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『短篇ベストコレクション 現代の小説2018』(日本文藝家協会:編、小田雅久仁、三崎亜記、他) [読書(小説・詩)]

 2017年に各小説誌に掲載された短篇から、日本文藝家協会が選んだ傑作を収録したアンソロジー。いわゆる中間小説を軸に、ミステリからハードSFまで幅広く収録されています。文庫版(徳間書店)出版は、2018年6月です。


[収録作品]

『廊下』(川上弘美)
『りゅりゅりゅ流星群』(雪舟えま)
『頸、冷える』(河崎秋子)
『仮名の作家』(小川洋子)
『精神構造相関性物理剛性』(野崎まど)
『ハンノキのある島で』(高野史緒)
『おとうさん』(いしいしんじ)
『髪禍』(小田雅久仁)
『コンピューターお義母さん』(澤村伊智)
『皇居前広場のピルエット』(恩田陸)
『緑の子どもたち』(深緑野分)
『土産話』(藤田宜永)
『陽だまりの中』(唯川恵)
『穴の開いた密室』(青崎有吾)
『公園』(三崎亜記)
『落星始末』(勝山海百合)


『ハンノキのある島で』(高野史緒)
――――
 海のどこか、遠い沖合に、本でできた島があるという。それは捨てられた本や、既刊書狩りを逃れるためにやむなく海に投げ入れられた本が集まってできた島で、そこに行けばあなたが欲しいと思う本が手に入るのだという。どうやら南米あたりが伝説の発祥地らしいのだが、もはや起源など誰も気にしていない。
 そこにはきっとハンノキが生えていて、大きすぎもしなけれは小さすぎもしない本屋があるのだ。親戚の家に行く単線鉄道の終着駅や、中学校の傍の横丁にも小さな本屋がある。同級生のお母さんがやっている薬屋の奥には私設の小さな図書室があって、学校の図書室とは違った一風変わったラインナップで、星新一や筒井康隆の文庫本を貸してくれるのだ。
――――
文庫版p.221

 新刊書しか存在を許されなくなった近未来の出版流通事情。名作認定されたもの以外、既刊書は有無をいわず狩りたてられ、すべてが抹殺される。だが語り手である作家には、どうしても残したい作品があった……。ブラッドベリ『華氏451度』のバリエーションですが、過去作品を追ったり保管したりすることに倦み疲れた読書家と作家がいわば共謀して既刊本の抹殺に手を貸す、というディストピア設定に変なリアリティがあって、切ない。ハンノキが意味するものを知ると、オールドミステリ読者は泣くのでは。


『髪禍』(小田雅久仁)
――――
 その儀式がおこなわれるあいだ、ひと晩じゅう何もせず、宗教施設のなかでただ座って見ているだけで、十万円が手に入ると言う。ただし、その儀式は建前上、秘儀として部外者の立入りが禁止されているので、その日、目にしたこと耳にしたことはいっさい他言無用とのことだった。つまり、十万円の内には口止め料も含まれていると……。
――――
文庫版p.234

 髪を神としてあがめる新興宗教。その特別な儀式に立ち会うだけで十万円の報酬が出ると聞いた語り手は、怪しみながらも参加を承諾してしまう。当日、人里はなれた宗教施設に集められた人々が目撃した「秘儀」は、予想をこえたものだった……。最初から最後まで真面目なホラーなんですが、やりすぎ感がすごくて思わず笑ってしまうという、そのあたりも含めて伊藤潤二さんのホラーコミックを連想させるものがあります。


『コンピューターお義母さん』(澤村伊智)
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 義母は関西の老人ホームにいる。
 と同時にこの家にも「いる」。
 ネットデバイスとアプリを駆使し、家屋と家電についた様々なセンサーから、この家のことを把握している。そして何か見つける度にわたしに小言を言い続けている。この家を建てて住むようになってから、今の今までずっと。
――――
SFマガジン2017年6月号p.297

 各種センサ、監視カメラ、ネット対応の設備や家電、あらゆる情報技術を駆使して遠隔地の老人ホームから行われる「サイバー嫁いびり」。ひまを持て余した義母にネットワーク経由で一挙一動を監視され、何かというと嫌味メッセージを送りつけられる主人公は、ついに反撃を決意するが……。情報技術の発展によりグローバル化する嫁姑問題という風刺的なブラックユーモア作品、なんだけど、ユーモアよりも心理ホラー感が強いです。


『緑の子どもたち』(深緑野分)
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 あたしたちは緑の家の真ん中で、獣の家族みたいに固まって眠っている。床に引いたチョークの線はいつのまにか、ほとんど消えていた。その代わりに以前のテリトリーの間を行ったり来たりする大きさの違う足跡が、数え切れないほど続いている。そしてその先には完成間近の自転車が、青白く輝いていた。
――――
文庫版p.365

 色も大きさも異なる四人の子供たち。互いに反目しあいながら緑の家に暮らしていた彼らは、協力して自転車を作ろうとすることで、互いを受け入れてゆく。言葉も人種も食習慣も異なる子供たちが、共通の目的を分かち合うことで反感や拒絶を乗りこえてゆく感動的な物語。現代社会の寓話としても胸にせまります。


『穴の開いた密室』(青崎有吾)
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「で? 片無、穴が開けられた理由はわかったのか」
「意外と難問かも」氷雨は珍しく弱音を吐いた。「何をどう考えても壁に穴を開けるメリットが思いつかない。倒理の大馬鹿説を取りたくなってくるよ」
「なんか俺に対する悪口みたいになってるんだが」
(中略)
 確かにこりゃ難問かもしれない。俺は腰に手を当てて、普通の殺人現場じゃまずお目にかかれないその光景と睨み合う。密室の壁にぽっかり開いた無粋な空間。
――――
文庫版p.491、495

 殺人現場は密室、というか、ほぼ密室だった。残念なことに、壁に大きな穴が開いているのだ。犯人がチェンソーを使って壁をくり抜いて作った大きな穴。なぜそんなことを?
 「いっけん密室だが、実は犯人が出入りする方法が隠されていた」系の密室トリックをからかうような設定。「不可能担当」と「不可解担当」の二人の探偵が組んで事件を解決するシリーズの一篇で、その軽妙なユーモアで大いに楽しめます。


『公園』(三崎亜記)
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「あるべき」という無意識の圧力は、公園そのものにも向けられた。「自由で安全で、万人に開かれた場所」という「あるべき」公園の理想像を求められ続けた結果、公園は、次々と禁止事項が増えて行った。その結果、誰も訪れることが無くなったという矛盾を背負わされた公園は今も、「万人」という、姿の見えない「誰か」の利用を待ち続けている。
――――
文庫版p.522

 公園の遊具による子供の死傷事故を受けて、遊具を「危険具」として撤去する動きが広がった。ベンチも砂場も危険だから撤去。禁止事項も次々と増える。走るのは禁止、座るのは禁止、他人と話すのも禁止、もちろん遊ぶなんて厳禁。面倒な手続きを経て認可が下りない限り誰も入れないようにすることで実現した、万人にとって安全な、しかし誰も入らない場所、公園。そこに、数年ぶりに「利用者」が現れたのだが……。著者お得意の「お役所仕事の暴走により生じた不条理世界」もの。



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