリジウム収集をひたすら続けていた男が、ある事故に巻き込まれ、突然PCになってしまう。これまではNPCだったのだ。男は次々と提示されるミッションをひたすらクリアするが、奇妙なことに、それまでよりもむしろ不自由な人生を送っているという感覚から逃れられない。意外な設定で「自由とは何か」というテーマを扱った作品。乱入上等。


『猫の王権』(チャーリー・ジェーン・アンダース)
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「これは一つの閉じた生態系ではないかと仮説を立てているんです」ジュディは言った。「レプトスピラX菌と、人間と、ゲームの猫たちの三者による生態系。現実の猫が飼い主をトキソプラズマに感染させて、さらに猫好きにするようなものではないかって」
「なるほど」
 わたしは大広間のパーティションの隙間から、猫のマスクの人々がずらりと並んだ列を見た。まるで雨だれのようにぽつぽつとゲーム機を叩いて操作している。性別も年齢層も体格もさまざま。服装もトラックスーツからビジネスカジュアルまで。猫のマスクだけがほぼいっせいに上下に動く。目を見開いてまばたきせずに統治する機械の群れ。
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文庫版p.138

 伝染病が引き起こす脳障害に苦しむパートナーに、プレイすることで認知機能のリハビリになるというゲームを与えた語り手。介護している語り手のことも忘れてしまったように、患者はゲームにのめり込んでゆく。分解されつつあった脳機能がゲーム世界に適応し、再構成されてゆくのだ。ゲームと介護という現実的なテーマを扱った作品。上位ランキング。


『キャラクター選択』(ヒュー・ハワイー)
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「わたしは生きてお店にたどり着きたいだけなの」
 わたしがそう言っても、夫は耳にはいらないらしい。
「――まだ1ポイントも稼いでないじゃないか。そんなの……ばかげてる。このまま市街を出たらゲームオーバーだぞ。敵前逃亡で捕まる。いるべき場所は市街の反対側だ。空爆を待つんだ。でないとこのステージをクリアできない。一度でもこのステージをクリアしたことがあるのか?」
「いいえ」
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文庫版p.234

 いつもより早く職場から帰宅した夫が、育児の合間に彼のゲームをプレイしている妻を見つける。どんな風にプレイしているのか見せてくれと頼む夫。妻は、驚くべきスキルで、一人も敵を殺さず、獲得ポイント0のまま戦場を駆け抜け、市街戦から離れた平和な場所で花を育てているのだった。ハイスコアを目指すプレイを当然と考える夫との意識のずれ。ゲームのプレイスタイルを通じて、多様性というテーマを扱った作品。俺様プレイスタイル。


『計仕掛けの兵隊』(ケン・リュウ)
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「信念は自己認識の言い換えに過ぎない。あんたは成功したよ、シェヘラザード。自分の物語を語って、命を長らえた。こんどは、あたしが自分にいい話をする番さ。自分自身についての話を」
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文庫版p.314

 父親からの依頼で賞金稼ぎがつかまえた少年。宇宙船で護送してゆく最中に、少年は与えられたコンピュータを使ってテキストアドベンチャーゲームを作り出す。ひまにまかせてプレイした賞金稼ぎは、そこで語られている少年自身の物語に感銘を受ける。小説と違って読者が能動的に考えないとストーリーが進行しない、というテキストアドベンチャーの特性を活かした「語り」のパワーを描いた作品。そのコマンドは無効です。



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