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『ちるとしふと』(千原こはぎ) [読書(小説・詩)]

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八時間置きっぱなしのコーヒーをまた口にして気づく夕暮れ
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保存していないイラレと凍りつくわたし一瞬で失くす四時間
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息を吐く、息を吸う、席から立って、歯を磨く 人間であるため
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指示通り延々さがしたテクスチャを「背景白で」の四文字が消す
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転んだということはあとは立ち上がるだけと言われて転がっておく
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 孤独で、つらくて、舐められている。自宅で仕事するイラストレーター/デザイナーという職業のあれこれを、自虐的ユーモアをこめて配置するイラレ歌集。単行本(書肆侃侃房)出版は2018年4月、Kindle版配信は2018年6月です。


 恋の歌も数多く収録されていますが、まず印象に残るのは、自室にある様々なモノによせて孤独やさみしさをうたう作品。


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さみしさを音にできないくちびるが深夜ほのかに啜るラーメン
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おかえりと言う人のない毎日にまたひとつ増えてしまうぺんぎん
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おそらくは前世しっぽであるはずのエノコログサを飼うワンルーム
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結婚はできない派でなくしない派でそれはさておき買う抱き枕
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 一人暮らしにも、いつしか慣れてゆきます。


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主人公だと思ってた人生で雨ばかり降る五年が過ぎる
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「おひとり様ですか」に「はい」と明瞭に答える少し強くはなった
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転んだということはあとは立ち上がるだけと言われて転がっておく
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 職業はイラストレーター/デザイナー。メールで依頼を受け、自宅でひたすら描き、出来たらメールで送ります。とても気楽な暮らし、でしょうか?


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八時間置きっぱなしのコーヒーをまた口にして気づく夕暮れ
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いつの間にか夜になるから黄昏を感じることもなく生きていく
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ついさっき十一時だったなぜ今は三時なんだろう とりあえず、水
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保存していないイラレと凍りつくわたし一瞬で失くす四時間
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息を吐く、息を吸う、席から立って、歯を磨く 人間であるため
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容赦無く真夜中メールは舞い込んでさんじゅうくどさんぶの朝焼け
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送信を終えて倒れる冷えピタの貼りつく額を机にあてて
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 どれほど誠実に取り組んでも、苦労しても、キャリアアップということのない仕事の悲しみ。というか、まず舐められている。


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目のツボを押えて肩をほぐしつつキラキラ女子を描き上げていく
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行ったことのない街の知らない店の地図を描く行くこともないのに
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美容院のポップはつらい 誤字脱字、センター揃えにするなよそこは
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指示通り延々さがしたテクスチャを「背景白で」の四文字が消す
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 でも世間の人は、素敵なキラキラ絵を描いて自由に生活できる憧れの職業、だと思っていたりして。いやます、悲しみ。


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「掲載誌お送りします」許可もなく表情は描き換えられていて
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十月の本屋に積まれるわたしの絵 年賀状素材集の隅っこ
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「うちの子も絵が大好きで」「そうですか」なりたい人であふれる世界
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「どうしたらなれますか」には曖昧に運ですねって笑っておいた
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 職業がら、だと思うのですが、さびしさ・悲しみ・怒りなどの感情を一枚の場面に託して視覚的に描いた作品が並んでいます。文字で描いたイラスト集のような歌集です。



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