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『堆塵館 アイアマンガー三部作1』(エドワード・ケアリー:著、古屋美登里:翻訳) [読書(ファンタジー・ミステリ・他)]

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 ケアリーの小説の魅力は、謎めいた登場人物たち、ゼロから構築した新しい世界観、造形物の美しさ、細部の描写のみごとさ、物への偏愛、リズムのある独特な文体、グロテスクでありながらも愛らしいイラストなどに表れている。そのすべてが贅沢に織り込まれた世界は、ファンタジーやミステリや歴史小説やホラーやSFといったジャンルを超え、まさしく「ケアリーの世界」としか言いようのないものになっている。
(中略)
 廃材やごみで作られた巨大な館でごみと悪臭に囲まれて暮らす人々がいる、という発想も魅力的である。見捨てられ、顧みられない、汚いごみや屑やがらくたが、ケアリーの手によって美しいもの、愛おしいものへ変わっていき、美醜の境がしだいに崩れていく。美醜だけでなく、善悪や正邪の輪郭も崩れていき、世界観、価値観の逆転が起きていく。
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単行本p.420


 19世紀後半、英国ロンドン郊外に広がっている広大なごみ捨て場。その中にロンドン中のゴミを支配するアイアマンガー家の屋敷「堆塵館」が建てられた。アイアマンガー家の者たちは堆塵館で生まれ、特別な「誕生の品」を与えられ、誕生の品とともに生き、やがて堆塵館で死ぬ。超巨大ゴミ屋敷で生きる奇怪な一族を描くアイアマンガー三部作、その第一部。単行本(東京創元社)出版は2016年9月、Kindle版配信は2016年9月です。


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「この悪臭を放つ鼻摘みもの、粉々になったもの、ひび割れたもの、錆びたもの、ねじを巻きすぎたもの、欠けたもの、臭いもの、醜いもの、有毒なもの、使い道のないもの。そうした嫌われたものに注ぐアイアマンガーの愛情に勝るものはこの世にはない。われらが所有したものは茶色で、灰色で、黄ばんでいて、染みだらけで腐臭を放っている。われらは白黴の王だ。黴すらも所有していると私は思っている。われらは黴の大家なのだ」
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単行本p.257


 ロンドン中のゴミが集められたゴミ山、そのなかに建てられた超巨大ゴミ屋敷で暮らすアイアマンガー家。人々は彼らを忌み嫌い、恐れ、憎んでいるが、その財力と権力には誰も逆らえない。ゴミを通じてロンドンを支配する一族という奇抜な設定から、とてつもなくグロテスクで汚らしく、同時に美しくも愛おしい、不思議な世界が展開してゆきます。


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「彼らは落ちぶれたが、わが一族は栄えた。われらが力をつけるにつれて、彼らは弱くなり、われらがさらに土地を増やすにつれて、彼らは住む場所を失い、われらには元気な子供が増えるいっぽうで、彼らには死ぬ子供が増えた。そのためにわれらは愛されなくなった。だが、いっこうに気にしなかった。われらはあらゆる借財を、どんな借財でも、ことごとく買い取った。借財を買いあさって、それを自分たちのものにした。人々が泣いても、われらはそんな涙にほだされなかった。人々が必死にすがりついても、聞く耳を持たなかった。すがりついて頼んでもむだだとわかると、人々はわれらに唾を吐いた。それで罰金を払う羽目になった。彼らはわれらを罵り、それで罰金を払う羽目になった。彼らはわれらを叩きのめし、それで監獄に入れられた。もっとひどい罰も受けた」
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単行本p.256


