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『嗅覚はどう進化してきたか 生き物たちの匂い世界』(新村芳人) [読書(サイエンス)]

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 視覚情報は紙に印刷すれば簡単に伝えられるけれども、嗅覚情報を伝達するのは難しい。本書に、匂いの付録をつけられたらどんなに良いだろうと思った。匂いは、実際に嗅いでみないと決してわからない。告白すると、私はこのプロジェクトに参加して初めて、ムスクの香りがどんなものかを知った。
 嗅覚は各自が個人的な体験をもっているから、それが何であるかは誰でも知っている。でも、それがどのようなものであるかは、よく知られていない。嗅覚は最先端の科学に直結しており、まだまだ多くの謎が残されているエキサイティングな研究分野だ。これからも、刺激に満ちた発見が続くことだろう。
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単行本p.143


 嗅覚はどのように進化してきたのか。人間の嗅覚と他の動物との違いはどこにあるのか。匂いを感知する仕組みから嗅覚受容体遺伝子まで、嗅覚進化に関する最新知見を紹介してくれる一冊。単行本(岩波書店)出版は2018年10月です。


 「人類は視覚に頼って生きるようになったため、必要性が薄れた嗅覚は退化してしまった」といった言説はよく見かけますが、これは本当なのでしょうか。様々な動物において嗅覚がどのように進化してきたかを探る研究を紹介し、嗅覚に関して何が分かっていて何がいまだに謎なのかを示してくれるサイエンス本です。全体は6つの章から構成されています。


第1章 魅惑の香り
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 古代エジプトでは、ピラミッドが建設されるよりもさらに1000年前、紀元前4000年頃のバダリ文化の墓の副葬品に、光を焚いた痕跡が見つかっている。これが最古の香料使用の痕跡とされる。紀元前3000年頃のメソポタミアでも、さまざまな香料が使用されていたことが、粘土板に楔形文字で記されている。紀元前14世紀のツタンカーメン王の墓からは、有名な黄金のマスクの他に、香料を入れる壺が多数見つかっている。1922年に発見されたときには、3000年の歳月を超えて、ほのかに香りが漂っていたといわれる。
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単行本p.2


 まずは香料に関する様々なトピックを並べて、人類は匂いというものとどのようにつきあってきたのかを見てゆきます。


第2章 匂いをもつ分子
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 麝香臭をもつ分子の不思議さは、構造の多様性だけではない。少し分子構造をいじると、たちまち香りが消えてしまうのである。そのため、ある分子が麝香臭をもつかどうかは、実際に合成してみないとわからないのだ。
 そしてこのことは、ムスクに限らず、匂い分子一般に言えることである。分子構造は似ていても匂いが大きく異なることもあるし、分子構造が違っていても匂いが類似していることもある。現在でも、分子構造から匂いを予測することには成功しておらず、新たな香り分子の合成は試行錯誤に頼っている面が大きい。分子のどこが、匂いの情報を担っているのかがわからないのだ。
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単行本p.40


 ある物質の分子構造を見れば、その物質がどんな匂いを持つかを予測できる、だろうか。匂いと分子構造との関係についてどこまで判明しているのかを明らかにします。


第3章 匂いを感じるしくみ
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 嗅覚受容体は、匂い分子のある一部分だけを認識すると考えられている。エステル分子がどれもフルーティな香りをもち、硫黄を含む分子がおしなべて悪臭をもつのは、匂い分子中のエステル結合や硫黄の部分を認識する嗅覚受容体が存在すると考えればうまく説明できる。
 しかし、実際にそのような嗅覚受容体が存在するかどうかはわかっていない。それどころか、個々の嗅覚受容体について、匂い分子のどこを認識しているかが解明されたケースはまだないのだ。
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単行本p.50


 人類に備わっている嗅覚受容体は400個。では、なぜ何十万種類とも言われる多様な匂いを私たちは識別できるのだろうか。嗅覚受容体と匂い分子の反応について知られていることを整理します。


第4章 生き物たちの匂い世界
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 これまでに調べられた中でいちばん多くの嗅覚受容体遺伝子をもつ動物は、アフリカゾウである。その数は約2000個。ヒトは約400個、鼻が良いことで有名なイヌは約800個だから、この数はヒトの約5倍、イヌの2倍以上に相当する。
「ゾウの鼻は伊達に長いわけではなく、嗅覚も優れている」。この話は、世界中のさまざまなメディアで取り上げられ、大きな話題となった。筆者が確認した限り、少なくとも世界40か国以上、22の言語でインターネットのニュースになった。
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単行本p.76


 嗅覚受容体遺伝子の数で比較すると、イヌ、マウス、イルカ、ゾウのうち最も嗅覚が発達しているのはどの種で、それはヒトと比べてそれぞれ何倍なのか。動物の嗅覚についての研究を紹介します。


第5章 遺伝子とゲノムの進化
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 かつては機能していたが、もはや機能を失ってしまった遺伝子の残骸を「偽遺伝子」と呼ぶ。
 私たちのゲノムの中には、偽遺伝子がたくさんある。死屍累々なのだ。
 嗅覚受容体遺伝子は、とりわけ偽遺伝子が多い遺伝子ファミリーである。これまで、「ヒトは約400個の嗅覚受容体遺伝子をもつ」と言ってきたが、これは機能すると考えられる遺伝子の数である。最新のヒトゲノム配列を検索してみると、398個の機能する嗅覚受容体遺伝子に加えて、偽遺伝子となった嗅覚受容体が442個も見つかる。つまり、現役で働いている嗅覚受容体遺伝子よりも多くの「遺伝子の屍」が、ヒトゲノム中に眠っているのだ。
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単行本p.112


 嗅覚受容体遺伝子の歴史をたどってみることで、嗅覚の進化について知ることが出来る。まずはゲノムの進化についての基礎知識をおさらいします。


第6章 鼻の良いサル、鼻の悪いサル
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 ヒトを含む霊長類は視覚型の動物だから、霊長類では視覚と嗅覚のトレードオフが起きたと考えれば、霊長類の嗅覚受容体遺伝子が少ないことは説明がつく。
 霊長類の進化の過程で、視覚が発達した代わりに嗅覚が退化したとすれば、視覚のどのような要因が嗅覚の退化をもたらしたのだろうか? あるいは、視覚の発達以外にも嗅覚の退化をもたらした要因があるのだろうか?
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単行本p.119


 霊長類の嗅覚が退化しているのはなぜか。遺伝子レベルでの嗅覚進化とその原因を探ってゆきます。



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