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『宝石 欲望と錯覚の世界史』(エイジャー・レイデン、和田佐規子:翻訳) [読書(教養)]

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 宝石には力があるように見える。世界を何度も何度も作り変える力があることは確かだ。だが、それらは単なる物質にすぎない。殺すことができる物質でもない、癒やすことができる物質でもない。何かを建設することや、考えることができる物質でもない。
 宝石の目的、宝石の本質はただ一つだ。人間の眼を釘付けにすることと、反射することだ。ちょうどそれは宝石の光を放つ表面のようだ。宝石はただ一つの真の力を持っている。宝石は人間の欲望を映し出し、反射して人間に投げ返してくる。そうして、自分がどんな人間なのかを突きつけてくるのだ。
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単行本p.359


 マンハッタン島をガラス玉と交換した原住民は、はたして「騙された」のか。ダイヤモンドの婚約指輪の価値は誰が作り出したのか。スペイン帝国の盛衰と新大陸のエメラルド、フランス革命とマリー・アントワネットの首飾り、大英帝国を築き上げた一粒の真珠、そして世界の真珠市場を一夜にして支配した日本人。世界史の様々なエピソードの背後にある、宝石と価値と欲望の本質を追求した一冊。単行本(築地書館)出版は2017年12月です。


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 ここに集めた物語はどれも美しいものやそれを求めた男や女の物語だ。欲求と所有とあこがれ、貪欲の物語だ。しかし、本書は美しいものを題材にした書物にとどまらない。欲望というレンズを通じて歴史を理解しようと企てるものである。また、希少性と需要の経済がもたらす驚くべき結果を眺めることにもなる。希少で熱烈に求められた宝石が個人の人生行路の上に、また歴史の上に、さざ波のように波紋を広げる効果について論じていく。宝石は文化を生みだし、王家による支配や、政治的軍事的紛争を生み出す原因ともなった。(中略)これは欲望の物語であり、欲望とは世界を変貌させる力を持っている。
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単行本p.6、8


 全体は8つの章から構成されています。

『第1章 マンハッタンを買い上げたガラスビーズの物語』
『第2章 「永遠の輝き」は本物か? 婚約指輪の始まり』
『第3章 エメラルドのオウムとスペイン帝国の盛衰』
『第4章 フランス革命を起こした首飾り』
『第5章 姉妹喧嘩と真珠
『第6章 ソヴィエトに資金を流す金の卵』
『第7章 真珠と日本 養殖真珠と近代化』
『第8章 タイミングが全て 第一次世界大戦と最初の腕時計』


『第1章 マンハッタンを買い上げたガラスビーズの物語』
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 マンハッタンの購入はアメリカ史の中でも最も異論が多く、繰り返し論争を引き起こしている事件の一つである。この破格の取引は史上最大の詐欺事件として後世に伝えられることとなった。(中略)しかしこの1626年にも、またその後の長い間も、売り手も買い手も両者ともに非常に満足していたことは最も驚くべきことだが、事実なのである。
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単行本p.19、20

 マンハッタン島をガラス玉と引き換えに購入した話は、まるで詐欺事件のように語られてきた。しかし、それは現代の価値観でものごとを見ることからくる錯覚だ。原住民は決して愚かだったわけでも、騙されたわけでもない。

 「ガラス玉の価値がマンハッタン島に匹敵すると判断されたのはなぜか」という魅力的な問いかけから始まります。そして、宝石の「価値」とは何なのか、誰が決めるのか、という本書全体を貫くテーマへとつながってゆくのです。


『第2章 「永遠の輝き」は本物か? 婚約指輪の始まり』
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 ダイヤモンドは永遠ではない。ダイヤモンドの婚約指輪が「必要な贅沢品」となっておよそ80である。私達は結婚という制度自体と同じくらい古いかのように、ダイヤモンドの婚約指輪の伝統を当然のことと考えている。しかし、そうではない。実際、電子レンジの歴史と同じくらいのものなのである。
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単行本p.49

 ダイヤモンドの価値はどこから来るのか。それは美しさからでも、硬さからでも、驚くべきことに希少性からでもない。ダイヤモンドは供給過剰であり、もし価格がコントロールされていなければすぐに市場は崩壊するだろう。ダイヤの価値という完全な幻想を作り上げた巧妙な宣伝戦略について解説します。


『第3章 エメラルドのオウムとスペイン帝国の盛衰』
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 市場が飽和状態となって、エメラルドが無価値となるに至って、スペインは決定的な転換点に到達した。歴史的な量で流れ込んだ財宝によりスペイン経済は供給過多となり、財宝自体が無価値となる事態に及んだ。1637年のオランダのチューリップ・バブルの崩壊のように、希少性効果が誘発した幻想は破られた。綺麗だけれど、どこにでもある石を自分達が取引していることに気がついた時、エメラルドの価値は霧消したのである。
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単行本p.116