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「人々が減るにつれてわれらは増えていき、人々が物を捨てるにつれてわれらの物は増えていった。彼らが物乞いになるにつれ、われらは豊かになった。ロンドンのだれかがなにかを投げ捨てるたびに、われらの儲けになった。あらゆる鶏の骨が、あらゆる書き損じの紙、あらゆる残飯、あらゆる割れた物が、われらのものなのだ。彼らは、向こうの人々は、われらを憎んでいる。われらを不浄のもの、アイアマンガー属、野蛮、愚か者、非情と見なしている。彼らはロンドン市内からわれらを締め出した。アイアマンガー一族はひとりとしてフィルチング特別区から出てはならないという法令を制定した。それでわれらはフィルチングに、この区の壁のなかに、ごみ溜めにいるのだ」
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単行本p.258


 この不快で忌まわしく、でも気になって仕方のない不思議な魅力を持つ一族が住んでいる館、堆塵館が第一部の舞台となります。


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「わたしたちは堆塵館と呼んでいますけどね。周囲何キロにもわたってほかに住んでいる者はひとりもいません。だから門から外に出たら、間違いなく迷子になるし、おまえを見つけるのはとても難しくなります。ここはごみ屑のなか。門の外はどこまでもごみが広がっています。この場所が描かれている地図はありません。わたしたちは閉じ込められているわけですね」
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単行本p.36


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 われらが館、堆塵館を作り上げているのは、目にしたとおりの煉瓦とモルタルではなく、寒さと痛みだった。この場所が作られたときの恨み、悪意、苦悩と悲鳴と汗と唾だった。ほかの人々の涙が壁紙となって壁を覆っていた。館が悲鳴をあげるのは、わが一族がこの世のほかの人々におこなった仕打ちを人々が覚えているからだった。恐ろしい夜に、館はどれほどすすり泣き、喚き、唸ったことかどれほど悲鳴をあげ、うめいたことか、どれほど罵り、責めたことか、ぞれほど恐ろしい嵐に痛めつけられたことか。
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単行本p.370


 ごみ屋敷、お化け屋敷、呪われた館。この堆塵館に住むアイアマンガー家の少年が主人公の一人です。彼には特別な力があり、それは「物の声が聞こえる」というものでした。彼にとって堆塵館は物の声に満ちているのです。


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 館は声を発し、音を発し、囁き、吠え、歌い、囀り、ぶつぶつ言い、きんきんするような、声高な、さまざまな声であふれていた。甲高くて元気な若い声もあれば、嗄れて震える老いた声、女の人の、男の人の、数え切れない、無数の声。しかもそれは人の発するものではなく、館にある物が発する声なのだ。カーテン・レール、鳥かご、文鎮、インク壺、床板、手摺、ランプシェード、鈴を鳴らす紐、お茶の盆、ヘアブラシ、扉、ベッド脇のテーブル、洗面器、髭剃り用ブラシ、葉巻カッター、繕い物をする台、足拭き、絨毯などの声。
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単行本p.148


 少年がいつも肌身離さず持っている浴槽の栓。それは「誕生の品」と呼ばれる特別なもので、アイアマンガー家の者は誰もが生まれたときにその品を与えられ、一生それと共に暮らすことになるのでした。


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 アイアマンガー一族に赤ん坊が生まれると、おばあさまが選んだ特別な品物を与えられるのが慣わしだった。アイアマンガー一族が相手を判断するときの基準は、誕生の品をどれほど大切に扱っているかということだった。ぼくたちアイアマンガー一族は、誕生の品をいつでも身に着けていなければならなかった。
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単行本p.12


 「誕生の品」といっても別に高価なものではなく、ただの「がらくた」だというところがアイアマンガーらしさ。しかもその役に立たないがらくたに多大な愛情を注ぐところもまたアイアマンガーです。

 そんなアイアマンガー家の少年が、あるとき堆塵館に召使としてやってきた少女と偶然に出会ったことから物語が始まります。典型的なボーイ・ミーツ・ガールなのですが、何しろ設定が強烈なので「馴染み深いストーリー」に安心感を抱いてしまう……。と思っていたら読者の予想を裏切るとんでもない展開に唖然とさせられます。さすがに続きを読まずにはいられないクリフハンガー。



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