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『SFマガジン2018年12月号 ハーラン・エリスン追悼特集』 [読書(SF)]

 隔月刊SFマガジン2018年12月号の特集は、2018年6月27日(現地時間)に死去したハーラン・エリスン追悼でした。


『失われた時間の守護者』(ハーラン・エリスン、山形浩生:翻訳)
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「その時計。あんたの時計。動かない。止まってる」
 ガスパールはうなずいた。「十一時で。わしの時計は動いとる。特別な時間を保っている。ごく特別な一時間のために」
 ビリーはガスパールの肩に触れた。慎重に尋ねる。「あんた、何者だい、おとっつぁん」
 老人は微笑もせずに言った。「ガスパール。保持者、守護者。守り手」
――――
SFマガジン2018年12月号p.32


 ある出来事がきっかけで親友となった老人と若者。老人が肌身離さず持ち歩いている懐中時計には、大きな秘密が隠されていた。取り返しのつかない過去、それに触れることが出来るとしたら、どれほどの代償を払っていいのだろうか。いかにもスタートレック『永遠の淵に立つ都市』の作者らしい、感傷的で切ない時間テーマSF。


『おお、汝信仰うすき者よ』(ハーラン・エリスン、柳下毅一郎:翻訳)
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 一瞬前まで生きているミノタウロスと向かいあっていた。ナイヴンのような人間にふさわしい名前が生まれる前にこの世界を去った生き物と。信奉者のいない神、それがミノタウロスだった。信じなかった世界で、信じなかった男と対峙する。
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SFマガジン2018年12月号p.44


 恋人のあとを追ってメキシコの夜の裏通りに足を踏み入れた男。謎めいた占い師が告げる。お前は、信仰のない男、信頼の置けぬ男、救われぬ男だと。次の瞬間、彼はどことも知れぬ神話世界で、ミノタウロスと対峙していた……。トワイライトゾーンに迷いこんだ男の顛末を描いた作品。


『奇妙なワイン』(ハーラン・エリスン、中村融:翻訳)
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「わたしは、この惑星のほかのだれよりも良くも悪くもない。わたしがいっているのは、そういうことです。苦痛、苦悶、恐怖のなかで生きること。日々の恐怖。絶望。虚無。これよりましなものは持てないんでしょうか? 人間としてここで悲惨な人生を送るしかないんでしょうか? わたしがいいたいのは、もっといい場所がある、人間であることの苦しみが存在しないほかの世界があるということなんです!」
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SFマガジン2018年12月号p.53


 なぜ人生はこんなにつまらなく、悲惨で、絶望に満ちているのか。自分は他の世界から何らかの罰として地球に送り込まれたのに違いない。「この世界で人間として生きるという刑罰」からの脱走を試みた男が知った真相とは……。オチの皮肉が痛烈な作品。


『愛を語るより左記のとおり執り行おう』(澤村伊智)
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「軽く調べたんですけど、昔は葬儀会場ってのがあったらしいですよ。葬儀会社なんてのも」
 多田が耳慣れない単語を二つ口にした。私は途方に暮れて彼を見返す。頭の中には次々と疑問が湧いていた。
 伝統的な葬儀とは何だ。多田の親戚だという老人は、いったいどんな葬儀を求めているのだ。
 そして何故そんな無理難題を。
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SFマガジン2018年12月号p.114


 冠婚葬祭すべて仮想現実空間で実施される時代。ある病気の老人が、実際に、物理的に人を集めて行なう「伝統的な葬儀」を希望していると知ったTVプロデューサーは、その顛末をドキュメンタリー番組にすべく、葬儀の準備に追われる関係者に密着取材するが……。

 テクノロジーが私たちの生活や意識をどう変化させるかを扱ってきた連作短篇シリーズの最終話。これまでにSFマガジンで発表した作品をメタ的に取り込みつつ、日本SF界の一部に見られる不寛容で幼稚な排他性に対する嫌味を書いているところも印象的です。


『時の扉』(小川哲)
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 私は決定論の話をしているわけではありませぬ。私が言いたいのは、この世界の運命があらかじめ決められていようとも、そうでなかったとしても、どちらにせよ未来を変えることはできないということです。(中略)「変える」とは存在するものを別様にしてしまうことであります。神の力をもってしても、存在していないものを変えることはできませぬ。
 察しのいい王のことですから、すでに私の言いたいことはわかっていることと思います。そう、もし何かを変えられるとしたら、それは未来ではなく過去なのです。過去はすでに存在していて、すべての存在は変えることができるのです。
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SFマガジン2018年12月号p.201


 時間にまつわるいくつかの物語を、残虐なる王に語り聞かせる男。時間は流れない。ゼノンの飛ぶ矢のように、一瞬一瞬は別々に、独立に存在している。したがって過去に対する脳の認識を変えることにより実際に過去を変えることが出来るが、それにはそれなりの代償が伴うというのだが……。アラビアンナイトの設定、『商人と錬金術師の門』(テッド・チャン)のテーマ、そして史実を巧みにミックスした思弁的時間テーマSF。


『魔王復活!』(草上仁)
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 ようやく旅の準備が整うと、あたしたちは、都営大江戸線と半蔵門線を乗り継いで押上に出て、東武伊勢崎線に乗り換えた。
 こうして、魔王の復活を阻止するための旅が始まったのだ。
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SFマガジン2018年12月号p.299


 またもや魔王が復活しつつある!
 ということで、魔王復活を阻止する仕事をしている公務員チーム(戦士、僧侶、魔導師)のミッション開始。まずは築地市場に行って「ナイフ」と「せんしのふく」を購入。それから東武伊勢崎線に乗って魔王の神殿に向かう。現代日本で行なわれるドラクエ的な冒険を大真面目に描いたユーモラスな作品。



タグ:SFマガジン
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