 新大陸に到達したスペイン人は大量のエメラルドを略奪し、故国に運び込んだ。その結果、スペイン帝国は崩壊した。なぜだろう。エメラルドが歴史を変えた経緯を解説します。


『第4章 フランス革命を起こした首飾り』
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 呪われたダイヤモンドにまつわる物語はどれも同じだ。理由は、そのどれもがモラルを語る物語だということだ。たぶん人間は、そんなにも美しく、そんなにも高価な物をたった一人で所有しているということが想像できないのだ。しかし、何か宇宙的な、さらに隠された霊的な欠陥があるのだと思い込むことならできる。そこで人間は、呪われたダイヤモンドの物語をでっちあげて、富の不平等さに納得できる理由をつけるのだ。ホープ・ダイヤモンドのようなダイヤモンドの場合には、呪いや死、不幸の物語がまことしやかに立ち現れる。首飾り事件の場合、ダイヤモンドは暴力的な革命と一時代の終わりの始まりを焚きつけたのだった。
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単行本p.173

 フランス革命のきっかけとなったダイヤの首飾り。以来、マリー・アントワネットにまつわる数多くのダイヤが「呪いのダイヤ」として噂されることになった。妬みとゴシップとフェイクニュース、革命と呪いと宝石。人間の興味を惹き付けてやまない歴史が語られます。


『第5章 姉妹喧嘩と真珠
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 無敵艦隊の敗北はスペインの海上支配の終焉と、西欧列強の新しい勢力図、さらには英国の商業帝国としての幕開けを記念するものとなる。(中略)これは単に大英帝国の始まりと言うにとどまらなかった。まさに実際的意味において、商業帝国の誕生だったのである。
 そして、全ては一粒の真珠から始まったのだった。
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単行本p.180、224

 スペイン帝国の没落と大英帝国の興隆。その背後にあったのは、一粒の真珠をめぐる姉妹の意地の張り合いだった。宝石の象徴性がどれほどのパワーを持つかが明らかにされます。


『第6章 ソヴィエトに資金を流す金の卵』
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 ハマーは嘘つき、泥棒、裏切り者、戦争成金(冷戦であろうとも)、似非芸術家、見世物芸人、そのような人の最も悪い要素を集めたような人物だった。彼の頭脳明晰さは否定しがたいものがあり、驚くばかりの成功を収めた。(中略)ハマーの最も大きな信用詐欺は、ファベルジェ・エッグを利用して、捨てられたロマノフ王朝を巡る感情的な神話をアメリカに信じ込ませ、その王朝を倒した、まさにその者達に金をつぎ込んだことだった。そして結果的に彼らは後になって私達の仇敵となるのだ。
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単行本p.271

 ロシア革命後、ロマノフ王朝が抱えていた大量の宝飾品が米国に流れ込んだ。人々を魅了したのは宝飾品そのものというより、「ロマノフ王朝の悲劇」というロマンと伝説。そしてそれは、一人の詐欺師が仕組んだものだったのだ。


『第7章 真珠と日本 養殖真珠と近代化』
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 何千年という長きにわたって、完璧な真珠は手に入らないという考えのうえに真珠産業は築かれてきていた。しかし、御木本の真珠は完璧だった。実際、いわゆる「本物の真珠」よりも完璧だった。御木本の真珠は、より低価で全く見事だというだけでなく、数が豊富だったのである。養殖真珠は津波のように日本から押し寄せてきて、市場から競争をかき消してしまった。御木本の真珠が自然界から見つけ出された真珠と品質が同じだったとしても、その供給量の多さは真珠産業の存続に対して破壊的な威力となった。1938年のピーク時で日本には約350カ所の養殖場があり、年間生産量は1000万個だった。それに対して、天然の真珠は年間およそ数ダースから数百個の範囲で採集されていた。
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単行本p.309

 真珠の養殖に成功した日本は、瞬く間に世界中の真珠市場を支配するに到る。だが、その道のりは決して平坦なものではなかった。真珠の価値をめぐる宣伝とプロパガンダの熾烈な戦いに果敢に挑んだ御木本幸吉の伝記。


『第8章 タイミングが全て 第一次世界大戦と最初の腕時計』
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 これは虚栄心の強い伯爵夫人の発明品の物語である。ファッションに関わるたった一言で、その後、戦争を変え、現代人の時間の概念まで永久に変容させてしまうことになる物語だ。
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単行本p.324

 最新技術を駆使して作られた工芸品を身につけて見せびらかしたい。そんな欲望から生まれた「腕時計」という発明は、やがて近代戦争を遂行する上で必須のものとなり、私たちの時間感覚そのものを変えてしまうことになった。人間の欲望や妬みや虚栄心で世界を動かすのは必ずしも宝石とは限りません。



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