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『ルーネベリと雪』(タケイ・リエ) [読書(小説・詩)]

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まじめに働いて いつかきっとオーロラを見にいこうよ
世界中が雪にすっぽり覆われていても
わたしたちの部屋は どうか
ちょうどよい暖かさでありますように
――――
『ルーネベリと雪』より


 世の理不尽、ささやかな生活、怒り、祈り、そして憧れ。物語の断章のように読み手の想像力を刺激する詩集。単行本(七月堂)出版は2018年9月です。


 まず、怒りや憤りといった感情を、柔らかい言葉で包み込み撃ち込んでくる作品が印象に残ります。気づいたときにはもう遅い。


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うまれてくるひとよりもしんでゆくひとのほうが多くなってきて、ようやくさしせまったと感じるなんて身がすくむような思いがする。わたしたちはいったいだれから、教わればいいのだろう? いまこのことについてだれかとはなしあいたいのに、だれとはなしあったらいいのだろう。あなたの考えている本当のことがわからない。悩んでいたらみえない動物が近づいてきて、はなしが通じる言葉を習えって言うの。それが愛情だろうって言うの。おかしいよね。いまからでもまだ遅くないんだって。本当に、覚えられるのかな。
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『ミーアキャットの子は年上の兄弟からサソリの狩りを学ぶ』より


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からだからいっせいに猟犬を放ってそれが
弾丸に変わってゆくときのきもちよさが
あなたにもわかるだろうと言われてもわからないのです
わたしはどちらかといえば山鳥なのでわからないのです

撃ち落とした山鳥から内臓をずるずるずるずる引きだして
猟犬に食わせることなどなんでもないとあなたは言います
でもわたしはどちらかといえば山鳥なので賛成できない
百舌鳥がはやにえのショウリョウバッタを食べ損ねては死ねないように
――――
『山鳥』より


 まるで物語の断章のような言葉が、読み手の想像力を刺激してきます。


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にほんごを使って夢を見る場所はいろいろとありますから選べます
考えないほうが楽しいのは生活から離陸している証拠でしょう
煙といっしょに高いところに昇っていくような心持ちでした
かるいというのはきっと中身を捨てていく、ということです
すっからかんになっているあなたを並べて焼いてくりかえします
ときどき目が黒くなると安心して食べられると思ったことも記しておきます
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『飛田』より


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かどのないまるい家のとなりには沼がひろがり夕暮れが溶けている。葦のくきは首が折れて水面をミズスマシが波紋をくりかえしくりかえす。どこにでもある家の玄関前にはガレージその塀越しにみえるぽっかりとした黒い闇。闇が腰をおろして深い息をはじめるように夜がはじまる。国道が渋滞をはじめる夕暮れになると沼地と夜は共犯する。駐車場を埋める車からゆるり降りてきたひとかげはゆらゆらとかどのないまるい家のなかにすいこまれてゆく。あかるいひかり。うたがいのないあかるいひかりがもれてくる。なにか焼けるにおいがそこかしこからしてくる。窓ガラスがにじむ。沼地はしんとしたまま耳をすましている。
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『沼周辺』より


 邪魔されない、余計なことを考えない、シンプルな生活。静かな憧れの気持ちも、あちこちに散りばめられています。


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ゆれるすいめんにしわよせて
筆を走らせるつかのまのあいだ
びっしりと育つみずくさ
あおあおとよろこぶみずくさ
あたらしい家に運んだあと
また筆を走らせる

みずくさの世話をしているあいだ
わたしは忘れているだろう
毛布をもういちまい欲しがったことも
からだをもうひとつ欲しがったことも
ゆるやかにすれちがっただれかと
手をむすびあったことも
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『みずくさ』より


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シナモンロールを毎朝コーヒーといっしょに食べるのは体を温めるためだ
わたしはこの組み合わせはまるで麻薬みたいだとおもっている
こんな朝が毎日やってくることをずっと祈っていたらあっさり叶ってしまった
生きるために死んだふりをしていた日々を嚙んでのみこむと腑に落ちてきた

わたしたちがずっとおしゃべりできるなんて誰も予言してなかったけれど
ずっとまえから決まっていたことのように一脚の椅子に座っている
お金がないときこそよいものを買って死ぬまで使おうって決めたから
椅子はわたしに寄り添って生きてきたしわたしも生きることができた
――――
『遠い国』より


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いちごのようにふくらんでそだつむすめになって
かずかずの風をちいさくまるめて投げてぶつけたい
きりたった崖のせなかにいくつも投げてぶつけたい
かどのとれた佇まいですごす おだやかなゆうぐれ

やみのせまるなか雨が降りどこかでけものがひとつ鳴く
いつか豆腐みたいに白いマンションで暮らしてみたい
ひとりでもひとりでなくても ただしく折り畳まれたい
かどのとれた佇まいですごす おだやかなゆうぐれ
――――
『ゆうぐれ』より



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