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『接吻』(中本道代) [読書(小説・詩)]

 誰も見てない場所で行なわれている生と死の営み。足もとにぽっかり開いた無窮と永遠。想像力を刺激する静かな怖さ。読者を魅了する詩の一撃、中本道代さんの新しい詩集です。単行本(思潮社)出版は2018年8月。


 ただでさえ怖い作品が多いのに、幼少期を過ごした広島が舞台になっていたりして、読者にも覚悟が求められる詩集です。個人的には「オカルトの気配」を感じさせる作品に強く惹かれます。


――――
山の裏側に行くと
箱が並んでいた
白い細長い箱が並び
なだらかな丘陵がどこまでも続いていて
そこから先は記憶することができない
――――
『ハイキング』より


――――
遥かな空が吸い寄せている
出現していないものたち
半分だけ出現したものたち
奥深い白さを引いている
――――
『時間について』より


――――
陽に照らされた丘には誰もいなくて
麗らかな大気の底に一筋の冷気が薫っている
母はどこから来て――
どこへ行ったのだ
――――
『丘の上』より


――――
幻の星が傾く朝
一つの死骸から蠅の群れが生まれて飛び立っていく

水の狼が歯をむき出して唸る
眼を閉じて絶滅に耐え
種の記憶を空の奥で渦巻かせている
――――
『裏の白い道』より


――――
ふうせんかずらがフェンスでちぎれて揺れている
今朝 不意に空が開けて玲瓏な水色がのぞいた
川の流れに沈んでいる貌が笑い
毛髪を海の方へと靡かせている
――――
『神田川』より


――――
裏の小道はお宮へと続いていた
大きなお宮――けれど本当は小さなお宮だった
奥の座敷の畳は冷たく乾いていた
それは神の部屋だったのか 神はどこにいたのだろう
天井にはテンが棲むと言われたがテンも姿を見せなかった
――――
『喇叭水仙』より


――――
五月に行方不明になった子を
探してさ迷う
すべてを捨てて風の奥に
どうしたら入って行けるだろうか
――――
『五月の城』より


 もちろん、戦争を表現した作品、なのかも知れません。しかしながら、どうしても、オカルトだこれがオカルトの気配というものだ、という気持ちが込み上げてくる。理不尽に降りかかる死。

 小さな命に視線を向け、生と死の境界を描いた作品にも、心震えるものがあります。


――――
逝く夏の真昼に不意に命を落とす幼い蜥蜴
蟷螂
点のような黒い目を開いて
お前たちが見ることのない秋
お前たちのいない秋が来る
――――
『逝く夏』より


――――
生まれなかった仔たちが生まれる水があるのではないか
黒い星の底で揺れ続けているのではないか
――――
『夏への道』より


――――
眠る人の閉じたまぶたから涙が滲み出ている
ねずみの黒い瞳が小さく光る
絶えず震える体で
ほの白い冬の闇を生き延びていく
――――
『ふゆ』より


――――
海豹が仔を産み
育て
半分が死に
半分が成長して
二頭ずつよりそい
水の中でくるくると身をくねらせる
そしてまた仔が生まれる
――――
『北の海で』より


――――
幸福だったことがあった
小さな獣たちが眠っているそばで
小さな息とともに上下する輝く毛並みを見ていた
――――
『プネウマ』より


――――
山からの水を引いた裏の池に
昼の月が沈む
小さな蟹が這い出してくる池
私はそこで溺れたと言われた
――――
『盂蘭盆』より


 というわけで、前作『花と死王』から、何というか力みのようなものが抜けて、さらに凄みが増したような印象を受ける最新作です。



タグ:中本道代
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