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『オブジェクタム』(高山羽根子) [読書(SF)]

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「この町のたくさんのデータを集める。単純な数字がつながって関係のある情報になり、集まって、とつぜん知識とか知恵に変わる瞬間がある。生きものの進化みたいに。(中略)数字だけじゃない。たくさんの小さい豆知識だとか、意見だとか、そういったものがいっぱい集まる。ふつうに考えて、関係ないような見当はずれな言葉でさえ、その集まったものが人間の脳みそみたいに精神とか、意志、倫理なんかを持っているように見える場合がある」
「合体ロボみたいな?」
 とたずねると、振り返ってちょっと顔をしかめたあと、言った。
「まあ、まったくの見当ちがいじゃないけどな」
「正義の味方?」
「それはわからん」
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単行本p.19、40


 幼い頃の不可解な記憶の数々。どうも腑に落ちないあれとこれをつないでゆくと、何かが見えてくるような、こないような。ささいな事象の集合パターンから構成されているこの世界の、どうにも割りきれない不思議さを鮮やかに描いた長編。単行本(朝日新聞出版)出版は2018年8月です。


 どこかとぼけたユーモア。家族や土地に対する思い入れ。ほのぼのした昭和風日常になにげなく潜んでいる超常的なものの気配。SF的な背景を感じさせつつ、決してすべてを明らかにはせず、あくまでも日常感覚で語られる物語。デビュー短篇集『うどん キツネつきの』で注目された著者の特質が存分に活かされた三篇を収録する作品集です。


[収録作品]

『オブジェクタム』
『太陽の側の島』
『L.H.O.O.Q.』


『オブジェクタム』
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 知ったところでただのどうということのないできごとだった。道に迷って偶然でくわす手品師や、町中に貼りだされる正体不明なカベ新聞。最近になってひんぱんにインターネット上で検証されている、今はもう時効になった偽札事件、どこから来たかわからない移動遊園地、あのときの魔法みたいな神社の裏のこと、それら全部がほんとうは町になかったとしても。
(中略)
 調べたことだけじゃなく、感じたことだけでもない、子どものころ、曲がり角のむこうに消えていくほんのちょっとのしっぽの先、または茶色いサンダル。じいちゃんのそばにときどき立っているらしい女の子。
 おそらくそれを見たのはぼくと、じいちゃんだけだった。その姿が不確実なものだったとしても、なるたけたくさんまわりにあるものを調べればその輪郭ぐらいは明らかにできるっていうことを、ぼくは静吉じいちゃんに教わったんだ。
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単行本p.104、105


 誰が何の目的で作っているのか分からないカベ新聞。神社の境内にいる謎の手品師。見た人の記憶が一致しない移動遊園地。何か隠しているらしい「じいちゃん」のあとをつけてみた少年は、秘密を分け合うことになるが……。幼い頃の不思議な思い出の数々が、後になって思い出してみると、隠されていたパターンが見えてくるような気がしてくる。あの感覚を見事に再現してみせる印象的な作品。


『太陽の側の島』
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 私はといえば、ただ部屋で考えているのです。無為に生きることが衝突を生む我々と、長く生きるために、できるだけ無為な生活をしようとしているこの島の人々は、生き物としての根本が違うのではないか。我々がもし、なんらかの方法でこの島の人々のような命の使い方を学んだとして、果たして同じように生きていかれるのだろうかと、風が響く屋根の下、悶々としているのです。
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単行本p.143


 太平洋戦争末期。南の島に流され、そこに基地を作るべく農作業に精を出す兵士と、密かに「外国人」の少年をかくまうその妻。二人の手紙によるやり取りから、次第にこの世とは異なる条理の世界が見えてくる。一読するや大きな感動に包まれる傑作。


『L.H.O.O.Q.』
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 これは、比喩でもなんでもないのですが、妻は生前、本当に光っていたのです。普段から弱々しく光をはなってはいましたが、それは本当に暗闇のときにうっすらとわかる程度で、薄暗がりでもわかるほど強く発光するのは、性的な興奮をしているときでした。ひどいときには、私の体が照らされるほど明るくなることさえありました。訊くと妻の母親もそうであったというし、健康上問題があいことから気にしたことなどなかったそうです。
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単行本p.164


 妻に先立たれ飼い犬まで失踪してしまった哀れな男が、犬を探しているうちに女に出会う。ちなみにタイトルはマルセル・デュシャンの作品名で、フランス語風に発音すると「性的に興奮した女」といった意味になるそうです。



タグ:高山羽根子
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