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『遠くの敵や硝子を』(服部真里子) [読書(小説・詩)]

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たましいを紙飛行機にして見せてその一度きりの加速を見せて
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月の夜のすてきなペーパードライバー 八重歯きらきらさせて笑って
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いのちあるかぎり言葉はひるがえり時おり浜昼顔にもふれる
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神様と契約をするこのようにほのあたたかい鯛焼きを裂き
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首をかしげたあなたに春の螺子が降りそのまま春に連れていかれる
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夜をください そうでなければ永遠に冷たい洗濯物をください
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 思いがけない比喩。不意打ちのような描写。これまで出会ったことのない言葉の組み合わせが驚きをもたらす歌集。単行本(書肆侃侃房)出版は2018年10月です。


 第一歌集『行け広野へと』が面白かったので、第二歌集である本書も急いで読んでみました。ちなみに第一歌集の紹介はこちらです。


  2018年09月13日の日記
  『行け広野へと』
  http://babahide.blog.so-net.ne.jp/2018-09-13


 言葉と言葉の、ありそうでなかった組み合わせから、びっくりするような描写や共感が生まれてくる。そうした技にさらに磨きがかかっているように思います。うまく説明できないわりとひねくれたユーモア、個人的に好みの、それがあちこち散見され、とても嬉しい。


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フラミンゴは一生さまざまに喩えられある時は薔薇のように眠る
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言葉から意味が離れていく昼を眠る躑躅の丘にたおれて
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いのちあるかぎり言葉はひるがえり時おり浜昼顔にもふれる
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神様と契約をするこのようにほのあたたかい鯛焼きを裂き
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月の夜のすてきなペーパードライバー 八重歯きらきらさせて笑って
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たましいを紙飛行機にして見せてその一度きりの加速を見せて
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雪柳てのひらに散るさみしさよ十の位から一借りてくる
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湯の中に大根ぼやけこの頃はひと夜ひと夜に人見ごろ 春
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草むらを鳴らして風がこの夜に無数の0を書き足してゆく
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 今作で印象的なのが、動物や植物の名前を使う、その巧みさです。


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誰を呼んでもカラスアゲハが来てしまうようなあなたの声が聴きたい
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にんげんの言葉はある日刃のように冷え川岸に鶺鴒を呼ぶ
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今宵あなたの夢を抜けだす羚羊の群れ その脚の美しき偶数
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夜の蜘蛛を殺すよろこびは息ふかく夏の身体を灯らせるまで
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暁を雲雀のように落ちながら正夢も逆夢も好きだよ
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 動物に比べて、植物の使い方はけっこう怖い。


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羊歯を踏めば羊歯は明るく呼び戻すみどりしたたるばかりの憎悪
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ひまわりを葬るために来た丘でひまわりは振りまわしても黄色
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金雀枝の花見てすぐに気がふれる おめでとうっていつでも言える
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さらさらと舌のかたちの葉を垂らす夜の夾竹桃を怖れる
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さるびあがみな小さく口開けていてこのおそろしい無音の昼よ
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 思いがけない比喩の力で、季節感を視覚化してしまうような、その勢いが素晴らしい。


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首をかしげたあなたに春の螺子が降りそのまま春に連れていかれる
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甘夏が好き(八月は金色の歯車を抱き)甘夏が好き
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胸をながれる昏くて熱い黄金よ秋は冒瀆にはよい季節
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奇跡 でなければ薄塩ポップコーン 二月の朝によく似合うもの
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雪の音につつまれる夜のローソンでスプーンのことを二回訊かれる
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 死を扱った暗い作品も多いのですが、どこか激情というか、感情エネルギーの昂りが感じられ、不思議な力強さを感じさせます。


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その胸につめたい蝶を貼りつけて人は死ぬ 海鳴りが聞こえる
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雨の夜の馬体のように一日は過去へむかって運ばれてゆく
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死者の口座に今宵きらめきつつ落ちる半年分の預金利息よ
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すぐに死ぬ星と思って五百円硬貨をいくつもいくつも使う
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夜の雨 人の心を折るときは百合の花首ほど深く折る
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夜をください そうでなければ永遠に冷たい洗濯物をください
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風がそうするより少していねいに倒しておいた銀の自転車
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犬のことでたくさん泣いたあとに見てコーヒーフロートをきれいと思う
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地下鉄のホームに風を浴びながら遠くの敵や硝子を愛す
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