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『たべるのがおそい vol.6』(深緑野分、石川美南、北野勇作、酉島伝法、他、西崎憲:編集) [読書(小説・詩)]

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 文芸誌というものは掲載作がすべてであって、その一番重要な点で、今号も大変恵まれたように思う。そういえば、創刊号の頃から「文芸誌を全部読んだのははじめてだ」といった感想を何度かいただいたのだが、本はやはり最初から最後のページまですべて目を通されるべきだろう。
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編集後記より


 小説、翻訳、エッセイ、短歌など、様々な文芸ジャンルにおける新鮮ですごいとこだけざざっと集めた文学ムック「たべるのがおそい」その第6号です。単行本(書肆侃侃房)出版は2018年10月。


[掲載作品]

巻頭エッセイ 文と場所
  『雰囲気で書いているのかも』(前田司郎)

特集 ミステリ狩り
  『ボイルド・オクトパス』(佐藤究)
  『メロン畑』(深緑野分)

創作
  『野戦病院』(谷崎由依)
  『彼』(酉島伝法)
  『誘い笑い』(大滝瓶太)
  『飴の中の林檎の話』(北野勇作)

翻訳
  『三つの銅貨』(メアリー・エリザベス・カウンセルマン、狩野一郎:翻訳)
  『あまたの叉路の庭』(ホルへ・ルイス・ボルヘス、西崎憲:翻訳)

短歌
  『どちらも蜘蛛の巣の瞳』(我妻俊樹)
  『鳥の家』(石川美南)
  『星を食べない』(斎藤見咲子)
  『夢を釣る』(中山俊一)

エッセイ 本がなければ生きていけない
  『本の絵を描く人になりたい』(林由紀子)
  『頭を殴られ気絶する』(吉野仁)


『彼』(酉島伝法)
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 ひとりの人間が車で崖から落下したが無傷で助かり、家に帰ってなにごともなかったかのように食事をし、また元の場所に戻って飛び降りる。ひとくちには呑み込めない話で、未だにどういうことなのかを考える。
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たべるのが遅いvol.6 p.35


 車ごと崖から落下した男が、そのまま帰宅して食事をし、夜中にこっそり布団を抜け出して何時間も歩いて現場に戻り、同じ場所から飛び降り自殺をした。「彼」はなぜそんな行動をとったのか。その動機を探るうちに、語り手も読者も、気がつけば迷宮の中。情報が増えれば増えるほど不可解さが増してゆく人物像。背後で進んでいるらしい不気味なプロット。じわじわと不安感が高まってゆく、造語も異形存在もそれほど登場しない作品。


『ボイルド・オクトパス』(佐藤究)
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 これからお読みいただくのは、そんな「フォーマー・ディテクティヴ」の最終回を飾るはずだった文章である。九人の元刑事が登場して終わった連載の、幻の十人目のエピソード。
 そこに現れる元刑事も、ある意味では他の九人と同じように、社会の片隅で何かを育てていた。にもかかわらず、彼のエピソードを誌面に載せられなかった理由――それは本文をお読みいただければ、おのずと明らかになるだろう。
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たべるのが遅いvol.6 p.68


 引退した元刑事に取材する連載「フォーマー・ディテクティヴ」の最終回のために、ロサンジェルス市警の元刑事の家を訪れた作家。そこで語られる恐ろしい事件とは。


『三つの銅貨』(メアリー・エリザベス・カウンセルマン、狩野一郎:翻訳)
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 すべては狂った脳から生まれた思いつき、狂人のチェス――象牙や黒檀を彫った駒のかわりに人間を使ったゲームだった、ということで皆の意見が一致したのはこの一件が落着した後のことだ。
 奇妙なことに「コンテスト」の真偽については誰ひとり疑いを持つ者はいなかった。
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たべるのが遅いvol.6 p.90


 町で流通している貨幣のなかに、それぞれ四角・丸・十字のマークが彫られた三枚の銅貨が混じっている。指定した日にそれらの銅貨を所有していた者には「大金」「豪華旅行券」「死」のいずれかが与えられる。ただし、どのマークがどのプレゼントに対応しているかは秘密である。
 ある町に張り出されたビラの煽情的な内容に町中が大騒ぎに。いたずらなのか、何かの実験なのか、それとも真剣な話なのか。マークのついた銅貨を手に入れようとする者、死の危険を恐れて手にした銅貨を他人に押し付けようとする者。騒ぎが収まらないまま、指定された日がやってくる……。


『メロン畑』(深緑野分)
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 医者は長い髪をブラシで梳かしながらため息をつき、窓の外に広がる夜空を見上げた。濃紺の空には満天の星が輝き、北の空にひときわ大きな星が瞬いていた――北から災厄が到来した。もう手遅れだ。昼間に祈祷師が呟いた奇妙な言葉を思い出した医者は、手にしていたブラシを鏡台に置いた。
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たべるのが遅いvol.6 p.108


 砂漠にある小さな村落に現れた謎の女。「北から災厄が到来した」という祈祷師の謎めいたつぶやき。次々と命を落としてゆく住民たち。いったい何が起きているのか。謎とサスペンスでぐいぐい読ませる強烈な作品。



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