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『水中翼船炎上中』(穂村弘) [読書(小説・詩)]

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 人間の心は時間を超える。けれど、現実の時は戻らない。目の前にはいつも触れることのできない今があるだけだ。時間ってなんなんだろう。言葉を持たない獣や鳥や魚や虫も老いて死ぬことが不思議に思える。猫も寝言を云うらしい。私の言葉はまっすぐな時の流れに抗おうとする。自分の中の永遠が壊れてしまった今も、水中で、陸上で、空中で、間違った夢が燃えつづけている。
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 当代きっての人気歌人が17年ぶりに出した最新歌集。単行本(講談社)出版は2018年5月です。


 巧みな構成により、子どもの頃の思い出から現在の感覚までを時間を超えてつなげてみせる歌集です。まずは子ども時代の思い出、というか、その頃の世界観が印象的な作品。


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宇宙船のマザーコンピュータが告げるごきぶりホイホイの最適配置
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贋物の鉄人28号を千切れ鉄人28号
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応答せよ、シラサキ、シラサキ応答せよ、お鍋の底のお箸ぐるぐる
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「中一コース」年間講読予約して万年筆をもらえる春よ
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 その頃の感覚でとらえた夏の一日がリアルに甦ってきます。


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灼けているプールサイドにぴゅるるるるあれは目玉をあらう噴水
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手の甲に蟻のせたまま積乱雲製造装置の暴走をみる
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うすくうすく波のびてくるこの場所が海の端っこってことでいいですか
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魚肉ソーセージを包むビニールの端の金具を吐き捨てる夏
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楽しい一日だったね、と涙ぐむ人生はまだこれからなのに
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 そういえば、あの頃と今では、食べ物に対する感覚も違うよなあ。


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オール5の転校生がやってきて弁当がサンドイッチで噂
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鮮やかなサンドイッチの断面に目を泳がせておにぎりを取る
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熱い犬という不思議な食べ物から赤と黄色があふれだす夏
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ナタデココ対タピオカの戦いを止めようとして死んだ蒟蒻
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 そんな感覚を思い出しながら、実のところ今もそれほど成長したわけじゃないことに気づく真夜中のコンビニ。


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カゴをとれ水を買うんだ真夜中のローソンに降る眩しい指令
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金ならもってるんだ金なら真夜中に裸で入るセブンイレブン
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口内炎大きくなって増えている繰り返すこれは訓練ではない
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助けてと星に囁く最悪のトイレットペーパーと出会った夜に
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もう一度チャンスをくれと云いながら鹿せんべいを買いに走った
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僕のムーミンを「私のムーミンじゃありません」というトーベ・ヤンソン
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ひとつとしておなじかたちはないという結晶たちに襲われる夜
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白い息吐いて坂道さくさくとしもばしらしもばしらすきです
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 そして猫を詠んだ作品はいつも素敵。


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猫はなぜ巣をつくらないこんなにも凍りついてる道をとことこ
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かたつむりの殻砕かれているようなしょりしょりしょりしょり猫の口より
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「この猫は毒があるから気をつけて」と猫は喋った自分のことを
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 そして今を生きる。


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リニアモーターカーの飛び込み第一号狙ってその朝までは生きろ
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なにひとつ変わっていない別世界 あなたにもチェルシーあげたい
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タグ:穂村弘
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